インタビュー

祖父にWiiを贈った日から始まった、介護の未来をつくる挑戦

祖父にWiiを贈った日から始まった、介護の未来をつくる挑戦
PROFILE
株式会社NAGARA 代表取締役CEO
岡田 一輝

発明家という夢から、届ける人へ

幼少期からの夢は発明家だった

私は愛知県の高専で情報工学科を専攻していました。もともと幼少期から発明家になりたいという夢があって、その延長で技術を学ぶ道を選んだんですよね。ただ、学んでいくなかで、自分は「つくる側」ではなく「届ける側」になっていきたいという気持ちが芽生えていきました。

最近のAIは本当に素晴らしくて、なんでもできるといわれています。その一方で、価格が高かったり操作が難しかったりして、なかなか届いていない人たちがいる。このデジタル格差を目の当たりにしたときに、届ける人になろうと決めたんです。

祖父にWiiを贈って気づいたこと

考えが固まっていくなかで、届けたい先が高齢者や介護の現場だと感じるようになりました。きっかけは、要介護になってしまった祖父に、任天堂のWiiをプレゼントしたことです。そしたら、祖父がゴルフや釣り、カラオケといったゲームを通して、とても元気になってくれたんですよね。

デジタルは苦手でも、優しいデジタルであれば、その壁は越えられる。この経験から、高齢者のために働きたいという思いがどんどん強くなっていきました。もっと大きな影響を社会に与えたいと考えたときに、リスクも大きいけれど、そのぶん早く大きな影響を生み出せるスタートアップという形を選び、起業しました。

「ながらかいご」誕生の理由

現場の3割が記録作業だった

「ながらかいご」が生まれたきっかけは、ビジネスコンセプトを考え始めた時期にさかのぼります。高齢者介護の現場は本当に人手が不足していて、現場の方々の業務のおよそ3割が記録などの事務作業に費やされているという実態がありました。

私自身も現場に何度も足を運ぶなかで、介護士さんはもっと余裕を持って利用者さんと話したい、もっと向き合った介護をしたいと思っているにもかかわらず、パソコンや紙への入力に追われて、その時間が削られていると感じたんです。デジタルが苦手な方が多いなかで、人差し指で一文字ずつ丁寧にタイピングする、その時間があれば、もっと利用者さんのことを考えられるはずだと思いました。

声で記録が残るプロダクト

そこで生まれたのが「ながらかいご」です。ハンズフリーで、どこでもいつでも記録ができ、記録の時間を削減できる。既存のサービスにはできなかったことをできるようにするという観点で開発を進めました。普段どおりの声かけをしながら介護をおこなうと、リアルタイムで文字起こしされ、そのまま記録になっていきます。利用者さんと話しながら、あるいは介護の準備をしながらでも、手を止めずに記録がとれるという体験をつくっています。

プロトタイプから起業へ

最初はこのテーマを企業の方々に壁打ち相手になっていただきながらプロトタイプをつくり、実際にお客さまに使っていただいて認めてもらえたところで、起業を決めました。2025年7月に金沢大学へ編入するのと同じタイミングで、会社を立ち上げています。

30拠点への展開と、組織づくり

現場に通い続けた半年間

いまは、このサービスを有償化しながら広げていく活動を続けていて、すでに30拠点ほどで導入していただいています。最初は学生中心のチームでとにかく現場に足を運び、意見をもらいながら半年間答え合わせをしてきました。直近では組織も大きく変わり、学生時代から関わってくれていた社会人メンバーを弊社で中途採用したり、休学してフルコミットで関わってくれている学生メンバーを運営の中心に据えたりするなど、組織体制を整えながら進めています。

理念に共感できる人を採用したい

メンバーには、どれだけ理念に共感してもらえるかを大切にしています。「やりたいことに専念できる社会を実現する」というのが私たちのミッションで、これは利用者さんがやりたいことをできるようにするという、日本の介護が本来大切にしてきた理念でもあります。介護士さんも本当はやりたかった介護ができなくなっています。こうした、皆さんがそれぞれの忙しさのなかでやりたいことを実現しづらくなっている、という状況をデジタルの力で解決したいんです。

バリューとしては「日本一の成長速度で、圧倒的ユーザー体験を届ける」ことを掲げています。一人ひとりがこの思いを持って、がむしゃらに成長する意欲があるか。そして、「なぜこのボタンのクリックが必要なんでしたっけ?」というところまでユーザーさんのことを考え抜けるか。そういう仲間を集めています。今後半年でさらに4〜5名ほど採用を予定しています。

介護の「OS」を目指して

1,000種類のSaaSが分断している

今後の展望として、いまのサービスとは別軸で新しいプロダクトのチームも組成しています。介護領域で使われるSaaSは、いまや1,000種類ほどあるといわれています。ただ、これだけあっても、うまくいっていない部分があるんですよね。

介護は、一人の利用者さんに複数の法人や事業所が関わって支援するという特殊な形になっています。それぞれのサービスは便利でも、法人や事業所ごとに情報が分断してしまっていて、その分断によって生まれる課題のほうが大きくなってしまっている。

すべてをつなげる新プロダクト

そこで、私たちはこれらすべてをつなげて、意識せずにデジタルを使えるような状態をつくろうとしています。実現したときには、いまパソコンやスマートフォンのOSを意識せずに使っているのと同じように、介護の現場でもさまざまなサービスの上で意識せずに業務が回っていく、そんな状態を目指しています。

若い世代へのメッセージ

新しいことに挑戦できるのは特権

私自身も学生なので、同じ立場としてお伝えしたいのですが、世の中を変えていくのは新しいことに挑戦できる人間だと思っています。若さというのは、それ自体が一つの特権です。もちろん経験やつながりがないというデメリットもありますが、新しいことに挑戦しはじめてからの成長速度は、ぐんぐんと伸びていく自信があります。それができるのは若いからこそだと思うので、いまの時代であればAIのような領域にも、どんどんチャレンジしていってほしいです。

AIと介護、壊しにいく面白さ

弊社の魅力は、AIと介護という組み合わせが、ものすごく面白い領域だというところにあります。介護は社会的に絶対に必要とされながらも、崩壊の危機を迎えているといえるくらい深刻な状態です。そこに向き合っているという意味で、社会的意義のある活動をしていると感じています。

「これが当たり前でしょう」と思われている業界に対して、ゲームチェンジャーのように「実はこんなことができる」と示して壊しにいく。そんな動きを取れるのが弊社の魅力だと思っています。社会に貢献したい、新しいことをやってみたい、社会を変えたい。そう思っている方には、きっと合っているはずです。

編集後記

今回お話を伺って、株式会社NAGARA代表の岡田さんの言葉の端々から「現場に何度も足を運んだ」という実感がにじみ出ていたのが印象的でした。デジタル格差という大きなテーマを、祖父へのプレゼントという身近な出来事から見つめ直し、事業に落とし込んでいく過程には、多くの学びがあると感じます。同じ学生として、新しいことに挑戦する勇気をもらえるインタビューでした。