インタビュー

宮崎で見た廃業の光景から10年。捨てられる農作物をジェラートで価値に変えるまで

宮崎で見た廃業の光景から10年。捨てられる農作物をジェラートで価値に変えるまで
PROFILE
株式会社フォレストバンク 代表取締役
小林亮

株式会社フォレストバンクで代表取締役を務めている小林亮です。弊社は全国の農家さんから未活用の農作物を買い取り、ジェラートやピューレなどの食品OEM(相手先ブランド製造)として法人の皆さんに届ける事業を手がけています。今日は創業までの10年と、これから描いている仕組みについてお話しします。

高校生のときに見た宮崎の現実

農家が次々と廃業していた

私が「日本の農業をなんとかしたい」と決意したのは、高校生の時でした。きっかけは母方の在所である宮崎県です。幼い頃はよく遊びに行っていて、そのたびにさまざまな農家の方と触れ合っていました。

ところが2013年に宮崎を訪れたところ、私が見知っていた農家の方の多くが廃業していたのです。理由は、「高齢化や後継者不足」に加え、「儲からない」という実情がありました。正直、その理由を知った時は、かなりショックを受けました。そして、この経験が、「日本の農業を救いたい、何かしたい」という強い思いとなりました。

「品質の高さ」の定義を調べた

まずは「日本の農家を取り巻く環境や日本の農業そのものについて」を調べ始めました。「日本の農作物の品質は世界一」とよく言われますが、それが「具体的にはどういうことなのか」を自分なりに掘り下げ、「日本の農作物の品質の高さとは何なのか」を理解するところからのスタートでした。

自らの足で各農家を回る

2018年からは、日本の小規模農家の方をあちらこちらと訪ねて回りました。「実際の農家の方がどのような課題を抱えているのか」を知るためです。

アナログなやり方でしたが、「自らの足で訪ねてみる」ことこそが、「最重要である」と思ったのが理由でした。もちろん、「自身を納得させるため」であり、「将来起業を考える」のであれば、「調べ物の結果だけで起業することはリスキー」だと感じていたこともあります。例えば、「農家の方100人の声を聞いて、そのうちの80人に共通していること」を形にすれば、「失敗しにくい」ものではないでしょうか。実際の現場を見て回った背景には、そういう観点もあったのかもしれません。

ジェラートを事業の入り口に選んだ理由

アナログで農家さんを救う

実際に農家の方の話を聞いていく中で、「アイスクリームやジェラートなら農家の方を少しでも手助けできるのではないか」と考えました。その理由は2つあります。

1つ目は、農家の方には「アナログなアプローチのほうが届く」と感じたことです。最近では、農業系のテクノロジービジネス、いわゆる「アグリテック」が流行っていますよね。ところが、農家の方には、「高齢者が多い」のが実情です。そのため、「ITリテラシー」という観点から考えた場合、「このデジタルツールを使えば工数を削減できますよ」というビジネスモデルは、「おそらく刺さらない」と思いました。

むしろ、「豊作による余剰など余ってしまった農作物を仕入れてあげる」ほうが、「農家の方を救う一番の近道になる」だろうと考えました。それが「食品分野を選んだ」理由です。

「期限表示がいらない」という強み

2つ目は、アイスクリームやジェラートには、「法的な期限の記載義務がない」ことです。そもそも、アイスクリームやジェラートは「凍った状態で提供されるもの」ですよね。しかも「-18度以下の冷凍状態で保存する」ことにより「品質の劣化や細菌の増殖がほとんど起きない 」とされていることから、食品表示基準でも「消費期限や賞味期限の表示を省略できる」と定められているのです。そのため、「期限管理に追われずに済む」ことが最大のメリットです。

例えば、ジャムは、毎日買うものではありませんよね。ところが、アイスクリームは、マーケティング次第で「毎日買ってもらえるもの」になり得ます。「物が動きやすく、賞味期限がない」という2つの利点が揃っていたことから、ジェラートへたどり着きました。

1年学んで工場を建てる

そうは言っても、「ジェラートそのものの作り方」は全く知りませんでした。そこで、まずは1年間かけて必要な知識の勉強をしたうえで、2023年に工場を建てました。これが創業に至るまでの経緯です。

未活用農作物を価値に変える仕組み

B品のさらに下の作物

「作物の出来の良さ」を農業界では、「A品」、「B品」などと表現します。わかりやすく説明すると、「A品」とは「スーパーに並べられる見た目の整った農作物」のことです。一方、「B品」は「A品とは遜色ないが、些細なキズなどのあるもの」を指します。

実はさらにその下に、「未活用のまま廃棄されている作物」もあります。例えば、「甘みがなかった」り、「大きさが規格から大幅に外れていたりするもの」です。

B品の価格で買い取る

弊社には、私自らが広げてきた全国の農家の方との買い取り網があります。そこで、本来捨てられるはずだった作物を「B品の価格で買い取って」います。

それを大阪にある2拠点の直営工場や四国の委託工場など、いくつかの提携工場で商品へと加工・製造しています。就労支援施設様ともタッグを組んで仕上げ、法人の皆さんに供給していくという本当に簡素な仕組みです。

ジェラートにすることで「糖度などもすべて調整できる」ため、捨てられるはずだった作物を「価値の高い商品に変えて」届けられることが強みです。

ジェラートの技術を横に展開

さらには、ピューレやスムージー、ソフトクリームミックスなども手がけていますが、どれもベースとなっているのは、「ジェラートの技術」です。そもそも、「ピューレ」は、「ジェラートの原料」のため、「それを切り売りしている」形です。スムージーは、「氷菓子のように冷凍流通させて、溶かすとスムージーになる」商品として作っています。

他にもチョコレートやクッキーなども一部手がけています。こちらは委託工場に作ってもらっていて、農作物をパウダー化して練り込んでもらう商品もあります。

ホテルの朝食にも並ぶ

弊社のジェラートは、大手ホテルの朝食や全国展開の小売店など、さまざまなところで扱っていただいています。

ホテルさんにはOEMとして、そのホテルオリジナルの商品も作っています。実はホテル様も「オリジナル商品を積極的に売りたい」というのが本音です。そのため、「自社ブランドを売りにしたいホテル様とお取引する」ことで、自然とマーケティングがされ、アイスクリームも売れていくのです。

ジェラートは氷山の一角

340社に導入された実績

「ジェラートは事業の入り口だった」というお話をしましたが、実際、「ジェラートを始めた」ことがきっかけで、弊社の製品を導入いただいている法人様は今340社ほどになり、そのうち、大手様は「70社ほど」になります。売上は1000%の伸びで、直営工場も増やして対応してきました。成長スピードを上げながら実績を作ってきたことが、弊社の誇りです。そして、それができているのは、「創業までに10年をかけたからだ」とも思っています。

需要と供給を繋ぐインフラ

しかし、これは弊社が思い描いているインフラ構造の氷山の一角にすぎません。

これまで、ロスとなる農作物は、「アイスクリームなどに加工」しなければ、法人様の需要とマッチングできませんでした。ところが、「ロスになると見込まれるもの」を弊社が購入し、「糖度調整などをしたうえで法人さんに安定供給していく」ことで、弊社は独自に「需要と供給をマッチングできる仕組み」を構築しています。

50個からのオリジナルアイス

最近では、「50個からオリジナルのアイスを作れる」プラットフォームも展開しました。「パッケージデザインもオリジナルで作れるようにしている」こともポイントです。

「小ロットで作る」ノウハウは、「元々あった」ため、それを活かす形で、今まで「法人様向けだったもの」を「個人でも気軽に利用できるようにした」という次第です。この方式を導入することによって、「より多くの方に知ってもらえる」はずですし、「農作物の消費も加速できる」かもしれないと期待してます。実利的な話をすれば、「ネットで完結できる」ため、「営業コストも下げられる」という理由もあります。

起業を考える学生の皆さんへ

アナログが武器になる

「何でも手に入る」今の時代だからこそ、「デジタルから入らないこと」こそすごく大切だと思います。さらに言えば、「実際の現場を見ること」も本当に大切です。「起業する」のであれば、「ぜひ意識しておいてほしい」と思います。

例えば、現在は「飛び込み営業をする」と「すごく成果が取れ」ます。なぜなら、「実際の飛び込み営業者が少ない」からです。そのため、「時代に逆行しろ」とまでは言いませんが、「逆張りの発想は持っていたほうが良い」ような気がします。

情熱で走れる目標を持つ

少し語弊があるかもしれませんが、「お金を稼ぐことを目標に起業した」場合、実は「そこにたどり着いて終わりになってしまいがち」です。例えば、「年収1億円になりたい」、「3000万円の車が欲しい」などの目標は、「案外あっさりと達成できてしまう」ものでもあります。しかし、あまりにもあっさりと目標を達成してしまった場合、いわゆる「バーン・アウト症候群」のようになってしまい、「自分が何をしたいのかわからなくなってしまう」とも思います。

それよりも、「パッションで取り組めるビジネス」のほうが、おそらく、「死ぬまで熱量を持って頑張れる」ように思います。言わば、「80歳になっても終わらないような簡単には達成できない目標を持って起業するべきである」と、私は思います。

まずは自分たちが稼ぐ

そうは言っても、若い起業家の中には、「社会貢献をしたい」という思いから起業する方も多いですよね。ですが、「社会貢献に振りすぎてビジネスモデルが成り立たなかったり、儲からなかった」りして苦戦している方も多いように感じます。

事実、「農業を救いたい」という強い思いがあったとしても、まずは「自分たちが儲から」なければ、「農家の方への還元」もままなりません。要するに、「弊社が儲かれば、農家の方に払える買い取り額も増え、農家の方々も幸せになれる」ということです。もしも、「弊社が儲からな」ければ、「従業員への給料は払えず、誰も幸せになれない」ですよね。だから、まずは「自分たちが稼ぐ力を作ってから社会へと還元していく」という「お金の循環を生み出すことを前提に据えるべき」だと思います。

この会社のよくある質問

Q. 学生がフォレストバンクと関われる機会はありますか?

今のところインターンはおこなっていません。ただ、大学から工場見学に来ていただいたり、いくつかの大学で講師をさせてもらったりしています。大学生と一緒に万博に出たこともあるなど、学生の皆さんとの交流は時々あります。

Q. フォレストバンクの強みは何ですか?

私自身が広げてきた「全国の農家の方との買い取り網」です。それに加え、「小ロット製造のノウハウがある」ことから、「法人様のオリジナル商品」だけでなく、「個人客向けの50個からのオリジナルアイス」まで対応できることです。

編集後記

「100人の意見を聞いて、80人が言っていることをやれば失敗しない」という小林さんの言葉が、取材後もずっと頭に残っています。私自身、学生起業に挑戦する中で、「ネットで調べた情報だけで仮説を立てて、満足してしまう」ことがよくありました。「高校生で抱いた問題意識を発端に、10年をかけて現場を見て回り、1期目から黒字を続けている」という姿を知ったうえでは、「アナログこそ武器になる」という言葉の重みが違って聞こえました。「社会貢献と稼ぐ力は両立させるもの」という視点も合わせ、これからの行動に活かしていきたいと思います。貴重なお話をありがとうございます。