インタビュー

「生き急がなくていい」―ハウスメーカー22年を経て地域工務店の代表に就いた大橋俊一の選択

更新: 2026年9月24日
「生き急がなくていい」―ハウスメーカー22年を経て地域工務店の代表に就いた大橋俊一の選択
PROFILE
アイワホーム株式会社  代表取締役
大橋 俊一

転職のきっかけ

縁もゆかりもない転職でした

私は大学を卒業してから、新卒でハウスメーカーに入り、住宅営業を22年経験してきました。もともと創業者との付き合いがあったとか、会社と接点があったというわけではなく、完全にまっさらな状態からの転職です。何か縁があったわけでもコネクションがあったわけでもなく、一般的な転職と同じように、このポジションでのお話をいただいたという形になります。入社から代表就任までは4か月というスピードでしたが、これはアイワホームが新しい経営体制へ移行するタイミングを迎えていたことと、ご縁が重なった結果だと捉えています。

ハウスメーカー2社で学んだこと

正確に言うと、ハウスメーカーは2社経験しています。1社目は、当時三洋電機の住宅部門だった会社です。もともと住宅業界に入りたいと決めていたわけではなく、2日間ほどずっと熱心に誘いを受けて、その熱意に負けて業界に入ったというのが実際のところです。そこから住宅営業としてのキャリアが始まりました。

30歳のときには、住宅展示場の1拠点の拠点長を任されるようになりました。それから10年以上、そういったポジションを重ねてきて、自分なりのチーム運営や業績、やりがいを持った仕事というものが、ある程度形になってきたなと感じるようになっていきました。

サラリーマン人生に感じた違和感

一方で、なんとも言えない違和感も抱えていました。自分がやった・やらないとか、頑張った・頑張らないとは関係のないところで、物事が思うように進まないと感じることが増えていったのです。表現がむずかしいのですが、能力や実績だけでは測れない、組織ならではの力学のようなものを感じる場面もありました。お客様とは関係のない、そうした部分に振り回されているような感覚です。若い方たちが「サラリーマンって嫌だな」と感じるような、そのゾーンに両足を突っ込み始めていたな、という感覚があって、3〜4年前くらいから、なにか違うことをやってみたいという思いが芽生えていました。

お客様の思いを届けたかった

理由のひとつには、社内派閥や社内のひずみのようなものから距離を置き、自分のペースで働きたいという気持ちが大きくなっていたことがあります。もう少しきれいに言うと、お客様に対してもっとこうしたい、お客様が本当に望んでいることはこうだ、という思いと、企業として早く家を建てて代金を回収し利益にしなければならないという事情との間で、もどかしさを感じていました。お客様思いなようでいて、実はそうなっていない場面も出てきてしまいます。

そうしたことに気づくたびに、自分の手が届く範囲で、これがお客様のためになると思うことに全振りしたいという思いが強くなっていきました。企業に属している立場だと、そこまで振り切ることはむずかしいものです。だから自分が経営側に回ることで、自分の考え方や大事にしているものをそのままお客様に届けたいと思いました。

お客様に恵まれた22年間

会社のなかで納得できないことや、上司との間でうまくいかないことがあっても、実際に携わっているお客様が支えてくれた22年間でした。20代の頃、私が納得いかない顔をしているのを見て、「あと10年も経てば、大橋君もわかるようになるよ」となだめられたり、「会社側の言っていることもわかるようになるよ」と声をかけてもらったりしたことがあります。そうしたお客様との出会いに恵まれてきたからこそ、ここまで続けてこられたのだと思っています。

サンヨーホームズのお客様も、トヨタホームのお客様も、アイワホームでのこのポジションでの挑戦を応援してくれています。その人たちの想いが、心から有難いです。

お客様との向き合い方も、年代によって少しずつ変わってきました。20代の頃は、「第一印象や人柄でここに決めました」と言っていただけることが、単純にうれしかったです。間取りも金額もまだ決まっていない段階で信頼していただけることに、素直に喜んでいました。30代後半になると、少し慎重になりました。第一印象だけで決めてもらうのではなく、たくさん質問をして、たくさん考えてもらったうえで、一度立ち止まってもらう。それでも「やっぱりここにします」と言ってもらえることを大事にするようになりました。今は、最初にお会いしたときから「この人にお願いしたい」と思っていただけるような関わり方を、あらためて目指しています。

アイワホームの事業と強み

群馬県太田市の工務店です

アイワホームは、一般のお客様に注文住宅を建てることを生業にしている会社です。本社は群馬県太田市にあり、地域に根づいた工務店という立場で、地域の皆さんの住宅づくりに貢献しています。事業内容はほぼ100%、注文住宅の新築がメインです。

お客様との距離感が強み

当社の一番の強みは、お客様との距離感だと思っています。大手の住宅会社やハウスメーカーのように、打ち合わせ回数に制限を設けたり、何ヶ月後にはこの工程に進まなければならないといった枠を決めたりはしていません。こうした姿勢を地元のお客様に評価いただき、今の時点でも再来年の受注残があるほどです。お客様の足並みにきちんと合わせて、やりたいような家づくりができているのが、強みのひとつだと思います。

目指しているのは、地域で一番、相談しやすい会社になることです。家づくりは多くの方にとって一生に一度の大きな買い物ですから、「こんなこと聞いても大丈夫かな」という遠慮を、なるべく感じさせない会社でありたいと思っています。

コーディネーターが5人いる理由

組織編成にも当社らしさが出ています。今、社員12人のうち5人がコーディネーターです。10人規模の一般的な工務店だと、営業が3人、設計士が2人、工事担当が3人、事務が数人といった構成で、コーディネーターは1〜2人ということが多いと思います。同じ数のお客様を担当するとなると、どうしても打ち合わせ回数に制限が出てしまいます。家づくりそのものを人生のなかでじっくり楽しみたいという方に、当社が選ばれている理由のひとつだと思っています。

入社してすぐに気づいたのですが、現場のスタッフには、間取りを描く力に長けたメンバーがいます。自分でどんどん間取りを描きたいという気持ちもありましたが、お客様の要望をじっくり持ち帰って提案を練り上げるような場面は、任せたほうがいいと思うようになりました。

経営者としての判断基準

「やらないこと」を決める

22年間営業をしてきたなかで、成果を出すために大切なのは「やらないことを決めること」だと感じています。営業をしていると、あれもやったほうがいい、これもやったほうがいいという場面はいくらでも出てきます。会社から求められることも含めて、やるべきことは際限なく増えていきますが、そのなかで何をやらないかを決めることが、結局は成果につながると思っています。経営者になった今も、この考え方を大事にしています。

ゴールが見えているなら早めに動く

会社のなかで何かを変えようとすると、「そんなに一気に変えて大丈夫ですか」「少しずつ変えたほうがいいのでは」と言われることがあります。そのたびに自分でも考えますが、ゴールが見えているのであれば、一度そこに向かって進めたほうがいいと考えるタイプです。事業規模を少しずつ広げていきたいという先ほどの話も、この考え方の延長線上にあります。

業界を取り巻く環境と今後の展望

縮小していく市場のなかで

住宅市場を取り巻く環境は、人口減少の影響を大きく受けています。群馬という地域柄、親元に戻ってくる方や、テレワークを機にのびのびした環境で子育てをしたいと移住してくる方もいますが、若い方の多くは埼玉や東京へ働きに出ているという実情もあります。市場が伸びていく業界というよりは、限られたパイを奪い合う業界だと言われていますし、インフレや国際情勢の影響を受けやすく、原価の高騰なども直接響いてくるため、事業環境としてはとても厳しいと感じています。

選ばれる会社を目指す

それでも、地域のお客様にきちんと選ばれていれば、こういった市況が大変な時期は、淘汰(とうた)される会社と残る会社が、ユーザーによってきちんと選別される時期だと捉えています。お客様に心から選ばれない会社は当然淘汰されていくはずなので、今の考え方をより磨いて、この市況のなかでも少しずつ事業規模を広げていきたいと思っています。 

エリア拡大はほどほどに

展開エリアについては、市場が厳しくなったことで地域の工務店が活躍できず、住宅をどこに頼めばよいかわからなくなっているエリアもあるので、そうした地域を取り込みながら少しずつ広げられたらという思いはあります。ただし、群馬・埼玉・東京・栃木・長野・山梨といった広い範囲まで拡大しようと考えているわけではありません。ほんの少しだけ、良い家づくりの技が広がればいいという程度です。あまり広げすぎると、自分がやりたかったことがまたできなくなってしまうので、そこのバランスは大事にしたいと思っています。

今の課題

知ってもらうことのむずかしさ

課題は明確で、取り組んでいる家づくりや、お客様からいただいている評価を、多くの方に知ってもらうことがむずかしいという点です。お客様の口コミを集めていても、それが本当に広まっているのか、手に取るように体感できません。事業をおこなっているだけでは、当社の扉を開けてくれた方にしかその良さがわからない状態なので、もう少し認知していただけたらと感じています。

採用にも本気で向き合う

採用についても、同じようなむずかしさを感じています。経験者を採るべきか、未経験でも人柄の良い方を育てるべきか、答えの出ない問いを繰り返しながら向き合っています。この人になら安心して働いてもらえるだろうか、幸せになってもらえるだろうか、と毎回悩みながら決断していますが、それだけに採用には本気で向き合いたいと思っています。

学生へのメッセージ

生き急がなくていい

今、活かせていることも当時とは全然違う環境でのことですし、20代の後輩たちを見ていても思うのですが、仕事人生はもう少しだけ長いスパンで考えてもいいのではないかと思っています。自分自身、こういう立場になったらどうなるだろうと4〜5年前から考えていましたが、そのときに今と同じ決断をして、今と同じようにスタートを切れたかというと、まだまだ未熟だったと思う部分もあります。今このタイミングだったからこそだと感じることも多いので、生き急がずにやってもらえたらと思います。

会社を選ぶときも、キャリアを考えるときも、そのときどきで納得できる小さな決断を重ねていくことが、結果として自分に合った場所にたどり着く近道になるのかもしれません。

編集後記

ハウスメーカーで22年培った経験を、あえて規模の小さな地域工務店に持ち込むという選択に、静かな覚悟を感じました。お客様との距離感を年代ごとに見直しながら磨いてきたという話は、効率だけでは測れない仕事の積み重ね方を教えてくれた気がします。就職先を「大きさ」で選びがちな私自身にとっても、大きな気づきになりました。