インタビュー

フェムケアを「トレンド」から「文化」へ。長年ウィメンズヘルスを取材してきた専門家が伝えたいこと

フェムケアを「トレンド」から「文化」へ。長年ウィメンズヘルスを取材してきた専門家が伝えたいこと
PROFILE
株式会社 k company 代表取締役
木川誠子

編集ライターから、フェムケア専門の会社へ

経験を生かして法人化

もともとフリーランスの編集・ライターとして、長く活動してきました。その中で蓄積してきた知見や経験を生かしたいと考え、タイミングを見て法人化したのが株式会社 k companyです。何か大きなきっかけがあったというよりは、フリーランス時代からの延長線上にある感覚に近いかもしれません。法人化するにあたって、取り扱う領域をフェムケアとウィメンズヘルスに絞りました。現在はフェムケアをメインに扱うコンテンツ会社として活動しています。

制作と専門家の2つの軸

弊社の事業は、大きく分けて2つあります。ひとつはコンテンツ制作で、SNS周りやカタログなど、いわゆるコンテンツと呼ばれるものを制作しています。そのコンテンツも、フェムケアとウィメンズヘルスに特化したものです。もうひとつが、フェムケアの専門家としての活動です。テレビなどでコメンテーターをする美容家のような存在をイメージしていただくと、わかりやすいかもしれません。その専門家という立ち位置で、メディアに出たり、セミナーに登壇したりしています。

フェムケアのない場所へ届ける

イベントについては、フェムケアのイベントを自分で開くというより、ほかのイベントの中でフェムケアコーナーをプロデュースする形で参画しています。フェムケアというテーマがない場所にフェムケアを持っていくことが、重要だと思っているんです。自社主催で開いているのは、1人から最大10人くらいのワークショップ。顔が見える距離感を大切にしています。参加者は自分のSNSやチケット販売サービスのPeatix(ピーティックス)で募集していて、自分でアクションを起こして申し込んでくれる、本当に興味がある方に来ていただきたいと考えています。

苦労は「当たり前」のもの

仕事の9割は大変なこと

正直なところ、自分で苦労したと思ったことはあまりないんです。周りから見たら苦労だと思われることはあるかもしれません。どんな仕事も、9割は大変なことや嫌なことだと思っていて。気持ち的に嫌だとか、物理的に大変だとか、そういうことが大半で、残りの1割で楽しさを感じている。その比率は人それぞれだと思いますが、結局はどこにフォーカスするかの話だと思っています。苦労は当たり前のことなので、そこにフォーカスはしていません。楽しんで働いているから、あまり記憶に残っていないんです。

期ごとに課題は変わる

弊社は、コンテンツ制作やイベントプロデュースの際に、外部のクリエイターさんと協業パートナーとして力を合わせるスタイルです。身内に裏切られるといった経験は、基本的にありません。経営で苦労しやすいのは、人材とお金のことだと思います。ただ、期を重ねるごとに向き合う課題はそれぞれ違ってくるもの。その時々の課題を解決できる、あるいはきちんと向き合えているのであれば、問題ないと考えています。

説明から始まる新しい領域

あえて苦労を挙げるなら、フェムケアというカテゴリーの新しさかもしれません。日本では「フェムケア元年」と呼ばれる年があるくらい、産業名としては最近生まれたものです。ただ、生理や更年期といった女性の健康課題は、フェムテックやフェムケアという言葉が浸透する前から存在していました。私自身も、長年ウィメンズヘルスの領域で取材を重ねてきています。まだ認知が新しいぶん、弊社の事業を説明する前に「フェムケアとは何か」から説明しなければならない場面がある。それは今私が携わっている領域ならではの特性です。

フェムケアを文化にするために

女性ホルモンを意識した健康習慣

フェムケアは、女性の健康課題を解決するアイテムやサービスを指す産業名として存在しています。私はそれを「女性ホルモンを意識した健康習慣」としてお伝えしているんです。女性は、女性ホルモンのバイオリズムとともに生きています。それを知識として得ていくことや、必要な情報を得ていくことは、ヘルスリテラシーだと思うんです。トレンドとしてデリケートゾーンをケアするとか、不調があるから取り入れるとかではなく、どの年代になっても健やかに過ごすために、常にその視点が必要だと考えています。

健康にお金を払わない日本人

でも日本では、美容にはお金を払うのに、健康にはお金を払わない傾向があります。見た目のことにはお金を払うけれど、目に見えないものには払いにくいですよね。美容は手をかけたぶん変化が目に見えますし、誰かに褒められることもあるかもしれません。一方で、自分が健康になったことは自覚しにくく、他者から評価されることも少ない。投資したぶんをどう回収できているかがわかりにくいので、健康にお金をかけるという概念が、日本人はとても乏しいと感じています。

医療が身近な国の落とし穴

もう少し広い視点で見ると、日本は医療保険制度が優れている国。生まれたらもれなく公的な保険制度に加入するので、医療機関へのアクセスが近いです。医療が身近にあるからこそ、ヘルスリテラシーを養わなくても何とかなってしまう。ただ、今は医療費が逼迫(ひっぱく)し、病院経営も難しくなってきていて、この状況はしばらく続くと思っています。たとえば湿布をもらうために病院へ行くより、ドラッグストアで買うという選択もできますよね。自分に必要な医療やヘルスケアは何かを知るために、知識と情報をキャッチアップすることが大切です。

フェムケアをトレンドから文化へ

そのためにフェムケアという視点で取り組んでいて、これから先も同じ思いで続けていきます。フェムケアをトレンドのように捉えている方も多いと思いますが、私はそれを文化にするために動いている。これが弊社のビジョンです。医療保険制度や日本人の健康への向き合い方などは、変化させていかなければならない課題だと感じています。とはいえ、人のことは変えられません。本人が自覚して変わろうとしなければ変わらないからこそ、「なぜそれが必要なのか」と聞かれたときに、きちんと答えを出せるようにしておく。それが会社としてのひとつの姿勢です。

学生へのメッセージ

やりたいことがなくても大丈夫

今は「好きなことを仕事にしよう」「やりたいことを仕事にしよう」という視点があると思います。でも、20代そこそこで好きなことややりたいことがなくても、私は問題ないと思っているんです。何を仕事にしたいか、どんなことに興味があるかが、まだ定まっていない人もたくさんいるはず。私は、それを探すよりも多種多様な経験をしてほしいと考えています。その中で自分の心が動くものを、仕事にするもよし、趣味にするもよし。大企業だから安心、初任給や福利厚生がよいところに行きたいなど、条件で決めるという選択肢ももちろんあると思います。

年齢の差は経験の差

年齢の差って何の差だろうと考えたとき、私は経験を積み重ねてきた差だと思っています。同じ年でも考えが合わない人はいますし、それは年齢に関係なくあることです。そのうえで、年上の人の唯一魅力的なところは、学生さんよりも経験を積んでいるという前提があること。だからこそ、自分が興味あるかどうかに関係なく、いろいろな人の話を聞いてほしいです。アルバイトやインターンなど、さまざまなジャンルや人と関わる経験が重要だと思っています。「絶対にこれ」と決まっているならそれでよいですが、まだ定まらないなら、経験を積むことにベットしたほうがよいと思います。

五感を使って体験してほしい

海外旅行に行けるのであれば、実際に行ってリアルに見て、五感を使って感じてきてほしいです。SNSでリサーチすることも、人の話を聞くことも、もちろん大切。でも、SNS上だけ、人の話だけで終わらせてしまうのはもったいないと思うんです。自分で体験すること、経験を積むことは、自分にしかできません。だからこそ、それはちゃんとやったほうがよいと思います。

編集後記

「苦労だと思ったことはあまりない」という最初の言葉に、正直驚きました。仕事の9割は大変なことで、どこにフォーカスするか次第という考え方は、学生起業に挑戦している私にとって大きなヒントになりました。また、日本人は美容にはお金を払うのに健康には払わないというお話も印象的です。医療が身近だからこそヘルスリテラシーが育ちにくいという視点は、これまで考えたこともありませんでした。やりたいことが見つからなくても焦らず、まずは多様な経験にベットしてみようと思います。木川さん、貴重なお話をありがとうございました。