インタビュー

「境を越える」ことが、人生を豊かにする——貿易商社・フクミ三代目が語るAIと越境の未来

更新: 2026年5月31日
PROFILE
株式会社フクミ 代表取締役
和泉隆治

理系出身、営業志望。遠回りが引き寄せた貿易の世界

兄が継ぐものだと思っていた

私は二人兄弟の弟なんですよね。だから基本的に、うちの会社は兄が継ぐものだと思っていました。自分自身も明治大学の理工学部で、家業とは全然関係ない方向に進んでいたし、学生のころはそんなことを考えていなかった。週6で学校に行くような理系生活でしたから。

理系×営業で100通落とされた

勉強すればするほど、研究者じゃないなと感じるようになって。そこから「営業がやりたい」と思うようになったんです。ところが当時って、理系が営業職を探すと、門が本当に狭いんですよね。私はバブル崩壊後の第2次ベビーブーマー世代で、人数は多いのに業界は引き抜くような時代じゃなかった。エントリーシートを100通ぐらい送ったと思うんですが、ほとんど断られて。理由はほぼ「理系だから」それだけ。今だったら考えられないですよね。

商社でドイツのレーザーを売る日々

それでも縁があって、理系を取ってくれる商社に入ることができました。そこで配属されたのが海外とやりとりをする部署で、ドイツ製のレーザー応用機器を輸入して販売する仕事だったんです。外国の方と接して、最先端の製品に触れる。「日本にはないけど、これ知ってる?」みたいなことが言える仕事で、すごく面白かった。外国の人と仕事してる自分、ちょっとかっこいいなっていう気持ちも正直あって(笑)。

展示会でスカウトされ続けた理由

展示会に出ていると、お客さんだと思って話していたら最後に名刺を渡されて「実は人材のスカウトで」というのが多かったんですよね。外資系の会社からも声がかかることが多くて。商社で海外とやりとりしている社員って、スカウターからすると絶好のターゲットなんだと思います。そういう声がいろいろかかってきたタイミングで、父親に転職の話をしたら「だったらうちに来ないか」と。そのときに初めて、真剣に考えたんです。

レーザーとレーザーポインター、つながった糸

商社で扱っていたのは半導体製造や理化学実験に使われる大型のレーザー機器でした。父の会社・フクミがやっていたのはレーザーポインター——プレゼンや会議で使う、あの小さなやつです。同じ「レーザー」を扱っていたというのが、なんか不思議な縁だなと感じて。しかも海外でものを作って日本で販売するという貿易の仕事をしていた。自分がやってきたことと重なって、どうせ転職するなら父の会社へ、と覚悟を決めました。

貿易商社の仕事——オーケストレーターとして動く

レーザーポインターが飛ぶように売れた時代

今の学生さんにはOHPって馴染みがないかもしれないけど、昔は透明なフィルムにマジックで文字を書いて光で投影するのがプレゼンの主流だったんですよね。それがプロジェクターに変わって、会場が大きくなるほど指示棒では届かなくなった。だからレーザーポインターが「飛ぶように売れた」時代があって。台湾のパートナーと一緒に盛り上げた商品で、今もその出会いが自分にとって大きいですね。

仕入れるのは東南アジア、売るのは日本

欧米の方がコンセプトは先進的で、それを東南アジアがコピーする。だから機能的には十分なものが驚くほど安く手に入る。当時の中国製品はまだ品質への疑問もあったけど、「こういうものを探してたんだよ」って喜んでくれるお客さんが本当に多かったんです。貿易商社だからこそ見つけられるものがあって、そこが面白かった。今では中国製品なんて当たり前になりましたけどね。

私たちはオーケストレーター

貿易って、現地の人、ものを作る人、船を動かす人など、いろんなプレイヤーがいるんですよね。それを全部調整して、お客様のところまで無事に届ける。かっこよく言えば「オーケストレーター」みたいな仕事です。目に見えない付加価値だけど、それが商社の面白さだと思っています。

AI時代の貿易——「一億総貿易マン」を目指して

AIに没頭しているこの1年

この何十年か仕事をしてきた中で、こんなにときめいたことはなかったかもしれないと思っています。うちはサービス業なので、ずっと「標準化」が課題でした。でも組織の中では属人化がどうしても横行してしまう。そこに今までにないレベルの「助っ人」が現れた感じがするんですよね、AIという。一回教えれば間違えることもない。作業という作業を全部撲滅できれば、みんなもっと楽しい組織になるんじゃないかって、すごく予感がしています。

AIは「部下」、人間は創造的な仕事だけをする

AIのせいで仕事がなくなるって不安に思う若い人も多いと聞きますが、私は逆だと思っています。やりたくない仕事はAIに全部やってもらえばいい。人間が人間たるべく創造的な仕事が、作業に埋没してできていない状況を、AIが変えてくれる。これからは本当に楽しい仕事しか待っていないんじゃないかって思っています。今年がシンギュラリティと言われる時代の真っただ中にいるような感覚があって、すごく面白い1年になると思っています。

「一億総貿易マン」というビジョン

貿易を複雑にしている理由のひとつは情報量の多さ、つまり書類なんですよ。それをデジタル化してデータを抽出・構造化すれば、貿易は格段にシンプルになる。英語で書いてあっても大したことは書いていないわけで、それをわかりやすく見せてあげれば「じゃあまた貿易してみようかな」って普通のお客様も思うようになる。裏の小難しいことはAIがやって、みんなが貿易できる環境——「一億総貿易マン」じゃないけど、そういうプラットフォームを作っていきたいと思っています。

学生へのメッセージ——手に職をつけ、境を越えろ

学生のうちに海外を旅してほしい

社会人になると時間的な制限が増えるから、学生のうちにやっておくべきことは、できるだけお金を貯めていろんな場所に行って、いろんなものを見ること。海外に行くとより刺激がある。アメリカでも台湾でも韓国でもフィリピンでも、「日本じゃないところに行く」というだけで人生が変わると思っています。近くて安い東南アジアを侮らないでほしいですね。行かずに語るのはもったいない。

「就社」じゃなく「就職」をしなさい

息子にも言ったんですが、会社に入るという感覚で就職してしまうと、その会社を出た時に何も残らない。やはり手に職をつけることが大切だと思っています。マーケティングの職人でもいいし、それで言えば——これは自分自身がそう思っているから言えることだけど——経営者という仕事は本当に面白い。どんなに小さくても一国一城の主になること。学生起業だって、やれる環境があるならぜひやってみてほしい。失敗しないとわからないことも多いですから。

編集後記

和泉社長にお話を伺って、「貿易ってかっこいい」という印象が大きく変わりました。私はどこか「難しそう」「自分には縁遠い世界」と思い込んでいたのですが、社長の言葉を聞いていると、貿易とはまさに「越境する力」そのものなのだと気づきました。AIで書類処理が自動化されれば、もっと多くの人が貿易に関われる時代が来るかもしれない。そしてAIへの向き合い方についても「楽しい仕事しか待っていない」という言葉が印象的で、不安で萎縮しがちな私たちの世代に対するエールのように感じました。越境に怖気づいている場合じゃないですね。