秋田との出会いが原点
起業する人には、大きく2つのパターンがあると思います。ひとつは「起業したい」という思いが先にある人、もうひとつは「他にやりたいことがあって、その手段として起業を選んだ」人です。私は後者に近く、高校生の頃から「人口減少という社会課題に対して自分に何ができるか」をずっと考えていました。
大学進学で秋田県に来たのも、「人口減少率が何十年も1位の土地であること」が理由の1つでした。建築学に興味があったので建築学科に進もうと思う中で、秋田を選びました。そこで秋田のことを詳しく知ったり、建築という学問を通して街を見たりする中で、フィールドワークをきっかけに能代(のしろ)市に出会いました。
能代市は、かつて「日本一杉を売って栄えた」文化を持つ町です。しかし、今は「賑わいが少し衰退してしまっている」のが実情です。フィールドワークの一環として街並みを見せてもらう中で、当時の私が抱えていた葛藤に対し、「自分にはこんなことができるかもしれない」と思えるものがぴったりはまった感覚がありました。それが、弊社の事業をやってみようと思った経緯です。
秋田杉の香りと、その先の体験
弊社の事業内容は大きく3つです。まずは、メディアフレグランスブランド「森と、」の運営_香り製品の企画・製造・販売が軸になります。合わせて、秋田県内各地の文化や暮らし、人を感じられるツアーの企画も、現在準備を進めています。さらに、「施設や空間に香りを導入するお手伝い」という法人向けの事業も始めています。
「森と、」の具体的な中身は、「秋田杉」と呼ばれる杉の葉から抽出した香りを使って製品開発をしています。香りだけでなく、能代の木材産業の1つである「秋田杉の伐根材」という波打った木目(根杢:ねもく)のある木材を使いながら製品を作り、さらに「顔の見える体験」として「観光」を掛け合わせていることが特徴です。買って終わり、消費して終わりではない心温まる消費の在り方、その先につながる体験やツアーを作っています。
さまざまな地域を見たり勉強したりする中で、地域にとって大切であり、その地にしかない特徴は「文化と人ではないか」と思っています。能代市には、かつて「木の産業で東洋一栄えた木都 」という文化があり、今も特殊な木を扱う文化が残っています。そのため、「能代市や秋田県内の市町村だからこそ意味があることを香りを通して伝えていきたい」と考えています。言わば、「地域の良さを人にフォーカスしながら届けていく」ことを大切にしています。
他のブランドとの違いは、「建物をイメージした香り」や「ある都市をイメージした香り」など、「具体的な場所や風景からインスピレーションを得て製品を作っている」他のブランドとは違い、「人」をテーマに作っている点でしょうか。加えて、「体験まで考えて設計している」ことも他にない特徴で、「ありがちな地域アロマのようなもの」でもなければ、「大手フレグランスブランドが地域と組んで展開する地域創生のための商品開発」ようなものでもありません。それが弊社の特徴であり強みだと思います。
Instagramを軸に少しずつ広げる
今年3月に会社を設立したばかりで、取扱店を見つけながら販路を広げている段階です。今後は、都内をはじめとした主要エリアや東北、秋田県内での販売も進めていきたいと考えています。
体験ツアーは定期的に開催していく予定で、告知はInstagramを中心に行っています。そうは言っても、まだ「仕組み化できている」わけではなく、これから少しずつ形にしていくフェーズにあります。
「森と、」のモデルを他地域にも
今はまだ「ブランドそのものを立ち上げたばかりの段階」のため、「ブランドストーリーを丁寧に作っていくこと」をメインにやっています。合わせて、「事業の強みがお客様にとって本当に嬉しいものになっているかを丁寧に見ていくこと」も同時に進めている最中です。
ただ、現状では事業としては厳しいところもあるため、他の企業様と連携しながら、地域の資源を活かした弊社の事業モデルをまずは「秋田県内の他地域にも取り入れていきたい」と思っています。
学生へのメッセージ
「やりたいことがないから就職する」という話をよく聞きますが、「やりたいことがないはずはない」と思っています。どんなことであれ、飛び込んでみることが大切です。私自身、あまり心配性なタイプではなく、ただ好奇心に従って動いてきました。そのため、「失敗を恐れずにやりたいことに飛び込む行動力」は、これからも大事にしていきたいと思います。
編集後記
大学在学中に、秋田県能代市という地域の課題と真正面から向き合い、香りという切り口で事業を形にしている姿から、たくさんの刺激を受けました。私自身もまだ学生として学んでいる立場ですが、好奇心に従って行動することの大切さを改めて感じる取材でした。貴重なお話をありがとうございます。