インタビュー

島に「人事部」がなかったから、つくった。──宮古島発、地場産業を守る採用のかたち

島に「人事部」がなかったから、つくった。──宮古島発、地場産業を守る採用のかたち
PROFILE
株式会社 島の人事部 代表取締役
千田 泰平

ばらばらだったキャリアが、宮古島で一本につながった

ビルメン、IT教育、コスメ──一貫性のない20代だった

私はもともと1社目がビルメンテナンス、2社目がIT教育の会社、3社目がコスメやインテリアの事業と、正直キャリアはかなりばらばらです。その中で営業だったり、人事だったり、事業開発だったりと、様々な仕事を経験させてもらいました。

「カフェを立ち上げてくれ」の一本が、島との縁になった

最後の会社を辞めて独立したタイミングで、何社かのコンサルティングを請け負っていたんですが、そのうちの1社から「宮古島でカフェをつくるので、現地で立ち上げをやってくれないか」と声をかけてもらったんです。それが宮古島に来た最初のきっかけでした。

観光が潤うほど、地場産業は静かに枯れていく

宮古島に入ってみて驚いたのが、地域の採用課題の大きさでした。東京や大阪、名古屋、福岡といった都市部の採用のやり方と、宮古島の採用のやり方はまったく違っていて、数年前まではハローワークと紹介がほぼすべてでした。新卒採用という言葉自体、ほとんど存在していませんでした。

観光業はどんどん盛り上がっていく一方で、建築や介護、農業、保育、自動車整備といった、地場産業はどんどん人手不足になっています。観光業やホテル、飲食、マリン業は観光客からお金をいただく仕事なので高めの時給を出せるんですが、地場産業は中途採用でも月給20万円に届かないことが多かったです。

島には大学や専門学校がないので、高校を卒業すると多くの若者が島の外に出てしまい、そのまま戻ってこないケースが多いです。人手不足で飲食店が1軒潰れても困る人は少ないかもしれませんが、介護施設が1つ潰れたら、地域の方々は本当に困ります。そこで「人事部」という機能そのものが地域に存在していないことに気づいて、島に対する人事部になろうと決め、株式会社島の人事部を創業しました。

強みは、島に住んでいること

「沖縄」で、ひとくくりにしないでほしい

弊社の強みは、シンプルに「事業所が現地にある」ことだと思っています。沖縄以外の方は東京などのことを「内地」と呼ぶんですが、内地の方からすると沖縄本島も宮古島も石垣島も、ひとくくりに「沖縄」に見えてしまいます。ただ実際に住んでみると、宮古島の人の性質と、石垣島の性質、沖縄本島の性質は、それぞれまったく違うんです。

だから求人を1本書くにしても、宮古島の人に響く書き方と、石垣島の人に響く書き方は別物です。地域に事業所を構えて、地域の方々と交流する中で見えてくるものをもとに、きちんとした求人票をつくっていくところが、弊社の強みかなと思っています。

採用の答えは、島内・島外・国外の3つしかない

理想の採用には3パターンしかないと考えています。1つ目が島の中で採用すること、2つ目が島の外から人を連れてくること、3つ目が国外から人を連れてくることです。弊社はこの3つすべてをサポートしています。

島の中の採用については、自社の求人サイトと、大手スキマバイトサービスの業務提携でマッチングをつくっています。島の外から連れてくる部分は、人材紹介の会社さんや派遣会社さんと業務提携していて、リゾートバイトも含みます。国外から連れてくる部分は、登録支援機関と連携して特定技能の方々の管理をしています。特に介護や建築の事業者さんは日本人の採用が難しいことが多いので、海外の方の力も頼りましょうという提案です。地域の事業者さんに対して、採用の手段を出し分けできることが、強みだと思っています。ただ、特定技能で来てくれた方々も、内地のほうが給与が高いため、ブローカーやSNSを通じて転職してしまうケースが少なくありません。だからこそ私たちは、紹介して終わりではなく、毎月現地で一人ひとりに会い、宮古島や石垣島を好きになってもらうことで、転職を減らす「地域に根ざした管理」に力を入れています。累計でこれまで40名ほどの管理サポートを実施しています。

宮古島は山がなく、資源が少ない平たい土地です。一方の石垣島は、山を始めとした資源があり、仕入れて加工して販売する加工業が強いのが特徴です。人口の30%が宮古島にルーツのある方、30%が石垣島出身、それ以外が30%という構成で、いわゆるチャンプルー文化が強く、自分のことは自分で完結しないと生活できない土地柄です。ふるさと納税の金額も宮古島より高く、それだけブランディングが上手ということでもあり、求人票を出し分けないと、なかなか響かないのが実情です。

採用で入口を広げ、教育で出口をふさぐ

会社としては大きく3つの柱で動いています。1つ目が採用のマッチングです。2つ目が教育で、そもそも宮古島や石垣島は高校までしか学校がないので、若者は基本的に島の外に出てしまいます。すると新卒採用の文化がないため、若者に仕事の仕方をしっかり教え、長く働いてもらうという感覚がまず根付いていません。教育の観点が薄いので、離職率・転職率がとても高く、事業所は新しい人が入るたびにOJTをやり直すことになり、生産性が上がりにくいという課題があります。

 採用で入り口を広げ、教育で出口を塞いで定着してもらう。この2つを組み合わせていこうと考え、今は行政や商工会議所、観光協会と業務提携し、地域の方々向けの合同社員研修を今年度は試験的にスタートして、来年度から本格的に稼働させる予定です。ただ、1つの中小企業が単独で外部研修を導入するのは費用的に難しいのが実情です。そこで、複数の事業者さんが集まって費用を分け合う「合同研修」という座組にしました。研修には人材開発支援助成金なども活用できます。

3つ目の柱がバックオフィス支援です。たとえば従業員規模10人ほどの建築会社さんが、給料20万円の事務員さんを1人雇うと、社会保険料などを含めた会社の実質負担はさらに上乗せになります。その事務員さんが休んだり辞めたりすると、請求書の処理などを結局は社長やお金を生む人たちが巻き取らざるを得ず、それはリスクです。ちょうどよく引き継いでくれる人がすぐ採用できればよいのですが、そうもいかないことのほうが多いんです。

事務作業は、フルタイムで8時間を埋めるほどの業務量がないケースも少なくありません。だったら、まるっと外注してもらったほうが、事業者さんにとっても安心なはずだと考え、バックオフィスを引き受けるサービスをつくっていきます。

島から島へ。“島攻め”は、まだ始まったばかり

現在は宮古島と石垣島を対応エリアにしていますが、来年は沖縄本島の名護など北部に展開し、その次は奄美大島、さらにその次は種子島などへと、いわゆる「島攻め」を進めていく予定です。あわせて、島を出た若者に地場産業の魅力を知ってもらうためのインターンシップや、地場産業を体験できるイベントづくりにも取り組み、いつか島に戻ってきたいと思える受け皿もつくっていきたいと考えています。

特定技能の管理業務も、島単体だと管理コストが合わないため、多くは東京など遠隔から外国人材を管理しているのが実情です。うちのように現地に事業所を構えて、毎月外国籍の方々に会いに行き、課題を吸い上げるようなことは、コストパフォーマンスが悪いので基本的にみんなやりたがりません。ただ、これから日本全体で海外からの人材は増えていくはずなので、離島はもちろん、内地でも地域に根ざした管理を含めてうちに任せてもらえば安心だと思ってもらえる存在になりたいと考えています。採用も教育も、特定技能の管理も、そこまで採用するほどではないけれど任せたい仕事も含めて、事業者さんにとってのインフラのような役割を果たしていきたいです。

これから社会に出る人へ

会社の看板は、もう守ってくれない

会社に用意してもらったものだけで戦っていく時代は、これから厳しくなっていくと思っています。AIも含めて誰でもビジネスができる世の中になってきているからこそ、個人の戦闘力を磨き続ける必要はあるはずです。おしゃれにビジネスをやるのも1つの道ですが、その一方で、うちのように地域の課題を泥臭く拾い集め、行政と掛け合って地域を良くしていくというやり方も、目の前や島単位の課題に立脚できる面白さがあると思っています。

もし大学生に戻れるなら、地方の“2番手”を選ぶ

もし今、大学生に戻れるとしたら、そこまで盛り上がりきっていない地域の、1番か2番の会社に入って、その地域のコンサルのようなことをやってみたいと思っています。大きい会社だと業務が分割されがちですが、ベンチャー企業だと全部を自分でやらなければいけません。そこも含めて、1からチャレンジしてみたいですね。

AIで“わかった気”になるな。現場に立て

宮古島や石垣島は、外から見るとすごく盛り上がっていて儲かっていそうに見えるかもしれませんが、実は新規出店した飲食店のうち半分ほどは潰れているのが現実です。何が正しくて何が間違っているのかを、自分の目でしっかり見ること。機会があれば、現地で活動している事業者さんに直接話を聞いてみること。AIで市場規模だけを調べて分かった気になるのではなく、現場に足を運んでリアルな情報を収集する姿勢を、学生の方には伝えたいなと思っています。

編集後記

今回のインタビューを通して、採用という切り口から地域そのものの課題に向き合う姿勢に、強く心を動かされました。宮古島と石垣島、それぞれの土地の成り立ちや気質の違いまで踏まえて求人票を出し分けるという発想は、現場に根を張っているからこそのものだと感じます。「もっと泥臭く自力をつけるべき」という言葉は、地方での挑戦を考える学生にとって、これからの指針になるのではないでしょうか。私自身も、地方出身の学生として、現場に足を運ぶことの大切さをあらためて考えさせられる時間でした。