鉄鋼マンから世界を飛び回る日々へ
神戸製鋼に入社
私は九州大学を卒業して、神戸製鋼所に入りました。国内販売と輸出部で鉄鋼関係の営業をやって、そこから七、八年ほど営業畑にいました。人事部を経てからの配属だったので、いわゆる現場の第一線に立って商売をしていた時期です。
カタールへ出向
その後、中東のカタールで国営の製鉄所を建設するというプロジェクトに、二年間出向することになったんです。ドーハに駐在していたんですが、あのころは土漠ばかりで、何もありませんでした。1977年のことですから、周りにはまだ水道・電気等インフラらしいインフラもなかったですね。
ドイツでスーパーカーに挑む
1979年秘書室広報係長として帰国した後、一貫して広報を担当しました。これが今の生業に繋がっていきます。1994年広報部長を経て、ドイツのデュッセルドルフに事務所長として赴任して、日欧のマスコミ関係も担当していました。そんな時に、地元でカーディーラーを営む友人が、「スーパーカーを1台造り、ジュネーブのモーターショーに出したら、カッコいい!と絶賛を浴びたので、これを商業化したいという日本人カーデザイナーがいる」と言う。私が「世界初の神戸製鋼製アルミシャーシー搭載スーパーカーを造らないか?」と誘うと是非そうしたいと乗り気!
そこで、イタリアのフェラーリと並ぶ世界的スーパーカーメーカーのランボルギーニに造ってもらおうと思い立ち、カーディーラーの友人に眼の前で電話してもらったら「じゃあすぐ来い」と言われましてね。5人乗りチャーター機でデュッセルドルフ空港からアルプス超えて飛んで行った! まるで「007」の気分だったことを覚えています。そこで、ランボ社長と意気投合し、「日欧ジョイントベンチャー スーパーカー商業化プロジェクト」が立ち上がり、私は、それに熱中したのです。
失敗して独立へ
1997年7月帰国して、そのベンチャー企業に入ったのですが、11月に山一證券が倒産して、金融不安が起きたんです。それでスーパーカープロジェクトも続けられなくなって、失業してしまいました。行くところがないので設立2年の未だ1本立ちしていないコンサルティング会社に勤め、広報経験を活かしてその立ち上げを支援しつつ中小企業経営を学び、2002年に独立したんです。そのときに最初の本を書きました。これが、中小企業やベンチャーのための広報に関する最初の本で、これ迄に20冊位出版して広報分野で生業しています。
しかし、元はと言えば、志があって独立したわけではなく、スーパーカーの事業で大失敗した、その慣れの果てが今の姿だと、いつも謙虚に思っています。決して褒められたものではないんですが、その失敗があったからこそ、今がある!のですから、失敗に感謝!の気持ちです。
広報とは何か
広報とは何か
大企業と中小企業とでは、広報の方法の異なる点はありますが、その本質に違いはありません。有名な大企業の社員は、誇りを持ち、自尊心というか自負心のようなものを同時に持てるのです。ソニーの社員、トヨタの社員というだけで、世界中の人が知っている。だから「ソニーの社員たるものは」という覚悟ができて、誇りを抱くので、いい仕事をしようとする。お客さまにいいサービスをしようとする。それが評判になって売上が上がり、お客さまが増えていく。しかも、自律心が強くなるので、悪いことをしようという気がなくなるのです。
自社の社長が大谷翔平選手だったら、社員や周りはどう思うか? を想定すれば理解は容易でしょう。 社員も顧客も、周りの誰もが、誇りを抱き、自信をつけ、自律心が芽生え、ビジョン実現に向けて情熱を持って躍動しようとすることでしょう。
このスパイラル的好循環を作ることが永続的企業に育てる広報の仕事です。メディアに取り上げられるには、お客さまの役に立つ商品やサービスを提供しないといけません。更に、一度取り上げられても、価値を高め続けなければ次はないのです。
この広報の本質は、どんな企業規模・分野でも不変です。
金より情熱費
広告やCMは、お金で買ったものです。ところが、広告費は有限なので、お金の切れ目が縁の切れ目! 派手に一億円、二億円かけてテレビコマーシャルを打っていた会社が、パタッとやめてしまうと、「業績が悪いんだな」とすぐわかってしまい、逆効果です。だから続かない。
私が強調しているのは、金(カネ)から価値(カチ)への転換です。マネーからバリューへ! メディアの人たちは、社会やお客さまの役に立つことを記事にする。つまり、企業とメディアとは、社会やお客さまという同じゴールを見て、役立とうとしている協力者なのです。
一般に、広告には広告費が必要だが、記事は“タダ”と言います。私は、タダではない。広告のように広告費はいらないけれど、代わりに「情熱費」つまりPassion Feeがいると大声で主張しています。これは私が作った言葉です。自分の商品を我が子のように愛して、それがきっと社会の役に立つという確信を持って伝える。その情熱こそが、記者の人にも読者にも伝わるのです。情熱費は、汲めば汲む程、泉のように湧いてくる。しかも、次第に濃くなる。更に、追っかけになる…正に、“片思い”と同じなのです。この価値は、お金には到底換算できません。 “人心を動かすのは情熱である”ことを肝に銘じておきましょう。
人間の体と会社の組織
人体と組織は同じ
私の独自独特独創(3独)の思想は、人間の骨格や体の仕組みと、会社の組織を重ねて考えることです。指先が触れた情報は脳に伝わって、脳が判断して指を引っ込めさせる。会社も同じで、現場の社員が得た情報を幹部が判断して、指示を出す。人も会社も情報で生きているのです。しかし、指先が情報を適宜的確に上げなかったり、肘や関節にあたる中間管理職が悪い情報を上に伝えなかったり、逆に間違った情報を下ろしてしまったりすると、人も会社も狂ってきます。立派な会社というのは、悪い情報でもすぐに脳へ伝わって、正しく指先まで動く、敏感で俊敏な身体のような会社なんです。大谷翔平選手のように・・・。その時大切なことは、人間としていかに善であるべきか=To be good.を考えて、会社としていかに善を行うべきか=To do good.の順序で考えることです。すると、冷静に、客観的に対応でき、判断を間違えずに乗り切ることができましょう。
危機管理も同じ発想です。日ごろ健全な生活を送っている人が病気になりにくいのと同じで、日ごろ健全な会社であれば問題は起きにくい。その為には、社員一人一人が健全であることです。健康な細胞が健全な人間を作るのと同様に、健康な社員が健全な会社を造るのです。人間の体と会社を切り離して考えず、いつも自分のことに置き換えて考えましょう。
バスケットボールと仕事
経営はバスケと同じ
中学一年からバスケットボールに打ち込んでいます。中学三年で福岡県大会優勝、高校三年でも福岡県大会と九州大会で優勝して、インターハイにも出場しました。大阪の強豪校から特待生で誘われたり、九大では福岡県大学リーグでベストファイブに選ばれ、インカレにも2回出場しました。バスケで身を立てようと、当時実業団の強豪住友金属(現日本製鉄)のトライアウトを受けたこともありますが、全日本選手になる夢は果たせませんでした。その代わり、「いつでも、どこでも、誰とでも、いつまでも」をモットーに、神戸製鋼では兵庫県実業団リーグで活躍し、東京支社に移れば新たにチームを作り、企業でもクラブチームからでもお呼びがかかれば、助っ人で出場していました。デュッセルドルフに赴任すれば、日本人会チーム「GALITZギャリッツ」を作り近隣国との親善試合も行い、帰国してからも続けています。今は旧七帝大OB六十歳以上のシニアチーム「Seven Brothers」を作ってプレー。九月には「GALITZ」の合宿にも参加予定・・・こうして、人生を全てバスケで考えるようになったのです。
パスの仕方が仕事
私は毎日、バスケしているように仕事をしています。情報はボールなんです。広報の仕事は情報の仕事ですから、すべてをボールのやり取りとして見ています。自ら動いてチャンスを求めている人にしかパスは来ないし、そんな人しかパスしません。パスが来たら、それを自分でシュートできる(役立てる)か、自分ができなければ誰かシュートできる人にパスする。パスの仕方も話し方と同じ! 相手が気の弱い人なら柔らかいパスを、率直な人にはスパッとした速いパスを出す。相手の実力や性格をよく見てパスをしてあげないと、相手は動いてくれません。自分のフラストレーションをぶつけるような話し方では意味がなく、相手の行動を促す伝え方が要るのです。これはリーダーとしての心得でもあります。キャプテンとしてずっとやってきたので、すぐシュートできる絶妙のパスをタイミングよく出すアシストプレーに生きがいを感じています。と言っても、アシストできるには、自分でシュートできる実力あってのことです。仕事でも同じ!
これからのビジョン
これからのビジョン
これからも広報の仕事を通じて、私の考え方・思想をできるだけ広く伝えていきたいと思っています。セミナー講師や研修の依頼があれば、喜んでどこへでも行きますし、危機管理は人も会社も救う仕事なので、これも何でも引き受けたいですね。加えて、広報の本だけでなく、長いサラリーマン人生で積み重ねてきた経験を本にまとめたり、現在開催中の「山見式広報塾」に加えて「山見式つながり塾」のようなセミナーも企画しています。
人生相談も引き受ける
私は、全国の特徴的価値ある中小企業を認定する企業価値協会の理事を2013年設立時から務め、「広報PR実践会」会長として広報の指導も続けていますし、色んなベンチャー例えば、薬を使わず外科手術でがんを治す特許を持つ(株)YAXIE(ヤクシー)田中武雄社長(神戸製鋼時代の同僚)も支援しています。人類を救おうとアメリカで会社を設立し、資金調達初め、実用化に向けて全力で取り組んでいるところです。
ささやかな社会貢献として、障碍者施設のお菓子支援sweet heart projectの実行委員長として学生実行委員が運営する法人化を目指しています。学生ネットワークをインフラにしようと我が母校九州大学とのコラボで「九大クッキー」を、学問の神様「太宰府天満宮」参道に年内にも新築中の明太子やまや店舗で販売する企画も進行中です。受験者に合格祈願を!
相談を受ける内容は、広報・危機管理だけでなく、経営やマーケティング戦略の他、人生相談のようなことも多いですね。アシストプレーが生き甲斐なので、老境の経験を活かし、萬相談に応じています。それも自分の役割でありましょう。
正直に申せば、 AI(エーアイ)をわかっていないので、これからAIの戦略的活用を学び、広報戦略の高度化を図っていく所存です。例えば、危機対応で記者会見をした後の社会への影響など人智の及ばない点を AI に想定してほしいし、自分の用途に合わせたより高度な使い方なども勉強したいと思っています。
最後に、あらゆるものがメディア(媒体)であり、我々のあらゆる言動は幸せに導くものでなければなりません。「人間の幸福は、自己の優れた能力を自由自在に発揮するにある」(アリストテレス)ので、アップル創業者スティーブ・ジョブスは、「Stay hungry, stay foolish. 」いつも貪欲であれ、バカのようになれ!と諭しましたが、加えて「Stay active, stay childish.」いつも躍動し、幼児のようでありたいものです。
編集後記
学生起業を志すいち早稲田生として、大企業と中小企業では広報の違いはあるがその本質は同じという視点がとても印象的でした。「金マネーから価値バリューへ」「情熱費」という言葉には、目先の露出ではなく信頼を積み重ねる姿勢が表れていると感じます。人体と組織を重ねて語る比喩や、バスケットボールのパスに仕事の本質を見出す発想も、実体験に裏打ちされていて説得力がありました。ぜひあわせてチェックしてみてください。