インタビュー

一生会社員だと思っていた私が、美容医療の伝え手になるまで

一生会社員だと思っていた私が、美容医療の伝え手になるまで
PROFILE
Evergreen & Co. 合同会社 代表社員
山崎 葉子

学生時代、ものづくりの現場に惹かれて

外国語学部で語学漬け

大学では外国語学部で、英語と中国語の2ヶ国語を主専攻にしていました。副専攻は日本語教師養成課程です。振り返ると、コミュニケーションそのものに当時から強い関心があったのだと思います。あくまで「言語」は手段に過ぎないので、心を通わせるための弊害が言語であってはもったいないと。 

アパレルはやり切った

幼少期の夢は「お洋服屋さん」。高校生の頃から地元、原宿、渋谷でアパレルのアルバイトをしていて、大学で就職活動をする頃にはもうやり切った感さえありました。新卒の段階でファッション業界を選択肢に入れることはありませんでした。

制作の現場に惹かれて

大学在学中に「制作」という仕事に興味が湧いてきて、雑誌の撮影アシスタントをさせていただいたり、稀に逆に撮影していただいたりしました。スチールやCMなど、広告の現場も何度か経験しています。表に出たかったというわけではなくて、ものづくりの現場に参加出来るのであれば立ち位置は何でも良かった、という感覚でした。テレビ以外のあらゆる媒体に興味があって、4年生くらいからは映画と出版を扱う企業でアルバイトをしていました。

音楽業界から編集職、そして美容医療の世界へ

新卒で音楽プロモーターに

私のキャリアは、2007年に新卒で入った音楽業界のプロモーターから始まっています。営業宣伝部というところで、ラジオや雑誌にJ-POPのアーティストや楽曲を紹介する仕事をしていました。当時は将来起業するなんて夢にも思っていなくて、一生会社員だと思っていました。

編集職で培った目線

20代後半でアメリカの女性向けメディアの日本版の編集職に就くことに。読者目線を意識しながら、情報を届ける経験を積んだのがこの頃です。広告主はメゾンブランドから省庁まで幅広く、クリエイターの皆さんのお力を借りて撮影を行ったり、私自身がカメラを片手に著名人の取材に行ったり、発表会やラグジュアリーなパーティーなどにも参加したりと、刺激的で面白い環境でした。

スキンケア好きが昂じて、行き着く先は医療だった 

この編集者時代は美容の案件を担当させていただくことが多かったのですが、私は特にスキンケアに関心がありました。そして、スキンケアの行き着くところは皮膚科学、すなわち医療だろうと当時から思っていました。様々なブランドとご一緒する中で、私も自社のブランドやプロダクトに中長期的に携わり続けたいという気持ちが芽生えていたところで、韓国の美容医療機器メーカーの日本法人と縁があり、マーケティングコミュニケーション担当として転職することになりました 当時はまだ日本法人ができて1年も経っておらず、まさにスタートアップと言えるような規模感でした。 

韓国発、美容医療機器メーカーでの挑戦

会社が成長する中での確かな手応えと転機 

在籍中に美容医療の市場がどんどん大きくなり、会社も5年先を見据えた経営計画をいい意味で予想外に上回るペースで急成長しました。入社時に20人程度だった社員数は100人程度に。私は入社から一貫して、学会やイベント、制作周りのディレクションなどを通じて、「ブランドの魅力を適切にアウトプットする」職務に粛々と従事していました。市場の拡大や会社の成長の過程に携わることができたことは、とても貴重な体験だったと思います。 

そんな、業績も絶好調だったタイミングで、代表と取締役の退任が発表されました。彼らの退任は、会社が創業期から次のフェーズに移るのだという実感と、私自身のこれからのキャリアを見つめ直すきっかけになりました。

プレイヤーでいたいという思い

マネジメントより現場主義

自分自身の次のフェーズを見据えるにあたって求人情報を見るようになった時、年齢もあってか、マネジメント職の募集やスカウトが多くありました。しかしながら、私は人のマネジメントをするよりも、もう一度ブランドを育てる仕事に携わりたい、プレイヤーでいたいという思いに気づきました。

転職先での葛藤と、独立の決断

そこから意外にもすぐに転職先が決まったのですが、残念ながらその会社の社風や環境がどうしても私に合いませんでした。しかし、心が消耗していたこともあり、「新たに転職したところで、また同じことが起きたら」と思うと正直しんどくて…実は、そんなネガティブな理由で独立することを決めたのです。

独立、そして新たな可能性への一歩

「共栄共存しましょう」という言葉

当時は未知の領域へ踏み出すことへの不安もあり、まずは多角的に情報収集をしようと、信頼できる方々に広くお話を伺いました。その中で、美容医療業界の元同僚で、一足先に起業されていた女性の方に「まずは一人で始めるのなら、贅沢をせずに生きていくくらいはきっと何とかなるよ」と言っていただき、スッと腑に落ちたところがありました。その時にいただいた「共栄共存しましょう」という言葉も、とても心強く感じました。その方との面会が、最終的に一歩を踏み出す大きな後押しになったように思います。

2024年4月に法人化

そうして2023年3月に退社し、2024年4月に会社の登記が完了しました。個人事業主でも良かったのかもしれませんが、法人化したのは、法人のほうが取引上の可能性を狭めないだろうという便宜上の考えがあったためです。社名に冠した「Evergreen」には、“いつまでも鮮やか”という意味があります。時が経って振り返っても色褪せることのない、本質的で品格のある仕事を探求したいという思いが込められています。目先の利益にとらわれず、浅はかなことはしないという戒めの言葉でもあります。

3つの視点をあわせ持つ

これまでの全ての点が繋がり、独自の提案力へ

現在は主に、美容医療業界の医療機器や医療機関専売の化粧品を扱うメーカー・代理店のマーケティングコミュニケーション業務をサポートしています。ブランディングを軸に、「届けたい人に、正しい情報を、然るべき方法で届ける」ことを伴走しています。

弊社の強みは、私自身がBtoB、BtoC、そして両者をつなぐBtoBtoCすべての視点をあわせ持っていることです。医療業界の基本の商流は「メーカー・代理店(B)→医療機関(B)」というBtoBなので、一般コンシューマー(C)に向けた化粧品や美容施策のノウハウがどうしても不足してしまうことがあります。

そこで活きてくるのが、音楽プロモーター、編集者、そして医療機器メーカーで積み重ねてきた多様なキャリアの経験です。長年、専門的な情報をわかりやすく噛み砕いて届けてきた知見があるからこそ、コンシューマーへの架け橋となる施策や表現を提案できます。

あわせて美容医療業界内の最新動向や法令を把握していることへの信頼が後押しとなりました。薬機法や医療広告ガイドラインなどの各種法令を遵守することはもちろん、現場のリアルな運用状況や美容業界のトレンド、感度の高い生活者の意識を常にキャッチアップしながら、時代に即したコミュニケーションを心掛けています。

独立して大変だったこと

値付けへの抵抗

何せ取引先がほぼゼロという状態からのスタートだったので、当然ですが営業する必要がありました。そのために、営業経験がほとんどないのに、急に自身の提供価値やスキルに値段をつけて提案するということに、かなり抵抗がありました。当時は適正価格もわからず、でもやるしかなくて、不安が多かったですね。

プロに任せる大切さ

会社員時代は保険や税金の手続きなどを会社がやってくれていたので、設立の際は知らないことだらけでした。何度も手間取り、法務局や年金事務所に足を運んでは直接教えていただきました。バックオフィスや経理・税務まわりの実務は専門外だったので、すぐに税理士事務所と契約しました。やはり餅は餅屋です。無理に一人で抱え込まず、プロにアウトソーシングしてこそ、本業に集中して効率的に事業を進められるのだと実感しました。

これから目指したいこと

医療機関専売品の認知拡大

最近では「医療機関専売化粧品やサプリメントのPR」のご相談が増えています。弊社としても、強みが最も発揮できる領域として注力・強化を図っているところであり、より多くの方に「医療機関専売の化粧品と言えば」で弊社を第一想起していただくことを目標にしています。

今もPRとして複数のブランドに携わらせていただいていますが、医療機関専売品はその名の通り、購入できる場所が店頭ではなく医療機関ということで、タッチポイントや接触回数が一般の化粧品と比較して圧倒的に少ないのです。それでも、コンセプトや処方など、素晴らしい製品は多く存在します。これらを様々な角度からの露出によって多くの方にきちんと知っていただき、きれいになりたいというお気持ちに対して、少しでも一助になれたら本望だと思っています。

息抜きはモロッコ

医療機器メーカーを退職する前の有休消化中に初めてモロッコに行ってから、すっかり虜に。この3年間で4回渡航しています。モロッコはアフリカ大陸ですが、アフリカの大胆さ、ヨーロッパの洗練されたエッセンス、アラブの明るく穏やかな気風が融合しているので、皆さんが思うアフリカのイメージとは少し違うかもしれません。私はイスラム教の建築が好きなのですが、街を歩いているだけで細かい彫刻やタイルの芸術に出会えるので、私にとっては訪れるだけで感性が研ぎ澄まされる場所、そこで空気を吸うだけで 幸せな場所です。モロッコは美容に関する資源も豊富にありますし、いつかモロッコに関する事業も模索したいところですが、今は「息抜きの場所」という距離感が良いのかもしれません。

SNSは宣伝ではなく「表現とインプット」の場に

顧客のSNS運用代行はしているものの、自分自身のSNSでの発信は超低頻度。私のInstagramのフィードは、モロッコの写真が多めです。美容医療業界のアカウントの多くは、施術メニューや化粧品の紹介コンテンツが多いですが、私はつい大好きなモロッコを優先してしまって!というのは冗談ですが、Instagramのフィードは写真や文章、コンテンツの切り口を考えるトレーニングだと思っている節があるので、スキンケアの情報を載せるにしても、「長距離フライト時の機内持ち込みコスメ」「ダウンタイム中に使えるコスメ」「海外の現地コスメ」など、仕事関連の宣伝というよりかは、コンテンツとして成り立つ内容を発信しています。 X(旧Twitter)は美容整形の外科的な話などが生々しく語られている場でもあるので、情報源として閲覧のみで活用しています。

学生へのメッセージ

価値観を広げること

私は大学時代に一つだけ決めていたことがあって、それは「多くの価値観に出会うこと」でした。自分の半径数mで培われる価値観なんてたかが知れている、井の中の蛙にはなりたくないと思っていたんです。当時は若くて体力がありましたから、遠距離通学をしながら、誘われたら断らずに交友関係を多方面にどんどん広げていました。広く付き合いをすると、中には自分と合わない人とも当然出会いますが、「こういう人がいる」「こういう価値観がある」と学べたことは大正解だったと自負しています。当時の自分を褒めてあげたいと思っているくらいなので、ぜひ皆さんにも「価値観を広げること」を意識した行動を実践していただきたいです。 

知識の蓄積がセンスを作る

10年くらい前に読んだ「センスは知識からはじまる(著者:水野学/朝日新聞出版社)」という本がとても好きで、今でも大切にしています。この本では、センスは生まれついたものではなく、あらゆる分野の知識を蓄積することで向上する、ということが説かれています。簡単に言うと、高級レストランにしか行かない人はファストフードの良さを、逆にファストフードしか食べない人は高級レストランの良さを想像でしか判断できないわけです。どちらも実体験として知ることで、それぞれの良さや、何がどんな場面での利用に適するかなどを、少なくとも自分の視点で意見を持てるようになります。私が掲げていた「多くの価値観に出会うこと」というポリシーは、この本でいう「知識の蓄積」の考え方に近かったように思います。読みやすい本ですので、ぜひ読んでみてください。

リアルな対話を大切に

見識を広げるにあたって、もちろん海外に行ける人は行けば良いと思いますが、大学の中にだって、そのチャンスはたくさん転がっているはずです。大切なのは「リアルな場で、人と生々しいコミュニケーションをとること」です。SNSやネットで手軽に人とつながれる時代だからこそ、対面だからこそ感じ取れる人の機微や、何気ない雑談から生まれる学びや気づきを大切にしてほしいと思います。将来どのような仕事に就いたとしても、届けるプロダクトやサービスの先にいるのは、常に「人間」なのですから。

編集後記

今回、山崎さんのお話をうかがって印象に残ったのは、「一生会社員だと思っていた」というところから、見込み客ゼロの状態で独立を決めた覚悟でした。音楽、編集、美容医療と、まったく異なる領域を渡り歩いてきたからこそ語れる「3つの視点」という強みには、深く納得させられました。「センスは知識からはじまる」という本の紹介も印象的で、私自身、就職活動を終えたばかりの身として、これからいろいろな価値観に出会うことを大切にしていきたいと思いました。