インタビュー

新卒で叶わなくても、道は消えない——出版不況をくぐり抜けた代表が語る、遠回りのキャリア論

新卒で叶わなくても、道は消えない——出版不況をくぐり抜けた代表が語る、遠回りのキャリア論
PROFILE
ヴィヴァルディ・インク株式会社 代表取締役
脇谷 怜生弥

紙からウェブへ、いち早く舵を切った出版社での経験

私はもともと、株式会社サイゾーという出版社にいました。取締役まで務めさせていただいたのですが、コロナより前の時代は、まだニュースメディアといえば紙が主流でした。出版社にいても、ウェブの方にうまく振り切れない企業はとても多かったんです。

そんな中で株式会社サイゾーは、紙からウェブへの転換がとても早かった会社でした。その当時、そこで大きく成功できた、ちょっと稀有な存在だったんですよね。

紙の出版ばかりをおこなっていて、どうやってウェブに転換していいかわからないという出版社は当時すごく多くて、私たちはいち早くウェブに移行していたので、そういった企業からの相談がたくさん来ていました。

業界を横につなぐ思いが独立の原点に

出版業界は、横のつながりがとても深い業界です。もともとどこにいた、どこにいた、というふうにみんなが循環しているような感覚があって、その中で「業界をもっと盛り上げていきたい」という思いが芽生えました。

株式会社サイゾーのビジネスとして展開することはもちろんですが、それよりもう少し広い意味で、出版社のウェブ化支援を始めたのが、今の会社の前身になります。その後もずっと事業を続けていく中でいろいろな会社とお付き合いするようになり、独立という形で今に至ります。

Webメディアの伴走者として

今の事業内容を一番わかりやすくいうと、Webメディアの運用支援になります。編集の方は文章を書いたり企画を立てたりすることに長けている方が多いのですが、そこから先の「作った記事をどう広げるか」「どうやってメディアを育てていくか」というインターネット周りの部分は、また別の専門性が必要になってきます。

リソースが足りない会社であれば、記事執筆そのものをお手伝いすることもありますし、編集会議に参加して、どういう記事や企画を展開していけばよいのかを一緒に考えるところまで踏み込むこともあります。それが今の主な事業です。

情報は「二年で古くなる」という危機感

情報を届けるという仕事は、ずっと続けているからこそ実感していることがあります。それは、時代の流れに沿った届き方を、常に変えていかなければならないということです。

コロナ前まではニュースアプリで記事を読むのが当たり前でしたが、今はもう若い方を中心にそういった読み方をしなくなってきています。2年もすれば情報のかたちそのものが古くなってしまうんですよね。だからこそ、私たち自身が情報を常に刷新していかなければならない。これはこの業界にいて、なかなか大変な部分だと感じています。

AIとどう向き合うかが今の課題

情報を刷新するということは、技術も同時に変わっていくということでもあります。二年前、AIを実際に触っていた人はごく一部だったはずです。それが今ではこれだけ当たり前の言葉になっている。この二年間で大きく変わってきたところで、時代に常に合わせていくことが、今の業界全体の大きな課題だと感じています。

ずっと文章を扱ってきた人間からすると、AIで書いた文章は一発でわかります。人が書いた部分とAIが書いた部分では、やはり癖が出るんです。百パーセント見抜けるとまでは言い切れませんが、七、八割は見抜けると思います。だからといって使うなとは思いません。ただ、その使い方について、まだ誰の中にも明確な基準ができていないというのが正直なところです。

紙もウェブも、出版を盛り上げたい

事業に対するビジョンは、やはり出版業界を盛り上げていくというところから始まっていて、その思いは今も変わりません。まだ実現できてはいないのですが、ウェブだけでなく紙の方にまで支援を広げて、業界全体を盛り上げていきたいと考えています。紙がなくなるということはないはずなので、将来的にはそちらまで支援できるようになりたいですね。頭の中ではいろいろと構想があるのですが、まだ実現できる規模ではないので、今は少し眠らせている段階です。

遠回りの学生時代

私は社会に出るのが人よりも遅かったんです。大学院に三年通っていて、そこでは言語学の英語音韻論を学んでいました。今も文章の世界にいるからか、言葉の構造そのものがすごく好きだったんですよね。

音楽と勉強を両立した二十代

大学院を出た後は、しばらく予備校の先生をしていたので、社会に出たのは27歳くらいのころでした。学生時代からヴァイオリンとドラムをずっと続けていて、音楽で食べていくことも考えながら、大学院で勉強もしていたんです。結局そちらの道はうまくいかず、就職しようと決めたのが、今の仕事につながる最初のきっかけになりました。

新卒で入れなくても、道は消えない

経由して入る道もある

当時はまだ出版社が花形の時代で、私自身、現役の学生のころは大手出版社に入ることができませんでした。ただ、社会人になって経験を積み、ある程度の自信と知識、実力がついた状態で転職をすると、同じ企業にすんなり入れたりすることがあるんです。

新卒でいきなり目標の企業に入るのがベストなのは間違いありません。ですが、そのぶん倍率はとても高くなります。だからこそ、何かを経由して入るという道があることも、ぜひ知っておいてほしいと思います。一発目で入りたい企業に落ちたとしても、それは悲しむことではありません。

起業したい人へ、資金の話

もし将来、起業したいと考えているなら、国の制度を活用してほしいとも思います。学生のうちからやりたいビジョンをしっかり持っていて、それが実現するかどうかはさておき、そこに至るロジックが自分の中にきちんとあれば、資金を出してくれるところは必ずあります。国の制度を使ってもいいので、変な消費者金融などに頼るのではなく、まずは国から借りられる道を探ってほしいです。

編集後記

今回、脇谷さんのお話をうかがって、印象に残ったのは「新卒で叶わなくても道は消えない」という言葉でした。私自身も就職活動をしている身として、つい「一社で決めなければ」と焦ってしまうことがあります。ですが、経由して力をつけてから挑むという選択肢があることを知り、少し肩の力が抜けました。条件よりも思いを大切にするという価値観も、これからの就職活動で忘れずにいたいと感じています。貴重なお話をありがとうございました。