インタビュー

「採用課題を経営課題へ」中小企業と向き合い続けてたどり着いた答え

Lifortune株式会社 代表取締役CEO 渋谷 喜之
PROFILE
Lifortune株式会社 代表取締役CEO
渋谷 喜之

会社選びの基準は、ネームバリューだった

就職活動をしていたのは2010年。リーマンショックの影響が残り、就職が難しい時期でした。

理系だったこともあり、「大学院まで行かなければ就職先が狭まるかもしれない」。そんな思いから、明確な目的があったわけではなく大学院へ進みました。

当時、エントリーシートはすべて手書き。説明会に参加するためだけに高速バスで移動することもありました。そんな中、エントリーした企業は約100社。最終的に入社を決めたのは、大手飲料メーカーでした。

当時重視していたのは、ネームバリューや年収、周囲からどう見られるかということ。「どんな会社で働きたいか」より、「どんな会社に入れるか」を考えていたのだと思います。

ところが、実際に働き始めると違和感がありました。大手企業の完成された仕組みに自分を合わせて働くことが、どうしても自分には合わないと感じ、入社から1年に満たないうちに退職を決め、地元・宮城へ戻りました。

振り返れば、このとき経験した会社選びと入社後のミスマッチが、後に採用という仕事に向き合う一つの原点になっています。

震災を経て知った、「自分でつくる」面白さ

宮城へ戻って間もなく、東日本大震災が起こりました。仕事を失い、そこから個人事業主のような形で、小さな学習塾の運営を手伝うことになります。

整った仕組みがあるわけではなく、必要なことを自分たちで考え、一つずつ形にしていく環境でした。けれど、それが面白かった。何もないところから、自分たちで考えてつくっていく。

自分には、そんな働き方のほうが合っているのかもしれない。少しずつ、自分が仕事で大切にしたいものが見え始めました。

人材業界でも、見えてきた答えは同じだった

その後、事情があり学習塾を離れたことをきっかけに、自分のキャリアについて強く考えるようになりました。キャリア支援に関わりたいと考え、東京の人材紹介会社へ転職。未経験から営業を学び、経験を重ねる中で、最終的には取締役COOという立場まで経験しました。

学習塾と人材紹介。まったく違う仕事を経験しましたが、そこで見えてきた自分なりの答えは同じでした。

自分は、すでにある仕組みや正解に合わせるより、自分で考え、試しながら形にしていくことに面白さを感じる。学習塾で初めて感じたその感覚は、人材紹介の仕事を経験する中で、よりはっきりと自分自身の仕事の軸になっていきました。

そうした経験を経て、2019年3月、Lifortune株式会社を立ち上げました。

ただ、創業時から「中小企業の採用を変えたい」という明確な使命があったわけではありません。

自分らしく仕事をしたい。自分で考え、後悔のない仕事をしたい。それが、Lifortuneのスタートでした。

中小企業と向き合う中で見えてきた、『人』の課題

自分自身が会社を経営するようになり、さまざまな中小企業の経営者様と出会い、お話を聞き、一緒に仕事をする中で、考え方は少しずつ変わっていきました。

なかでも、創業20年、30年と続いてきた中小企業様は、長い時間をかけてお客様との信頼関係を築き、必要とされるサービスや価値を提供しながら、事業を続けてきた企業様だと感じています。

一方で、多くの企業様が共通して抱えていたのが、「人」の問題でした。

人が採れない。採用しても定着しない。どんな人を採ればいいのか分からない。人が育たず、経営者様ご自身が現場から離れられない。自分自身も経営する立場になったからこそ、これは単なる「人事の悩み」ではないと感じるようになりました。

いまの採用が、数年後の経営をつくる。とくに中小企業では、一人の採用が、その後の会社に大きな影響を与えます。どんな人を採用するかによって、組織の雰囲気も、仕事の進め方も、会社が進む方向も変わっていきます。

さらに採用には、求人費用だけでなく、選考にかける時間や入社後の教育など、さまざまなコストがかかります。仕事を覚えてもらったところで辞めてしまえば、それまでにかけた時間や費用が失われ、また一から採用を始めなければなりません。だからこそ、目の前の人手不足を埋めるだけではなく、「この人と、この先の会社をつくっていけるか」まで考えて採用する必要があります。

私自身も、会社を分社化した際、一時は売上がそれまでの3割ほどまで落ち込む経験をしました。

誰かが悪かったわけではありません。会社が目指す方向と、一緒に働く人の価値観やカルチャーが合っているか。その重要性を、自分自身の経営でも痛感しました。

いま誰を採用するかが、その先の経営に大きく響いていく。採用は、人事だけの仕事ではなく、経営そのものに関わる意思決定だと考えています。

長く愛されてきた中小企業を、採用から支えたい

長年にわたり、お客様から必要とされ、愛されてきた中小企業が、「人が採れない」という理由で事業を縮小したり、続けられなくなったりする。

それは、一企業だけの問題ではありません。その企業が長年提供してきた商品やサービス、そこで生まれる雇用、地域とのつながりまで失われてしまう可能性があるからです。

だからこそ、地域に根づく中小企業様の採用課題を解決し、その事業が続いていくことを支えることは、地域や社会を支えることにもなる。

その企業の未来を支え、その先にいるお客様や地域を支える。私たちは、それが社会貢献にもつながっていくと考えています。採用を単なる「人事の仕事」で終わらせず、経営者様ご自身が会社の未来に関わる問題として考える。

そこから生まれたのが、「採用課題を経営課題へ」というLifortuneの考え方です。

採用は、長く付き合う恋愛相手を選ぶことに似ている

採用を取り巻く環境も変わっています。

今の求職者は、求人情報だけではなく、企業のホームページやSNS、口コミ、社員の発信など、さまざまな情報から会社を比較できます。つまり、企業が求職者を選ぶだけではなく、企業も求職者から選ばれる時代です。

だからこそ、採用はある意味で恋愛に似ていると思っています。

長く付き合っていく恋愛相手を選ぶとき、見た目や収入など、一つの際立った魅力だけで決めるわけではありません。

価値観や考え方、一緒にいるときの感覚、将来目指しているものなど、さまざまな要素を総合的に見て判断するはずです。

採用も同じです。

企業様が経歴やスキルだけで人を判断したり、求職者が給与や知名度だけで会社を選んだりすれば、「思っていたのと違った」というミスマッチが起こりやすくなります。

冒頭でも触れた通り、私自身、新卒時代はネームバリューや年収を重視して会社を選び、入社後にミスマッチを経験しました。

だからこそ企業様には、自社の魅力や大切にしている考え方、どんな人と働きたいのかをきちんと言葉にして伝えてほしい。

そして求職者にも、「選ばれること」だけを就職活動のゴールにしてほしくありません。

「なぜこの会社で働きたいのか」

「自分が大切にしたいことと、会社が大切にしていることは合っているか」

「ここで働く自分を想像したとき、違和感はないか」まで考えてほしい。

企業も求職者も、一つの条件だけではなく、お互いを総合的に見て選ぶ。それが、入社後のミスマッチを減らすことにつながると思っています。

自分たちの良さを活かせる「仕組み」をつくる

現在Lifortuneが目指しているのは、企業の代わりに人を採用することではありません。

まず大切なのは、自社の強みや自社らしさ、ある意味ではその会社ならではの「癖」を整理し、言葉にすること。

すべての人に良く見せようとするのではなく、「これが自分たちの会社です」と伝え、そこに魅力を感じてくれる人を採用していく。会社も求職者も、無理をして相手に合わせる必要はありません。

お互いが自分たちらしさを理解したうえで、「ここなら合いそうだ」と選び合える採用をつくることが、Lifortuneの支援です。最終的には、Lifortuneがいなくても採用できる企業様になり、「卒業」していただくことが一つのゴールです。

現在は全国各地の企業様とオンラインでやり取りする機会も増えています。これから、こうした考え方を400社、500社へと広げていきたい。目指しているのは、Lifortuneそのものを大きくすることではありません。

自社に合った人を、自分たちの力で採用できる中小企業を、一社でも多く増やしていくことです。

若いうちほど、「今」を大切にしてほしい

最後に、学生の皆さんに伝えたいことがあります。

将来のことを考えるのは大切です。でも、そのために「今」をおろそかにしてほしくありません。

学業に向き合うことも、人と出会うことも、何かに挑戦することも、目の前の誰かのために動くことも、すべて大切な経験です。

その経験が、すぐに何かの役に立つとは限りません。思い通りにいかないことや、失敗したと感じることもあると思います。

私自身も、大手企業の早期退職や震災後の失業、さまざまな仕事、そして経営者としての成功や失敗を経験してきました。

振り返ってみると、そのどれもが無駄ではありませんでした。成功も失敗も、学んだことも、出会った人も、積み重ねた経験はいつか自分の資産になる。

だからこそ、先の損得や効率だけで判断するのではなく、今、目の前にあることにしっかり向き合ってほしいと思います。その積み重ねが、いつか自分だけのキャリアにつながっていくはずです。

編集後記

渋谷さんの「心の声を聞く」というお話は、とても印象に残りました。年収やネームバリューだけで選ぶと後悔するという言葉は、まさにいまの自分にも刺さる内容です。中小企業様の「内側」に向き合うという視点は、これから企業研究をするうえでも、ぜひあわせてチェックしてみてほしいと思います。