創業のきっかけ
35年来の友人と立ち上げた
弊社の創業は、非常にシンプルな理由です。もともとスウェーデンに本社があり、この本社の創業者と私は、もう35年近い友人です。彼から「日本で事業を展開したい」という話がちょうど20年前にあり、それなら一緒にやろうかということで始めました。
弊社が扱っているのは、バクテリアを使ってさまざまな疾病を予防するバイオ技術です。これを日本にも紹介したいという思いがあり、スウェーデン本社の創業者と私とで、日本法人を共同創業したという経緯になります。
ヨーグルト会社で出会った菌
そもそもなぜスウェーデンの彼と知り合ったのかというと、これは前職に遡ります。私は以前、ヨーグルトを作っている会社に勤めていて、「ヨーグルトに使えるおもしろい乳酸菌はないか」といろいろ探していたんです。そこで出会ったのが、スウェーデンで会社を創業したばかりの彼と、その取り扱い商品である「ロイテリ菌」でした。
私はその頃は彼の会社のロイテリ菌を買う側、クライアントの立場だったんです。そこから知り合って、一緒に研究投資をしながらいろいろと作り上げていきました。数あるスウェーデンの会社の中でもなぜそこだったかというと、彼の会社が持っていた乳酸菌が、病院での治療に使えるレベルのエビデンスを備えた、もっとも優れたものだったからなんです。
波乱の家業再建
20歳での起業と家業への転身
私は20歳のときに起業しています。東京で会社を立ち上げて、潰れかけたりうまくいったりを繰り返しながら、最後の頃は海外で事業投資をするような仕事をしていました。そのおかげで、外国人との仕事にはあまり抵抗がなかったんです。
一方でヨーグル卜の会社は家業でした。「手伝ってほしい」という話があって、自分がやっていた会社を休眠させ、家業を手伝うことになったのが26歳くらいのときです。実際に何を手伝ったかというと、創業120年ほどの古い会社の再建でした。
240億円の借金という現実
家業は大きな借金を背負っていました。26歳の頃、私は240億円の借金を背負うことになったんです。これは合法的な方法でゼロにすることができまして、私自身、民事再生や自己破産といった法的整理は一切していません。その代わりに、家業だった事業は売却しました。会社の業績を良くするために大規模なリストラも行いましたし、200人近くの人員整理をしたこともあります。会社を立て直したあと、私はその会社を離れて、いまの会社に移りました。広島の会社でしたので、いまも弊社は広島に拠点を持っています。
相続は必ずしも良い話ではない
これは今の会社の話ではなく、それ以前の経験なのですが、皆さんにぜひ知っておいてほしいことがあります。中小企業で上場していない会社の場合は、ほぼ間違いなく社長が会社の借金の連帯保証人になっています。そして怖いのは、自分がその会社を継いでいなくても、相続権があれば、その借金は相続人に及ぶということです。
親がどれだけ会社に借金をしているか、個人保証を入れているかどうかは、聞いておいたほうがいい。それを回避する方法は一つで、相続権を放棄することです。何年も前に放棄しておけば、そもそも相続権がない人間だということで、金融機関からの請求も来ません。会社を継ぐ家庭に育った方は、一度、家族と話しておくことをおすすめします。
バイオガイアという会社
病院を主戦場とするバイオ企業
弊社の事業内容は、バクテリアを使った感染症の治療や予防です。事業のフィールドは歯科医院や小児科、総合病院など、病院が中心です。あまり一般の方には知られていませんが、それはこのフィールドが理由です。スウェーデンの創業者と一緒に上場まで進めた会社で、いまの時価総額は1,000億円を超えています。従業員は200名ほど、グループ連結の売上は日本円で220億円ほどです。特許も数百件保有していて、国や企業にライセンスを提供する事業もおこなっています。オハヨー乳業さんのように、ロイテリ菌を製品に使ってくださっている会社もあります。
抗生物質が効かなくなる時代
弊社が扱っているのは、細菌感染を治したり予防したりする領域です。本来こうした病気は抗生物質、専門的には抗菌薬で治療されるものなんですが、菌は常に進化して耐性をつけるため、抗菌薬とのイタチごっこになっています。すでにあちこちで人類が負け始めているのが、いまの医療の現状です。これを薬剤耐性菌(AMR)と呼びます。抗生物質が効かない体になると、感染を止められず、全身の臓器不全のような形で亡くなる方が出てきます。2040年から2050年ごろには、薬剤耐性菌による死者数ががんを上回るとも言われているんです。
抗生物質を飲んだことがない人からも耐性菌が見つかる例が増えていて、その一因が食品に残る残留抗菌薬です。卵や養殖魚、輸入の食肉などには、抗菌薬が使われていることが多く、それを管理する法律が十分に整っていない国も少なくありません。コンビニ弁当に含まれる保存料も、抗菌薬に近い働きをするものがあり、日常的に大量に摂取していると、体の中に耐性菌ができてしまいます。
これからのビジョン
バクテリアを味方につける
弊社がやっている「生きたバクテリアを使った治療」は、相手が変異するスピードに合わせてこちらも対応していける点が特長です。バクテリアにとっての天敵はバクテリアであり、医学的なメカニズム上、バクテリア同士では耐性ができにくいんですよね。抗菌薬に制限がかかっているいまの世の中だからこそ、抗菌薬に代わる、バクテリアを抑え込む医療技術をもっと開発し、広げていく。それが弊社のビジョンです。人間がバクテリアとの戦いに敗れる日が来ないよう、バクテリアを味方につける。それが弊社の仕事だと思っています。
いいバクテリアを持てるかどうかは、赤ちゃんの頃の食生活や生活習慣が大きく影響します。とはいえ、それだけでは防ぎきれない感染症もありますので、そこから先は医療の領域になってきます。
学生へのメッセージ
若さはもう武器にならない
これからの時代、年齢はもう就職の武器にはなりません。特にAIが普及すればするほど、その傾向は強まっていくと思います。これまで新卒に「調べておいて」「企画書を作ってみて」と一から教えていたような作業は、AIがやってしまう時代になりました。企業側から見ると、新卒を一から教える時間と労力自体がもったいない、という考え方に変わってきています。
分解して考える力を身につける
AIの時代になればなるほど、人間にしかできないことができる人が必要になります。物事を分析して、徹底的に考え抜く癖。それを身につけてほしいと思います。たとえるなら、レゴでずっと家を作ってきた人が、急にトラックを作りたくなったとき、分解する力がある人は「ドアのパーツは使えるけれど、タイヤが足りない」というように、自分に足りないものが具体的にわかるんですよね。当たり前に思っていることを、本当に分解して考えられる人になれば、年齢は問われなくなっていくはずです。
そうした力を持つ人は、実務経験のある人であることが多いのも事実です。だからこそ、実務を積んだベテランの経験を、AIで補っていく。そういう時代になってきていると感じます。
起業という選択肢
これは就職難になるという話ではなく、皆さんが起業すればいいと思っています。私自身、起業してきましたから。以前ならデザイナーやプログラマーにお金を払って頼んでいたホームページ作りも、いまはAIを活用したツールで安い費用で形にできます。就職して、どこかの企業に頼らなければ何もできない時代ではなくなってきています。皆さんが起業しはじめれば、大手企業も人を採るのに必死になりますから、結果として賃金の条件はよくなっていくと思います。ぜひ挑戦してみてください。
編集後記
240億円という金額を聞いたとき、正直、言葉を失いました。ただ、それ以上に印象的だったのは、逆境の話をしながらも、終始淡々と、時にユーモアを交えて語ってくださったことです。相続の話は、自分ごととして初めて意識しました。AIの時代に必要なのは「分解して考える力」という言葉は、そのまま自分の学びにも持ち帰りたいと思います。就職活動を控えるいち学生として、起業という選択肢の重みを、あらためて考えさせられる取材でした。