インタビュー

ごみを運ばず、燃やさず、資源化する。JOYCLEが挑む分散型インフラという未来

ごみを運ばず、燃やさず、資源化する。JOYCLEが挑む分散型インフラという未来
PROFILE
株式会社JOYCLE 代表取締役社長 CEO
小柳 裕太郎

もともとは大企業で事業を作りたかった

もともとは商社に入って、5年ほど化学品の営業をやっていました。そのあと人材ベンチャーに移って、営業で成績を出せていたので新規事業をやりたいと思ったんですけど、なかなか希望が通らなくて。じゃあもう一度大企業で新規事業に挑戦しようと思って、広告大手の電通に転職したんです。そこでは面白そうと思って希望したインフラ事業の立ち上げを担当することになりました。

ただ、大企業のなかで新規事業をやるのも、リソースの確保のために社内調整がとても大変でした。将来的には自分で事業をやりたいという思いと、いろいろな経験を重ねるなかで環境エネルギーの分野での事業を、社内よりも市場と向き合う中で作っていきたいという思いが、どんどん強くなっていきました。

死後百年後の社会を変えたい

環境エネルギー分野に惹かれた理由は、大きく三つあります。まず、日本からグローバルに出られる何かをやりたかったこと。そして、自分が死んだあと、百年後の社会を変えられるようなソリューションを残したかったこと。一度きりのトレンドではなく、ずっと必要とされるテーマを探すなかで、環境エネルギーはずっと大事だと言われ続けるジャンルだと感じました。

そこに、日本の地方が抱える課題がそのままグローバルにも通用するのではという視点が重なって、この分野なら数十年ワクワクし続けられるんじゃないかと思ったのが、最初のスタートです。

JOYCLE BOX誕生の裏側

環境エネルギー分野のスタートアップへの投資や事業立ち上げをおこなうU3イノベーションズに入って三年ほど、どんなテーマで事業をやろうかを考え続けていました。そのなかで気づいたのが、分散型のごみの資源化インフラのニーズがとても大きいのに、世の中にまったく出ていないということでした。

最初は既存の装置にIoTセンサーを付けてデータを可視化するだけで良いと思って、プロトタイプの「JOYCLE BOARD」を作るところからスタートしたんです。でも、そもそも装置に課題が大きな業界だということがわかったので、IoTセンサーによってデジタル化された装置を自分たちで作らなければいけないと気づいて、「JOYCLE BOX」の試作機を作りました。

一次炉と二次炉で燃やさず資源化する

仕組みとしては、一次炉と二次炉の二段階になっています。一次炉では200度から500度ほどでごみの熱分解をおこないます。酸素濃度がとても低いので、炎は発生しません。二次炉では、出てきたダイオキシンや一酸化炭素を800度から1,000度ほどで加熱して、水蒸気だけを外に出します。加熱はどちらも電気でおこなっているので、臭いも煙も音もなく、炎も出ません。ほかの装置にありがちな排水の大量排出もないです。

電化したうえでデータを可視化しているので、そのデータを使ってオペレーションを楽にしたり、メンテナンスの計画を立てたりできます。この制御まわりの技術については、知財の出願をどんどん進めているところが、私たちの特徴のひとつです。

分散型インフラという発想

「分散型インフラ」という言葉は、廃棄物の分野に限った話ではありません。焼却炉は老朽化と少子高齢化が進んで数が減っているので、遠くまで運ばなければならないのに、運ぶドライバーがいないというロジスティクスの問題が起きています。

太陽光パネルによる再生可能エネルギーや、水道管の老朽化にともなう水インフラの維持なども同じ構造の課題を抱えています。分散型のインフラがなければ、故郷を諦めるか、みんなで都市に集まって暮らすしかなくなってしまう。水や電気の分野ではすでに分散型のプレイヤーが出てきていますが、廃棄物の分野、つまり「静脈産業」には、まだほとんどいませんでした。そこに目をつけたのが、私たちです。

北海道と沖縄、二つの実証実験地

出身である北海道にいた時期が長いんですが、札幌市内の病院から出た感染性廃棄物を、上富良野まで片道3時間かけて運んでいるという事例を聞いたことがありました。北海道は陸路が遠い。逆に、実証実験をおこなった沖縄の竹富島のような場所では、船でごみを運ばなければならず、海路が遠いという問題があります。

北海道のモデルはそのままアメリカやアフリカのモデルに近くて、沖縄のモデルはそのままインドネシアやフィリピンのモデルに近い。日本は地政学的に特徴のある地域が多いので、日本国内でしっかり実証すれば、海外のマーケットにもフィットするサービスが提供できるはずだと考えています。

環境を前面に出さない理由

サステナブルな領域の事業だと、マネタイズが難しいという声をよく聞きます。私自身は、環境という価値を前面に押し出すのではなく、「ごみを運ばなくて済むのでコストが安くなる」「その上に環境にも優しい」という新しいインフラのサービスとして打ち出すようにしています。

環境を押し出しすぎると、多少コストをかけてでも環境にいいことをしようという動きが強くなって、売上が伸びず、資金調達も難しくなるスタートアップが多いように感じています。私たちも裏側では資源循環やCO2削減に取り組んでいますが、まずしっかりコストカットや、アップサイクルによる利益を創出できるインフラであること。使う人に喜びが生まれて、その結果として勝手に環境にもいいことになっている、という順番のほうが、普及も資金調達もしやすいという仮説で進めています。

レンタルとデータ可視化で長期運用に耐える

JOYCLE BOXは売り切りではなく、データの可視化とメンテナンスをセットにした月額制のレンタルサービスにしているのが特徴です。類似の装置は売り切りが多く、いつの間にか使えなくなっていてもメーカーのサポートが受けられなかったり、メンテナンスに海外から部品を取り寄せて時間がかかったりと、リピーターが生まれにくい業界だったと感じています。

私たちはデータを可視化しながら適切にメンテナンスを実施するところまでをサービス化して、長期の運用に耐えられるオペレーションに育てていくことを、まずは初期の大きなテーマにしています。現在は試作機の一号機で二年ほど実証実験を重ねていて、この二年で十基ほど製造し、一緒に実証実験をしたいという販売パートナー候補の企業とともに、これから二年ほどかけて実装を広げていく想定です。

ラストワンマイルの先にある未来

会社として目指しているのは、「ごみ処理のラストワンマイルといえばJOYCLE」と言われるようなインフラです。そのための一つのソリューションとして考えているのが、特許出願済みの「JOYCLE SHARE」という構想です。

いまは一回の投入で数十kgのごみを3〜5時間かけて処理していますが、これがいずれ十分ほどで処理できるようになると見込んでいます。そうなれば、一つのエンドユーザーに一台を設置するのではなく、街のなかをぐるぐる回りながらシェアできるインフラにしていけるはずです。

ごみ置き場のごみの重量やかさをセンシングして、一定量たまったら、一番近くて稼働率の低いJOYCLE BOXをマッチングして回収し、その場や走行中に資源化する。できれば発電もして、電気自動車の動力源にも回す。そんな新しいモデルを、自動車メーカー様とも連携しながら実現しようとしています。

月面のごみ処理も視野に

このインフラは、世界中の離島や地方で当たり前に走り回るような存在にしていきたいと思っています。救急や災害の現場でヘリコプターや船に載せて持っていけるように超コンパクト化することも考えていますし、さらにその先には、月面で人が暮らすようになったときのごみ処理をしながら炭化物を提供するインフラとして活用頂く構想もあります。酸素の少ない環境でも処理できて、デジタル制御もできるJOYCLE BOXなら、まだ世界にリーダーがいないこの領域も狙えるのではと思っています。

学生へ ― 起業をキャリアの選択肢に

人生は短くて一度きりなので、やりたいことをやったほうがいい。それはそのとおりなんですが、企業に属していれば安心だという考え方自体が、リスクになってきている時代だとも感じています。

私たちのようなスタートアップでなくても構いません。どんな人でも、プレースタイルを問わず起業すべきという時代が、もうすぐそこまで来ていると思っています。私自身、大きな会社、百人以上のベンチャー、四人規模のスタートアップと、いろいろな規模の組織を経験して、副業や業務委託も経験したうえで起業しました。副業などを重ねながら経営者になっていくのは、意外と再現性のあるキャリアだと感じています。

ファーストキャリアで大企業を選ぶかスタートアップを選ぶかは、人によって考え方次第です。ただ、どこかのタイミングで起業を人生のキャリアの選択肢に入れておくことは、誰にとっても考える価値があると思っています。私たちのように、静脈産業というエッセンシャルな領域に若い人がどんどん入ってきてくれることで、国力も上がっていくはずですし、大きな可能性がどんどん広がっていくと思います。そのようなグローバルに可能性のあるフィールドで、若い方にはぜひ活躍していただきたいですね。私も負けじと頑張ります!

編集後記

今回お話をうかがって印象的だったのは、「環境」を前面に出さず、コストメリットで勝負するという小柳さんの考え方です。サステナブルな事業はどうしても理念先行になりがちだと思っていましたが、収益がしっかり出る仕組みがあってこそ普及していくという発想に、経営の視点の鋭さを感じました。月面のごみ処理まで見据えた壮大な構想と、それを支える地に足の着いた事業設計のバランスに、スタートアップらしい面白さを感じるインタビューでした。