インタビュー

YouTubeがきっかけで起業へ。AI時代に「人間の味」を撮り続ける理由

サンキャク株式会社 代表取締役 竹内 竜太
PROFILE
サンキャク株式会社 代表取締役
竹内 竜太

YouTubeから始まった起業

就活せずにネットと出会った

創業のきっかけをひと言でいうと、YouTubeなんです。当時はまだ、会社がホームページをつくるのが当たり前の時代ではなかったんです。そんななかでホームページをつくったり、Webメディアを立ち上げたりしていたら、ある日ソニー株式会社からメールが届きました。いろいろあって、そこへ転職することになったんです。

会社員20年目の新たな挑戦

そこからは20年くらい、会社員として働きました。部署を任され、部長として予算を組んだり、マネジメントをしたりするのがメインの仕事です。同僚や先輩には外資系の大手IT企業へ転職する人も多く、私も同じ会社で長く働いてきたので、新しい環境に身を置きたいという思いが芽生えていました。そこで中年ながら1年間、熱狂的に英語を勉強した時期があるんです。

退路を断ち英語とYouTubeへ

どうせ勉強するなら、強制力を持たせて自分を追い込もうと思い、YouTubeチャンネルを立ち上げました。中年が英語の勉強に挑戦する様子を発信するチャンネルです。英語を身につけるのは想像以上に大変で、仕事も辞めて英語とYouTubeにコミットしていました。退路を断っていたからこそ、やりきれたのかなと。今振り返ると、そう思いますね。

副業の動画編集が土台に

動画編集は、会社員時代に副業でやっていました。今ではクラウドソーシングも一般的になりましたけど、当時はできたばかりで、おもしろそうだなと思って始めたんです。土日には他人の結婚式の動画を編集していました。つくりながら覚える、くらいの適当なスタートでしたけど、評判がよく評価もついて、副業で結構稼げていたんですよね。その経験は、YouTuberとしての活動にも活きていると思います。

「英語を教えて」の声で独立

チャンネル登録者が6,000人くらいになった頃、「英語を教えてほしい」というコメントが多く届くようになりました。それくらいならできるかなと甘い考えでGoogleフォームを設置したら、想像以上の人数から申し込みがあったんです。最初はYouTubeの収入で生活していたので、本当にYouTubeから起業したという感じですね。

コロナ禍で迎えた転機

オフライン展開直前のコロナ

最初はオンラインで英語の学校を運営していました。ただ、オンラインだけでは伸ばしきれない生徒さんも出てきたので、教室を持ちたいと考えるようになったんです。横浜で起業したあと渋谷にオフィスを移し、「さあ、これからオフラインで英語を教えていくぞ」というタイミングでコロナが来ました。海外には行けないし、海外から人も来ない。波が引くように、YouTubeの再生数も生徒さんからの問い合わせもなくなっていきました。

企業からのYouTube相談

一方で、YouTubeをやりたいという企業さんが一気に増えたんです。営業にも行けないし、展示会も開けない。自社の発信をYouTubeでおこないたいという需要がグッと高まりました。「YouTubeを伸ばしたことがあるんでしょう?助けてくれない?」とご相談いただき、企業のYouTubeを手がけるようになっていきました。ピンチというより、「そういうことが起きたか」という感覚でしたね。

事業内容と弊社の強み

クオリティを追い続けた先に

企業さんの動画をつくるなかで、クオリティを上げていきたいという思いが強くありました。ひとつつくると、またひとつ上のクラスの企業さんから問い合わせが来る。その積み重ねで、今では大手企業のYouTubeの新規立ち上げや、既存のチャンネルの伸び悩みの改善なども手がけています。

大企業経験で成果を汲み取る

選んでいただける理由のひとつは、私が大企業に勤めていた経験だと思います。大企業にはさまざまな役職の方がいて、いろいろな意思決定があります。たとえば広報担当の方がいた場合、その方が上司にどんな成果を報告できれば成功なのか。そこを経験から汲み取れるので、「話が早い」と言っていただけるんです。各社の事情にも柔軟に対応できるのは、強みかなと思っています。

英語とAIの知見が引き出しに

私も会社のナンバー2も英語をかなり理解できますし、ITやAIの領域にも明るい方なんです。一般的な映像制作会社と比べると、ディレクターの理解が深い分、インタビューでの問いや構成も深くなっていきます。創業初期は国内にYouTube映像のノウハウがほとんどなく、海外クリエイターの発信で勉強しました。ふわっとした要望をいただいたときも、海外のクリエイティブをリファレンスとしてお見せできるので、引き出しは多いと思いますね。

老舗とのコンペを勝ち抜く

ホームページにも載せていますけど、JAL(日本航空)さんの案件の中で、老舗の映像制作会社とのコンペで勝ち取った仕事もありました。10社くらいの方々がプレゼンされるなかで、選んでいただいたんです。弊社は設立から8年くらい、BtoBの事業はコロナ以降の、まだ小さな会社です。それでも選んでいただけているのは、本当にありがたいですね。

AIと向き合いながら描くビジョン

人間がつくる価値を探し続ける

3年くらい前から考え、実行にも移しているのが、AIは無視できないということです。社員たちはAIエージェントのスキルを活用し、再現性を持って制作しています。映像などまだ足りない部分もありますけど、AIでつくれるようになるのは時間の問題だと思っているんです。だからこそ、人間がつくる価値はどこにあるのかを探し続けています。現時点では、実際に撮影へ行くことや、現場でクライアントとどうコミュニケーションを取るか、人間だから引き出せる言葉などを大事にしています。頭を使い切って、体も使う仕事ですね。

雑談も大切に

AIで省力化できた分、社内では毎朝10分でもいいから雑談の時間を持つようにしています。雑談から生まれるアイデアもたくさんあるので、人間らしい仕事を重視しているんです。Slack(スラック)でも「AIみたいな返事をしちゃダメだよ」と伝えています。人間として愛される部分も大事なんですよね。向こう5年くらいは、AIをベースにして作業効率をあげて、人間にしかできないクオリティに拘る制作会社を目指していきたいと考えています。

頭の中を言語化して共有する

現在は私を含めて5人の少数精鋭で、撮影や編集は業務委託の方にもお願いしています。社員の半分は、クリエイティブの質はすでに私以上のメンバーです。若手や中途で入ったメンバーに向けては、できる人の頭の中にあるクリエイティブの考え方や「これはちょっと違う」という感覚を、いかに言語化してデータベースにするかがとても大事だと考えています。それをAIで辞書のように引き出せるようにしたうえで、各人の個性を混ぜていく。人を増やして量産する体制ではなく、ある程度の属人性は残してもいいと思っているんです。

「なぜか見られない」に備える

これは私の予想ですけど、コロナ禍でみんながYouTubeに挑戦して、うまくいかなかったフェーズがありました。同じことがAIでも起こると思っています。AIでいろいろなものがつくれるようになり、手元で動画もつくれる。でも、なぜか再生回数が伸びないという現象が起きてくるはずです。そこで、我々の経験をもとに、見てもらえる企画づくりに力を入れています。

密着とスポーツに注力する理由

最近とくに力を入れているのが、新卒社員やベテラン営業マンの密着など、ドキュメンタリーの制作です。人間が問いかけてリアクションが返ってきたり、ちょっとしたハプニングが起きたりする様子は、人間にしか編集できない。そこをコンテンツとしてとても大事にしています。また、野球などのスポーツという、人間が熱狂するコンテンツにもリソースをかけているんです。プロ野球選手の近本光司さんと私でポッドキャスト番組「チカブレンド」を制作しているのもそのひとつです。

学生へのメッセージ

思ったことは貫いたほうがいい

先日、大学生から「大学のレポートでAIを使うことをどう思いますか?」と質問されたんです。その学生は「自分は使わない」と考えていたものの、同じ学部の周りは「AIを使わないなんてありえない」という雰囲気だったそうです。私の個人的な意見ですけど、「そのまま行け」と伝えました。使わないなら、使わないことを前面に出したほうがいい。自分がそう思うのであれば、貫いたほうがおもしろいと思うんです。

SNS・AI時代に尖るために

私が学生だった頃より、SNSもAIもずいぶん発達しました。アプリを開けば新しい情報があり、AIに聞けば正解のようなものがどんどん出てくる。そんななかで、自分の考えが影響されて曲がってしまうことが増えていくと思います。「それってSNSの情報だよね」「AIの情報だよね」となると、おもしろくないし尖らなくなってしまう。みんなが同じようなものをアウトプットし始めるので、自分がこれでいいと思ったものは、間違っていようがそのまま突き進んだほうがいいと思います。

ポッドキャストで伝えたいこと

弊社では「チカブレンド」というポッドキャスト番組を、阪神タイガースの近本光司選手と2人で配信しています。野球のノウハウではなく、考え方について話す番組です。近本選手は毎年結果を出している選手。その秘訣は技術ではなく考え方にあるとわかったので、そこを深掘りしています。考えすぎだと周りに言われても、自分で深く考えて結論を出す時間をとったほうがいい。そんなメッセージに、学生からもたくさんのお便りと共感をいただいています。

「自分の色」を乗せてほしい

今、私が大学生だったら「AIは勘弁してくれ」と思うかもしれません。企業が新卒を採らなくなったというニュースを見て、不安に思う人もいるはずです。でも、そこはすべて無視して尖ったほうがいいと思います。AIを使うことはまったく問題ありません。大事なのは、そこに自分の色が乗っかっているかどうかです。

人間にしか出せない味を

だからこそ、それ以外の「味」が大切になります。ここで言う「味」とは、AIが整えた「正解」からはみ出す、その人固有のクセや行動のこと。

すごく行動力があるとか、支離滅裂だけどなんか憎めないとか。そういう人間にしか醸し出せない部分を、よいものとしてアピールしてほしいですね。サッカーや格闘技などのスポーツは、たぶん100年くらい変わっていないですよね。変わらないのは、残したいと思う人たちがいるからです。ロボット同士の格闘技には、きっと熱狂できない。なぜ人は応援して騒ぎたくなるのか。そこにAIには真似できない何かが隠れていると、私は信じています。

編集後記

私自身、大学のレポートでAIをかなり活用しているので、学生の質問のエピソードにはドキッとしました。竹内さんのお話で印象に残ったのは、AIを否定するのではなく、使いこなしたうえで「自分の色が乗っているか」を問い続ける姿勢です。英語学習のYouTubeから起業し、コロナ禍をきっかけに事業を転換してきた歩みそのものが、周りに流されず自分の選択を貫いてきた証のように感じました。私も自分が熱中できるものに、なぜ心が動くのかを深掘りしながら、自分だけの「味」を見つけていきたいと思います。