広告代理店を出て、仲間と会社をつくる
一人でやったほうが早かった
会社を立ち上げた理由ですが、もともと私は広告業界で10年ほど、2社の広告代理店で経験を積んでいました。平たく言うと「自分でやったほうが手っ取り早い」と感じたのがひとつのきっかけです。それに加えて、広告業界で働いている間に、やりたいことがいろいろと出てきたこともあります。弊社は関係先がとても多い会社なので、そうした仲間と手を組んで、いくつか事業を展開していこうとなったときに、会社を立ち上げたほうが自由にできるだろうと考えたのが立ち上げの経緯です。
社名の五文字を頭文字にした事業
メイン事業である広告業の部分で動いているメンバーは少数精鋭。ホームページを見ていただくと分かるとおり、広告業とは別に、現在3つの事業を展開しています。
「Star-Tar」と「Ha-Ne」、「I-Bushi」の3つです。この3つにはルールを決めていて、必ず弊社と別の事業者が組んで展開すること、利益や売上げもきれいに折半するようなビジネスモデルにすることにしています。それぞれの事業の頭文字が、実は弊社の社名である「Shido」の頭文字にあわせてつくられています。
残る2つは今、計画中で、順次展開していく想定です。本業と近い部分の事業ではあるのですが、外部とやっていくほうが相互に発展できて面白いと思っているんです。弊社では「ギルド型」と呼んでいるんですが、一人で事業をやりたいというより、それぞれが独立して仕事ができるチームが、いくつか結びついて事業展開していく形を大切にしています。相互に刺激しあいながら事業展開を図れるので、リスクヘッジにもなりますし、なにより面白いと思ってやっています。
舞台と研究のあいだで見つけたもの
大阪大学で役者の技術を学問にした
学生時代は研究者を目指していた時期もあって、大学院は文学系の研究科まで進学しました。大学は大阪大学ですね。ただ正直に言うと、文学そのものにはあまり興味がなかったです。研究内容と学外の活動が重なる部分があり、当時、ミュージカルをする団体を運営していました。私たちの世代はオタク文化がかなり盛り上がっていた時期で、ミュージカルは一回やると300万円から400万円ほど飛んでしまうんですよね。そのお金を稼ぐ必要があったので、アニメや漫画のキャラクターショーのようなパフォーマンスチームもつくって、パフォーマンスイベントに出演することでその予算を稼いでいました。一番大きな舞台では、埼玉スーパーアリーナで開催されていた大型イベントにも出演しています。私自身は舞台監督として関わっていましたし、当時は見よう見まねでデザイナーみたいなこともやっていたので、ビジュアルをつくったり、照明・音響関連を取りまとめたりということをやっていました。もともとは趣味からはじめたことでしたが、収益化ができそうだと感じて、研究はほどほどにそちらの活動に力を入れるようになりました。
舞台の技術を自閉症の研究に
大学院の研究では色々とやっていましたが、そのうちの一つは舞台、とくに役者のノウハウを、自閉症の患者さんの治療に活かす研究をしていました。自閉症やコミュニケーションに障害を持つ方は、いきなりコミュニケーションが難しくなるわけではなくて、自分の容姿に自信が持てなかったり、恥ずかしい気持ちが先に立ってしまったりと、いくつものハードルが重なっているケースが多いんですよね。それを一つひとつ細かく分析して取り除いていくと、急に話せるようになることがあります。これとちょうど真逆のことをしているのが、実は舞台の役者です。たとえば「おはようございます」というセリフに、手を振るという動作を足し、さらに足元を見る、目の前のリンゴを取るという動作を重ねていく。役者はこうしたハードルをどんどん増やしていくと、急にできなくなってしまう。それを自然にこなせるようにトレーニングします。普段私たちが自然に話しているときも、実はものすごく多くのことを同時にこなしているんですよね。そのいくつものファクターを意識的にこなしながら自然に見せられるのが上手な役者だと思っています。自閉症の方が置かれている状況はこれと同じで、逆にハードルを一つひとつ減らしていってあげることで、あるタイミングで急に話しやすくなる瞬間があります。たとえば自分の容姿に自信が持てず、吃音になってしまう方が、着ぐるみを着ると話せるようになることがありました。自分の見た目が分からない状態になると、それが気にならなくなって、一つのファクターが消えるんですよね。最初は着ぐるみでも、次のワークショップではお面にしてみる、その次はサングラスだけにしてみる、というふうに段階を踏んでいくと、解消できるケースがいくつもありました。コミュニケーション分野と臨床心理学を主な専攻にしながら、舞台やパフォーマンスの経験と結びつけて研究していました。
授業を通して向き合う課題
採用より、一緒に走れる仲間を
今おこなっている事業は、非常に大きく膨らんできている状況です。ですので、採用というよりは、一緒に仕事ができる仲間を探しているような感覚に近いです。
言葉より行動で伝えたい
課題として悩んでいるのは、弊社の理念や方針をどう伝えるかという部分です。深く考えているのですが、なかなかうまく人に伝わらないと感じることがあります。弊社はお客様の会社にかなり深く入り込んでいく事業をおこなっているのですが、社員さんが100人ほどいらっしゃる会社でも、全員が前向きに仕事をされているいい会社もあれば、20人や30人くらいの方がなかなか積極的になれなかったり、仕事に前向きになれなかったりするケースもあります。そうした方にもコミットして、働いて成果を出すことが面白くて楽しいこと、そして自分がやっている仕事が会社のためであり、社会のためになっていることを、ちゃんと伝えられる動きができればいいなと思っているのですが、うまくいかないと感じる日もあります。毎日面白くないと思いながら働いても仕方がないと思うんですよね。ただ、社会に出るとお金を稼がなくてはいけないので、なんとなく働いている人もいます。それってもったいないんじゃないの、というのを言葉で伝えることも大切ですが、一緒に仕事をしていく中で、弊社の従業員やパートナー先が、一日の活動のなかで誰かを元気にしようと動けていたら、365日でかなりの数の人に影響を与えられるはずです。そういう捉え方ができたほうがいいと思っています。
これからの時代を生きる学生へ
経営者は一番ハードルの低い職業
今の学生さんに向けて伝えたいのは、「とりあえずやってみたらいい」ということです。失敗してもなんとでもなります。私自身も山ほど失敗していて、その積み重ねのうえで、少しだけ面白い仕事ができているだけなんですよね。経営者というのは、実は最も簡単になれる職業です。法務局に紙を出して、株式会社であれば最初にお金を少し入れるだけで、20万円もあれば経営者になれます。ならない理由がないんですよね。やらない理由はいくらでもつくれてしまいますが、日本の社会の仕組みから考えても、経営者になるのは、それほど難しいことではないと思っています。雇われたいと思って就職するよりも、自分が経営するならこうしようと思いながら仕事をした方が、楽しいのではないでしょうか。全員が経営感覚を持っている会社は本当に強いです。
明日なにをするかで人は変わる
面接をしたり、一緒に働く人を見たりするときに、私が必ず聞くのは「明日なにをしますか」という質問です。それをやり続けたら、1か月後、3か月後、1年後、5年後、10年後にどうなっているのかというところまで聞きます。理想の自分の姿が具体的に見えていれば、そこにたどり着くために今なにをするべきかも見えてくるはずです。どういう自分になりたいかという理想像と、それを実現するために今日、明日、明後日なにをするか。この両輪が大切だと思っています。
AIの時代に考えていること
浮いた時間をどう使うか
今、私たちの仕事は、AIとどう付き合っていくかというテーマに直面しています。事務的な作業はほぼAIに置き換わりつつありますが、お客様の悩みは、まだそこに至る2歩ほど手前のところにあることが多いんですよね。AIやさまざまなツールを導入すると、これまで100の力が必要だった仕事が、20ほどの力でできるようになり、80ほどの余力が生まれます。そのときに、余った力を別の事業に回したり、新しい仕事をつくったりするのが、まともな経営者だと思っています。逆に、余力が出たからといって人を切ろうと考えるのは、よくない経営者です。お客様の会社でもこのあたりの整理がうまくできていないケースが多いので、新しい仕事をつくるお手伝いと、業務の圧縮・効率化を両方おこなっていくことに、大きな需要があると感じています。業務効率化そのものよりも、効率化したあとに浮いた時間をなにに使うか、会社にとって次になにをすればもっと良くなるのかが見えていないケースが多いんですよね。そこを一緒に考えるだけで、事業として成立すると思っています。
編集後記
今回、鈴木さんにお話をうかがって、経営者という選択肢がぐっと身近に感じられました。とくに印象的だったのは「経営者は最も簡単になれる職業」という言葉です。就職か起業かで迷うことの多い私たち学生にとって、行動することの大切さを改めて教えていただいたように思います。明日なにをするか、それを積み重ねた先に理想の自分がある。そんなシンプルで力強いメッセージを、これからの就職活動にも活かしていきたいです。