インタビュー

ケニアの警察組織で柔道を教えた男が、世界を舞台にする人材紹介会社をつくるまで

ケニアの警察組織で柔道を教えた男が、世界を舞台にする人材紹介会社をつくるまで
PROFILE
タリスマン株式会社 代表取締役
盛内 文雄

Youtube:
 https://www.youtube.com/c/TalismanCorporation

原点

就職氷河期を生きた学生時代

学生時代は、正直に言うと就職難に近い状態でした。自分自身がどういった仕事に就きたいのか、それほど具体的な思いは持っていなかったんですよね。ただ、海外に行って何か活動したい、という漠然とした気持ちだけはありました。

そんな中で出会ったのが、JICAの青年海外協力隊プログラムです。ケニアの警察官候補生に現地で柔道の指導をする、という話が舞い込んできて、そのまま現地に飛び込むことになりました。将来のビジョンがあってその道を選んだというより、何も決まっていないところで自分の力を試してみたい、そういう漠然とした思いのほうが強かったです。

ケニアで柔道を指導した日々

現地では、警察の組織の中に入って柔道を教えていました。当時はインターネットもパソコンもあまり普及していなかった時代です。情報がかなり遮断されている環境の中、しかも柔道の指導プログラムを自分で組み立てながら進めていくという、初めてづくしの経験でした。

言葉も通信環境もない中で

コミュニケーション面でも、まず英語自体をそれほど話したことがありませんでしたし、現地の生活で使われるスワヒリ語も初めてでした。社会インフラも十分に整っていないため、水が出なくなるといったこともありましたね。現地の習慣についても、日本とは違う難しさを感じる場面がありました。日本のように、時間を守るという概念自体があまりない環境です。物事を進めようとするたびにフラストレーションも溜まりました。前に進めたくても進められない。そんな悔しさを味わったこともあります。その中でどう前に進めていくか、というところに向き合い続けた日々でした。

転機

人のためにできる仕事を

帰国後のキャリアは、実はいろいろと複雑な経緯をたどっています。ケニアの任期終了後、改めて現地で柔道の普及活動ができないか。そんな道も探してみたのですが、なかなか切り開けませんでした。ケニアも柔道も一度置いて、人のために何かできる仕事がしたい。そう思ったときに選んだのが、人材紹介や採用業務代行の仕事です。最初は会社員として、その業界に飛び込みました。簡単なトレーニングを受けてすぐにOJTに移行、成果を出さないとどうなるかわからない、という環境で働くことになったので、そこはチャレンジでしたね。外資系の人材企業だったので社内も社外のお客様も外国人であることが多かったのですが、外国人と仕事をすること自体には、その時にはもう慣れていた感覚があります。

 

ビジネスを育てる面白さ

外資系企業で働く中で、ビジネスを成長させることの面白さを体感できました。振り返ってみると、ケニア時代から、何もないところから物事をつくっていくことにやりがいを感じていたんですよね。そのビジネスをつくっていく感覚をもう一度追いかけたいと思い、2012年にこの会社をスタートしています。

タリスマンという会社

候補者と企業をつなぐ両輪

弊社のビジネスには、求職者を集める面と、採用する企業を見つけてくる面、両方の側面があります。求職者は日本人・外国人を問わず。企業側は、最初は外資系企業が中心でしたが、いまは国内企業もだいぶ増えています。それでも、海外に展開している企業様とのお付き合いが多いですね。

グローバルな社内環境

そのような経緯もあり、弊社は外国人が多い組織です。社員の出身国数は累計で10か国、今まで転職の相談を受けた求職者の出身国は212の国・地域に及びます。
インド拠点運営という難しさ

いまは日本だけでなく、インドにも拠点があります。インドはインド人だけの組織で運営していて、ビジネスに関連する法律も違えば、慣習も違います。遠隔からビジネスを見ていくという意味でも、日本の状況とは全く違う難しさがありますね。また、ビジネスの大枠はこちらで作りますが、実際に現場で考え手を動かしているのは現地スタッフです。そうした中で互いを理解し補完し合いながら、オペレーションを回していくことは大変でした。 

理想と現実のギャップ

創業当初は、理想と現実のギャップが大きく、とにかく目の前のひとつの成約が片づいたら、また次の成約に向けて動いていく。そのくり返しでした。お金を稼ぐこともオペレーションを回すことも、最初はすべて自分でやらなければならなかったので、そこは大変でした。

 

強みと採用

参入障壁は専門性でつくる

競合として挙げるとすれば、外資系の採用支援会社になります。ただ、専門職・バイリンガルという領域で尖らせることによって、できるだけ参入障壁をつくり、他社が入ってきにくい状況をつくっています。加えて、RPOというお客様の中に入り込むサービスと、人材紹介というサービス、このふたつを掛け合わせているところも、弊社の特色だと思っています。

仕事を通じて学べる専門性

弊社に入ってもらえれば、仕事をしながら専門性を身につけていくことができます。求職者や企業の採用課題に向き合うことになるので、付加価値の高い転職支援や採用支援を、実際の業務を通じて学べる環境だと思います。新卒で入社して、人材紹介、RPOの業務経験を経て、外資系企業のインハウス人事に就く。そのような当社の卒業生の方も多く、採用、人事系のキャリアパスを描いている方の入社も多いですね。

バイリンガルでなくても歓迎

一緒に働く仲間としては、専門分野を学んでいく姿勢や、サービスで貢献するというところをバリューとして掲げているので、そこに合う方を探しています。バイリンガルであればもちろんいいのですが、いまはできなくても、そういう環境の中で働きたいという方も大歓迎です。実際、そういうメンバーもたくさんいます。

AIとの向き合い方

効率化はAIに、対話は人に

会社の取り組みとしては、世の中から優秀な人材を探してくるサーチやヘッドハンティングのマッチングを、AIの力を借りていかに効率的にできるかを考えています。業務全般の効率化も同じで、AIに任せられるところは任せて時間を短縮し、人とのコミュニケーションや提案といった、機械では測れない部分にこそ集中していく。そういう取り組みを続けています。

これから

社員が幸せに成長できる会社に

私が理想としているのは、社員が自由度を感じながら仕事をでき、仕事に満足し、幸せになること。また、自分も社員も一緒に成長していくこと。それが大きな目標としてあります。 

国を限定しない海外展開

いまはインドの拠点を少しずつ大きくしていっているところです。その先に次の展開ができるのであれば、まだまだ広げていきたいという希望はあります。東南アジアなど地域を限定するつもりはなく、世界中どこであっても、という思いです。

若い世代へ

当事者意識を持って動く

いまは何でも手軽に調べられる時代です。起業しようと思えばできますし、インターンをしようと思えば様々な業界や職種を経験できる時代でもあります。そのような時代だからこそ、当事者意識を持つことは非常に重要だと思っています。弊社もお客様の立場に立って、お客様が成功するためにどうしたらいいかを日々考えていて、成果が出なければ使っていただけなくなるかもしれない。そういうプレッシャーの中で仕事をしています。条件面だけを見て就職先を選ぶ方もいるかもしれませんが、経験から得られる「通用するスキル」に早く自己投資したほうが、その後の就業期間が長い分、リターンは大きくなります。ショートカットや条件のよさだけで選ぼうとせず、当事者意識を持って実行し、アウトプットする経験を重ねてほしいと思います。

プレッシャーとのバランス

若いうちにやっておいてよかったことを挙げるなら、やはりケニアでの経験です。旅行で行くのと、実際に生活するのとでは、見える景色が全く違います。ケニアでも外資系企業でも、かなりプレッシャーがかかる場面がありました。人間はどうしても、リスクを避けようとする傾向があるものです。だからこそ、リスクやチャレンジの裏側にあるチャンス、いいところもきちんとバランスを持って見ていく必要があります。実際、プレッシャーに負けたり、周りの環境のせいにして出て行ってしまったりする人を、何度も目の当たりにしてきました。そうならないためにどうしたらいいか。マイナスとプラスのバランスを取りながら前に進む姿勢は、あのころの経験から学んだことだと思っています。

編集後記

就職氷河期に「海外に行ってみたい」という思いひとつでケニアに飛び込み、警察組織の中で柔道を指導するという経験から、いまのグローバルな人材紹介事業につながっていく道のりが印象的でした。当事者意識という言葉が、単なる根性論ではなく、お客様への責任として語られていたのが印象に残ります。効率化はAIに任せ、人にしかできない対話に集中するという姿勢も、これからの働き方を考えるうえで参考になりました。