インタビュー

地方創生にビジネスモデルはない、それなら自分たちでつくるしかない

地方創生にビジネスモデルはない、それなら自分たちでつくるしかない
PROFILE
株式会社福報メディアエージェンシー 代表取締役
西本 英雄

東京の広告代理店から九州へ

大手代理店でブランディングを学んだ

若いころは東京で、大手の広告代理店グループに所属していました。ブランディングプランナーとして経験を積んだあとは、メディアと広告業界でさまざまなコンテンツ制作に携わっていました。そのころは自分の会社も立ち上げていて、プランニングとプロデュースの仕事一本でキャリアを重ねてきました。

11年前、声がかかり九州へ

そんな私に転機が訪れたのは、11年前です。国が地方創生を注力政策として掲げるようになったタイミングで、地方創生の有識者としてお声がけをいただきました。東京で会社をやっていましたが、もともとの生まれは鹿児島なんですよね。まだ世間の誰も知らないことをゼロからやる、というのはずっとプランニングとプロデュースで生きてきた私にとって望むところでした。第二の人生ではないですけれど、そのキャリアを生かして地域貢献できればというのがきっかけです。11年前に九州に移り住み、今は福岡を拠点に地方創生に特化した事業開発をおこなっています。

地方創生というビジネスモデルなき挑戦

情報も人も足りない地方

地方創生という言葉がまだ浸透していないころに移住して、まず感じたのは都市圏に比べて圧倒的に情報量が少ないということでした。地域おこしや地域活性を進めるには、情報量を増やす必要があります。地域の新聞社や出版社、Webメディアはいろいろあっても、地方の情報を十分にカバーできていないんですよね。だからこそメディアで情報を増やす、というのが最初の柱です。そこに加えて、地域活性のためには人を動かさないといけません。地方が衰退していく理由の一つは、若い人たちがどう定住してくれるかという課題です。そして人と情報が流れるようになったら、次はその地域に合った潮流をつくっていく必要があります。

開発はすべて自社とアライアンスで

情報発信をアプリやポイントサービスといった仕組みにまで落とし込んでいくのは、正直かなり大変でした。ポイントサービスも含めて、必要なものはすべて新しく開発し、地域に合わせて実装していく。開発自体は実際、これまでの業界のつながりも生かしながら、パートナー会社とアライアンスを組んでおこなっています。

ビジネスモデルなき戦いの日々

BtoBでもBtoCでもない相手

広告代理店や制作会社の仕事は、ある程度ロジカルにシステムとして組み立てられたなかでプランニングをしていく仕事でした。ですが地方創生に関わってみて分かったのは、相手が自治体だったり国だったりして、BtoBでもBtoCでもないということです。ビジネスモデル自体をゼロからつくらなければならず、メディアもアプリもポイントサービスも自社開発していく経営上の苦労は、まさに0から1を生み出すことがすべてでした。

同業者はほとんどいない

メディア事業であれば、企業に協力してもらいスポンサードいただくというビジネスモデルがすでにあります。しかし地方創生の分野には、そうした民間事業としてのビジネスモデルはないに等しいんです。補助金や助成金の制度はあっても、それはビジネスモデルではありません。この分野を手がけている同業もほとんど見かけないというのが実感です。田舎にいるのが嫌だから出ていくのではなく、仕事がない、集う場がない、遊び場がないから出ていかざるを得ない。この状況を変えない限り、地域衰退は止められないんだろうと痛感してきました。

地方衰退を止める投資モデルをつくりたい

企業の力が不可欠

地方衰退を止めるためには、企業の協力が欠かせません。歴史的に見ても、日本のブランドを支えてきたのは企業の力です。東京には企業や経営者に向けた投資のモデルがたくさんありますが、地方にはその機会そのものが少ないんですよね。メディアもスポンサードモデルだけでは衰退してしまいます。情報発信によって機運の啓発や醸成が進み、将来の規模拡大につながるのであれば、メディアの価値も高まり、企業にとっての投資価値も生まれます。官民一体となって、その投資モデルであり社会貢献モデルを実現させたい、そう考えています。

課題は「やれる人」を増やすこと

この投資モデルや社会貢献の仕組みを計画に落とし込み、そのためにどんなツールが必要か。これをビジネスの世界では当たり前のことでも、地域活性・地方創生の文脈にするのはとても難しいんです。今の課題を一言でいうなら、やれる人を増やすことに尽きます。従来の企業経営モデルでは地域活性はできません。イメージとしてはスタートアップに近く、それを引っ張っていくリーダーと、一緒に実現させていく仲間の存在は絶対に欠かせないと感じています。

今あるものを生かして雇用を生む

今の体制は、コアメンバーが3〜4名です。メディアが軸なのでかなり専門性が高く、雇用というよりは才能を持ったフリーランスのクリエイターやディレクターに業務委託やプロジェクトベースのスポット契約でお願いしています。公民館やコワーキングスペース、空き家や廃校、道の駅のような指定管理施設など、地域行政にはすでに生かしきれていない施設がたくさんあります。そうした今あるものにどんどん雇用を生んでいけばよく、運営自体を私たちのような立場の人間がサポートしていく。それが地元の若い人たちにとっても回りやすいビジネスモデルになると思っています。

学生に伝えたいこと

田舎への愛着はみんな本物

ワークショップなどをやると、最初は田舎には何もないという声が出るんですよね。でも実際に話を聞いてみると、みんな地元に興味があるし残りたいし、仲間もいる。ただ学生というカテゴリーから社会人になるというカテゴリーへと環境が大きく変わるタイミングで、社会に合わせて生きていかざるを得なくなってしまう。そんな状況になっているんだと思います。

AIを自分の分身として育てる

もう一つ伝えたいのが、AIとの向き合い方です。私自身もAIを教える立場にありますが、頭が固くなってしまった人はAIを使いこなせません。プロンプトをいくら覚えたところで、AIがただの辞書代わりになってしまうんですよね。AIを恐れるのではなく、逆に自分の分身のように育てていく。この感覚は、社会よりもむしろ若い人たちのほうが自然に持てるものではないかという気がしています。

諦めずに続けてほしい

自分の可能性を、社会がこうだから、環境がないからといって諦めてしまうのは、もったいないと思います。大人や社会がある意味こう道を示してくれるわけではありません。まだ漠然としていてもいいので、本当にやりたいことを見つけてほしいですね。私もこの年齢になって、地方創生という答えのない仕事に挑戦し続けています。たくさん苦労もするし、失敗も綺麗事ではありません。それでも、諦めないで何かを続けてほしいと心から思っています。

編集後記

今回、株式会社福報メディアエージェンシーの西本さんにお話をうかがいました。地方創生という前例のない領域で、ビジネスモデルをゼロから生み出してきた歩みがとても印象的でした。とくに心に残ったのは「田舎が嫌いなのではなく、仕事や集う場がないから出ていかざるを得ない」という言葉です。私自身も地方出身なので共感する部分が多く、AIとの向き合い方についてのお話も、これからの自分の将来を考えるうえでとても参考になりました。