証券会社からM&Aの世界へ
中小企業が抱える後継者不在の問題に気づく
私の最初のキャリアは証券会社でした。個人・法人の双方を対象に営業を担当し、法人営業では主に中小企業の経営者と接していました。営業活動を続けるなかで気づいたのが、後継者不在という課題を抱える経営者が非常に多いということでした。
手数料ビジネスに感じた限界
証券会社の営業は、金融商品を販売し、その手数料を収益とするビジネスです。仕事を続けるなかで、次第にそこに物足りなさを感じるようになりました。
それよりも、後継者不在という経営者の大きな課題に直接向き合い、相手の役に立ちながら自分自身の成果にもつながる仕事のほうが、より面白く、やりがいがあるのではないかと考えるようになりました。それが、M&A仲介会社へ転職したきっかけです。
クロスボーダーM&Aで培った営業力
海外と国内をつなぐ仲介会社へ
1社目のM&A仲介会社を経て、次に転職したのが、海外企業と日本企業のクロスボーダーM&Aを主力事業とする会社でした。もともと海外への関心が強く、国内だけでなく海外M&Aにも携わりたいという思いがあり、この会社を選びました。
そこでは海外M&Aを担当する一方で、国内で会社の譲渡を検討する経営者を開拓する「ソーシング」業務も任されていました。
会社の看板より自分の営業力
このソーシング業務で継続的に譲渡案件を獲得できたことが、独立を考える大きなきっかけになりました。
当時所属していた会社は、誰もが知るような大手上場企業ではありません。その環境でも案件を獲得できたということは、会社の知名度だけではなく、自分自身の営業力によって結果を出せている部分もあるのではないかと考えました。「それなら、自分で会社をつくってもやっていけるのではないか」。そう考えたことが、株式会社アイビーキャピタルを立ち上げるきっかけになりました。
株式会社アイビーキャピタルの事業内容
ノンネームからネームクリアへ
弊社の主な事業はM&A仲介です。会社の譲渡を検討されている経営者からご相談をいただき、譲受候補企業の探索、条件交渉、最終的な成約まで、一連のプロセスを支援しています。
まずは経営者から、事業内容や財務状況だけでなく、会社の譲渡を検討するに至った背景や今後への思い、希望される条件などを丁寧に伺います。そのうえで、企業名を伏せた「ノンネームシート」と呼ばれる匿名の企業概要資料を作成し、譲受候補となる企業へ打診していきます。
ノンネームシートを見て関心を示した企業とは秘密保持契約を締結し、譲渡企業の了承を得たうえで、社名や財務情報などの詳細情報を開示します。その後、具体的な検討意向があれば、譲渡企業と譲受候補企業の面談を設定します。
双方がM&Aに向けて前向きに進むことになれば、譲渡価格をはじめとする条件面の調整や、基本合意、デューデリジェンスなどのプロセスへ進みます。弊社はその間に立ち、双方の意向を確認しながら条件を調整し、最終契約、クロージングまで支援します。
このように、譲渡を検討される経営者から最初にご相談をいただくところから、譲受企業の探索、交渉、契約、クロージングまで一貫して関わり、M&Aの成約を支援するのが弊社の役割です。
IT業界と海外案件に強み
得意領域のひとつが、IT関連企業のM&Aです。一方で、IT業界に限定しているわけではなく、美容クリニックをはじめ、さまざまな業種の案件に対応しています。
もうひとつの特徴が、クロスボーダーM&Aへの対応です。昨年には、ベトナムのIT開発会社と日本企業とのM&Aを成約することができました。
海外企業が必ずしも日本企業への譲渡を希望しているわけではありません。しかし、日本企業から継続的に仕事を受注している会社など、日本の商習慣や仕事の進め方に慣れている企業であれば、日本企業への譲渡も有力な選択肢のひとつになります。
現状では国内企業同士のM&Aが中心ですが、国内だけでなく海外まで譲渡・譲受候補の選択肢を広げられることは、弊社の強みのひとつだと考えています。
一つひとつの案件に向き合う
一つひとつの案件に柔軟に対応
現在、弊社では大きな組織を持たず、案件ごとに必要な専門性や業務量に応じて、外部のパートナーとも連携しながら事業を運営しています。
組織を必要以上に大きくしないことで、案件ごとの状況に応じて柔軟に動けることは、弊社の特徴のひとつだと考えています。また、私自身がそれぞれの案件に直接関わり、譲渡を検討される経営者のお話を伺うところから、譲受候補企業への提案、条件交渉、成約まで一貫して対応しています。
M&Aでは、会社の規模や業種、譲渡を検討する背景によって、求められる対応は大きく異なります。決まった進め方を当てはめるのではなく、それぞれの経営者や企業の状況に合わせて柔軟に対応することを大切にしています。
繁忙期には、営業活動や案件資料の作成などを業務委託のメンバーにサポートしてもらいながら、案件ごとに適切な体制を整えています。
成約まで時間を要する案件にも向き合う
一方で、M&Aは必ずしも短期間で成約するとは限りません。
譲受候補企業への提案を重ねても、すぐには具体的な検討に進まなかったり、条件面の調整などに時間を要したりする案件もあります。
会社組織を運営することそのものよりも、一つひとつの案件にどう向き合い、最適な相手を見つけて成約につなげるかという部分に、この仕事の難しさがあると感じています。
だからこそ、短期的な成約だけを追うのではなく、それぞれの企業や経営者の意向を踏まえながら、粘り強く譲受候補を探し、より良い形での成約を目指すことを大切にしています。
海外M&Aの拡大という挑戦
フィリピンへ飛び込んだ理由
現在、特に力を入れていきたいと考えているのが海外M&Aです。
国内の譲渡案件については、紹介などを通じて相談をいただける流れが少しずつできています。一方、海外案件の場合、現地で強いネットワークを持っていなければ案件を紹介してもらうことは容易ではありません。
そこで東南アジアでのM&Aネットワークを広げるため、実際にフィリピンのセブへ足を運び、現地の経営者や事業関係者と直接話しながら案件を開拓する取り組みも行っています。
海外案件を増やすうえで、現地とのリレーションをどのように構築していくかが、現在の大きな課題のひとつです。
SNSから生まれる海外での接点
フィリピンではFacebookが広く利用されており、現地のFacebookグループなども活用しながら、経営者や事業関係者との接点を開拓しています。
オンラインで生まれた接点から具体的な商談へ発展するケースもあり、海外でのネットワーク構築においてSNSは有効な手段のひとつだと感じています。
もともと海外が好きだったこともあり、クロスボーダーM&Aには個人的にも強い思い入れがあります。今後も国内案件を手掛けながら、海外企業と日本企業をつなぐ取り組みをさらに広げていきたいと考えています。
学生へのメッセージ
考えるだけでなく、まず動いてみる
やりたいことが明確に決まっている人もいれば、まだ見つかっていない人も多いと思います。もちろん考えることは大切ですが、それと同じくらい、実際に動いてみることも重要だと考えています。
たとえば「いつか起業したい」と考えながら会社員を続けているうちに、給料が上がり、役職がつき、徐々にその環境を手放しにくくなることがあります。その結果、結局挑戦しないまま時間が過ぎてしまう人も少なくありません。
リスクを取るなら若いうちに
年齢を重ねるほど、背負うものは増えていきます。結婚して子どもができれば自由に動くことは難しくなりますし、収入が上がれば、それを手放すことへの心理的なハードルも高くなります。
年齢が上がってから新しいことに挑戦し、失敗した場合には、再びキャリアを築き直す難易度も高くなるかもしれません。
だからこそ、本当にやりたいことがあるのであれば、リスクを恐れすぎず、まず挑戦してみることが大切だと思います。
特に学生の皆さんには、若いうちだからこそ取れるリスクがあります。仮に挑戦がうまくいかなかったとしても、就職する、別の会社へ転職するなど、次の選択肢は残されています。
考え続けて動かないよりも、まず一歩踏み出してみる。その経験自体が、その後のキャリアを考えるうえで大きな財産になるのではないでしょうか。
編集後記
中野様のお話を伺って、特に印象的だったのは「会社の看板ではなく、自分自身の営業力で結果を出せたことが起業への自信につながった」というお話です。
華やかな成功談だけではなく、地道なソーシング活動を積み重ね、その経験を自信に変えて独立したというプロセスに、強い説得力を感じました。
また、海外M&Aの可能性を広げるために実際にフィリピンへ足を運び、現地で人とのつながりをつくっている姿勢も印象的でした。「考えるだけではなく、まず動いてみる」。
中野様のこれまでのキャリアそのものが、その言葉を体現しているように感じました。