インタビュー

「地球は誰のものでもない」100年後の街を見据える建築不動産会社、NENGO代表が譲れない理念

「地球は誰のものでもない」100年後の街を見据える建築不動産会社、NENGO代表が譲れない理念
PROFILE
株式会社NENGO 代表取締役
的場 敏行

ホテルマンから建築不動産業界へ

国内大手の総合観光会社で採用担当をしていた

大学を出たあと、国内大手の総合観光会社に入りました。4,000人ほどの規模がある会社の採用担当だったので、おもしろい仕事でしたね。

フォーシーズンズホテルで学んだこと

採用担当の仕事がひと区切りついたあとは、当時椿山荘の中にあったフォーシーズンズホテルで、1年ほどホテルマンをしていました。5つ星ホテルということもあり、働いている人はみんな、お客様からの「ありがとう」という言葉が大好物で、それに向かって働いている素晴らしい雰囲気がありました。

父の会社「オリエンタル産業」に就職

ホテルを辞めた後、父から「うちの会社を手伝ってほしい」と声をかけられ、NENGOの前身であるオリエンタル産業に就職しました。これが、私が建築不動産業界に入ったきっかけです。

現場で見た、建設業界の「当たり前」への違和感

みんな自分のために働いていた

NENGOに入社した当初は私も現場に出て、創業当初からの事業である耐火被覆工事に取り組んでいました。仕事をするなかで感じたのは、自分のために仕事をしている人が多いのではないかということでした。

以前働いていたホテルでは、みんながお客様のために働いていました。その雰囲気が今の建築業界にあるだろうか。この業界に入ったからにはこの現状を変えたいという思いが生まれました。そこで、入った当初から企業理念として「世のため人のため、目の前の人を幸せにしよう」ということを、言い続けています。

値引きは、嘘をつくのと同じ

短期目線で利益を出すために仕事を受注する方法として、「値引きをする」という選択肢があります。でも我々は、値引きをしない姿勢を貫いてきました。でも値引きをするというのは、前に提示した金額が嘘だったと認めるようなものなんですよね。そうなると、信頼を得られなくなります。信頼を失った人は、今回は仕事を得られたとしても、次の仕事は得られなくなっていく。だからNENGOでは、迷ったときはあえてつらい方、厳しい方を選ぶようにしています。

発想の貧しさが招く、安さ優先の家つくり

木目調フローリングという「偽物」

たとえば、今世の中で使われているフローリングのほとんどは、木目がプリントされているだけで、本物の木ではありません。施工がしやすく、本物の木のように伸び縮みもしないので、メンテナンスの手間も少なくて済みます。

しかし実際に住んでみると、本物の木の方がはるかに住み心地がよく、傷がついてもヤスリをかけるといったメンテナンスができます。傷が味になるということです。金額は本物の木の方が高くなりますが、長い目で見れば長持ちして、いい住まい方ができるんです。長期的な住み心地を見るか。この発想の違いがあると感じています。

20年で価値がゼロになる家

日本の住宅、とくに木造住宅は20年で、価値がゼロになるとされる減価償却の仕組みがあります。この仕組みは木造住宅本来の価値を反映しておらず、「まだ住めるけれど取り壊す」「20年だけ持つ家を建てる」といった判断を招きかねないと考えています。しっかり建てれば木造住宅は100年持ちます。そうしてつくられた築30年、40年の家にも手を加えることで住み続けられる可能性があります。中古住宅を買ってリノベーションするという選択肢を選ぶ人も増えてきています。私は、それがもっと当たり前になることを願っているのです。

「100年後の街つくり」というミッションの原点

環境オタクだった学生時代

私は大学時代、まだ「環境と経済」の結びつきが今ほど注目されていなかった時代に、それをテーマにした卒業論文を執筆しました。いわば、私のビジネスパーソンとしての原点は「環境」への強い探求心にあります。

当時は環境について体系的に学べる学校や参考書籍も非常に限られていましたが、どうしても諦めきれず、指導教授に直談判をして研究を進めさせてもらいました。学生時代に抱いたその強い問題意識と関心は、今も変わらず私の根底に流れ続けています。

地球は誰のものでもない

地球は誰のものだと思いますか。私の考えでは、地球は誰のものでもなく、生きとし生けるものがみんなで住まわせてもらっているものです。自分で買った土地だから建築は、少なからず地球を痛める行為です。人が生きていくために建築が仕方ないものだとしても、一度建てたらなるべく長持ちさせるべきだと思うんですよね。だからこそ、弊社では建築をするとき、その土地の気候や風土、歴史、文化を読み込んで、その街「らしさ」をデザインに落とし込み、住みたい、遊びたい、働きたい街をつくることをミッションにしています。

お客様のために、あえて面倒なことを選ぶ経営

相見積もりをしない理由

弊社は、家を建てる際の相見積もりをしないと決めています。相見積もりをすると、仕事を取るために頑張ることになり、1件の見積もりに2週間から1か月かかることもあります。それで受注できなかった場合のロスは相当なものです。たとえば給料50万円の人が携わっていたとすると、イメージとしては150万円ほどのロスになる。その分を誰が負担するかというと、すでに仕事を発注してくださっている、ほかのお客様のお金を充てるしかなくなってしまいます。それは、お仕事をいただいている方に対して失礼なことだと思うんです。だから、いま仕事をいただいている方に集中したいという思いから、相見積もりをしないと決めています。

ポーターズペイントの体験

オーストラリアの高品質な塗料「ポーターズペイント」の魅力を最大限に発揮していただくため、当社では一般のお客様を対象とした事前の有料ペイント体験ワークショップを実施しています。この体験をしていただかないと、ペイントの購入ができない仕組みにしています。

単に「モノを売る」のではなく、「塗る楽しさや空間つくりの体験」までを含めてお届けしたいと考えているからです。塗料の特性を深く理解していただくためのこのステップは、お客様にとっても、私たちにとっても、理想の住まいを形にするために欠かせない大切な時間となっています。このように、目先の効率よりも一人ひとりのお客様への丁寧なアプローチを、私たちは何よりも重視しています。

特許申請中の狭小住宅「旗竿地の家 THE FLAG」

5mの壁が生み出す庭

古い建物を扱っていくなかで、長く愛着を持って使われる建物の条件が見えてきました。その考えをもとに企画し、今回2棟を建てて特許を取得したのが、新築住宅「旗竿地の家 THE FLAG」です。旗竿地(はたざおち)のような周囲を家に囲まれた土地に建てることを想定したつくりで、家と庭を5mの高さの壁で囲むことで、まわりからの視線が気にならないようにしています。

狭い土地であってもプライバシーが確保できるので、庭でテントサウナや露天風呂、バーベキューなどを楽しめます。家の中からいつも外を眺めていられるのもよいところで、日本の家はカーテンを閉めっぱなしになりがちですが、この家ではその必要がありません。窓を開けたままお風呂に入ることもでき、夜は月や星を眺めながら入浴できる家になっています。「家庭」という字は、家と庭からできています。住宅が密集している都市でも、家と庭と、そしてその先の土地や空とつながる暮らしを実現したい。そうした想いから生まれたのが、「旗竿地の家 THE FLAG」です。

隣家からも感謝される家

この家は、住む人だけでなく、まわりの家からも感謝されています。右隣の家にお住まいの方からは、自分たちも窓を開けられるようになったと喜ばれました。シンプルな箱型のつくりで街に余計な線をつくらないという点も、狭い街並みに調和するデザインとして意識しています。これだけが正解だとは思っていませんが、既成概念にとらわれた日本の住宅業界に一石を投じることができたらと思って取り組んでいます。

古いものほど価値を増す社会を目指して

木造住宅がどんどん壊されていく今の世の中を、変えていきたいという思いがあります。日本も本来は、古いものを大事にする文化があったはずです。お寺や神社など、古い建物を大切にする感覚は、今も残っているように思います。

価値が徐々に上がっていく世の中にしていきたい。とくに建築において、そうした流れをつくっていきたいと思っています。

編集後記

的場さんのお話を伺って、まず驚いたのが「地球は誰のものでもない」という視点でした。就職活動をしていると、どうしても目の前の条件や待遇に目が向きがちですが、100年先の街や地球を見据えて経営をされている姿勢に、事業の大きさをあらためて感じました。相見積もりをしないという判断や、ポーターズペイントの体験販売など、一見遠回りに思える選択の裏に、お客様への誠実さがあることも印象的でした。「若いうちに辛い思いをした方がいい」という最後のメッセージは、キャリアに悩む学生の一人として、胸に留めておきたい言葉です。