インタビュー

焼肉屋のバイトリーダーが摑んだ「日常に&を届ける」という原点

焼肉屋のバイトリーダーが摑んだ「日常に&を届ける」という原点
PROFILE
and factory株式会社 代表取締役
青木 倫治

学生時代は「意識高いバイトリーダー」だった

大学は普通、バイトは本気

大学時代は本当に普通の学生でして、バイトとサークルと、少しの勉強、みたいな生活を送っていました。ただそのバイトには、結構ハマっていた時期があります。留年しかけるくらい、のめり込んでいました。

働いていたのは焼肉屋です。店長がいるので私はただのアルバイトなんですけれど、お店全体の経営みたいなところに、すごく興味がありました。売上管理やお客さまのリピート率の管理まで、社員でもないのに、社員のような動きをしていた気がします。周りのバイト仲間もみんな意識が高くて、営業後にお店に残って、酒を飲みながらどうやったらもっと良くなるだろうと、その日の振り返りをしていました。

競合調査は自腹だった

誰かに頼まれたわけでもないのに、自分たちの店舗と競合になりそうな飲食店に、バイト代を使って食べに行っていました。いいところを見つけて、自分たちの店舗に取り入れる。今思えばそれは競合調査だったんですけれど、当時は純粋に楽しくてやっていました。

常連のお客さまとも、プライベートで仲良くさせていただいて、ご夫婦のお宅に泊めてもらったこともあります。誰にも頼まれていないし、マニュアルにもない。でも自分から動くことで、お客さまが何度も来てくれるようになって、お店の売上につながっていく。この感覚は、今の仕事にもある程度、生きているような気がします。

広告営業から「作る側」へ

代理店ではなく作り手に

新卒でサイバーエージェントグループの 株式会社シーエー・モバイル(現:株式会社CAM)に入社しました。のちにサイバーエージェント本体に出向して、インターネット広告を売る、いわゆる広告の営業を六、七年ほど経験しています。

広告代理店は、お客さまが作ったサービスを代わりにプロモーションする仕事です。ただ私がやりたくなったのは、誰かが作ったものの代理店になるのではなく、自分たちでプロダクトを作って、それを広めていくことでした。この思いが芽生えて、会社を立ち上げるに至っています。

恐怖心より「波に乗る」感覚

広告代理店としてのノウハウはあっても、サービスやプロダクトを開発した経験はなかったので、戸惑いはめちゃくちゃありました。ただちょうどその頃、ガラケーからスマートフォンへの切り替わりが起き始めていました。2010年から12年あたりで、世の中が変わりそうな雰囲気があったんです。

ビジネスには、何十年かに一度、大きな転換点が訪れます。インターネットが生まれて、ガラケーが流行って、スマートフォンが来て、今は AI が来ている。そこに乗れるかどうかで、実力よりも運の方が強くなるケースは結構多いんですよね。優秀でも参入するドメインを間違えると苦労しますし、そこまで優秀でなくても、マーケットのタイミングを外さなければ、トントン拍子で伸びていく。当時の私は恐怖心よりも、この波に乗った方が頑張れるだろうという感覚の方が強かったです。

深掘りが運を連れてくる

マーケットのことは、誰よりも詳しくなるくらい調べました。スマートフォンが流行りはじめた頃、すぐに iPhone を買って、一日中 App Store を眺めていました。どんなアプリがあるのか、どういうビジネスモデルで稼いでいるのか、ランキングのロジックはどうなっているのか。

アプリを作るにはプログラムを書く必要がありますが、当時の私はずっと営業畑で、コードは書けませんでした。それでもエンジニアに頼めばお金も時間もかかるので、自分で勉強して身につけていく。興味のある分野を真面目に深掘りして、能力を磨いていくと、外から声がかかってくることがあります。そのチャンスにちゃんと乗っていくと、少しずつ自分の軸足がしっかりしてくる。努力と運は、両方あるものだと思います。

「日常に&を届ける」を漫画で実現する

エンターテインメントだけに軸を置いているわけではなく、教育や医療、宿泊といった分野にも展開しています。世の中のいろいろなサービスに、本当に日常の動線の中に食い込んでいけるようなものを届けたい。それが「and factory」というブランド名に込めたコンセプトです。

創業のころから、電車の中で自分たちのサービスを使っているお客さまが多い状態は素敵だという話を、社内でずっとしていました。それが漫画というドメインに出会って、集英社さんをはじめとする大手出版社さんと一緒に仕事をさせていただくようになってから、実際に電車の中などで弊社のサービスを使ってくれているお客さまの話を聞く機会が増えました。これは私にとっても、弊社にとっても、大きなやりがいにつながっています。

AI は「もう半分以上」で使っている

開発では、もうほとんど手書きでコードを書いていないような感覚で、半分以上は AI で書いています。開発が終わったサービスにバグがないかのチェックも、AI で行っています。漫画を作る工程の一部や、サービスの運用工程の簡略化にも、AI をいろいろなところで使っています。

AIにより効率化された分、少ない人数で回せるようになった分、エンジニアなどのエースプレーヤーを新規事業の方に移動させて、なるべく人をかけずに回せる体制を作るようにしています。

若者へ、「無理にトレンドを追わなくていい」

情報過多で、一歩踏み出せない学生さんが多いというお話をうかがいましたが、チャンスは自動的に何回か巡ってくるものです。ただそのチャンスに乗るというところが、結構大事だとも思います。

経済評論家の勝間和代さんは、オタク気質な方で、スマートフォンを買うときも自然と店員に細かく質問するそうです。そういう、自分でもよく分からないけれど自然とやってしまう、周りから珍しがられるようなものがあるとしたら、それが一番天性に近いのではないかという気がします。時代のトレンドに合わせて頑張る人は多いですが、向いていなければ結構きついものです。

一定程度しゃべれる人は世の中にたくさんいますが、この人は優秀だな、仕事を頼みたいなと思う人は、なんだか感覚がバグっているというか、わけの分からない視点を持っていたりします。特定の分野に対して死ぬほど語れる、そういう深掘りが、ユニークさとなってチャンスに巡り合わせてくれる。情報過多の中で無理にトレンドに乗る必要はなくて、一番好きだと思えることを、自信を持ってやってほしいと思います。いずれそれが強みになって、セールスポイントになります。

採用で見るのは「素直さ」と「主体性」

一番重要なのは、カルチャーにフィットするかどうかです。素直さがあるか、チャレンジしようとする姿勢があるか。会社に入ったからには一歩踏み出して、失敗してでもどんどん突っ込んでいく必要があります。若い頃に突出した経験やユニークなノウハウがあるかも見ますが、そこまでの人はなかなかいません。それよりも、素直さと謙虚さ、そして主体的に動けるかどうか、失敗してもいいから吸収して成長したいというマインドがあるかどうかを、重視しています。

これからは、グローバルで日本のコンテンツを

定量的なところで言うと、今の売上は三十億円ほどですが、百億、五百億、千億という規模に行かないと、会社としての規模感も出ませんし、多くの方の日常に食い込んでいく会社にはなれません。

弊社はエンタメというドメインだけにこだわっているわけではなく、これから弊社のようなサービスを期待している業界は他にもあるはずです。日本のゲームやアニメ、漫画、音楽といったコンテンツは、グローバルで見ても競争力のある成長産業だと思うので、その波に乗って、グローバルで日本のコンテンツを売っていけるような会社になりたいと思っています。

編集後記

インタビューを通して印象的だったのは、青木さんが繰り返しおっしゃっていた「深掘り」という言葉です。トレンドに焦って乗るのではなく、自分が興味を持てることを突き詰める姿勢が、結果としてチャンスを引き寄せる。情報があふれる時代に一歩を踏み出せず悩む学生は多いと思いますが、無理に探さなくてもいい、というメッセージには勇気づけられました。学生起業を考える身として、素直さと主体性を大切にしたいと強く感じた時間でした。