インタビュー

学生ビザでシリコンバレー起業。ボクサー経験者が辿り着いた「持ち株会社」という出口戦略

学生ビザでシリコンバレー起業。ボクサー経験者が辿り着いた「持ち株会社」という出口戦略
PROFILE
マエトク・フォーベルツ株式会社 代表者
前野智純

独立への道のり

学生ビザでの海外起業

私が20代で独立したきっかけは、アメリカへの留学でした。そのままシリコンバレーで起業したのですが、当時は学生ビザのままだったので、今振り返れば少し無茶なスタートでしたね。帰国後は日本で法人を設立し、IT事業を20年間継続しました。その間にはシンガポールにも拠点を構え、日本法人とシンガポール法人の両方を運営していました。

家業の継承と売却、そしてM&Aへ

その後、大阪の家業を一旦引き継ぐことになりました。私は大阪出身ですからね。継承した時点で、「売却する」か「人に任せて自分は離れるか」の二択だと考えていました。結局、コロナ禍で先行きが見えなくなったこともあり、事業を売却する決断をしました。

その売却益を手に、次に自分が取り組むべき事業を探し始めました。M&A仲介会社の方たちと対話を重ねる中で、「縁」というものを強く感じました。大きな案件を血眼になって探すよりも、まずはM&Aの機能そのものを提供する事業を立ち上げるべきではないか――。それが今の会社を始めた経緯です。

M&A会社を設立した理由

目指すは持ち株会社経営

今の会社は、私が様々な企業を買収し、ポートフォリオを構築するための母体となる機能を担っています。今も2社ほどM&Aを検討しており、事業や会社を傘下に収める際に、自社の機能を使うイメージです。ビジョンとしては、持ち株会社を頂点とし、その下に複数の事業をぶら下げていく形です。子会社を増やし、必要に応じてM&Aで売却する。そんな循環を生み出したいと考えています。

会社は「生き物」である

M&Aには困難がつきものです。契約プロセスは不動産売買に似ていますが、大きな違いは、会社は「生き物」だということです。人間が中心となって動いており、そこに「時流」が絡むからです。現在でいえば、AIがまさに決定的な時流です。インターネットの黎明期から30年近くこの業界に身を置いてきましたが、これほど社会変革のインパクトがある変革は初めてだと感じます。特に小規模な企業ほど、この波に翻弄されやすいのです。

AI時代の経営哲学

「極大」か「極小」かの二択

私はスモールビジネスの集合体を作ろうと考えています。具体的には、数億円規模の企業の集合体を、規模の拡大よりも「筋肉質で利益体質であること」を重視して構築していくイメージです。AIは産業革命以来の変革をもたらすと感じており、その規模感ゆえに、無闇な規模拡大はかえってリスクになります。大企業のように有り余る資本やリソースがあるなら話は別ですが、中途半端に数百人規模まで膨らませることは、経営難易度を劇的に高めるでしょう。私の考えは、「極大か、極小か」の二択です。極大はプライム市場クラスの大企業。極小は、従業員10人以下、数名体制で最も力を発揮する組織です。AIをフル活用すれば、少人数でも10倍の生産性を出せる時代ですから。

解雇規制のある日本だからこそ

一方で、数百人規模の会社は変革が非常に困難です。日本は労働法の縛りが強く、安易な解雇ができません。この規制がある中で従業員を多く抱えてしまうと、構造改革のスピードが鈍ります。AIによって事務職が不要になった際、大手銀行が営業職へ振り替えるような対応をとるのも、日本では解雇が難しいからこそです。ただ、資格や技術が必要なブルーカラーの専門職は、今後最も重宝されるはずです。法律的に資格保持者しか触れない業務は、就職という観点でも圧倒的な強みになります。

学生時代の挫折とその先

プロボクサーとして感じた限界

学生時代はボクシングに没頭し、高校でプロになりました。ボクシングしか考えておらず、勉強も二の次でした。しかし、プロとして生きることを追求する中で、どこかで諦める瞬間が訪れました。一流選手のスパーリング相手を務める中で、肌で感じたんです。これは努力だけで到達できる領域ではない、神業だと。そう悟ったとき、別の道を模索しようと決意しました。

学生へのメッセージ

セミナーより、AIに聞け

先が読めない今の時代、学び方において重要なのは「AIを使って学ぶこと」です。セミナーに通うよりも、直接AIに聞くのが最短ルートです。「今の自分のスキルレベルで、何がわからないのか」をAIに伝え、教えてもらう。それを繰り返すのが最も効果的です。今年の初めと今とでは、AIの能力は別物です。以前はチャットベースでしたが、今はローカル環境の操作までこなします。AIの利用料が月数万円かかったとしても、それ以上に人がこなせる仕事の幅や量を考えると、人を採用してリスクを負うか、AIを使いこなして少数精鋭でやるかという選択になります。

人生の柱は一本に決めない

来年どんな環境になっているかわからない時代だからこそ、興味があるなら起業したほうがいいと思っています。どこかに就職するにしても、一方で自分で会社をやりながらサラリーマンをする、というくらいの柔軟性があったほうがいいと思います。

収入源や人生の柱を一本に絞らないこと。この会社がどうなっても大丈夫という、もう一つの柱を持って生きる強さが大切です。

編集後記

今回のお話で最も印象的だったのは「柱を一本に決めない」という言葉です。就職か起業かという二択で悩む人にとって、両方を持つ選択肢は新鮮に映るでしょう。プロボクサーとして限界を見極めた経験や、学生ビザでの起業という行動力。常に自分の頭で判断し、道を切り拓いてきた姿勢に触れ、背中を押されたような気持ちになりました。AIとの向き合い方についても、「セミナーより実践」という言葉は非常に説得力がありました。貴重なお話をありがとうございました。