インタビュー

サブスクを否定されたから、自分でつくることにした

サブスクを否定されたから、自分でつくることにした
PROFILE

音楽に救われた学生時代

楽器を替えて見つけた居場所

私は岐阜県の出身なんですが、大学は京都産業大学に進学しました。特に理由があったわけではありません。当時はインターネットもなかったので大学の情報は雑誌でしか調べられず、たまたま受かったところに行った、というのが正直なところです。周りの岐阜の高校生は東京の大学を目指す子が多かったので、関西に来た友達はそこまで多くなかったですね。

もともと両親の影響で音楽が好きで、吹奏楽やクラシックに興味がありました。ただ中学校には吹奏楽部がなく、先生に「吹奏楽部をつくってほしい」と頼んでも「無理だから合唱部に入れ」と言われてしまって。納得できなかったので、中学時代は別のスポーツ系の部活に入っていました。

高校に入って念願の吹奏楽部に入部し、最初はトランペットを担当していました。ですが秋ごろに気胸という肺に穴が開く病気になってしまい、再発の可能性もあることから、肺に負担のかかる楽器やスポーツが難しくなってしまったんです。そこでコントラバスにコンバートされ、さらに指揮者にも興味があったので顧問の先生に相談して学生指揮も担当させてもらいました。文化祭やコンクールで演奏したのは今でもよい思い出です。

脱走しても戻ってきた応援団

大学でも京都産業大学の吹奏楽部が有名だったので、お試し入部のつもりで仮入部したんですが、結局4年間続けることになりました。ただ、この吹奏楽部は応援団に所属する形だったので、野球応援やラグビー応援にも駆り出されていて。正直、人を応援する時間があるなら自分のことをやりたいタイプだったので、応援はあまり好きではなく、何度も辞めようとして脱走したんですけど、その度に連れ戻されていました。

それでも結果的に4年間続けたことで、今でも困ったときに相談できる友人ができました。あのときの仲間との時間は、振り返るととても有益だったなと感謝しています。

就職してからコンピューターに出会う

アパレル会社での違和感

大学時代は吹奏楽にハマってしまい、あまり授業に行かず留年してしまったので、就職活動は留年後にすることになりました。岐阜は繊維やアパレルが強い土地だったこともあり、最終的に岐阜のアパレル関連会社に就職することになりました。

最初は営業として、ボタンや生地といった資材の調達や、縫製会社の外注先の納期管理を担当していました。ただ、正直かなり独特な社風の会社で、営業は昼間に会社にいてはいけないという謎の慣習があったり、夜遅くまで働くのが当たり前という文化がありました。当時の上司も昔ながらの厳しいタイプで、意見を言えない雰囲気があったんです。自分の意見が言えないことと、納得できないことをやらされることがすごく嫌でした。

不満ばかり言っていたら、社長から「そんなに嫌なら異動してみるか」と声をかけてもらい、営業から経営企画室、今でいう情報システム部門に異動させてもらいました。ここで初めてパソコンにきちんと触れることになり、それが今につながる大きなきっかけになったと思っています。

出向先で見つけたシステムの世界

経営企画室では数字管理やパソコン資材の管理、社内システムの設計、プログラムの勉強などをしていました。その後、関連会社の物流センターで在庫管理システムを入れ替えるプロジェクトが立ち上がり、外注先とともに私もそのプロジェクトに参加することになりました。

しばらく物流会社に出向していたところ、経営状況の関係でその物流会社自体が他社に売却されることになり、私もそのタイミングで転籍させてもらいました。そこで在庫管理の仕事に携わりながら、システムを構築してくれていた会社と縁ができ、その会社に転職することになったんです。

この会社は、今でいうSaaSやクラウド型にあたる「ASP(アプリケーションサービスプロバイダー)」というサービスを提供していました。インターネットを使ってアプリケーションを提供するという、当時としてはかなり先進的な仕組みで、在庫管理システムをこの形で提供していました。ユーザーとしてシステムを使う立場から、実際にシステムをつくり、提供する立場へと変わった経験が、現在の弊社のシステムに対する考え方のベースになっています。

事業拡大にともなって、当時の社長との約束で「拠点を拡大したら岐阜に帰っていいよ」と言われていたのですが、いざ拡大したのは岐阜に近い名古屋ではなく大阪で、私は大阪の支店長として赴任することになってしまいました。このままではいつまでも岐阜に帰れないと感じ、岐阜の会社に転職することを決めました。

クラウド化を提案して断られた

最後に勤めた会社は、今も手がけている生産管理システムを販売している会社でした。同業他社への転職には情報保護や競合上の懸念があり、これまで築いてきた人間関係も壊したくありませんでした。そのため、あえて異なる業界を選び、在庫管理から生産管理へと領域を移しました。

ただ、その会社の製品はクラウドではなくオンプレミス型のレガシーシステム(自社内に設置・運用され、長年使われてきた旧来型のシステム)でした。営業やエンジニアとして働くなかで、これからの時代はクラウドで提供していかないと合わなくなる、システムを「買う」時代ではなく「サブスクで使う」時代が必ず来ると感じていました。それは法人向けの製品でも同じだろうと。

そこで当時の社長にクラウドサービスの立ち上げを提案したのですが、断られてしまいました。オンプレミス型は初期費用やライセンス費用が一括で入るのでキャッシュフローがよいのですが、サブスクモデルにすると月額収入になるため、キャッシュフローが悪化するリスクがあります。実際、サブスクモデルに否定的な経営者は多いんですよね。ただ、そのリスクを取らなければ今後生き残れないと感じていたので、自分でやるしかないと思い、「CMA(シーマ)株式会社」の起業に至りました。

起業を決めた背景には、さまざまな会社で多くの人と出会い、それぞれのメリット・デメリットを実感するなかで、「世の中にはまだないけれど、必要とされているものがある」と気づけたことがあります。転職するたびに「会社をつくったら」と声をかけられることもありました。ただ、社会的な課題を見つけ、その解決につながる技術やノウハウがあり、さらに共感してくれる仲間と、実行し続けるためのモチベーションがそろっていなければ、会社をつくっても続かないと考えていました。そのため、それまでは起業には踏み切りませんでした。

クラウドで中小規模製造業を支える

心臓部を外に出す怖さ

私たちは中小規模の製造業やものづくりの会社さん向けに、いわゆるDXの支援をおこなっています。アナログな業務からシステムを導入して生産性を上げたり、人手不足を解消したりする支援を、お客さまの負担を薄くしながらおこなうことを事業内容にしています。

中小規模のものづくりの会社さんは、システム導入よりも先に人材採用や設備投資、稼働率を上げることを優先せざるを得ず、バックオフィス系のシステム導入はどうしても後回しになりがちです。それでも、いつかは必ずやらなければならないことです。ただ、検討してもよい製品や、安くて使いやすい製品がない業界だったので、そこをクラウドサービスで打破することが解決の狙いでした。

創業当時はまだ、生産管理のシステムのようにいわば会社の心臓部にあたる部分は「外に出したくない」「自社にサーバーを置いてデータを管理したい」という、クラウドに対してネガティブな空気がありました。一方で、流通系やPOS(販売時点情報管理システム)の領域ではすでにクラウド化が進んでいたので、いずれ製造の上流工程にもその波は来ると考え、やるなら一番にやったほうがいいと判断しました。

ものづくりを知っているメンバーの強さ

弊社の強みは、ほとんどのメンバーがものづくりやシステム開発を経験していることです。製造業で何らかの実務経験がある人間が多いので、業界知識が豊富で、お客さまの課題に寄り添った提案ができます。困っていることを実現しようという前向きなメンバーが多いのも、アクセルを踏みっぱなしで突き進める強みになっています。

起業して直面したお金の壁

給料をどう払うかという問題

創業して大変だったのは、多くの経営者と同じだと思いますが、業績が思うように伸びず資金がショートしそうになったことです。来月の給料をどう払おうか、という状況に何度も直面しました。ある程度の顧客がついて安定するまでは、資金の問題がいちばんの鬼門だったと思います。

製品自体は生産管理という機能の深い領域なので、安定するまでにおよそ3年はかかりました。3年目までは比較的少人数で開発を中心に進めながら、知り合いの会社さんに使ってもらうことを続け、4年目から一気に顧客が増えていきました。

もっと知ってもらうために

口コミでファンを増やしたい

まだまだ、中小規模の会社さんにもっと使ってほしいという思いが強いのですが、自分たちが思っているほど製品が知られていないと最近痛感しています。サブスクモデルなので、ユーザーが増えることは売上に直結しますが、その前段として「Othello Connect(オセロコネクト)」というクラウド生産管理システムのファンを増やしたいと考えています。魅力的な製品だから使ったらいいよ、という口コミで広がり、使ってみてよかったという評価から認知が広がっていくのが理想です。

その一環として、若い従業員にショート動画を作成してもらい、InstagramやFacebookで発信する取り組みをおこなっています。中小規模の経営者には年配の方が多く、SNSの発信は届きにくい面もありますが、何もしなければ何も変わらないので、まずは世の中の流れに合わせて取り組んでいるところです。

AIと連携してもっと役立つ製品に

今後はAIとの連携も強化していきたいと考えています。すでに弊社の製品はAIと連動しているので、経営者の方々にもっと活用してもらい、会社の利益や生産性の向上に貢献できればうれしいです。

新卒採用については、弊社は現在フルリモートで働いており、新人教育の体制がまだ整っていないのが正直なところです。現状は社会人経験のある方や、結婚や出産で働き方を見直された方など、中途採用で助けてもらっています。会社の体制がしっかり整わないうちに、焦って新卒採用を始めてしまうと、かえって入社する方を不幸にしてしまうと考えています。そのため、直近での実施は考えていませんが、将来的には検討していきたいです。

編集後記

今回お話をうかがって印象に残ったのは、鷲見さんが何度も転職を重ねながら、そのたびに新しい技術や視点を吸収してきたことです。クラウド化への提案が断られたことがきっかけで起業に至ったというお話からは、納得できないことに対して行動を起こす姿勢の大切さを学びました。中小規模の製造業を支えるという地道な取り組みが、いつか大きな認知につながっていくことを願っています。貴重なお話をありがとうございました。