特殊清掃という仕事に出会うまで
19歳から6年間、葬儀社で故人をお迎えする仕事をしていた
弊社の事業内容は事件現場特殊清掃で、そこに遺品整理や生前整理、ゴミ屋敷の片付けが加わります。さまざまな事情でお部屋の中で最期を迎えられた方の、原状回復作業です。人にはいつか旅立ちのときが訪れますが、その方が住んでいたお家を空っぽにして、賃貸であれば大家さんに返せる状態にするのが弊社の役割になります。
創業のきっかけは19歳のころにさかのぼります。当時は沖縄県警察の業務委託提携店だった葬儀社に勤めていて、警察の鑑識と一緒に、さまざまな事情で旅立たれた方をお迎えに行く仕事をしていました。発見までに時間が経ってしまった現場に伺うこともありました。事件性がある場合は警察署にお連れし、検視が終わったあとにご遺族のもとへお返しする、という役割です。
そのなかで、ご遺族から「この家をどうにかしてほしい」「痕が残ってしまった部屋を元に戻せる専門の業者はいないか」という声をずっと聞いていました。今から17年ほど前は、特殊清掃という仕事自体がまだ存在していませんでした。誰も担っていない需要と、目の前のお困りごとに応えられないかと考えたのが最初のきっかけです。
25、6歳のとき、警察が独自に対応する体制に切り替わり、葬儀社での業務委託の仕事が減ることになりました。私はそれを転職のタイミングだと捉えて会社を辞め、後処理を専門にする事業を立ち上げて現在に至ります。
抵抗がないことが、いちばんの適性だった
なぜ怖い仕事に転職だと思えたのかとよく聞かれますが、そもそも故人と向き合うことに抵抗がありませんでした。日々さまざまな現場と向き合うなかで、悲しみを抱えたご遺族との接し方には、究極の営業のようなものを感じていて、それが私に合っていたのだと思います。霊感があるタイプでもなく、怖がりでもないほうです。生きている人間関係のほうが、よほどややこしいと感じるくらいです。
ある依頼者との、忘れられないやり取り
これまでの現場のなかでも、強く記憶に残っている方がいます。弊社では、生きているうちに「自分がいなくなったらこの家を片付けてほしい」と見積もりを取っていただき、後見人を経由してのちほどお支払いいただく生前契約というサービスも行っています。
あるとき、県外から沖縄に移住してきた80歳ほどの女性から、マンションの片付けと売却の依頼がありました。現役時代はレベルの高い仕事をされていた方で、お一人で頼れる身内もいないという話をされているなかで、余命について医師から告げられていることも伺いました。慎重な方で、片付け業者を5社ほど呼んでいたそうですが、偶然に弊社のスタッフと相性が合い、「御社にお願いします」とお言葉をいただきました。しかし、契約を交わした翌日に、その方が旅立たれたことがわかりました。
現場に伺うと、身の回りの整理はすでにご自身で丁寧に済まされていて、スタッフ一人ひとりへの感謝の気持ちがつづられたメッセージや、大切にしていた品を託す旨の言葉が残されていました。財産についても、相続する身内がいないことから、寄付先まで自ら決めて手続きを整えておられたそうです。そうした選択をされたことが正解だったのかは、今も簡単に言えることではありません。それでも、最期まで自分の意思を貫き通したその姿は、今も忘れられません。1週間前まで穏やかに会話をしていたスタッフにとっても大きな出来事で、気持ちの整理が難しい面もありましたが、「選んでいただいたからには、誠意を持って仕上げよう」というスタンスで現場に向き合いました。
沖縄でほぼ一強、それでも手詰まりを感じている
従業員8人という壁
今後のビジョンとしては、事業をもっと大きくしたいという思いがあります。ハードな現場に携わってくれている従業員に還元したい気持ちもあります。ただ、特殊な仕事だからこそ、これ以上人数を増やすと育成や管理が行き届かなくなるのではという不安もあり、いろいろな壁を感じながら「今の体制が精一杯」というのが正直なところです。
現在の直雇用は8名で、そのうち1名は研修中です。それに加えて、アルバイトや同業他社からの応援スタッフを含めると、常に20人ほどが動いている状態です。集客が難しい業界のため、同業であっても弊社をヘルプとして頼ってくる会社が多く、沖縄ではほぼ一強と言われることもあります。SNSを積極的に運用しているわけでもなく、集客の7割は葬儀社や不動産会社、行政からの紹介によるものです。ただ、紹介料が経営を圧迫する面もあるので、直接問い合わせをいただける仕組みをもう少し作れたらとは感じています。
顧客管理の面では課題もあります。施工が終わったあとにお渡しする施工証明書は、ビフォーアフターの写真を含めてエクセルで手作業で作成していて、1件あたり20分ほどかかります。月に100件ほど対応するので、この作業だけでかなりの時間を取られていて、実際に残業の原因にもなっています。
全国を飛び回る講師活動
実務で県外に出向くことはありませんが、他社への研修や講師としての依頼で全国を回ることが多くあります。直近でも宮古島、大阪、そして来週は熊本を予定しています。臭いや痕跡をどう消すかといった現場のノウハウを、その土地の業者に伝える機会です。ほかにも、一般の方向けのセミナー活動として、東京ビッグサイトで開催された賃貸住宅フェアに登壇したこともあります。
学歴も経歴も関係ない、挑戦できる場所でありたい
ノリと勢いで飛び込んでも、失敗は糧になる
弊社では、経歴や学歴に関係なく誰でも活躍できる場を大切にしています。過去には少年院や刑務所からの就職、独立支援としての採用を受け入れたこともあります。私自身、起業したときも周囲からは大反対されました。学歴もないのに社長になれるのか、食べていけるのかと言われましたが、そのハングリーさが背中を押してくれました。
これから独立や挑戦をしたいと思っている学生に伝えたいのは、起業に必要なのはノリと勢いだということです。私自身、数字の裏付けもないまま飛び込みました。若い人は吸収力があるからこそ、いろいろな経験を積んでほしいと思っています。一度の失敗は決して大きな傷にはなりません。背中を押してくれる誰かを見つけて、勢いよく一歩を踏み出してもらえたらと思います。
編集後記
今回のお話は、これまで取材してきたどの経営者とも違う経験の連続で、正直に言うと最初は言葉を選ぶのに苦労しました。それでも比嘉さんの語り口には気負いがなく、命と向き合う仕事の重さと、経営者としての率直な悩みの両方を、まっすぐに聞かせていただけたと感じています。学歴や前歴に関係なく挑戦できる場をつくるという姿勢は、これから社会に出る学生にとっても大きなヒントになるはずです。貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。