グループに加わった、あの日のこと
声をかけたのは私たちの方
もともと私は、コンサルティング会社に勤めていたんですよね。日本話し方センターに関わるようになったのは、10年ほど前のことです。当時のセンターの経営者が高齢になって、事業をコントロールしていくことが難しくなっていました。そこで、私たちのコンサルティンググループにジョインできないかという相談が、日本話し方センターの方からあったんです。この要請を受けて、私がグループ入りのメリット・デメリットを精査し、ジョインすればお互いのメリットが大きいと判断しました。その結果を役員会にかけて、加入を決定しました。そして、そのタイミングで、私が代表になったという経緯です。
決め手は「良い影響」
役員会にかけようと思った理由は、単純に事業として面白そうだったからではありません。話し方やコミュニケーションをトレーニングする会社が加わることで、私たちのグループ全体に良い影響を与えるのではないか。そう判断したことが大きかったですね。たとえば税理士の先生方も、専門知識には長けていても、それをわかりやすく説明するのは苦手な方が少なくありません。そこに日本話し方センターのノウハウが加わることで、グループ全体の伝える力が底上げされるのではないか。そんな期待があったんです。
人前で話すのが苦手な人のための教室
人前での話が苦手な人の教室
世の中には、人前で話すのが苦手な人がとても多いんですよね。過去に失敗した経験があったり、うまく話せないことがわかっているから、恥をかきたくないという思いがある。だから、リーダーにならないかと声をかけられても、「私はいいです」と消極的になってしまうという人も少なくありません。そういう人たちが3か月間、神保町のセミナールームに集まって、毎回2分間のスピーチをするんです。それを繰り返しながら、要領よく相手に伝わる話し方を身につけていただいています。ただ、組み立てさえよければいいというものでもありません。偉そうな話し方や早口、一本調子な話し方をすれば、どんなに内容が良くても伝わらないんですよね。聞き手の気持ちに寄り添い、相手の立場に立って話すというところまで含めて、指導のスコープに入れています。
受講生の中心は個人
企業のご担当者よりも、個人でいらっしゃる方のほうが多いですね。大学生から経営者まで、高校生や中学生がいらっしゃることもあります。大学生は、以前は就職活動の面接対策という理由がほとんどでしたが、最近は大学の授業での発表など、人前で話す機会自体が増えているようです。そのトレーニングのために受講される方が目立ってきています。
企業研修は年20回近く
企業様からのご依頼で研修という形になるケースも、年間で10件から20件近くあります。最近は特に社員間のコミュニケーションをスムーズにしたいというニーズが増えてきています。そうした研修にもお応えして、好評をいただいています。
集客という、いちばんの壁
価値が伝わりにくい
一番苦労してきたのは、集客です。人前で話すのが苦手で悩んでいる人は、世の中にたくさんいます。でも、その悩みをお金を払ってまで改善したいと思う人は、実はそう多くありません。一方で、話し方が変わったことで人生が変わったという方も、たくさんいらっしゃいます。このギャップをどう埋めるか、そこに知恵を絞ってきました。私たちが提供している価値をきちんと理解してもらうことに、いろいろな手を尽くしても、まだまだ難しさを感じています。
集客はホームページ中心
やはりホームページが中心になりますね。できるだけ端的に伝わるような見せ方を工夫しています。動画やSNSと相性が良いのではという声もいただきますが、受講生の方に出演していただくのは正直難しいんです。話し方教室に通っていることを人に知られたくない、という方が多いんです。そこも、この事業ならではの悩みだと思っています。
変わらないビジョン
73年変わらない思い
創業から73年間、基本的なカリキュラムは変えずにやってきています。この先のビジョンも、今まで通りのことをどれだけ広げていけるか、というところに尽きますね。創業者の江川ひろしには、話し方の改善を通して一人でも多くの人に幸せになってほしいという思いがありました。コミュニケーションが上手になり、話すことへの恐れがなくなると、その人の活動の幅や幸福感が本当に広がっていく。目の前で何人もの受講生を見てきて、そう実感しています。一生ものになるスキルを身につけていただくことで、生涯にわたる活躍の場を広げていただきたい。その思いは、これからも大事にしていきたいですね。
学生へのメッセージ
鍛えるべき結晶性知能
私たちは採用を行っていないので、一般的な会社が発信するような採用向けのメッセージにはなりません。少しずれるかもしれませんが、お伝えしたいのは「結晶性知能」と「流動性知能」という考え方です。流動性知能は、過去の経験や学習に頼らず、論理的に考えたりパターンを見つけたりする力で、20歳をピークに衰えていきます。一方の結晶性知能は、過去の経験や学習によって蓄積された知識やスキルを活かす力で、こちらは60歳がピークです。社会で活躍するには、結晶性知能をいかに高め、いかに活用するかがカギになります。そして、より良い話し方やコミュニケーションの取り方を身につけることで、この結晶性知能はいかんなく発揮できるようになります。今の学生の皆さんは流動性知能がピークにある時期ですが、社会で活躍するうえで重要になる結晶性知能は、これから積み上げていく伸びしろでもあります。若いうちから話し方やコミュニケーションの取り方を身につけておくことで、より納得できる人生を送れるのではないでしょうか。専門知識というアプリを活かすためのOSを磨く、というイメージです。
編集後記
インタビューを通して印象に残ったのは、「話し方は一生ものの資産になる」という考え方でした。結晶性知能という視点は、私自身、専門知識を増やすことばかりに気を取られていたので、目からうろこでした。声をかけられて代表になったという経緯も、事業を大きく見せようとせず、淡々と誠実に話してくださる姿が、まさに日本話し方センターらしさだと感じました。