インタビュー

“建てられない場所”にホテルをつくる。宮古島の星空から始まった、BLANC 山中拓也の挑戦

“建てられない場所”にホテルをつくる。宮古島の星空から始まった、BLANC 山中拓也の挑戦
PROFILE
株式会社BLANC 代表取締役 CEO
山中 拓也

株式会社BLANC 代表取締役。立教大学観光学部在学中にシェアハウス事業で起業を経験。2012年にスタートアップ支援企業へ新卒入社し、HR事業の立ち上げに携わる。2016年に独立し、ホテル・民泊・レンタルスペースを運営する株式会社TRIPMOLEを創業(のちに事業譲渡)。2018年5月に株式会社RuGu(現・株式会社BLANC)を設立。

海や森、山。日本の美しい自然の多くは、法規制によってホテルを建てることができない場所にあります。株式会社BLANCは、車輪のついた「トレーラーハウス」を客室にすることで、そうした場所に自然共生型のホテルを生み出してきました。創業のきっかけは、宮古島の手つかずの土地で過ごした一夜のキャンプ。代表取締役の山中拓也さんに、事業の原点から今後の野望、そして学生起業へのメッセージまで伺いました。

原点は、宮古島の手つかずの土地で見た「人生で一番の星空」

――BLANCを創業したきっかけを教えてください。

前に経営していた会社で民泊事業を手がけていて、宮古島にも施設をオープンしたんです。それをきっかけに島とのつながりができ、地元の地主さんから「この土地で何かできませんか」とご紹介いただいたのが、のちに最初のホテルとなる土地でした。

当時の宮古島は開発ラッシュで、島じゅうが工事中のような状態でした。美しい海や自然と、あちこちで進む工事。その対比がとても印象的でしたね。そんななかで紹介された土地は、むき出しの大自然がそのまま残る場所でした。

まずは自分の目で確かめようと、「1泊2日でキャンプをさせてください」とお願いして、真夏の暑さのなか実際に泊まってみたんです。そこで見た星空は、人生で一番きれいでした。

一方で、夜になっても蒸し暑く、途中でスコールが降ってテントが浸水するなど、大変な思いもしました。自然は本当に魅力的だけれど、人間にとっては不便なことも多い。実は私自身、アウトドア派というわけではないんです。自然は好きですが、蚊に刺されない快適な室内から眺めたいタイプ(笑)。

だからこそ、むき出しの大自然のなかに、自然をできるだけ壊さず、それでいてエアコンの効いた快適な空間をつくりたい。そう思ったのが、BLANCの原体験です。

世界中の「泊まれる箱」を見比べて、たどり着いたトレーラーハウス

――なぜトレーラーハウスを選んだのでしょうか。

自然を壊さずに泊まれる客室の選択肢は、ほかにもたくさんあります。テントもそうですし、モンゴルではゲルに泊まりました。当時の日本にはトレーラーハウスがあまりなかったので、アメリカまでトレーラーハウス村のような場所に泊まりに行ったこともあります。ログハウスもいろいろな種類を見て回りましたし、通常の建築も検討しました。人が泊まれるものは、思いつく限りすべて見に行ったと思います。

そのうえで、一番おもしろいと感じたのがトレーラーハウスでした。トレーラーハウスは、車輪のついた建物のようなもので、そのまま牽引して移動できます。一定の要件を満たせば建築物には当たらないため、建築確認が不要でありながら、一般の建築と同等のクオリティの客室をつくることができる。過酷な宮古島の環境でも、快適に過ごせるはずだと考えました。

もうひとつの決め手は、当時日本にあったトレーラーハウスが、正直ちょっとダサかったことです(笑)。デザインや快適性をそこまで突き詰めている会社がなかった。だからこそ、挑戦しがいがあると感じました。

こうして、宮古島にトレーラーハウス型のホテルをつくるために立ち上げたのが、現在のBLANCです。

強み① ホテルを建てられなかった場所に、自然を壊さずホテルをつくる

――宮古島の後、全国へ展開されています。BLANCの強みはどこにありますか。

そもそも、宮古島にホテルをひとつつくって終わりにするつもりはありませんでした。日本には美しい自然がたくさんありますが、美しい場所ほど法律で建築が制限されています。国立公園などの自然公園に指定されているエリアだけでも、国土のおよそ15%にのぼります。

日本はインバウンドを増やして外貨を獲得しようとしていて、観光は国の重要な施策のひとつです。それなのに、最大の観光資源である自然を生かしきれていない。ここに大きなジレンマがあると感じています。

私自身、限界まで自然に迫ったホテルをつくりたいという思いがあります。これまでホテルを建てられなかった場所にホテルをつくれること、しかも自然をできるだけ壊さずに実現できること。これがBLANCの一番の強みです。

強み② 用地取得から約1年で開業できる、圧倒的なスピード

もうひとつの強みはスピードです。一般的なホテルは、用地取得から開業まで平均3年ほどかかると言われています。BLANCはそれを約1年で実現できるので、およそ3倍のスピードで展開できます。

通常のホテル開発では、整地、基礎工事、インフラ整備と進み、それが終わってからようやく建築工事が始まります。順番を守らなければならないので、どうしても時間がかかる。一方、BLANCでは現地で地面の工事を進めているあいだに、別の場所で客室となるトレーラーハウスを製作し、完成したら運び込みます。工程を同時に進められることが、スピードの秘密です。

「キャンプの延長」ではなく「自然のなかに滞在するホテル」

――宿泊するお客さまからは、どのように見えているのでしょうか。

お客さまにとっては、いわゆるグランピングヴィラに近い体験だと思います。実は「トレーラーハウスです」ということは、あまり前面に出していないんです。

コンセプトは、キャンプの延長ではなく「自然のなかに滞在するホテル」。たとえば山梨県の八ヶ岳では、バーベキューをお客さま自身にしていただくのではなく、シェフが常駐して料理をお出しするフルサービス型のホテルを運営しています。11月には日光(栃木県)に「BLANC NIKKO」が開業し、4拠点目となります。

おかげさまで、直近では稼働率が8割を超える施設も出てきました。Googleレビューでも、100件を超える口コミのなかで4.8の評価を維持できています。客室単価も、トレーラーハウス型のホテルとしては国内トップクラスだと思います。その価格帯でもご満足いただき、しっかり集客できている。「自然のなかで快適に過ごしたい」という最初の仮説は、間違っていなかったと感じています。

目指すのは全国30拠点、そしていつか「とんでもない場所」に

――今後の目標を教えてください。

年間2〜3拠点ずつ開業していく計画です。2023年に約15億円の資金調達を行い、先行して施設をつくれる体制が整いました。そのうえで、トレーラーハウスを1台ずつオーナーさまに購入していただき、その資金を次の開発に充てる。このモデルを回しながら、ここからは展開あるのみというフェーズです。

全国に30カ所ほどBLANCがあれば、自然のある場所へ旅行するときに、当たり前に選択肢に入る存在になれると思っています。拠点を増やして認知を広げ、BLANCが世の中に当たり前にある状態をつくりたいですね。

もうひとつは個人的な夢ですが、いつか「とんでもない場所」にホテルをつくりたいと、ずっと思っています。これまでの施設も大通りには面しておらず、細い道を入っていくので「行き方がわかりづらい」とよく言われます。でも、それはわざとなんです(笑)。少し怖くなってきたころにようやくたどり着いて、「本当にこんなところにあるんだ」と驚いてもらえる。それが私の理想のBLANCです。

資金調達をしている以上、事業拡大は必須です。一方でブランドの象徴として、そういう“とんでもない”ホテルを、どこかでひとつ実現したいと考えています。

客ゼロの4カ月、台風、スタッフの退職――それでも社長は「前を向き続けなければならない」

――これまでで大変だったことは何ですか。

自然のなかでホテルをつくり、運営するのは本当に過酷です。毎日現場に出てオペレーションを担うメンバーがいます。デベロッパーが避けて通るような自然環境での開発には、多くのハードルが存在します。

なかでも大きかったのはコロナ禍です。2019年に宮古島で開業したのですが、2020年2月ごろからお客さまがゼロの状態が4カ月ほど続きました。

開発の途中で、既存の水道管が使えないことがわかり、1.5kmにわたって水道管を新たに引かなければならなくなったこともあります。台風で16棟のうち2棟が傾き、窓ガラスがすべて割れたこともありました。スタッフが1年以内に全員辞めてしまったこともあります。直近でも、いろいろな問題が起きています。

――そうした困難を、どう乗り越えてきたのでしょうか。

かなり精神論ですが、大事なのは「ご機嫌でいる」ことだと思っています。経営はハードシングスの連続で、良い状態がずっと続くことはありません。それでもニコニコと前向きでいること。社長さえ笑っていれば、気づいたらなんとかなっているものです。

学生起業は「コスパがいい」挑戦

――最後に、起業に関心のある学生へメッセージをお願いします。

学生起業は、個人的にはおすすめです。起業に興味があるなら、絶対にやったほうがいい。やったことがないと、起業はものすごくハードルが高く見えると思います。でも一度自分でやってみると、意外と大したことはないとわかる。うまくいかなかったとしても、そこから得られる学びはとても大きいです。

就職活動でも話のネタになります。企業の人事担当者のほとんどは、学生起業をしたことも、学生起業家と話したこともありません。だから「学生時代に起業していました」と言うだけで、「すごいかも」と思ってもらいやすいんです。

それに、起業は誰かに選ばれる必要がありません。自分で手を挙げて、数万円の登記費用を払えば誰でもできる。かなりコスパのいい挑戦だと思います。

そもそも学生は、失敗したら取り返しがつかないようなリスクは取れません。100億円の借金を背負うことはできないですから。身の丈に合ったリスクしか取れないのだから、やってみればいい。

編集後記

宮古島の星空から始まったお話は、とても印象的でした。「自然を壊さず、それでいて快適に過ごしたい」というシンプルな思いが、トレーラーハウスという発想につながり、建築規制という日本の観光の課題を乗り越える事業へと育っている。その過程に大きな刺激を受けました。

事業を拡大しながらも、「とんでもない場所につくりたい」という個人的な夢を大切にし続ける姿勢や、どんな困難のなかでも「ご機嫌でいる」という言葉も心に残りました。学生起業へのメッセージからは、一歩を踏み出す勇気をもらえました。山中さん、貴重なお話をありがとうございました。