インタビュー

ニューヨークの民泊で出会った働き方が、独立の原点になった

ニューヨークの民泊で出会った働き方が、独立の原点になった
PROFILE
取締役代表
檜原 大河

HINOKI STYLE JAPAN株式会社代表の檜原大河さんは、動画制作・SNS運用による企業の集客、採用、教育支援を経て、現在は企業専用のAI社員を設計し、人が抱える繰り返し業務を減らす「しごけし」の事業化を進めています。その原点には、海外で知った「自分で仕事をつくる生き方」と、民泊運用会社で培った仕組み化の経験がありました。

出会いはニューヨークのAirbnbだった

プラトン夫妻が教えてくれたこと

起業という生き方が現実的な選択肢になったのは、大学卒業後の海外生活がきっかけでした。サカイ引越センターを退職したあと、約1年間ワーキングホリデーでカナダのバンクーバーに滞在し、その後、ニューヨークのAirbnbで約2か月暮らしました。そこで、自分で仕事をつくるフリーランスや経営者の生き方に触れたんです。

なかでも大きかったのが、Airbnbを運営していたロシア人のプラトン夫妻との出会いです。プラトンはシステムエンジニアとしてリモートで働きながら、民泊や日本製品の輸入販売など、複数の事業を手がけていました。会社員か公務員になることが当たり前だと思っていた僕にとって、自分で需要を見つけ、仕事と収入の仕組みをつくる働き方を初めて現実として知った経験でした。当時の日本では民泊はまだ一般的ではなく、この仕組みは日本でも広がると感じたことが、帰国後の仕事選びにつながりました。

民泊運用の仕事で仕組み化を体験した

日本に帰国したあと、地元関西の神戸から東京の渋谷に上京して、投資家が持っているマンションの一室や一戸建てを運用する民泊運用会社に転職しました。そこで仕組み化というか、システムで物件を運用していくというところを体験させてもらったんです。

物件数は最初の約20件から、2年目には90件近くまで増えました。売上も参画初年度の約5,000万円から、翌年には約2億円まで伸びました。私はオペレーションリーダーとして3人のチームを率い、渋谷区役所や新宿区役所、地域の関係者との調整を重ねながら、会社全体で事業を拡大していきました。

コロナ禍で民泊事業の継続が困難に

問い合わせがゼロになった日

そうやって事業が伸びてきたところに、2020年、コロナがやってきました。インバウンドの観光客がゼロになり、通常は七~八割、繁忙期には九割ほど埋まっていた物件の予約カレンダーに、問い合わせがまったく来なくなったんです。現場をどれだけ改善しても、お客さま自体が来なければ事業は成り立ちません。結果として、従来の形で民泊事業を継続することが難しくなり、事業や運用システムは他社へ譲渡されました。

事業譲渡の先に見つけた気づき

この経験から得た気づきはふたつあります。ひとつは、市場環境が変わって売上が止まっても、それまで作り上げた仕組みやシステムには、他社へ引き継げる資産価値が残ること。もうひとつは、自分たちでは変えられない状況でも、次に何をつくるかを考え続けることの大切さです。この経験が、現在の仕組みづくりや「しごけし」の構想につながっています。

前職の課題から、動画とSNSの会社を創業

採用と教育を、伝わる形に変えたかった

起業という生き方を知ったのは海外でしたが、何の事業で起業するかを決めたのは、前職の民泊運用会社で感じた課題でした。事業が急成長する一方で、人手不足や採用、入社後の教育が追いついていませんでした。また、求人票の文章と写真だけでは、経営者やスタッフの人柄、職場の雰囲気、実際の仕事の内容まで伝えきれないと感じていたんです。

そこで、企業の魅力や仕事の内容を動画とSNSで分かりやすく届け、採用から入社後の教育まで支援する会社として2020年に独立しました。もともと大学時代からYouTubeやInstagramで発信していたため、当時の自分が最初に市場へ出せる武器も動画とSNSでした。独立後は、YouTubeによる集客支援や、社内向けの動画マニュアル制作に取り組みました。さらに、業務改善会社との協業を通じて、動画はあくまで手段であり、お客さまの課題から逆算して業務を分解し、必要な形まで実装することが重要だと学びました。

現場では気づけない無駄がある

動画マニュアルでイメージしやすい例が飲食店です。新人教育で難しいのは、言語化できない部分にあります。たとえばパスタなどのイタリアンのお店であれば、鍋が沸騰してふつふつと泡が出てくるタイミングは、文字や数字にしにくいんです。そこを写真ではなく動画にすれば、三秒で伝わります。あるイタリアンのお店からスマホで社内研修をしたいという要望があり、三十秒から九十秒ほどの縦型ショート動画をシリーズで作ったところ、とても喜んでいただけました。

この着想の原点は2016年のワーキングホリデー時代に見たウェンディーズにあります。当時から世界的に展開するこのハンバーガーチェーンでは、業務前に三十分ほどパソコンで映像研修をしていて、パティの焼き方やレジでの接客、ドライブスルー対応まで、すでに映像でマニュアル化されていたんです。これを社内マニュアルに落とし込めるのではと思ったのが、きっかけになっています。

さらにさかのぼると、大学四年のときに一週間ほど参加した香港への交換留学が、初めての海外での気づきでした。カタカナ英語がまったく通じないもどかしさや、日本の丁寧な接客との違いなど、文化の違いを肌で感じた経験です。十年後にも通用する要素は何だろうと考えたときに「グローバル」という軸が見えて、それが英語や海外経験を選ぶ自分の軸になったのかなと振り返って思います。

これからは「しごけし」を事業化したい

企業専用のAI社員という発想

今後は、動画制作やSNS運用で培った集客・発信の知見と、民泊運用で培った業務設計の経験を組み合わせ、企業専用のAI社員をつくる支援へ事業を広げたいと考えています。制作や撮影はチームに任せられる体制が整ってきたため、私は経営者の課題を聞き、どの仕事をAIに任せるかを設計する役割に軸足を移していきます。

例えば、商談が終わったあと、録音データから議事録を作り、お礼メールを書き、次回提案のたたき台を用意し、顧客管理表へ情報を登録する。これまで経営者や営業担当者が一つずつ行っていた一連の業務をAI社員が進め、人は最後の確認と判断に集中できる状態をつくります。このように、人が繰り返している仕事をAIへ引き継ぎ、減らせた時間を営業や商品開発など、本来集中すべき仕事へ戻す取り組みを「しごけし」と呼んでいます。単なる時間短縮ではなく、空いた時間を売上や利益につながる活動へ変えるところまで支援する構想です。

経営者の発信を支える「分身OS」

「分身OS」は、経営者の代わりに経営判断をするAI社長ではなく、経営者の考えや口調、過去の発信をもとに、情報発信を補助するAI広報社員に近い構想です。経営者が残した音声メモや一つのテーマから、YouTube、Instagram、X、noteなど、それぞれの媒体に合った台本や原稿を作成します。

まずは、動画やSNSで支援してきた発信業務をAIで効率化するところから導入事例をつくり、そこから営業、顧客対応、社内業務へと任せられる範囲を広げていきます。現在は、企業ごとに必要なAI社員の形や提供方法を検証している段階です。今後1~3年をかけて実績を積み重ねながら、「しごけし」を中小企業や一人社長にも分かりやすいサービスとして形にしていきたいと考えています。

挑戦する学生へ

10回打ち上げれば、1回は軌道に乗る

学生の方に伝えたいのは、「七転び八起き」と「一勝九敗」です。新しいことを10回始めれば、9回は思いどおりにいかないかもしれません。でも、10回試さなければ、1回の成功にも、そこでしか得られない知見にも出会えません。僕自身、営業、海外、民泊、動画、AIと、何度も方向を変えながら挑戦してきました。すべてが成功したわけではありませんが、そのたびに次の仕事や発想につながる経験が残りました。

ただ、がむしゃらに数をこなせと言いたいわけではありません。まずは恐れずに小さく試し、失敗したら学び、次の打ち上げ方を変える。10回打ち上げれば、1回は軌道に乗る。その1回が、自分の未来を変えると思っています。

編集後記

学生時代から動画制作やホームページ制作に挑戦していた檜原さんのお話から、現在の事業につながる行動力の原点を感じました。とくに印象に残ったのは、コロナによって民泊事業の継続が困難になったなかでも、仕組みやシステムには資産価値が残ると捉え、次の事業へつなげていったことです。動画・SNSによる発信支援から、企業専用のAI社員を設計する「しごけし」へ。これまでの経験を一つの仕組みに結びつけようとする姿勢に、学生起業に携わる私自身も多くの学びを得ました。貴重なお話をありがとうございました。