インタビュー

「仕事がない半年」から始まった、20年続く会社のつくりかた

「仕事がない半年」から始まった、20年続く会社のつくりかた
PROFILE
株式会社ヤングライフプロポーサル 代表取締役社長
葛山 晃守

大学祭の運営で覚えたマネジメント

勉強よりも人を集める経験

大学に入ったら遊べるだろう、くらいの気持ちで進学しました。実際、勉強という勉強はほとんどしていません。その代わりに力を入れていたのが、サークルのような集まりでの先輩としての役割や、大学祭の実行委員でした。

新入生が4月に入学してくるための受け入れ準備や、入学後のオリエンテーションを担当して、なるべく早く学校になじめるようにサポートする。あわせて大学祭の実行委員として、企画から運営までを手がける。参加してくれる学生たちに楽しんでもらったり、喜んでもらったりするための活動を、学生時代はずっとしていました。

やりたくて私から入ったわけではなく、いろいろな人とのつながりのなかで、自然と関わることになったというのが実際のところです。しかし、多くの人がいる組織を学生のうちに経験できたことは、今のマネジメントに役立っていると思います。

windows95の時代にITを選んだ理由

田舎暮らしとITをつなぐ発想

windows95が発売されて、パソコンやインターネットが一般の家庭に広がり始めたのが、ちょうど大学生になったころでした。これから伸びていく分野だろうという直感もありましたが、私がITを選んだ理由はもうひとつあります。

学生時代に北海道を1周するほど自然が好きなタイプで、将来は田舎で「ペンション」を経営したいという夢がありました。ただ、いきなりペンションを始めるにはお金もかかりますし、現実的ではありません。ITを身につければ、地方に暮らしながらでも仕事ができるのではないか。そう考えて、就職先にITの会社を選んだんです。

技術そのものが面白くてITの世界に入ったというよりは、プログラムの授業を少しかじったくらいの知識で飛び込んだというのが実際のところでした。

サラリーマン時代に感じた限界

楽しく働きたいという思い

就職した会社では、今の事業のベースになっているITインフラの構築を3年間担当し、ひととおりの実務ができるようになりました。そのころから、独立を意識し始めます。

理由はいくつかあります。ひとつは、会社組織のなかで働くことに、自分なりの窮屈さを感じていたこと。もうひとつは、お客様に可愛がってもらえたこともあり、自分の力をもっと試してみたいという思いがあったことです。それに、サラリーマンの給料では将来がある程度見えてしまいます。ペンションの夢に向けてお金を貯めたい、経営を学びたいという気持ちもありました。

なにより大きかったのは、仕事をもっと楽しくしたいという思いです。決められた枠組みのなかにいると、どうしてもやりづらさが出てきます。楽しく働ける環境をつくるには、自分で会社をつくるしかない。そう思ったのが独立のきっかけでした。ちょうど同じプロジェクトをやっていた仲間にその話をしたところ、意気投合して、共同で創業することになりました。

創業から半年、仕事がなかった

前職の看板を外した先にあったもの

創業して、いちばん苦労したのは「仕事がない」ということでした。ビジネスマナーとして、前職でお付き合いのあったお客様を、そのまま弊社の仕事として奪うわけにはいきません。かといって、前職の看板を外してしまえば、私たちはどこの馬の骨かわからない存在です。技術者として現場の仕事はできても、営業のやり方はよくわかっていませんでした。

自分の技術をどう仕事につなげていけばよいのか、まったくうまくいかず、創業から半年で出資金も底をつきかけていました。もうここで終わりかもしれない、という状況です。

そこで、以前お付き合いのあった会社から「インフラの構築で困っているので、手伝ってほしい」と声をかけていただきました。前職の会社に迷惑をかけない形で調整もしていただき、それをきっかけに、私たちが以前担当していたお客様が次々と戻ってきてくれたんです。結局、ほとんどの担当先とそのままお付き合いを続けられることになりました。会社の看板ではなく、私たち自身を見て評価してくれていたお客様に、本当に助けられた形です。

技術の境界線を壊すという強み

寄り添う姿勢が信頼をつくる

やっている事業は3つあります。9割を占めるのがインフラ構築で、ベースにしてきた事業です。残りの2つは、まだ挑戦の途中にあるWebアプリケーション開発と、インバウンドの旅行業になります。

インフラという分野は、技術のレイヤーによって担当領域が細かく分かれているのが当時の業界の常識でした。そこをできる限り超えていくというのが、創業当初からの強みです。ひとつの会社に頼めば、いろいろな相談がまとめて終わる。それはお客様にとって、大きな安心につながります。

もうひとつの強みは、技術面よりも人間的な部分です。大きな会社でも小さな会社でも、「ここまで」という線を引いてしまうことが多いなか、私たちは最後までお客様に寄り添うというスタンスをとってきました。実際、前職から引き継いだお客様の多くが、創業から20年以上たった今もお付き合いを続けてくれています。もうかるもうからないという話ではなく、そこにこそ信頼関係の本質があるのではないかと感じています。

Web開発とインバウンド旅行業への挑戦

従業員のアイデアから生まれた新規事業

会社として大切にしているのは「チャレンジ」という言葉です。インバウンド旅行業は、社員のアイデアから始まりました。日本国内だけのサービス展開でよいのか、という問いを持ち続けるなかで、社員たちに海外向けのビジネスを考えてもらう海外プロジェクトを10年ほど続けてきて、最終的にインバウンド旅行業をやりたいという声が上がってきたんです。今のところ、まだ大きな成果は出ていませんが、挑戦そのものに意味があると思っています。挑戦することで枠が広がり成長に繋がります。

Web開発についても、まだAIが本格的に登場する前の話です。インフラの仕事は、社会の通信基盤を安定的に使えるようにすることが目的で、ゼロから新しいものを生み出す仕事ではありません。ただ、世の中を変えていくような「ものをつくる力」を自社に持ちたいという思いから、Web開発を立ち上げました。こちらもまだうまくいっていない部分はありますが、インフラという1本の軸だけにすがっていては、この先どうなるかわかりません。うまくいってもいかなくても、次の挑戦を続けていくことが必要だと考えています。

30周年に向けて、次の経営をつくる

起業塾(BOSS塾)とグループ会社5社構想

共同創業者から私が社長を引き継いだのは、ちょうど創業20周年のタイミングでした。今は30周年に向けた計画を発表していて、それまでに私の次の経営体制をつくることを決めています。会社はみんなの生活の土台であり、私がいなくなっても続く組織にすることが、創業者としての最後の役割だと考えているからです。

その取り組みのひとつが、社内で募集する起業家育成プログラムです。社長になってから始めたもので、起業してもしなくてもよいので、経営に興味があるなら参加してほしいという形で、私自身の経験を伝えています。実際に、2034年までにグループ会社を5社つくるという計画も明確に掲げていて、そのなかから経営を担う人材を育てていきたいと思っています。

サッカーワールドカップで気づいた「豊かな未来」

3週間、家族と過ごした時間

起業を目指すことだけが正解ではなく、社会人としての働き方にはいろいろなパターンがあります。ただ、最終的にはその仕事にどれだけ真剣に向き合えるかが大きいと感じています。

その実感につながるできごとが最近ありました。サッカーワールドカップを生で見るというのは、サッカー小僧としてずっと持っていた夢でした。今回、家族の事情もあってラストチャンスだと思い、2歳と4歳の子どもと妻を連れて、3週間アメリカに滞在したんです。ダラスでの日本戦に加えて、ウルグアイ対カーボベルデの一戦も見ることができました。

3週間仕事を休める環境をつくれたのは、周りの仲間の協力があってこそです。普段はなかなか家にいられないぶん、家族とずっと一緒に過ごせたことは、本当によい経験になりました。20代からがむしゃらに働いてきた結果が、こうしてつながっているのだと感じています。

編集後記

今回のインタビューを通じて、独立当初は仕事がまったくなかったという苦しい時期を乗り越え、20年以上にわたってお客様との信頼関係を築いてこられた葛山さんの姿勢に、とても学びがありました。技術力だけでなく、寄り添う姿勢が会社を支えているという言葉が印象に残っています。就職活動を控える身として、目の前の仕事にどれだけ真剣に向き合えるかという視点を、これからも大切にしていきたいと思います。