インタビュー

アメリカ留学からビール会社、そして二代目社長へ。「技術屋集団」を率いる私の歩み

アメリカ留学からビール会社、そして二代目社長へ。「技術屋集団」を率いる私の歩み
PROFILE
株式会社アトムシステム 代表取締役社長
細野 哲也

学生時代、単純に「アメリカが好き」だった

アメリカ留学は憧れから

学生のころ、単純にアメリカが好きだったんですよね。叔母がアメリカ人と結婚していて日本にも住んでいたので、クリスマスパーティーなどによく顔を出していました。そういう生活を見ているうちに、一度は自分も行ってみたいという気持ちが芽生えて。日本だけの経験ではこれから先やっていけないのではないか、という思いもあって、アメリカに渡りました。

当時はバブル絶頂期だったので、日本人の留学生もたくさんいました。ただ、みんな日本人同士で固まってしまって、留学しても英語が話せないままの人も少なくなかったと思います。私はなるべく日本人同士の付き合いを避けて、海外の人たちと一緒にいるようにしていました。仲がよかったのはドイツ人と台湾人の夫婦で、その息子がゴルフの全英オープンで優勝した選手だったりと、いろいろな出会いがありましたね。

アメリカではMBAを2年ほどで取得し、最初は日本のビール会社に就職しました。そこで国際部に配属されて、輸出関係の仕事をしているうちに、提携先だったアメリカのビール会社との人事交流の話があり、私がその提携先のマーケティング部門で1年ほど働くことになったんです。その後、現地法人で1年半ほどロサンゼルス支店長も務めて、日本帰国の辞令が出ました。そういうことで、アメリカでの経験は全部で5年ほどになります。

ITの世界に飛び込んだ二代目としての葛藤

「3文字略語」もわからなかった

帰国のタイミングで、当社が当時、上場を検討しているという話があり、父から「来てやらないか」と声をかけられたことがきっかけで入社しました。ビールも畑違いですが、ITはさらに未知の世界でした。最初は右も左もわからず、ITは3文字の略語が多いんですけど、何を話しているのか英語より意味がわからなかったですね。

業務を覚えることと並行して、経営者として数字を見ることも求められるので、実戦で経験を積みながら覚えていくしかありませんでした。大企業であれば何でも揃っているものですが、中小企業は自分で全部やらなければなりません。そこが一番の違いだったと思います。

プレッシャーは「独り立ち」した瞬間に

二代目として入社した当初は、まわりからそういう目で見られるプレッシャーはもちろんありました。ただ、本当のプレッシャーを感じたのは、先代が退任して自分一人になったときのほうが大きかったですね。

体育会系出身なので言葉遣いも多少荒っぽくて、社員との間で戸惑わせてしまった部分もあったと思います。ITの知識がそこまであるわけではなかったので、当時の社員には迷惑をかけたところもあったかもしれません。

現場を変える技術、「DECIBERY」の手応え

竹中工務店との共同開発

ITというと技術面だけを思い浮かべられがちですが、営業面のITもあります。私自身は技術をすべて自分で実行できるわけではないものの、業界のことを一番よく知っているので、お客さまといろいろな話ができる部分で営業努力ができると思っています。

一つひとつお客さまとお話しして、こちらの話を聞いていただくこと。当社の取引先はほとんどが上場企業さまなので、そうした企業の担当者に当社のよさをわかってもらえることは、非常によいことだと感じています。

なかでも達成感があったのが「DECIBERY(デシベリー)」です。株式会社竹中工務店さま、株式会社キッズウェイさまと連携して工事現場の騒音・振動監視システムを開発し、2024年に発売しました。プロトタイプ版はもともとありましたが、そのデジタル化にあたり当社がシステム開発を担当しました。また、竹中工務店さまには現場での検証や測定精度の評価にご協力いただき、キッズウェイさまにはハードウェアの量産化および営業・販売面でご協力いただいています。入札案件では騒音レベルの提出が求められることが多いのですが、DECIBERYはデジタル化されているぶん加点対象になり、入札で有利になるとも言われています。現在も3社で追加開発を継続しており、今後も新たなサービスを提供していく予定です。

また、これより前には倉庫内の入出庫やロケーション管理をおこなうパッケージシステムも手がけていて、株式会社エービーシー・マート(ABCマート)さまに十数年前から使っていただいています。監視カメラについても、カメラ本体ではなく撮影した画像をアプリケーション側で処理する仕組みにトライしたことがあります。

技術が好きな人と一緒に働きたい

「学べるから」で選んでほしくない

当社を選んで「何かが学べるはず」と思って来られるのは、正直あまりおすすめしません。それよりも、これからの新しい技術に取り組んでいきたいという気持ちがある人には、予算の範囲内でなるべくお金を使って学んでもらいたいと思っています。社内では勉強会もおこなっていて、変化の速い技術をキャッチアップできるようにしています。当社は技術屋の集団なので、世の中の流れから遅れることが一番の問題だと考えていて、新しい技術を追いかけたいという人には、きちんとお金も仕事も用意していきたいですね。

昔は理系でなくても問題ないとよく言っていたのですが、最近はやはり情報システムを学んだ人のほうが強い部分はあります。ただ、それがすべてではありません。お客さまのニーズをつかむこともITの仕事の一つなので、DXやITに興味があって、理系ではないけれど挑戦してみたいという人にも十分に可能性はあると思っています。

会社の雰囲気を一言でいうと、オタク集団かもしれません(笑)。専門分野の話をしているときが、社員一同、一番にこやかにしている瞬間だと思います。運動をやっていたかどうかは関係なく、技術が好きだという学生に来てもらえたらうれしいですね。

AIの進化に感じる期待と怖さ

予知保全という「もう一歩先」

社内アンケートを取ると、プログラミングなど単純作業がAIに置き換わっていくという意見が多く出てきます。ただ、先日、孫正義さんの記事を読んだのですが、2040年までにロボットやAIの数が人間の数より多くなると書かれていて、それはそうだろうなと感じました。最終的にその判断を人間がするのかどうかは、正直よくわかりません。AIが暴走したというニュースも耳にするようになり、非常に難しい問題だと思っています。

当社としては、これまで人の手作業を代替するという発想が中心でしたが、もう一歩先を考える必要があると感じています。たとえば、DECIBERYで蓄積したデータをAIが分析し、故障の予兆を先読みして保全する「予知保全」のような取り組みです。定期点検にとどまらず、こうした仕組みがさまざまな領域に広がっていくと考えています。AIの普及は、想像していたよりもかなり速いスピードで進んでいますね。

一方で怖さも感じています。日本やアメリカのようにルールを重視する国であれば一定の歯止めが利きますが、発展途上国などで天才的な技術者がAIを駆使して、本来やってはいけないことをしてしまう可能性もゼロではありません。映画のような話ですが、あり得なくはないと思っています。

世界を広げてほしい、という思い

学生に戻れたら世界中を旅したい

もし今、学生に戻れるとしたら、世界中を旅して回ると思います。当時のアメリカ留学の経験がやはり大きくて、自分の子どもを見ていても海外でいろいろな経験を積んでいて、ああいう世界もいいなと感じています。子どもは2年間、ヨーロッパの奨学プログラムに参加していて、1年目はイタリアのトリノ、2年目はドイツのミュンヘンで学んでいます。その後はドイツの研究所で博士号を取得する予定のようで、見ていてすごいなと思いますね。

これから社会に出ていく世代には、プレッシャーやストレスへの耐性をどんな仕事であっても身につけてほしいと思っています。怒られること自体を否定するわけではないのですが、自分なりの逃げ道というか、ため込まずに気持ちを立て直せる術を持っていると強いと思います。

当社が求める人材は、運動をやっていたかどうかは関係ありません。それよりも、技術が大好きな学生に来てもらえるほうが、当社には合っていると思っています。

編集後記

今回は、株式会社アトムシステムの細野哲也社長にお話をうかがいました。アメリカ留学やビール会社での経験を経て、二代目としてIT業界に飛び込んだお話が印象的でした。ITの知識がなかった状態から学びを重ね、竹中工務店さまとの共同開発「DECIBERY」を実現させるまでの過程に、地道な努力を感じました。技術が好きという軸を大切にする社風は、就職活動をしている学生の企業選びの参考になるのではないかと思います。