ドワンゴ創業からバーチャルキャストへ
着メロから始まったキャリア
バーチャルキャストの親会社に当たる「株式会社ドワンゴ」という会社がありますが、その創業に携わったことが私のキャリアのスタートです。現在では、株式会社KADOKAWAの取締役をやっている当時の共同創業者と一緒に、1997年に設立しました。以降、ドワンゴ一筋で、2019年まで在籍しました。
独立してLOGIC&MAGICを設立
2019年にドワンゴが大きな赤字を出し、社長も交代するという出来事がありました。私は当時、投資フェーズの事業を担当していましたが、会社の状況悪化により、肝心の投資が一切できなくなってしまいました。そこで、当時の共同創業者に相談し、独立させてもらいました。そして、創業したのが「株式会社LOGIC&MAGIC」という会社になります。
その後、ドワンゴの共同創業者から「バーチャルキャストの社長をやってくれ」と打診がありました。「LOGIC&MAGICがあるから無理だよ」と一度は断ったのですが、「合併前提で頼む」と言われたこともあり、その前提で引き受けることにしました。そして、私はバーチャルキャストの代表取締役社長に就任し、昨年10月にLOGIC&MAGICとバーチャルキャストが合併して、今の弊社に至るという流れです。
2つの事業を支える業界最前線の強み
元々のバーチャルキャストが持っていた事業と、私がLOGIC&MAGICでやっていたバーチャルキャラクターのライブ制作事業の2つを併存させています。
N高等学校へのVR提供
弊社が提供しているサービスの代表格は、「N高等学校(KADOKAWA系の私立通信制高校)へのVR教育プラットフォーム」です。N高等学校は、今や生徒数が3万人を超えていて、日本一の規模を誇る通信制高校です。そこへ弊社はVR教育のプラットフォームを提供しています。それができるのも、「学校法人角川ドワンゴ学園とのKADOKAWAグループ内での繋がり」があるからこそであり、一番大きな強みだと思っています。
ちなみに、「VR教育」についての補足をしておくと、ヘッドマウントディスプレイをかぶって教室に入っていくことで、「実際の時間帯は違っているにしても、誰かと一緒に授業を受けているような感覚になれる」という仕組みを提供しています。わかりやすく説明すると、「ニコニコ動画でコメントが投稿されたタイミングが違っても、同時に流れているように見える」ことと同じで、「非同期ではあるけど、同期しているような感覚」を演出しています。
業界最前線のライブ制作
もう1つの強みは、「バーチャルキャラクターのライブ制作」です。バーチャルライブというジャンルが立ち上がり始めた時期から携わっているため、いわゆる「アリーナクラス」のような大規模ライブも、例えばカバー株式会社様の「ホロライブ」のライブなど、かなりの数をお手伝いしています。ライブの見せ方そのものがどんどん発展を続けていますが、その最前線にずっと食らいつき続けていることが強みだと思っています。
ヘッドマウントディスプレイ依存からの脱却
Meta社の動向という不安
今後のビジョンとして考えているのが、ヘッドマウントディスプレイへの依存から少し距離を置くことです。これまでは「ヘッドマウントディスプレイをかぶることを前提にVR事業を提供してきた」のですが、ヘッドマウントディスプレイはもう「Meta Quest」で寡占に近くなっている状況のため、もしも、「Meta社がヘッドマウントディスプレイを作らなくなってしまった」場合、「この事業は継続できなくなってしまう」という懸念があります。実際、ヘッドマウントディスプレイの市場は縮小が続いており、世界的な傾向を見ても、ヘッドマウントディスプレイよりもスマートグラスの方向に主流が変わっていこうとしています。そのため、内心では、「ヘッドマウントディスプレイに依存し続ける状況はあまり良くないだろう」と案じています。
AI教育という発想
そうは言っても、「VRを完全にやめる」わけではなく、「VRを残しつつAIの方向に進んでいかなければならない」だろうとも思っています。AIで授業をするといったありきたりな方向ではなく、バーチャルキャストならではの発想で教育と向き合いたいと思っています。現在はそちらへ向けて舵を切ろうとしている段階で、「まだ議論を始めたばかり」のため具体的な中身はこれからですが、年内にはプロトタイプを作って社内検証に進む予定です。
バーチャルライブ事業の新しい展開
IPとの新しい関係づくり
今一番多く手がけている案件は、「ホロライブなどのVTuber関係」ですが、今後は「アイドルマスター(バンダイナムコエンターテインメントのアイドルプロデュースゲーム)」のようなゲーム由来やアニメ由来のIPにも、「バーチャルキャラクターライブの需要があるのではないか」と考えています。いわゆる「歌声合成ソフトウェアのキャラクター」などがきっかけで、「VTuber」が誕生しましたが、ゲーム由来のIPや「うたの☆プリンスさまっ♪」のような「女性向けで男性アイドルが登場するゲーム/アニメ」由来のIPなどの中には、まだ「3Dバーチャルライブに踏み込めていない有名なIP」がたくさんあると思っています。
そうは言っても、「バーチャルライブそのものをやったことがない」企業様に、いきなり「ライブそのものは弊社が運営しますが、リスク対応は御社でお願いします」と持ちかけたところで、「OKしてはいただけない」でしょう。そのため、「弊社で興行を打ち、収入の一部をライセンサーにお返しする」という形態も考えています。言わば、「グッズのひとつとしてライブがある」という発想でしょうか。実際、この形態でのライブ制作事例も出てきているため、この形態のほうが「新しいパートナー企業様にとってのゲートウェイになる」だろうと思います。
声優のスケジュール問題という壁
実際にライブ運営をする中で気づいたことになりますが、声優さんに出演していただくイベントの際に「特定の日に全部の声優さんのスケジュールを揃えることが難しく、なかなか実施に踏み切れない」というケースが多々あります。全てのゲームやアニメ由来のIPが、「バーチャルライブをやりたい」わけではないことはわかっていますが、声優さん全員のスケジュールを物理的に揃えることが難しい中で、バーチャルライブはその解決策になり得ます。そのことを提示できれば、「この市場はさらに活性化していくのではないか」と考えています。そしてそこを次に狙っていきたいとも思っています。
好きなことを仕事にする
作曲家を目指した青春
振り返ってみると、私は昔から好きなことしかやってきませんでした。言うなれば、「興味のあることをやり続けていたら、それがいつの間にか仕事になっていた」という感覚です。私は音楽がものすごく好きで、作曲家を志望していました。しかし、私は手先が不器用でプロレベルで弾ける楽器がなく、その道は難しかったので諦めました。ところが、ドワンゴで最初にヒットしたのは着メロビジネスでした。
着メロは楽曲を耳コピして、当時主流だった「16和音」へ編曲し直す作業でした。良い音を鳴らすために「シンセサイザーの音源をカスタマイズする」など、「作曲家を目指していたときにやっていたことがそのまま活きた」ことが大きかったかもしれません。その流れに乗り、アニソン最大のイベント「Animelo Summer Live」の立ち上げにも繋がりました。そして今はCGを使ったライブをやっているので、音楽やエンタメから外れたことはほとんどないと言えます。
正直に打ち明けますと、学生時代は就職活動をしていなくて、担当教授に「何歳まで好きなことを目指していいですかね」と聞いたら、「28歳まではいいんじゃない」と言われました。そこで、「それならいいか」と思い、「アルバイトをしながら作曲家を目指し、その延長で起業した」次第です。そのため、「好きなことをやっていれば、なんとかなるものだ」と思っています。
月400時間働いた日々
一方で、「一瞬でも突き抜けるためには、異常なほど時間をかけないと無理だ」とも思っています。実は、着メロでブレイクした頃は、月400時間くらい働いていました。言わば、「起きている間はずっと」という感覚です。大変な話ではありましたが、それができたのは、「好きだったから」の一言に尽きるでしょう。おそらく、人間は「好きじゃないことにはそこまで情熱を注げない」と思います。もちろん、「好きじゃないことにも情熱を捧げられる人」に対しては、「それはそれですごい」とも思いますが、多くの人は、「本当に好きなことでなければ頑張れない」でしょう。だからこそ、「自分の好きなことを見つけてほしい」と思います。
編集後記
今回のインタビューを通じて、太田さんの着メロの編曲からアニソンフェスの立ち上げ、そしてVR・バーチャルライブ事業という一見バラバラに見える経歴の軸が、「音楽・エンタメへの情熱」で繋がっている点に説得力を感じました。「ヘッドマウントディスプレイへの依存から脱却し、AI教育で勝負する」という次の一手を模索されている姿勢からも、常に最前線であり続けようとする挑戦心が伝わってきました。就職活動よりも好きなことを追求する道を選んだという太田さんの原体験は、これからキャリアを選んでいく学生にとっても、大きなヒントになるだろうと思いました。貴重なお話をありがとうございます。