産業レベルで貢献したい
母国は日本しかない
在学中に何度か海外留学をする機会がありました。先週もちょうど海外出張に行っていたのですが、そのたびに感じるのは、日本人にとって本当に居住できる場所は、意外と日本しかないということです。
高校ぐらいまでは、世界中どこでも英語さえできれば暮らしていけるはずだと、コスモポリタンな考え方を信じていました。しかし実際には文化の違いがありますし、海外のことに口を出すのにはやはり障壁があって、全員が同じ立場ではないと気づかされました。
筋トレ中に閃いた
そのときに強く思ったのが、結局私たちにとっての母国は日本以外にないということです。アメリカやイギリスに生まれたわけではない以上、母国に貢献することをしたいと、筋トレをしながら考えていました。
好きで得意だったのが、コンピュータービジョンと呼ばれる映像処理の技術開発や研究開発でした。そこで在学中から、前職のディープアイビジョンという、眼科の診断を支援するAIの会社を、東京大学の先生方と一緒に立ち上げました。
東京大学からディープアイビジョンへ
眼科AIのCTOを5年
大学在学中から博士課程まで、約5年間にわたってディープアイビジョンのCTOとしてプロダクトをつくってきました。その中で取引先に海外企業が増えていくにつれて、スタートアップというゲームをするにはアメリカのほうが適した場所だと感じるようになりました。投資家もいますし、マーケットもあります。
ゲームチェンジは海事に
一方で、たとえば医療機器の分野は完全にサイエンスと臨床試験の成績で勝負が決まる領域なので、ゲームのルール自体は日本とアメリカで変わりません。そうすると、最初から不利な戦いをしているようなものだと感じました。
そこで、アメリカをベンチマークにしたときに、日本のほうが相対的に有利で、世界にとって意義深いことができる領域はどこなのかを考えるようになりました。IT業界にいると、どうしてもアメリカの劣化コピーをつくる仕事になりがちで、それは少し寂しいとも感じていました。
スタンフォードで転機
派遣プログラムで出会う
ちょうどそのころ、スタンフォードの起業プログラムに参加する派遣の機会がありました。そこに行かせていただいたことがきっかけで、今の共同創業者と出会いました。ここから、会社という箱を先につくって、そのあとで事業領域を探すという今の流れにつながっていきます。
創業の経緯
会社を先に作った
日本のほうが少なくともアメリカより有利で意義深いマーケットはどこなのかを、会社をつくったあとから探し始めました。とにかく人に会ってインタビューを重ねていくなかで、海事や造船というマーケットに可能性があるのではないかという仮説にたどり着きました。
海事という仮説
当時はまだ海事産業が国の重点領域になる前でした。それでもこの仮説を軸に据えて、今の事業の形にたどり着いています。
事業内容と強み
造船海事特化のAIエージェント
弊社は造船海事産業に特化したAIエージェントの開発と提供を行っています。海事という言葉は、船に関連する産業全体を指す言葉で、英語ではマリタイムと呼ばれる領域です。この領域に特化したAIをつくるという意味で、いわゆるバーティカルAIというジャンルに位置づけられます。
設計の自動化を目指す
とくに現在フォーカスしているのは、船舶の設計にかかわる部分です。船は建造されてから最後に解体されるまで、15年から20年ほどのライフサイクルがあります。そのすべてを一貫してサポートできるAI、いわば人間の代わりにあらゆる仕事を頼めるAIを、業界特化でつくっていこうとしています。そのなかでも、まずは船の設計をAIによって自動化することを目指しています。
国の事業でも主要な位置づけ
創業から1. 5年ほどですが、国内の大手造船所のなかでも主要な企業とすでにお取引をさせていただいています。本年も国の事業として、まとまった規模の研究委託をいただいており、これは代表機関としてこうした国の事業に入っているスタートアップとしては、おそらく弊社が唯一だと思います。国の事業のなかでも主要な位置づけをいただいていることが、直近の強みだと感じています。
創業して大変だったこと
採用は原点にして頂点
創業して大変だったことは、採用で仲間づくりです。これは課題だと感じています。
弊社にはビジョンとバリューが3つあり、そのひとつに第一原理思考というものがあります。物事は原理原則に立ち返って考えたほうがうまくいくという考え方です。たとえばスタートアップがよく問われるのが、年間の継続的な売上、いわゆるARRである大きな水準まで到達できるかという話です。これを人材の問題として単純化すると、その事業をつくれる右腕を1人採用できるかという話になりますし、さらに分解すると、その下で事業をマネジメントできる人を複数人採用できるかという話になります。結局、採用は限りなく原点にして頂点だと思っています。
全部やるという答え
これまでは、ありがたいことに人からの紹介や旧知の方を通じて仲間が集まってきましたが、会社の規模が20名強を超えてくると、それだけでは足りなくなってきます。自分の知っている人や紹介以外のルートでも、どんどん採用していかなければならないというのが今の課題です。
採用サイトへの掲載、ホームページ、リファラル、紹介など、思いつく施策はすべて試しています。お世話になっている方からは、採用に王道や近道はないので、全部やって相乗効果を狙うようにと言われており、今はまさにそれをすべて実行しているフェーズです。
リファラルが一番効く
これまでの実感としては、紹介づて、いわゆるリファラルが一番効果があったように思います。会社の規模が300人を超えるようなフェーズになれば、また違った方法が効いてくるのかもしれませんが、今の弊社にとって最重要項目はやはり採用です。
求める人材
異常さが採用基準
一緒に働きたいのは、良い意味で少し異常な人です。最初の採用基準は、何かひとつでも異常さがあるかどうかだと思っています。
たとえば、最初にフルタイムで採用したメンバーは、内定を出すよりも前から、もう弊社の仕事を始めてしまっていました。お客さまのところに常駐したほうがいいと自分で判断して、内定を待たずに動き出してしまうタイプです。ビジネス側のメンバーにも、学生時代に自分でビジネスを始めていた人や、ものづくりが好きすぎて、経済合理性を度外視して船の模型をつくり続けてしまうような人がいます。
行動力にも2種類あると思っていて、私自身は経済合理的なことをどんどんやるタイプなので、その基準で言えば少しつまらないほうです。だからこそ、儲からないとわかっていてもものづくりに徹底的に集中できる人と組むことで、チームのバランスが取れていると感じています。そういう、一見わけがわからないことに全力で集中できる人と一緒に働きたいですし、そのほうが回りまわってうまくいくのではないかと思っています。
今後のビジョン
事業会社を目指す
今後のビジョンとしては、海事という船の世界に対してAIのツールを提供するだけのIT会社ではなく、海事産業のなかでAIをフル活用しながら自分たちで事業を進めていく事業会社として成長していきたいと考えています。
弊社は仲間を増やしていくフェーズにあるので、業界の内外を問わず仲間を増やして、社会にきちんと貢献できる会社になれたらうれしいです。
補助輪を外していく
船の世界は助成金や研究費など、国にとって重要な分野であるがゆえに投下される予算も大きい領域です。私たちはスタートアップとして社会に貢献するためには、企業としてきちんと利益を出すことが重要だと考えています。今は国からの研究委託という形で国に貢献できているとも言えますが、これはまだよちよち歩きを支える補助輪のようなものだと捉えています。この補助輪がなくても走れるように成長していきたいですし、海事という産業そのものの形をつくり替えていくことに興味のある、野心的で異常値な方にぜひ加わっていただきたいです。
学生へのメッセージ
20年後を想像しながら
正直なところ、これからどうなるかは私にもわかりません。2050年ごろは京都議定書などでCO2排出のネットゼロが語られていたころを思うと、20年後というのは想像できないくらい先の未来です。
もし今学生だとしたら、どんな仕事が残り、どんな仕事がなくなっているのかはわかりませんが、海事という産業が面白いことだけは間違いありません。弊社でも、弊社でなくてもかまいませんので、ぜひニッチな産業でグローバルニッチを目指して、一緒にやらせていただきたいと思っています。応募をお待ちしています。
編集後記
福重さんのお話を伺って、印象に残ったのは「採用は原点にして頂点」という言葉です。事業の成長を突き詰めていくと、最後は人の問題に行き着くという考え方は、就職活動をしている身としても、企業を見る視点が変わるきっかけになりました。海事産業という、これまであまり馴染みのなかった領域にも、大きな可能性があることを知ることができ、貴重な学びの多い時間になりました。