エンジニアから経営者へ、そして新規事業へ
二代目としての就任
私は今、株式会社キーシステムの代表取締役として会社を経営していますが、もともとはソフトウェアエンジニアとしてシステム開発をずっとやっていました。弊社は今期で35期目を迎えるのですが、創業したのは私ではなく父親なんです。私自身は二代目という立場になります。
指定難病という原体験
新規事業を始めるきっかけになった原体験は、20代の頃に潰瘍性大腸炎大腸炎といういわゆる指定難病を患ってしまったことです。運動だとか食事だとか、どれか一つだけ気をつければいいというわけではなくて、やはりストレスの管理も含めて、健康的に総合的なバランスを取ることが大事なんですよね。それらを全体的、包括的にサポートすることを目的にしたサービスとして、ヘルステック事業を立ち上げたのが始まりになります。
AI時代に、なぜハードウェアなのか
開発の内製化が進む時代
原体験だけがすべてではなくて、会社は常に時代の変化にあわせて変わっていかなければいけないという考えもあります。今何が起きているかというと、皆さんご存じのとおりaiの台頭ですよね。私たちもソフトウェアを書く際にコーディングエージェントを使っていますが、これからのai時代において、開発会社や制作会社というのは、いわば知的生産活動のアウトソース先でしかなくなっていきます。だからこそ、どんな会社も開発を内製化できるのが一番よいはずなんです。
フィジカルな喜びに向き合う
ハードウェアをつくることと、人間のフィジカルな部分、つまり体やヘルスケア、健康増進というのは、人が実際に感じられる喜びに直結する領域だと思っています。それが弊社としてこのサービス展開を始めた理由のひとつでもあります。
「MYAKU」が生み出す二つのプロダクト
スマート縄跳びという選択
最初からスマート縄跳びをつくろうと思っていたわけではなく、もともとはウェアラブルデバイス、スマートバンドやスマートリングをつくろうと考えていました。ただ健康管理は体の状態を知って睡眠をよくするだけでは不十分で、やはりトータルでの管理、運動状況とのバランスが必要になります。運動を効率的におこなえるアイテムとして注目したのが、縄跳びでした。ボクサーがよくやっているように、縄跳びは運動強度が高くて効率がよいんですよね。ターゲットは忙しい都会のビジネスパーソンで、自宅でも取り組めるように、ロープが出てこないタイプに切り替えができる設計にしています。アルミニウム合金製で高級感のあるモデルもご用意していて、Makuakeで先行販売をおこないました。9月からは一般販売を開始する予定です。
画面のないバンドという発想
もうひとつのプロダクトが、画面のないタイプのスマートバンドです。軽量化と省エネルギーを意識してつくっていて、1回の充電で約30日ほど持続します。デバイス自体も14gと軽く、24時間着用してもストレスがありません。最近は通知に追われるデジタルノイズを遮断しながらも、裏側ではしっかりとバイタルを計測しています。レム睡眠や深い睡眠といった睡眠の状態、ストレス、心拍や心拍変動のデータまで取得できるフィットネストラッカーです。こちらは9月から先行販売、冬頃に一般販売を開始する予定でいます。
リングとの違い
リング型のデバイスもよく話題になりますが、仕組みも目的もバンドとほぼ同じで、違いは手につけるか腕につけるかというところです。私自身どちらも着けているのですが、リングはセンサーが入っているぶんそれほど薄くできず、指に触れる感覚が気になることがあります。バンドは肌に触れる面積が少ないぶん、あまり気にならないんですよね。加えて躯体が大きいので、より大きなバッテリーを積めるという利点もあります。1回の充電で30日ほど持つのは、その恩恵でもあります。
一つのアプリで一元管理
ハードウェアと連携するのが、アプリ「ヘルストレーナー」です。運動や睡眠だけでなく、メンタルや血圧、食事の栄養バランスまで一元管理できるようにしていて、aiトレーナーというキャラクターが一人ひとりの健康の悩みに寄り添うというコンセプトでつくっています。プロダクトとしてはハードウェアとソフトウェア、そしてaiの三つを組み合わせた形になっています。
ハードウェアづくりの参入障壁
電波法という壁
Bluetoothのアイテムをつくるとなると、国内の電波法への配慮が欠かせません。加えてBluetoothを管理している団体からの認証も必要で、これがなかなかの費用がかかるんです。代理店や代行を挟んで進めることが多いのですが、電波法の手続き自体は20万円ほどでできる話が、認証まで含めるとその10倍ほどの費用になってしまいます。こうしたところは、実際にやってみて初めてわかることでした。
輸入と法対応
デバイスの生産は中国でおこなっているので、日本に輸入する際にもさまざまな障壁があります。個人の宅配便のような形では送れず、輸入時の税関対応なども必要になります。さらにヘルスケアのサービス自体、薬機法をはじめとした法律にも配慮しながら進める必要があり、ひとつずつクリアしていく大変さがありました。
大変さは強みになる
ハードウェアのデバイスをつくるのは、権利や法への準拠、開発費用など、とにかくお金がかかります。私たちはソフトウェアの会社なので開発自体は自分たちでできる部分もありますが、それでも大変です。ただ、この大変さこそが参入障壁になります。参入障壁が高いところでビジネスをしたいという思いもあったので、大変であった反面、今後は自分たちの強みになっていくと感じています。
日本発のヘルステックとして
海外製ばかりの市場で
我々が第一に打ち出しているのは、日本発信のヘルステックだということです。ウェアラブルアイテムやフィットネスデバイスは、アメリカであればアップルやfitbit、Garmin、もう少し価格帯の低いものだと中国のxiaomiなど、海外製ばかりなんですよね。ヨーロッパのメーカーも一部ありますが、日本のメーカーはほとんど見当たりません。だからこそ日本人の体や感覚に合うアプリ設計を意識していて、あえて親しみやすいキャラクターを用意したりしています。日本発のヘルステックとして頑張っていきたいという想いが強いです。
エコシステムを目指して
今後もヘルスケアに使えるアイテムを増やしていきたいと考えています。今はひとつのアプリですべてのプロダクトを使える設計になっているので、たとえばマラソンやランニングをする方向けのバンドなど、今後も広げていけたらと思っています。バンドに限らずリングという選択肢もありますし、ソフトウェアと各種プロダクトでエコシステムを築いていくことが、大きな目標のひとつです。
販路と、これからの展開
D2CとB2B2Cの両輪
販路をどう築くかというところでは、まずD2C、私たちがメーカーとして自社のecやamazonを使って直接販売していく方法があります。あわせてb2b2c、つまり小売店や量販店への卸、そして健康経営サービスを提供している企業との連携も進めていく予定です。少しずつ販路を広げていきたいと考えています。
学生へ伝えたいこと
誰のためかを意識する
仕事に関して私が大事にしているのは、人のために何か貢献できるサービスや事業をつくるということです。会社として事業をおこなう以上、そこには必ず目的があるはずで、その目的が「誰の、何を解決するのか」ということを常に意識しながらサービス設計をするようにしています。本業のソフトウェア開発では、目の前にクライアントがいて、そのお客さまの事業にどう貢献できるかがすべてです。ソフトウェアやサービスは、あくまでお客さまにとってのツールでしかないので、その先にある課題解決という部分を大切にしています。ヘルスケア事業はコンシューマー向けのサービスですが、同じように自分自身の原体験として感じてきた課題があったからこそ、同じ悩みを抱える方に向けたサービスをつくれば、使い心地のよいものになるはずだと考えながら、日々の事業づくりに取り組んでいます。
編集後記
今回インタビューをさせていただき、ハードウェアづくりの裏側にある苦労を初めて知ることができ、とても勉強になりました。電波法やBluetooth認証、輸入時の税関対応など、目に見えない部分にこれほどの工数がかかっているとは思いもよらず、実際につくる人にしかわからない大変さを実感しました。日本発のヘルステックという軸を貫きながら、着実に一歩ずつプロダクトを積み上げていく姿勢に、多くの学びをいただきました。あわせて今後の展開も、ぜひチェックしていきたいと思います。