インタビュー

「明日から社長」から、機械メーカーへの挑戦へ。町工場で育てるものづくりの夢

株式会社平沼精密 代表取締役 平沼 杉樹
PROFILE
株式会社平沼精密 代表取締役
平沼 杉樹

図面もわからなかった19歳から、突然の事業承継へ

未経験で入った製造業

弊社は、父が1968年に創業した会社です。私は高校を出た後、19歳で入社しました。工業系の学校に通っていたわけではなく、文系の高校を出ているので、最初は図面も加工も、まったくわからない状態だったんですよ。

いろいろな方に教わりながら、毎日、機械の部品を作る。そこから10年ほど、みっちり仕事を覚えていきました。それでも、わからないことだらけでしたね。

ある日突然、社長に

その後、父が病気で急に入院することになりました。会社をまとめる人がいなくなって、私が社長の仕事をしなければならなくなったんです。本当に「明日から社長」という感じでした。

自分から起業したいと思って始めたわけではありません。何をどうすればよいかもわからないなか、いろいろな方に助けていただいて、父の仕事を引き継いでいきました。

仕事がない状況から生まれた、断らない姿勢

100円でも仕事を

社長を引き継いだ頃は、ちょうどリーマンショックの時期でした。仕事がまったくないところからの出発で、売上は半分ほどにまで落ち込みました。

国の制度などもいろいろ試しました。ただ、申請の書類を渡すだけで3〜4時間待つような状況だったんです。会社では従業員に「機械をきれいにしておこう」としか言えない。何をしているんだろうと思いましたね。

それなら、100円でもよいから仕事を取ってきたほうがよい。そう考えて、営業活動を徹底しました。そこから少しずつ仕事が増えて、なんとか生き延びたという感じです。

自分がもっと勉強して、力をつけていればと思う部分もあって、その経験は今も教訓になっています。

仕事を選ばず向き合う

いろいろな経営者に相談していたとき、「仕事を選んでいるから仕事がないんだよ」と言われたことがありました。その言葉には、強く刺激を受けたんです。

それ以来、来た仕事を簡単には断らない姿勢を大切にしてきました。「できない」と決めるのではなく、どうしたら加工できるかを考える。弊社には、他で断られた部品について「ここで断られたら諦めよう」という思いで相談に来られる方もいます。

お客さまが作りたいと思っているものを形にする。それが製造業の仕事だと思っているんですよね。

お客さまと考え、材料から部品を作り上げる

1年かけて形にした部品

弊社の事業は、機械部品の製造です。材料から加工し、部品として完成するところまで手がけています。

以前、いろいろな会社で断られた開発品の相談をいただいたことがありました。完成までには、1年ほどかかったんです。必要な精度が出ないなどの課題に対して、「こういう加工を試してみよう」と、お客さまと一緒に考えながら試行錯誤しました。

こちらが取り組む姿勢を見せると、お客さまも「それなら協力します」と力を貸してくださるんですよね。そうして完成した部品は継続して製造していて、月に60〜70個ほど作れるところまで来ています。

この経験があるから、簡単に諦めずに考えたいんです。お客さまが何を求めているかを感じ取り、一緒に形にしていける会社でありたいと思っています。

身近な製品を支える部品

弊社が手がける部品には、打錠機(だじょうき)に使う消耗部品などがあります。打錠機は、粉を押し固めるプレス機です。薬の錠剤や入浴剤、プールで使うタブレット状の塩素などを思い浮かべてもらうと、わかりやすいかもしれません。

製品そのものを作るための機械を、部品の面から支える仕事ですね。先ほどの1年かけた開発品は打錠機の部品ではありませんけど、さまざまな機械部品の相談に向き合っています。

町工場から、機械メーカーを目指す

夢が具体的な目標に

私には、15年ほど思い描いてきた夢があります。それは、弊社が機械メーカーになることです。ここ5年ほどで、その夢が具体的な目標に変わってきました。今は、自分たちで打錠機を作ろうと動き始めています。

長年、部品を提供してきたので、機械を作るための知識や経験は積み重ねてきました。機械本体を作るだけでなく、部品の製造も、メンテナンスもできる。お客さまが一つの会社に相談すれば対応できるようになることが、将来の強みになると考えています。

町工場でも機械メーカーになれるんだということを、形にしていきたいんです。そのためにも、一緒に夢を追いかける仲間が必要ですね。少数精鋭の体制から、10人くらいの規模を目指していきたいと思っています。

初めてでも大丈夫

知識や経験がないまま入ってきても、問題ないと思っています。弊社には教えられるベテランもいますし、道具の名前も、製造業のことも知らずに入った社員が、2年半ほどで機械を使って製品を作るようになった例もあるんですよ。

どんな仕事でも、初めて教わることや、勉強することはあるはずです。私自身、図面もわからないところから始めました。最初から何でもできる人ばかりではないですよね。

初任給の使い道を考える

就職活動をしている学生の皆さんには、初任給をもらったとき、何に使うかを考えてみてほしいです。「自分で稼いだお金を、どう使おうか」。そんな楽しみを持つことも、ひとつのきっかけになると思います。

働き始めたら、楽しいことも苦しいことも出てきます。そのなかで喜びを見つけ、目標ができて、人生が楽しくなっていくんじゃないでしょうか。何もしなければ、何も始まりません。

諦めずに、一生懸命取り組んでほしいですね。夢があるなら、それを一緒に叶えていける会社にしていきたいと思っています。

編集後記

「明日から社長」という状況から、機械メーカーを目指す現在まで。平沼さんの話には、最初から自信や知識がそろっていたわけではないからこその説得力がありました。大学で進路を考えていると、向いている仕事を先に見つけなければと焦ることもあります。それでも、初任給の使い道を考えるという言葉に、働く一歩目を身近に感じました。お客さまと1年かけて部品を完成させた経験からも、挑戦は一人で抱え込むものではないと学びました。自分も周囲に学びながら、できることを増やしていきたいです。