インタビュー

消耗戦から抜け出し、日本の防災で世界を先駆ける

消耗戦から抜け出し、日本の防災で世界を先駆ける
PROFILE
株式会社SAKIGAKE JAPAN 代表取締役/CEO
近藤 宗俊

塗るだけで命を守るテクノロジーを、世界へ

弊社は日本の防災・環境適応テクノロジーを海外へ展開する、商社兼コンサルティングのような会社です。海外だけでなく国内でも事業をおこなっており、インドネシアや台湾、中東、サウジアラビアなど、さまざまな国とお取り組みをさせていただいています。直近ではインドネシアとカザフスタンへ行きましたが、さらに台湾との大きなミーティングも控えています。こうしていろいろな国と、日本のテクノロジーをつなげているのが弊社の事業です。

塗るだけで耐震補強ができる

「塗るだけで耐震補強ができる特殊な耐震塗料」や「蓄光(ちっこう)塗料」などを提供しています。蓄光塗料とは、光がない場所でも夜間12時間にわたって光り続け、それが10年間も持続するというテクノロジーです。

山間部や郊外など、人が減って新たに電柱を建てられないけれど暗くて道が悪い通学路に、この塗料を道路脇に置いていただくといった活用ができます。今は電気代も高く、電柱を建てればメンテナンスコストもかかりますが、「一度置くだけで10年間メンテナンスが要らない」というのは、大きな価値だと思っています。

耐震塗料については、日本よりも海外で広く普及しています。最近ではフィリピンやインドネシア、ベネズエラで大きな地震がありましたが、地震対策は世界中の課題になっています。

消耗戦を抜け出し、海外に活路を見出した

リクルート時代に感じた違和感

前職では株式会社リクルートにいました。リクルートのサービスは基本的に国内でトップのポジションにいて、国内マーケットで第2位と争うようなビジネスです。それ自体は悪くないのですが、なかなかイノベーションが生まれず、価格競争や消耗戦に陥ってしまうケースが多いと感じていました。

私としては、限られた市場での消耗戦に陥るのではなく、海外で新しいマーケットを見つけ、外国のお金をきちんと日本に持ってきて、ものやサービスをつくるメーカーに資金が戻るモデルをやりたいと考えました。それによって日本の産業基盤が強くなり、新しいサービスが生まれていくエコシステムを作りたかったんです。 

農業や教育、インバウンドなどいくつか事業領域を探した中で、防災は「日本に強みがあり、かつ海外からも強く望まれている分野」でした。これから需要が爆発的に伸びるだろうという見立てもあり、防災に目をつけて起業しました。

大学で学んだ環境学が根っこにある

もともと大学では環境学を勉強していました。防災そのものを学んでいたわけではありませんが、地球温暖化などの環境問題に非常に興味があり、専門分野でもあったので、防災にかかわる気候変動については知見がありました。

脱炭素の取り組みは効果が出るまでに20〜30年かかります。それは大切な取り組みですが、その間にもたくさんの命が奪われたり、社会が不安定になったりすることも起こり得ます。であれば、私は「防災対策」のほうにシフトしたほうが、私自身のやりがいにもなるし、社会的にも望まれているのではないかと考えました。災害対策と気候変動は裏腹の関係にあるので、気候変動で得た知見を災害対策にうまく転用している形です。 

大学で学んだことがそのまま直接役に立つわけではないかもしれませんが、「自分が何者で、何を専門にしていくべきか」というアイデンティティの定義には、大学での学びがどうしても入ってきます。 

「誰がお金を払うのか」という災害対策特有の難しさ

災害対策分野でビジネスをする難しさは、「誰がお金を払うのか」がわかりにくいという点にあります。台風のような災害は、特定の人や地域だけに起きるものではありません。川の護岸工事や避難所の整備といった災害対策は公共領域になることが多く、ベンチャーがそこに入っていくのは簡単ではないんです。

そこで私が意識しているのは、「自社のプロダクトにこだわらない」ということです。お客さまは公共領域のこともあれば、「備蓄食を買いたい」「自宅を耐震補強したい」という個人のこともあります。

この領域はAIの進化などで商品開発のスピードも上がり、勝率も変わってきます。一つのプロダクトに懸けて頑張るというより、お客さまの要望に応じてプロダクトやサービスを組み合わせたり、形を変えたりできるほうがいい。マネタイズしにくいと思われがちな市場だからこそ、切り込み方に工夫が必要です。

ちなみに弊社の場合、お客さまの割合は民間が8割、自治体が2割ほどです。一般的にはこの逆が多いと思うので、少し意外に思われるかもしれません。

社名「SAKIGAKE JAPAN」に込めた思い

世界各地に「先駆け」をつくる

弊社の名前「SAKIGAKE JAPAN(先駆けジャパン)」には、日本の優れた防災テクノロジーや先進的な仕組みを、世界に先駆けて展開していくという意味を込めています。弊社は独自のプロダクトに投資はしていますが、一つのテクノロジーだけにどっぷり投資しているわけではありません。いろいろなテクノロジーをパートナーと連携しながら開発しています。

つまり「SAKIGAKE」という社名には、弊社だけでなくパートナーの皆さんが世界を先駆けるようなテクノロジーを展開できるチームになってほしいという思いも込められています。日本のテクノロジーをコアに、インドネシアの先駆け、台湾の先駆け、イギリスの先駆けというように、世界各地できちんと社会実装をしていける仕組みを築きたいです。 

実際に弊社では、海外から働きたいという声もたくさんいただいており、イギリス、ドイツ、カザフスタン、台湾、インドネシア、マレーシア、インドなど、さまざまな国のメンバーが活躍してくれています。日本のものを単に持っていくだけでなく、現地に合わせて調整し社会実装まで進める。結果として、社会や地域の「レジリエンス(強靭性)」を高めていけるような会社でありたいですね。 

AIで社会実装のスピードを上げる

今後さらに力を入れていきたいのは、展開のスピード感と質を高めていくこと、平たく言うとAIの活用です。AIエージェントも含めたテクノロジーを活用し、精度高く社会実装のスピードを上げたいと考えています。 

テクノロジーを使うことで国境の壁も取り払われますし、身近な例で言うと、日本で起きた災害の教訓や、災害時にリーダーシップを発揮した方の知見などは、そのままだと少しずつ失われてしまいます。そうしたものを集めてAIで補強し、発信できる形に整えていきたい。名もなきヒーローの経験や風化していく災害の教訓など、「ソフトの分野」も含めて社会に貢献していきたいと考えています。 

学生へのメッセージ

やりたいことをやったほうがいい

シンプルですが、「やりたいことをやったほうがいい」と思っています。自分がこうしたいと思っていても、社会的な評価や、友人や親の意見を聞くことで、本当は納得していないのに別の道を選んでしまうことは多々あります。 

ただ、迷っている時点で、選択肢の差はそれほど大きくないことが多いんです。だからこそ、自分の違和感や納得感を大切にして、自分が行きたいと思うほうへ一歩踏み出してほしいと思います。

もう一つ付け加えるなら、「逆張り」をしていくところにこそ本当の勝ち筋があると思っています。みんなが賛成する道は安定していますが、結局はみんなと同じような成果になってしまいます。みんなが賛成しているからこそ、「本当はこちらのほうがいいのではないか」という違和感が自分の中にあり、そこを狙いたいという気持ちが生まれるなら、挑戦してみたほうがいいです。 

若いうちの海外経験が根っこになる

学生時代にやっておけばよかったと思うのは、「海外」に出ることです。私は大学ではボクシング部で週5〜7のペースで練習をしたり、文系から理系に転部したり、起業の準備をしたりと色々な経験をしてきましたが、海外へのアプローチはあまりできていませんでした。 

現地の人と触れ合い、英語を使いながらコミュニケーションを取り、異文化の中で自分の意見を発信し調整する経験は、若ければ若いほどいい。人生は時間が戻らず、積み上げたものの上にさらに積み上がっていくものです。だからこそ、根っこの部分に「海外」という経験を早くから入れておくと、その先の選択肢が海外を含めたものに変わっていきます。

年齢を重ねるほど、海外に出るのはしんどくなり選択肢も狭まります。今の日本のGDPは世界全体の「4%」ほど。単純に考えれば、同じことをしても外には何倍もの規模の市場があります。「海外か日本か」という話ではなく、世界から見れば日本も海外なので、早い段階からグローバルな視点を持てるといいのではないかと思います。

編集後記

今回、株式会社SAKIGAKE JAPANの近藤さんに取材をさせていただきました。「消耗戦を避けて海外に活路を見出す」という発想の転換や、「誰がお金を払うのか」という災害対策分野特有の難しさへの向き合い方が非常に印象的でした。 「逆張りを恐れず、自分の違和感を大切にする」という言葉は、就職活動やキャリア選択に迷う私たち学生にとっても、背中を押してくれる大きなヒントになると感じます。「海外経験は早いほうがいい」という近藤さんの実感のこもったメッセージが、多くの学生読者に届いてほしいです。