インタビュー

「返事が来ない」という絶望から、人のための営業AIは生まれた

「返事が来ない」という絶望から、人のための営業AIは生まれた
PROFILE
株式会社Cynthia 代表取締役
原 和真

https://note.com/logic_opt

帰宅部のエースだった高校時代

大学には進学しなかった

学生時代についてお話しすると、私は大学に進学していないんですよ。高卒なんです。高校は神奈川県の川崎市立川崎総合科学高等学校というビルのような校舎の学校に通っていて、情報工学科でプログラミングなどを学んでいました。

当時は、大変不真面目な生徒だったなというふうに記憶しています。部活動には所属せず、いわゆる帰宅部のエースを張っていて、とにかく早く帰ることをがんばっていました。友達はたくさんいましたし、成績が飛び抜けて悪かったわけでもないんですけど、なんとなくその頃から、自分はサラリーマンにはならないんだろうなとずっと思っていた気がします。

社会になじめる気がしなかった

そういった学生時代を過ごしていたからこそ、社会に出てからうまくなじめる気がしなかったんですよね。とりあえず大学受験はもうしないと決めていたので、高校の進路指導室を使って就職先を探しました。

体が、普通に働くことを許してくれなかった

建築資材商社での施工管理

最初に就職したのは、トイレやキッチンといった住宅設備の資材を建築現場に卸している商社でした。そこで初めて担当したのが、施工管理の仕事です。建築の仕事なので早起きが必須だったのですが、当時は本当に早起きが苦手でした。

ただ、これは単に朝に弱かったという話ではないんです。当時の私は、2週間に1度は5日ほど扁桃腺で寝込んでしまうような、かなり病弱な体質でした。(この扁桃腺は、2025年に手術を受けて、今はもう大丈夫です。)

だから、朝決まった時間に起きて、毎日定時に働き続けること自体が、正直に言うと難しかった。仕事が嫌だったわけではないんです。働いている自分に、ずっと違和感があった。それでも1年間は続けようと決めて、ちょうど1年後の4月に退職しました。

いま振り返ると、この「普通に働くことが、自分にはうまくできなかった」という感覚は、あとあとまで自分の中に残っていて。人手や体力に頼りきらなくても回る仕組みをつくりたい——「Nudge HQ(ナッジ・エイチキュー)」の根っこには、たぶんこのときの実感があるんだと思います。

営業スキルを身に付けたいと思った

その後、何をしようかと考えたときに、まずは営業のスキルを身に付ければいいだろうと考えて、通信サービスの営業会社に入りました。個人向けにインターネット回線の切り替えを提案する電話営業から、法人向けにコピー機の導入を提案する営業まで、幅広く経験しましたね。その経験を生かして、自分自身で営業商材を持って独立するという決断に至りました。

商談のチャンスをつくれない絶望

採用支援の仕事で法人営業の壁にぶつかる

独立してから最初に立ち上げたのは、採用代行や採用コンサルティングといった、人材系の仕事でした。そのなかで本当にぶつかった壁が、法人営業の壁だったんです。

自分で言うのもなんですけど、サービス自体はいつもいいものを作れているというふうに思っていました。実際、ご紹介いただいて直接対面で話す機会があると、似たような競合他社のサービスを導入検討している状況を押さえたうえで、ほぼ確実に契約をいただいていたんです。そこは前職の営業経験が生きているなと思う部分でした。

会って話を聞いてくれる人がいない

それでも、とにかく難しかったのが、商談のチャンスをつくること自体だったんですよね。立ち上げたばかりのころは無名ですし、実績もそれほどないので、会って商談をしてくれる相手がなかなかいません。得意なアウトバウンド営業やメール営業をいろいろ試しても、とにかく返事が来ないんです。

ネームバリューがないことがボトルネックになっているのは分かるんですけど、それにしても来なさすぎだろうと。そこが本当につらかったんですよね。それが、Nudge HQというツールを生み出すことになった経緯です。「仕事が取れない」という絶望感から生まれた、根っこの部分は結構切実なツールなんです。

Nudge HQの誕生

開発は1人で、Claude Codeとともに

Nudge HQは私が1人で開発しました。いい時代になったなと思うんですけど、開発を進めるうえでClaude Codeのおかげで、本当に開発作業自体は楽にできましたね。リリースからはまだちょうど2か月ほどしか経っていません。

2週間で29媒体に掲載

にもかかわらず、ありがたいことにPR TIMESをはじめ、いろいろなところに掲載していただきました。大きなメディアからも掲載のお声がけをいただくことがあり、不慣れながらも対応させていただいています。広報については、私が考えたのはリリースをPR TIMESに出すところまでで、そこから先は広報担当の者がいろいろと動いてくれています。

Nudge HQでできること

リスト作成から追客まで一気通貫

Nudge HQでは、新規のメール営業をサポートする機能がひとつながりになっています。法人営業をしたいとなったとき、Nudge HQが契約されていれば、基本的に最初から最後までを担うことができます。

まず、アタックしたい企業の業種や業界を指定すると、リストを取ってきてくれます。そこから本来であれば1社ずつホームページを見て、自社の商材がどう役に立つのかを調べる作業をAIが代わりに行い、メモを残します。そのメモをもとに、さらにAIがメールの文面を作成する流れです。

最後の送信は人が確認する

最後に人が内容を確認し、変なところがないかをチェックしたうえで送信できます。メール送信後には、追いメールを送ることも可能です。個人のメール営業では1通目で返信が来ることはほとんどないので、一定期間経っても反応がなければ、「今はタイミングではないと判断して連絡を控える」旨のメールを自動で送るところまで対応しています。

それも送り終えて3か月ほど経つと、その企業は再営業リストとしてまた浮上する仕組みになっています。その3か月の間に、たとえば相手企業が資金調達に成功したといったニュースがあれば、それも加味したうえでメモを作りなおし、メールを再作成することもできます。

いるかいらないかを言われるまで、メールを送り続けられる。人力で営業をしていると、せっかく作ったリストを最後まで使いきれていない方が多いんですよね。いるかいらないかの答えをもらうところまでが新規営業の仕事だと私は思っているので、最初の1通だけ人がしっかり確認すれば、あとを追いかける作業はすべて任せられる。もともと人力でも成果が出ていたところを、さらに成果が出せるようにしたのが、私たちのツールという形になっています。

作業はAIに、人は人と

最後に人が確認する工程を必ず挟む

メールの文面は、ホームページなどをもとにかなりパーソナライズされた状態で自動生成されますが、最後に必ず人が確認する工程を挟んでいます。この会社にはこういう言い回しがいいのではないか、といった人が介在する余地を残すためです。完全にAI任せのカスタマイズにはせず、件名も本文も、必要があれば人の手で調整できるようにしています。

私が目指しているのは、「作業はAIに、人は人と」という形です。人にしかできないのは、人と人とのつながりの部分だと思っているんですよね。新規のメール1通であっても、人がきちんと目を通したうえで言い回しを整えられることが、私たちのカスタマイズ性の広さにつながっていると思います。

価格に込めた思い

人数で料金が変わる仕組みが嫌いだった

SaaS系のソフトウェアでは、利用する人数によって課金額が変わる人数課金の仕組みがよく採られています。使うユーザーが増えるだけで価値は変わらないのに、料金だけが上がっていく仕組みが、私は嫌いなんです。単純に、自分自身がそういう額を出せないからでもあります。一人増えるだけでこんなに増えるのか、というのは避けたいと思っていました。

Nudge HQで料金が変わるのは、アプローチできる件数だけです。想定しているのは、営業マン1人分の人件費のおよそ3分の1という水準で、料金を決めています。

AIに仕事を奪わせたいわけではない

新規営業の商談率は0.1〜1%

会社の未来として目指したい価値についてお話しすると、私はAIにすべての仕事を奪わせたいとは全く思っていません。むしろ、人がやるべきではない作業をAIに渡して、人は人にしかできないことをやるべきだと考えています。

新規の営業は、やらなければいけない一方で、成果に直結するかどうかは分からない仕事です。既存のつながりがあるルート営業と違って、新規営業は商談率が0.1〜1%ほどの世界です。

そう考えたときに、貴重な営業担当の方の時間を、その0.1〜1%にたどり着くための準備作業だけで使い切ってしまうのは、もったいないんじゃないか、という疑問がありました。

クロージングに集中してもらう

お金を生むのは、どちらかというとクロージングや商談での振る舞い方だと思うんですよね。1日に手動で100件、200件と新規営業を送って疲れ果てた状態では、商談でしっかりクロージングに向き合うのは難しい。であれば、Nudge HQを使って新規開拓の準備を任せて、営業担当の方には商談やお客様に向き合うことに集中してもらったほうが、売上は伸びると思うんです。

人手不足で倒産する会社を減らしたい

日本は働き手がどんどん減っていて、少子化が止まる気配も特にありません。このままいくと人口が減り、労働人口も減っていく。そうすると、人手不足で倒産する企業が増えていくと思うんですよね。企業が倒産すると、雇用先がひとつなくなってしまいます。特に地方では、都心部より人が少ない分、そうした状況が起こりやすいと思います。

売上になるかどうか確実ではない新規営業という行動をAIに任せられるようになれば、人手不足で倒産する会社を少なくできるかもしれません。それが、地方や都心部の活性化にもつながればいいなというふうに思っています。人口減少そのものは私1人ではどうにもできませんが、今できることとして、人手不足で倒産する会社を減らすことや、心身をすり減らして追いつめられてしまう営業マンを減らすこと。そうした社会課題を解決していきたいと思って、この事業をやっています。

誰のためにもならない営業が嫌いだった

アナログ回線を光電話に変える営業

営業という仕事そのものへの思いについてお話しすると、私が一番はじめに担当した営業は、「電話回線をアナログ回線から光回線に切り替えませんか」という提案でした。当時の記憶では、アナログ回線は月額1,500円ほどで使えるものを、月額3,000円の光回線に変えませんかという営業だったんです。

普通に考えて、絶対に変える意味がないんですよね。名目としては「通信会社側の維持費がかかるのでご協力をお願いできませんか」というものだったんですけど。その会社はもう今はなくなっていて、あとから聞いた話では、通信会社側からそうした指示は実際にはなかったようなんです。

誰のためにもならない営業は、本当に嫌いでしたね。数千円でも安くなるのであれば、家電量販店にいるキャリアのスタッフに相談すればよい話です。何の得にもならない営業商材が、たまにあるんですよね。そういうものはずっと嫌だなと思っていました。ただ、少しでも相手にとって利があるものを売れという指示であれば、全く問題ありませんでした。自分の考え方に反しないので。

ナッジ理論が名前の由来

Nudge HQという名前も、ナッジ理論から来ています。そっと後押しをする、肘でつつくといった意味合いの言葉です。買いたい人というのは、頭のなかである程度もう決まっているものなんですよね。だから、その後押しをすることが、結局は営業における正攻法なんだろうと私は考えています。

以前のサービスが売れていた理由は何かというと、必要としている人と会っていたからなんです。必要としているからこそ、その必要に応じた話ができる。そういう営業は、私はすごく好きでした。何の意味もない商材を売りたくはないので、自分自身もサービスの価値を高めていきたいと思って、Nudge HQを作りました。結論から言うと、商材がよいものであれば、私は営業という仕事が好きです。

学生へのメッセージ

誰の目も気にせず挑戦してほしい

学生であれば、やりたいと思ったこと、少しでも挑戦してみたいと思ったことを、誰の目も気にせずに一度やってみてほしいと思います。今も20代前半あたりの学生と交流する機会があって、いつも言っているのが、人の目を気にするな、そして人の迷惑を考えるな、ということです。

理由としては、人の目を気にしたところで自分にとってよいことは何もありませんし、迷惑かどうかを考えるのは相手であって、自分が考えても仕方がないからです。やりたいと思ったことや、話してみたいと思った人に対して、ためらいを持たないでほしいと思います。就職活動中であれば、誰かに勧められて大手企業に入るのではなく、たとえばアニメ業界に行ってみたいと思うなら受けてみればいいですし、ゲームを作ってみたいと思うなら作ってみればいい。とりあえずやってみればいいと思います。

免許を取る暇もないくらい、やりたいことに飛び込め

社会人になると、実は私は運転免許を持っていないんです。取る時間がなかったという、シンプルな理由です。

でもこれは、後悔として話しているわけではなくて。むしろ逆で、やりたいことに本気で飛び込んでいたら、免許を取りに行く時間すら惜しくなる。それくらい夢中になれるものを見つけて、そこに時間を使ってほしい、ということなんです。

免許は、社会人になってからでも取れます。でも「やってみたい」と思った熱は、そのときにしか動かせない。だから、免許を取る段取りより先に、やりたいことに飛び込んでしまえばいい。私はそういうつもりで、若い人にはいつも伝えています。

編集後記

今回、株式会社Cynthia(シンシア)の代表取締役・原和真さんにお話をうかがいました。営業の現場で感じた「返事が来ない」という切実な壁から、Nudge HQというプロダクトが生まれた経緯がとても印象的でした。「作業はAIに、人は人と向き合う」という考え方は、AIツールが増え続けるいまだからこそ、あらためて大切にしたい視点だと感じます。学生の私にとっても、誰の目も気にせず挑戦するという原さんの言葉は、背中を押されるメッセージでした。貴重なお話をありがとうございました。