インタビュー

「見えない九十九時間」から始まった、研究者のためのAI

「見えない九十九時間」から始まった、研究者のためのAI
PROFILE
株式会社ToraPlan 代表取締役
勝山伸哉

外国語学部から、ITエンジニアという選択

伸びている領域で勝負したかった

大学では外国語学部にいました。専門とは違うんですけど、これから伸びていく業種はどこかなと考えたときに、ITエンジニアという職種にたどり着いたんですよね。うっすらと自分で事業をやってみたいという気持ちは中学、高校の頃からあって、まずは伸びている領域で力をつけようと思いました。

最初に入ったのは千代田化工建設という会社です。プラントエンジニアリングの会社で、エネルギーを商業用に使えるようにする工場を建てるような事業をやっていました。私はそこでITエンジニアとして、データ分析基盤の構築や、Webアプリケーションの開発を担当していました。

三社で身につけた「作る力」と「売る力」

その後、コンサルティングファームのB&DX株式会社に入り、IT系のプロジェクトを中心に二、三年ほどコンサルティング業に携わりました。最後は自分で将来起業したいという思いがあったので、よりスタートアップに近い環境をと考えて、株式会社BizDBというSaaS企業に入社しました。

BizDBはCEOとCTO、そして私という三人体制の会社でした。事業開発として営業やマーケティングを担当しながら、最後の方はサービス開発にも入ってエンジニアとしても手を動かしました。開発から売っていくところまで一通り経験できたので、自分で起業しようと思い、今年の3月11日に株式会社ToraPlanを創業しました。

研究者の「見えない九十九時間」

申請業務に費やされる膨大な時間

現在は科研費の研究計画調書の作成と添削をAIで支援するサービスを開発、提供しています。これまで研究計画書は研究者自身が作成し、添削は人手の添削会社や大学の研究支援部に依頼するのが一般的でした。ところが研究資金の申請業務に、研究者は五年間でおよそ九十九時間を使っているという実態があったんですよね。だからこそ、研究計画書を自動で作ったり、自動で見直しができたりする仕組みが必要だと考えて開発しました。

弁護士の一言から生まれた着想

この課題に気づいたのは去年の12月頃です。前職の取引先だった弁護士の先生が、ある国立大学と関係が深く、研究者ともよく話す中で、科研費領域の申請業務が煩雑だという話を伺ったのがきっかけでした。それを聞いて、この領域に取り組もうと決めました。

AIで研究計画調書を「つくる」「直す」

汎用AIとの違いはプロンプト設計

裏側で使っているAIは、ChatGPTやGeminiといった一般的な生成AIと同じもので、独自に学習させたものではありません。違いはインプットの設計にあります。申請書はこう書くべき、審査ではここが重要といったドメイン知識を、システム側のプロンプトとしてあらかじめ標準で組み込んでいます。だから初めて申請書を書く研究者でも、自分の研究内容を入力するだけで、審査のポイントを踏まえた計画書ができたり、そのポイントから外れていないかを添削したりできるんですよね。

Wordへの出力までを一気通貫で

作れる人とドメイン知識がある人がチームにいれば、ある程度ちゃんとしたものはできてしまうので、差別化は正直難しいと思っています。それでも強みになるのは、研究計画書を自動作成して、Wordのテンプレートに出力するところまで一気通貫でやる部分です。チャット上でやり取りして指摘事項が出てくるサービスは他の領域にもありますが、それを実際のWordファイルに添削として反映したり、新規のWordファイルとして出力したりする、最終アウトプットまでの利便性が強みになると思っています。

一人で走り出した先行利用期間

医学から文系まで、十数名の声を聞く

研究計画という領域を扱う以上、アウトプットの正確さはとても繊細な部分です。先行利用の最初の打ち合わせでも、文系の研究計画書は開発できても、医学や工学、理学の分野で使えるのかと疑問を持たれる先生がいらっしゃいました。自分だけではその出力をすべて確認しきれていなかったので、そこをどう担保するかが難しさでもありました。

そこで先行利用期間を設けて、医学研究や科学研究、経済学、経営学など、さまざまな領域の研究者10名ほどにご利用いただき、フィードバックを集めました。アウトプットの品質やUI/UXの向上は、この期間を通じて取り組んできたことになります。

今年度の研究計画調書にも対応して7月23日にプレスリリースを出してから、すでに40名以上の研究者にご利用いただいております。

AI研究計画書作成・添削「ToraPlan」

これから目指す景色

科研費対応の幅を広げる

今後の展望としては、まず科研費の申請書作成、検索の対応範囲を広げていきたいと考えています。研究種目は研究者の属性によって応募できる区分が異なり、若手研究から予算規模の大きな基盤研究まで、全部で十から十五ほどある中で、今対応できているのは四つほどです。

研究DXコンサルティングという二本目の柱

もう一つ取り組みたいのが、研究DXのコンサルティングです。AI For Scienceという言葉が政府からも打ち出されていて、AIを研究領域に活用していこうという機運が高まっています。汎用の大規模言語モデルにも研究活用に向いたものが出てきている一方で、それを大学全体で導入するインフラの土壌はまだできていません。そこを導入しやすい環境にする支援も、今後やっていきたいことのひとつです。

濃淡をつけられる人と働きたい

今はまだ私一人の体制です。大学への営業活動をしに行くとなると開発に手が回らなくなってくるので、将来的にはエンジニアとも一緒にやっていきたいと思っています。

活躍してほしいのは、物事にかける時間やコストの濃淡をつけられる人です。たとえば社内向けの資料と対外向けの資料では、かけるべき時間は違うと思っています。社内向けは要点が伝わればよいのでドキュメントやWordで十分ですが、対外向けはそれ自体が成果物になったり、企業としての見え方に関わったりします。物事の重要性に応じて、そこにかける時間やコストを柔軟に変えられる人が、自分の考え方にも合っていると思います。

学生へのメッセージ

「今の正解」は変わっていく

私は今28歳で、来年29歳になります。私が大学生だった2020年頃は、ITエンジニアが伸びていく職種だとよく言われていました。実際に私もそこに興味を持って進みましたが、その後AIが出てきて、コーディングだけに秀でている人材の市場価値は下がってしまい、世の中で求められる能力は結構変わってきています。

今見えている世界だけで判断しても、それがずっと将来正しい選択になるとは限らないんですよね。だから無理に悩みすぎるよりも、就職先などを決めた後は、今いる環境で頑張ることの方が、環境が変わっても活躍できる人材につながると思います。どこに入るかも大事ですが、入った後の方がより大事になってくると、市場が変わっていくこれからは、より感じています

編集後記

取材を通して、勝山さんの「課題ドリブン」な姿勢が印象的でした。研究者の九十九時間という数字に着目し、たった一人でサービスを立ち上げてしまう行動力に驚きます。今見えている正解にとらわれすぎず、環境の中で頑張り続けるというメッセージは、進路に悩む学生にとって、大きなヒントになるのではないでしょうか。私自身も学生起業を志す身として、勝山さんの実行力を見習いたいと感じました。