インタビュー

「無駄でした。でもそれでいいんです」――好きなことに打ち込んだ日々は、無駄にはなっていない

ワイムシェアリング株式会社 代表取締役社長 石丸愼司
PROFILE
ワイムシェアリング株式会社 代表取締役社長
石丸愼司

興味の赴くままに学んだ日々

スペイン語や弓道…

私は東京外国語大学でスペイン語を専攻していました。なぜ外大だったかというと、やはり海外に興味があったからです。実際に社会人になってから海外駐在の機会にも恵まれ、それはそれでよかったかなと思っています。

ただ、ひとつ言えるのは、いま私が携わっている不動産関連の仕事には、スペイン語はまったく役に立たない。その意味では無駄でした。でも、それでいいんです。

学生時代というのは、やはり興味のあることを勉強する。その勉強すること自体が人間の深みを作り、人格形成につながる。ひとつのことに真面目に取り組むことが大事だと思います。

さらに言えば、学生時代はずっと部活で弓道に打ち込んでいたので、正直スペイン語の勉強も大してしなかったのですが、ひとつのことに打ち込むこと自体が、学生時代の過ごし方としてはアリなのかなと思います。

今の学生さんには、学生時代から就職を目指して勉強したり、資格を取得したりする人が多いようでそれは立派だと思います。私の場合は、特にそういうことは考えずに好きなことをやっていました。そして、その時間は決して無駄にはなっていなかったと感じています。

金融から空間付加価値ビジネスへ

旧安田生命時代と海外駐在

私のキャリアのスタートは、旧安田生命への新卒入社でした。現在は合併して明治安田生命保険相互会社となっていますが、当時の安田生命に40歳まで勤め、いわゆる「資産運用業務」ーー 株式や債券の売買を行う仕事ーーに就いていました。

海外事業にも携わり、これまで通算で約10年、ロンドンに3回、香港に1回駐在しました。最初に海外に出たのは入社2年目、24歳の頃です。これはもう明らかに大学の名前で配置を決めたなという異動でしたが、私自身も海外には行きたいと思っていたので、喜んで行かせていただきました。

海外では運用業務に加え、現地法人のマネジメントというか、経営のようなことも任されていました。2回目の駐在以降は、金融業界がいわゆる氷河期のような時代に突入し、若い方をあまり採用しなくなった中で、「昔行ったことがあるなら、もう一回行ってこい」のような感じで声がかかる。ありがたいことにそのサイクルにはまってしまったんですね。

古巣への帰還

旧安田生命を辞めた後、別の金融機関を経て、2024年にワイムシェアリングに入社しました。本家返りじゃないですけど、最初に勤めた旧安田生命の関連会社をルーツとする会社に、また戻ってきたという形です。

きっかけは、ロンドン駐在時代の直属の上司(現会長 佐藤)が我が社の前社長だったのですが、日本に帰国し、私が旧安田生命を辞めた後も、年に1、2回飲む機会があり、そんな中で声をかけていただきました。

ワイムシェアリングは、もともと旧安田生命の不動産管理会社が源流です。もうひとつの事業として、全国の支社に社用車の運転手を派遣する、自動車運行管理がありました。この不動産管理と自動車運行管理の二つが祖業となり、そこから徐々に領域を広げ、いまでは不動産関連では貸会議室、シェアオフィス、シェアハウス、個人向けワークブース、インドアゴルフ、さらには不動産仲介や建設・デザイン、自動車運行管理では営業車のライドシェアなど 、事業の幅がどんどん広がっています。

私が携わってきた金融業務とは全く異なる分野でしたが、役員としてこの会社に入社したので、経営や企画、内部管理といった、どの会社にも共通する部分で声をかけていただいたのかなという気はしています。ただ、不動産というのは意外と金融と似ているところもあるんですよね。株式を買えば配当金をもらって、値上がりすれば売る。土地を買えば地代が入ってきて、値上がりすれば売る。比較的、土地勘のある世界ではありました。

安定と挑戦が生む成長

70年の蓄積が支える基盤

弊社は創業70年以上の歴史があります。 長い歴史に裏打ちされた過去の蓄積が厚く積み上がり、それが安定した経営につながっています。

そして、この安定した経営基盤があるからこそ成長分野に積極的に投資し挑戦できる。そして挑戦するからこそ、次の新たな安定を生み出せる。そういった良いサイクルが弊社の強みだと考えます。

さらに、事業の特性から言っても 、貸会議室やインドアゴルフはいわゆるサブスクビジネスのようなもので、定期的な収入が見込め、これも資金面では心強い味方であり、広い意味での強い経営基盤につながっています。

インドアゴルフという広がり

空間の価値を高めてお客様によいサービスを提供するーーこれが弊社の根幹です。シェアオフィスもシェアハウスも貸会議室も全てそうですが、この考えを仕事や生活空間だけではなく、エンターテイメントの分野にも広げようと始めたのがインドアゴルフ事業で、2022年から本格的に展開しています。

特に近年、温暖化の影響で酷暑日が年々増加しており、夏場は炎天下でプレーするよりも、冷房の効いた個室で涼みながら楽しみたいという需要が増えてきました。

また、インドアゴルフは環境変化に強く、例えば雪国で冬場はコースに出られないという状況下でも、屋内で快適な環境で練習できると好評を博しています。

直営とフランチャイズをあわせて全国展開しており、移り変わるさまざまなニーズに対応できていると実感しています。

未知の分野で挑んだ経営計画

指名された驚きと決意

私は、2026年4月に社長に就任いたしました。正直、わたくしとしては想定外の事態で非常に驚きました。弊社が上場を目指す中で、企業統治や内部統制等管理体制の強化が必要な時期にあり、私のこれまでのキャリアで経験してきたことが評価され、今回の指名につながったのではないかと思います。いずれにしても、指名された以上は全力でやろうと決意しました。

地道に一つずつ潰す

就任前後、最も大変だったのは、中期経営計画の策定でした。今後3年間でどの事業にどれだけ投資するのか、人の配置はどうするのか、そもそも会社をどういったかたちに持っていくべきか。根本的に考え直さなければいけない時期で、私にとってはまったく未知な分野の仕事でした。

大きな仕事には抜け道というか、手っ取り早くやる方法はありません。地道に各部署と共同して、疑問を一つずつ潰していくしかありませんでした。ビジネス面での成長だけでなく、上場企業にふさわしいリスク管理体制やコンプライアンスもきちんと整えていく内容でしたので、非常にハードルの高い仕事でした。

それでも、着実にひとつずつ片付けていき、なんとかかたちにできたと思います。非常に刺激的で、いま振り返れば面白い経験でした。

「上場」は通過点

会社としてのビジョンは、きれいごとになるかもしれませんが、空間付加価値の提供を通じて人と社会の役に立つということです。お客様がここを使ってよかったと思える。従業員もこの会社で働いてよかったと思える。地域や社会からも、この会社があって助かると言われる。そういうかたちの会社にしていきたい。

上場も視野に入れておりますが、あくまでひとつの通過点であってゴールではない。上場で得られる知名度や信頼感を高めて、より高い価値をお客様に提供していく。これをビジョンとしてやっています。

学生の皆さんへ

脳にも筋トレが必要

若い方々にひとつ申し上げるとすれば、やはり”深く考えるということを大切にしていただきたい”なと思っています。いまはAI全盛の時代で、聞けば何でもすぐ答えが返ってくる便利な世の中になっている。それでも、やはり自分の頭で考えて、細かいところまで突き詰めて、問い続けることが、自分の力になります。脳細胞というのは結局、筋肉と一緒だと私は思っています。使わないとどんどん衰えていく。筋トレをやるのと同じように、脳もトレーニングをした方がいい。

ふと、学生時代にもうちょっと勉強しておけばよかったなと思うこともありますが、勉強は社会人になってもできるので、やはり学生時代は自分が好きな、”これ”と思うことに注力していくのが一番いいのかなと思います。

編集後記

石丸社長のお話の中でとくに印象的だったのは、「でも、”それで”いいんです」という言葉でした。スペイン語を学んだことが不動産の仕事には役立たなかったとおっしゃりながらも、その経験に確かな意味を見出されている姿が心に残りました。金融の世界から畑違いの空間活用ビジネスへ飛び込み、地道にひとつずつ課題を解決していく姿勢は、「深く考える」というメッセージそのものを体現されているように思います。私自身も学生団体の活動に打ち込んでいる身として、目の前のことに真剣に向き合い、自分の頭で考え抜くということを大切にしていきたいと強く感じました。