薬学部から MR へ、そして起業へ
会話好きが選んだ営業の道
大学は薬学部に 6 年間通ったんですけど、正直あんまり真面目に授業を聞いてたっていうわけじゃなくて(笑)。1〜3 年生はバイトに時間を使って、4 年生から研究室に入ってからは夜中の 2 時まで勉強するような日々でしたね。
薬学部というと薬剤師を目指すイメージが強いと思うんですが、東京理科大学みたいなところだと半分くらいは一般企業に進むんですよ。研究職、開発職、営業、そういう選択肢の中で、自分は話すことが好きだったし、どこが一番稼げるか考えた時に「まず営業かな」と思ってMR(医薬情報担当者)の道に進みました。
大学時代からあった「事業を作りたい」という衝動
実は大学 2 年生の時に、経営者が集まる MBA の講義に参加する機会があって、そこで「いつか事業を 1 つ興してみたい」という思いが芽生えたんです。MR として現場を回りながら、本社業務をこなしながら、ずっと頭の片隅で考え続けていました。
「医療のDX化サービスを開発することで、世の中を変えられるんじゃないか」って漠然と感じていて、最初は紹介状のデジタル化から入ったんですよ。先生の手書きって読みづらかったりするので、それを電子化したらどうかって。でも結局「誰がお金を払うのか」という問いに行き当たって。必要なものと利益を生み出す構造は違うんだって、そこで痛感しました。
シリコンバレーで気づいた「夢だけじゃ届かない」
海外で相手にされなかった現実
ブレイクスルーになったのが、経済産業省のプログラムでシリコンバレーに行った時のことです。20 人で参加したんですけど、半分は自然と人が集まってくる人たち、残り半分は自分から話しかけにいかないといけない人たちって感じで分かれてしまって。私はもちろん後者でした。
「それ、ビジネスとしてお金になってるの?」っていう観点しかないんですよ、海外の人って。日本にいると「いいじゃん、面白いじゃん」で流れていくんですけど、そこでは全然通用しなかった。そこで初めて気づいたんです。「世の中を変えたい」って大きなことを言っても、実現できなかったら意味ない。足元から、ちっちゃくでもいいから、まず稼げる仕組みを作ることが先だって。
そこから 4 回ピボット(事業の方向転換)を重ねて、「クライアントさんが喜んでお金を払ってくれるサービス」にようやく出会えたのが、今の事業につながっています。
医療×SNS×AI で、看護師不足に向き合う
現場を知るからこそ見えた課題
MR として全国の病院を回る中で痛感したのが、看護師不足の深刻さです。1 人の看護師さんにかかる負担が大きすぎる。その構造を変えないといけないというところが、私たちの起点にあります。
実は今、資格を持っているのに現場を離れた「潜在看護師」が全国に 70 万人いるといわれているんですよ。子どもが生まれたタイミングで離れたまま、という方が多いんですが、「戻ってもいいかな」という気持ちはある。ただ、ブランクがあると「ちゃんと動けるか不安」だったり、常勤でフルに働くのは難しかったりして、戻りきれないでいる方がたくさんいるんです。
SNS が潜在看護師に届く理由
そこで着目したのが SNS です。求人サイトって、「今すぐ職を探そう」と思っている人しか登録しないんですよ。でも Instagram なら、子育て中のお母さんでも普通に見ていますよね。
「そういえばちょっと気になるな」くらいの温度感でも届けられる。そこから受け入れ先の病院の体制を整えるところまであわせて支援することで、ブランクがある方でも無理なく現場に戻れる仕組みを作っていきたいと思っています。弊社ではこの考えをもとに、医療職専門の SNS 採用サービス「MEDICH(メディッチ)」を展開しています。
既存の人材紹介を変える AI マッチング
もう一つ、今動かしているのが看護師の AI マッチング事業です。看護師さんって生涯で 3 回ほど転職するといわれていて、そのたびに病院側が紹介会社に成果報酬の手数料を 25% 払っていたりする。1 人あたり 100 万円近くになることもあって、経営を圧迫してしまっているんです。
私たちは自動マッチングのサービスを開発して、その手数料を下げることを目指しています。「医療人材不足を採用から変える」というのが、この事業の軸です。
医療従事者だからこそ提供できるもの
弊社の主なメンバーは全員看護師や薬剤師など、医療関係者なんです。SNS 運用代行を請け負う際も、現場の隙間を縫って撮影スケジュールを組んだり、医療用語をそのまま理解して発信できたりする。「これ何ですか?」って聞き返す手間がない分、病院さんの負担を最小限に抑えられます。
現在、医療機関特化の SNS 運用代行では支援病院数がかなりの数になってきていて、「SNS ×医療×AI」というポジショニングで、メドエックスという名前を業界に根付かせていきたいと思っています。
医療業界の「当たり前」を問い直す
既存の「当たり前」を塗り替えたい
10 年後の目標を一言でいうなら、「潜在看護師さんが当たり前に働けている世界」を作ることです。以前、隙間時間で働くというコンセプトで世の中の働き方を変えたサービスがありましたよね。ああいうふうに、医療業界でも「ブランクがあっても無理なく復帰できる仕組み」が当たり前になるような社会を実現したい。
受け入れ側の病院の文化も含めて変えていく必要があると思っています。「看護師さんが一人でも多く現場に戻れれば、それだけ患者さんへのケアが厚くなる」という話なので、これは社会全体にとっても大事なことだと信じています。
学生へのメッセージ
無双状態を活かして「稼ぐ」経験を積め
学生って、実は無双状態なんですよ。時間もある、守るものもない。なのに「やらなきゃ」と思いつつ、行動できていない人がすごく多い。
私は 29 歳で独立して「若くして」と言われることがあるんですけど、むしろ私からすると学生のうちに動いていないのがもったいないと思っています。別に大きいことじゃなくていい。飛び込み営業でも、副業プラットフォームで案件を 1 本とってみるでも、100 円でもいいから自分の力でお金を稼ぐという経験を早くしておいた方がいい。
学歴より、そういう「市場で戦えるかどうか」という人材価値が、これからはもっと大事になると思っているので。
もし取材先の企業さんで「興味あるな」と思った会社があったら、インタビューの終わりに「無給でいいから少し営業させてください」くらいのパッションを見せてみてください。そういう人、社長はみんな好きですよ(笑)。
編集後記
今回お話を伺って、右高さんの言葉の中で一番刺さったのは「夢ばかり語っても意味ない、足元をちっちゃく変えることから始めろ」という言葉でした。シリコンバレーで「それ、ビジネスになってるの?」と問われた経験がベースにあるからこそ、その言葉には重みがあると感じました。医療という専門性と、SNS・AI という先端技術を掛け合わせる発想は、業界を内側から知っているメドエックスにしかできないことだと思います。学生時代の「無双状態」というフレーズも印象的で、自分ももっと積極的に行動しなければと背中を押していただきました。右高さんが目指す「潜在看護師が当たり前に働ける社会」が実現する日が、少しでも早く来てほしいと感じるインタビューでした。