創業の経緯
キャリア志向だった20代
私自身、20代30代はキャリア志向が強くて、子どもが生まれても育児と仕事を両立しながらバリバリ働きたいと思っていました。子どもが生まれると仕事をセーブする女性が多いなかで、子どもが大きくなるまでに経済的にも時間的にもゆとりを持てるようにと思いながら、前職の上場会社の投資会社で働いていました。
リーマンショックで人生が変わった
その会社がリーマンショックで9割の人間を解雇することになったとき、これまでキャリアと育児を両立できるのかがわからないまま、失業保険をもらうための職業訓練校に通うことになりました。そこで、子育てのサポートがないためにこれまで追い求めてきたキャリアをあきらめてしまう女性がたくさんいることを知ったんです。失業保険をもらいに来る方は能力が不十分だから失業したのかなと思っていたのですが、まったくそんなことはなく、単純に子どもが2人目が生まれて送り迎えができなくなったり、介護で日中抜けることが増えてリモートワークもない当時は仕事を続けられなくなったりしていました。
SNSでの発信から生まれたひらめき
職業訓練校に通いながら、頼り合える社会になればという思いをSNSで発信したら、ものすごく反響があったんです。仕事を辞めることになったとか、助けてくれる人さえいれば辞めずに済んだとか、逆に保育士資格を持っていて誰かを助けたいとか、本当にいろいろな声が届きました。これだけ大きなニーズが世の中にあるのなら、仕組みをつくればたくさんの人が乗ってきてくれて、一緒に社会インフラを広げられるんじゃないかと思ったのが創業のきっかけです。
事業内容と強み
「共助」が事業の軸
いまはマッチングアプリのようなサービスが主流ですが、自分の命よりも大切な子どもを、今日初めて会った人に何時間も預けるとはさすがに言えないですよね。昔、夜中に夜泣きする子どもを抱えながらつらいとSNSに書き込むと、頑張ってねという反響は来るのですが、そうじゃなくて、たった30分でいいから見ていてくれる人がほしいという経験は、わたしだけでなくどの親にもあると思うんです。まさに社会から滑り落ちてしまう瞬間に、手の届く物理的なサポートが得られないと、両親のどちらかが我慢するしかなくなってしまいます。
人・仕組み・アプリの3本柱
こういう事業は広めていかないと、わたし1人が思いを語っていても意味がないので、基本的には同じ思いを持ってくれる人を育て、その人たちが身近な人同士の出会いの場をつくれるようにコミュニケーションを図っています。ただ、リアルな交流イベントだけだと、事故やトラブルが起きたときに誰も責任を持たない状態になってしまい、それは無責任だと感じました。そこで自社で共助のアプリを開発し、保険やトラブル対応をきちんと担保しながら、共助の仕組みを日本全国に広げる「人」「仕組み」「アプリ」の3本柱で事業を展開しています。
自治体・企業と連携する収益モデル
いまは自治体と連携した地方創生の取り組みで自治体から収益をいただいたり、商業施設と連携して地域共生の場をつくったりしています。企業と連携すればフルチャイルドシートの貸し出しなどを通じて従業員同士の関係性がよくなり、それが会社のチームビルディングにもつながります。企業のなかでの従業員間の共助の仕組みを実装したり、マンション住人同士のコミュニティをつくったりしながら、企業や自治体に価値提供と課題解決をおこない、そのなかにいる人の暮らしや子育ての課題解決まで取り組むことが、収益モデルであり事業モデルになっています。
社員自体は少数精鋭で15人ほどですが、その下に研修を受けていただいたコミュニティリーダーが全国に2,500人ほどいて、その人たちが中心になって地域ごとのコミュニティオーガナイジングをおこなっています。わたしが横浜に住みながら茨城や広島、岡山のプロジェクトすべてに駆けつけるのは難しいので、地域のことは地元の人たちで賄うことで、持続可能なまちづくりを実現しています。イベントを単発でおこなうことをコミュニティだと勘違いされる方も多いのですが、継続してこそ意味があるんです。大きな災害が起きたときだけでなく、日常のなかで頼り合っていれば、いざというときにも頼り合える。社員はあくまで、地元の人たちに火をつけに行く役割だと思っています。
今後のビジョン
企業のなかの共助を広げたい
企業のなかでの共助の実務をどんどん広めていきたいと思っています。人がいないという経営者の方は多いのですが、実際は人はいるんです。ただ、育児や介護に困ると、地方ではまだまだ女性がそれを担わなければいけなくなってしまいます。地方は人が減っていくとスーパーがなくなったり、電車やバスが減便になったりしてしまうので、企業の人事や経営者が従業員一人ひとりの子育てや介護をきちんとサポートすることが必要です。こども家庭庁もこどもまんなか施策を後押ししていますが、企業のなかでもその支援の担い手になれるよう、より一層力を入れていきたいと思っています。
学生へのメッセージ
いまは失敗力を鍛える時期
学生さんは選択肢がたくさんあるからこそ、不安もドキドキもチャレンジもたくさんあると思います。ただ、何を選んでも、何がうまくいかなくても、まだ人生の成功や失敗が決まる時期ではありません。いまはチャレンジ力や失敗力を鍛える時期だと思うので、迷ったらやってみて失敗するという経験値をどんどん積んでいってほしいです。結婚や出産をすると引っ越しひとつでも怖くなりますし、海外に出ることも起業することも怖くなってしまいます。学歴や成績がよくても悪くても、就活で10社に受かっても100社落ちても、何者にでもなれる時期なので、ネガティブな情報ばかりに目を向けるのではなく、ポジティブなほうを見ようと思えば見られる力を養いながら、「よし、ナイス失敗」「ナイスチャレンジ」と言えるような10代20代を過ごしてもらいたいです。失敗力が身についていないと、30代でチャレンジすることは難しくなってしまいます。
20代の失敗は40代の武勇伝
わたし自身、失敗するぞと思ってやったわけではなく、やりたいことは何が何でもやりたい性格だったので、海外に行って1週間でパスポート以外のすべてを盗まれたり、現地でお金を稼いでみたりと、本当にいろいろな失敗をしてきました。20代のときにもう最悪だと思うような失敗ほど、40代50代になったらいいネタになるものです。ぜひ、たくさん挑戦してみてください。
編集後記
今回、株式会社AsMamaの甲田恵子さんに取材させていただきました。リーマンショックによる解雇という、自分では選べない出来事から社会課題に目を向け、事業として形にしていった甲田さんの行動力に強く胸を打たれました。とくに「失敗力を鍛える時期」という言葉は、就職活動を控えるわたしたち学生にとって、挑戦への背中を押してくれる言葉だと感じました。ぜひあわせて、AsMamaの取り組みもチェックしてみてください。