インタビュー

断言ではなく、実演を。― 危機感から始まったKai Inc.代表・泉陽一の生存戦略 ― Kai Inc. 代表・泉陽一

断言ではなく、実演を。― 危機感から始まったKai Inc.代表・泉陽一の生存戦略  ― Kai Inc. 代表・泉陽一
PROFILE
Kai Inc. 代表
泉 陽一

志があって起業したわけではない

大手企業で学んだこと

私は大学を卒業してから40歳を過ぎるまで、ある大手企業に勤めていました。当時の経営トップに直接ご指導いただく機会もあり、若い頃はその会社のことを「軍隊」のようだと思っていたんですよね。今振り返ると、あの厳しい環境で鍛えられた部分は大きいと思います。

40歳を過ぎてからはベンチャー企業に転職し、管理部門の立ち上げを任されました。ただ、40歳を過ぎてから結果を出しても、正直あまり褒められないんですよ。誰も手取り足取り教えてはくれませんし、自分で答えを出すしかない。だからこそ、「社長レベルの視点で物事を考える」という発想に自然と行き着きました。

サラリーマンの自分と、世の中の経営者たちとでは何が違うのか。そう考えていた時期に、なぜか人脈だけはどんどん広がっていったんです。執行役員や管理本部長といった役職には就いていましたが、正直、このままサラリーマンを続けるつもりはありませんでした。

勢いで始まった起業

会社を起こした理由は、決してかっこいいものではありません。そもそも私自身、Webデザインができなかったんです。ホームページを作ることも、SNSを運用することもできない。そんなとき、若いWebデザイナーの方から「一緒に会社をやりませんか」と誘われて、勢いで始めてしまった―それがKai Inc.の実際の創業のきっかけです。

「世の中を変えたい」というビジョンを掲げて起業する人も多いですが、私の場合はそういうタイプではありません。原点にあったのは、ビジョンよりもむしろ危機感でした。

背景にあったのは、ある業界に象徴されるような産業構造の変化です。人口減少も相まって、年金暮らしで安心して定年を迎えるというストーリーは、もう成立しなくなっていると感じていました。企業では早期退職の対象になる人も増え、定年後どう生きるのか、多くの人が漠然とした危機感を抱いている。そうした空気の中で、選択肢のひとつとして「起業」という道が浮かび上がってきたんです。

共同経営者との別れ、そして「実演」への転換

一緒に会社を始めた共同経営者とは、半年ほどで別々の道を歩むことになりました。想像していた以上に地道な努力が求められる仕事だったこともあり、次第に事業の方向性が合わなくなっていったんです。

私自身はホームページを作れないので、制作事業そのものはクローズし、知り合いの経営者から直接受注をいただく形に切り替えました。コンバージョン率でいえば100%。相談を受けて、お酒を飲みながら受注が決まる―そんなスタイルでしたね。

この頃から大切にしているのが、「断言ではなく、実演を」という考え方です。「こうすればうまくいきます」と口で言うだけでは、経営者は動きません。実際に自分の手で結果を見せることでしか、信頼は生まれない。そこから、管理部門の自動化、資金調達、人事の相談、飲食店のオペレーション改善、SNS運用のコンサルティングまで、依頼の幅は自然と広がっていきました。

危機感の正体は「変化への対応力」

因数分解すればAIエージェントによる自動化

事業を大きな枠でとらえれば「経営コンサルタント」ですが、因数分解すると、Claude Codeを活用した自動化を軸にした経営コンサルタントということになります。

人材を紹介するという軸もあり得ますが、人はどうしても裏切ったり、体調を崩したり、離れていったりするものです。そうした不確実性がある以上、AIエージェントに24時間働いてもらう仕組みをつくり、人手不足を根本から解決する方向に力を入れています。ここでも軸にしているのは、クライアントに「使い続けてもらう」ことではなく、いずれ自分たちだけで回せるようになってもらうこと。依存されるコンサルタントではなく、自走できる状態をつくることを目指しています。

Claude Codeとの対話

著名な経営者が大規模カンファレンスでAIの活用について語っているのを聞いたこともありますが、私自身もClaude Codeとは日々、対話をしながら仕事をしています。その方ほどではないかもしれませんが、かなり使い込んでいる自負はありますね。

実をいうと、私はエンジニアではありませんし、どちらかといえば苦手な分野でした。それでも、この1年ほどでClaude Codeが登場してから、仕事のやり方そのものが大きく変わったと実感しています。価値観が変わるなら、仕事の進め方や考え方もアップデートしていく必要がある―そう思うんです。

人生のなかで2回目の転換点

これほど大きな時代の変化は、これまでの人生で2回ほど経験してきた感覚があります。1回目はWindows95が登場し、世の中が一変したときです。あんなものに行列してまで手に入れたい人がいるのかと、当時は驚いた記憶があります。

もう一つはiPhoneの登場です。当初はソフトバンクがアップル社と独占契約を結び、しばらくはソフトバンクでしか販売されない時期がありました。ボタンのない携帯電話は本当に大丈夫なのかと、多くの人が様子見をしていた時代です。それが一気に流れを変え、今では当たり前の存在になりました。

いまはクラウドを使えばアプリも作れますし、コードも瞬時に組んでもらえる時代です。海外の優秀なエンジニアでさえ必要とされなくなりつつあるという声も聞きますし、この流れに今のうちに乗っておきたいという思いがあります。危機感は不安の材料ではなく、変化に早く対応するためのセンサーだと捉えています。

危機感のない危機感

エンジニアとしてのスキルがあったから今の事業をしているわけではありません。むしろ苦手だった立場から、時代の変化を捉えてきたつもりです。

昔ながらの感覚で「今どきの若い人は根性がない」と言う年上の世代は少なくありませんが、それは年上の側がアップデートできていないだけだと私は思っています。オリンピックを見ても分かるように、今の若い世代のほうがよほど優秀です。便利な時代になったことで甘さが出ている人がいるのも事実ですが、それは単に、昔は根性で乗り切るしかなかっただけの話だと思います。

学生へのメッセージ ― 危機感を武器に変える

逆算思考でゴールへ

学生時代を振り返ると、私自身は日本や世界をよく旅していました。さまざまな土地で人と出会い、価値観の異なる相手と接する経験を通じて視野が広がったことは、今振り返れば大きな財産になっています。

とはいえ、何もしなければ時間はただ過ぎていくだけです。まずゴールを決め、そこから逆算して因数分解していけば、あとは一つひとつこなしていくだけで、実現に近づいていくはずです。因数分解の粒度が粗いか細かいかの違いはあっても、逆算した結果が間違っていればアジャイルのように軌道修正しながらスピードを持って進めていく――そうした感覚を、学生の4年間で身につけておくと後々強い武器になると思います。

何か一つを極める

麻雀でもサークルでも部活でも、テーマは何でも構いません。何か一つを徹底的に極めた経験があると、人を見る目や勝負勘のようなものが自然と養われます。快楽だけを求めてなんとなく過ごすよりも、ゴールを定めて徹底的にやり切ったほうが、社会に出てから活躍できる確率は高くなるはずです。中途半端に終わるくらいなら、思い切ってやって失敗したほうがいい。失敗から這い上がった経験のほうが、社会に出てからよほど生きてきます。

資格という武器

もう一つおすすめしたいのが、何か一つライセンスを取っておくことです。医者になれということではなく、社労士や行政書士のように、法律で独占業務が認められている資格は強い武器になります。

そもそも大学に入るための試験も、一定の基準を達成したからこそ突破できているわけです。そこで培った力を社会でどう生かすか、もっと具体的な形で考えてみてほしいと思います。今の時代であれば、AIを掛け合わせてマネタイズする企画を考えてみるのも良い訓練になるはずです。危機感を「不安」で終わらせず、「行動の起点」に変えられるかどうかが、これからの時代を生きる分かれ目になると思います。

編集後記

大手企業での経験から、Claude Codeを使いこなす現在まで――価値観が変わるたびに、仕事のやり方をアップデートし続けてきた泉さんの姿勢が印象的でした。「断言ではなく、実演を」「因数分解して逆算する」という言葉が何度も出てきましたが、これは筆者自身の就職活動にもそのまま生かせる考え方だと感じています。危機感を言い訳にせず、行動の材料に変えていくこと。何か一つを極めることの大切さとあわせて、あらためて実感できるインタビューでした。