アパレル起業から営業支援へ
営業の仕事からアパレルブランドを立ち上げ
私はもともと、ずっと営業の仕事をしてきました。スーツを着て都内をぐるぐる回るような営業をしていたのですが、そのなかで気になっていたのがカバンだったんです。
女性のスーツに合わせられて、荷物もしっかり入る。それでいて、きれいめなスーツにも似合うカバンが、なかなか見つからなかったんですよね。それなら「自分でつくろう」と思い、4年ほど前にアパレルブランドを立ち上げました。
手触りのなさに気づいて再び営業の分野に
最初はかなり意気込んでいて、クラウドファンディングなどにも挑戦しました。ただ、私はアパレル出身でもありませんし、実際に事業を進めていくなかで、どうしても「手触り感がないな」と感じるようになったんです。結局、そのブランドは1年ほどで閉じましたね。
その一方で、自分がこれまでやってきた営業の仕事を、あらためて振り返るきっかけにもなりました。前職の株式会社ラクスでは、振り返りを徹底して組織のなかに定着させる文化があったんです。
ラクスを離れていろいろな会社さんと接するようになって、そこまで振り返りをやり切れている会社は、意外と多くないんだと気づきました。
営業コンサルとして見えたもの
業種が違っても悩みは同じ
アパレルブランドを立ち上げようと決めた当時、私は営業しか経験していなかったので、経営についての知識がほとんどありませんでした。そこで、経営のスキルを身につけようと考えて、3年ほど前からグロービス経営大学院に通い始めました。
その過程で、「営業の経験を生かしてコンサルティングをするのも、一つの選択肢なのではないか」と考えるようになったんです。もともとは、営業コンサルをやりたかったわけではありません。ただカバンをつくるよりも、自分にとってはこちらの方がしっくりきました。
そこから、いろいろな会社さんに入らせていただき、営業支援をするようになりましたね。営業の施策を考えるだけではなく、メンバーとの1on1に入ったり、営業マネージャーの代行のような役割を担ったりすることもありました。
業種・業態が違えば、当然営業のやり方にも違いがあります。それでも営業組織をつくっていくうえで、悩んでいる企業さんや管理職の方などと接していると、根っこの部分はそれほど大きく変わらないんだと気づいたんですよね。
一社ずつの支援に感じた限界
一方で、コンサルとして一社ずつ深く入って支援していると、どうしても労働集約型になってしまいます。自分が直接入らなければ価値を提供できない状態では、届けられる会社にも限界があります。
そんなことを考えていたころ、グロービスで知り合った起業家の方々から、刺激を受ける機会が増えました。志を持って事業に取り組んでいる人たちの話を聞くなかで、「自分もやりたいことがあるのに、止まっているのはもったいない」と思うようになったんです。
特に決定的だったのが、すでに上場も経験されている起業家の先輩から言われた「5年後に笑っているのは誰かな、俺だけかな」という一言でした。煽られたような感じだったんですけど、「私も5年後に笑っていたい」と思って。それで、もうプロダクトで起業しようと決めたんです。
それまでは、フリーランス・個人事業主として活動していました。ただ、BtoBのプロダクトを販売するのであれば信用も必要ですし、その先で事業をスケールさせることを考えると、会社にした方がいい。そう考えて法人化したのが、株式会社カタリンクです。
姉妹二人での船出
開発パートナーは実の妹
会社は年明けに設立したばかりで、正式な従業員でいうと私一人です。ただ、開発には実の妹がかなり深く入ってくれていて、姉妹で事業を進めています。
プロダクトをつくると決めたとき、当然、開発を担当してくれる人が必要になりました。最初はグロービスのつながりで誰かいないかなと考えたのですが、意外と開発ができる人とのつながりがなかったんです。
そこで妹に頼むことを考えました。ただ、家族を事業に巻き込むことには、少し葛藤がありました。もし何かあったときに悲しむのは親ですし、妹を巻き込んでいいのかなという気持ちもあったんですよね。
そんなふうに悩んでいたとき、夢のなかで妹に仕事を頼んでいる自分が出てきたんです。朝起きて「これはもう、自分は妹に頼みたいんだろうな」と思いました。
妹に伝えた「営業を楽しくしたい」という思い
それが昨年のお盆の真っ最中で、休日の朝だったんですけど、妹に連絡して「今からZoomつなげない?」とお願いしました。
そこから3時間くらいZoomをつないで、「私はこれをやりたいんだ」「みんなに営業をもっと楽しんでほしい」という話をずっとしたんです。それで妹が「面白そうだね」と言ってくれて、一緒にやろうということになりました。
姉妹でZoomをつないで仕事の話を3時間するなんて、私自身も初めてでしたが、それが今の体制につながっています。
KataLinkという仕組み
SFAの後工程を担う振り返り
KataLinkは、営業における「振り返り」を定着させるためのプロダクトです。イメージとしては、SFAの後工程に位置するものだと考えてもらうと、わかりやすいと思います。顧客データなどの情報そのものはSFAに蓄積してもらい、そのデータをKataLinkで振り返りにつなげていきます。
数字や指標を見て、「今どこがボトルネックになっているのか」を把握することはもちろん大切です。ただ、私はそこで終わってはいけないと思っています。
大切なのは、そのボトルネックに対して「今の自分の課題は何なのか」「なぜその課題が起きたのか」「次はどう改善するのか」まで考えることです。そこまで内省して、次の行動に移していくことで、初めて振り返りが改善につながります。
AIで振り返りを次の行動につなげる
とはいえ、営業の方にいきなり「今日から内省してください」「きちんと振り返りましょう」と言っても、実際にはかなりハードルが高いですよね。
日々の営業活動がありますし、振り返るための時間を確保すること自体が難しい。自分一人で考えていても、何が課題なのかうまく言葉にできないこともあります。
そこでKataLinkでは、AIを壁打ち相手として活用します。AIとやり取りしながら振り返ることで、自分のなかにあるモヤモヤを20分ほどで言語化できる。そこから次の行動につなげていくというのが、プロダクトで実現したいことです。
単に営業データを管理するのではなく、集めたデータをどう改善につなげるか。そのための振り返りを、営業の仕事のなかに定着させたいと思っています。
導入を進めるなかで直面した課題
振り返りの文化がない企業が多い
実際に企業さんへの導入を進めてみると、プロダクトをつくっただけでは、なかなか解決できない部分も見えてきました。そもそも「振り返りをする文化がない」という企業さんがかなり多いんです。
振り返りをした方がいいと頭ではわかっていても、これまで組織としてやってこなかった会社に、いきなりツールだけを入れて定着させるのは難しい。プロダクトをうまく使ってもらいながら、こちらも伴走していかなければ、再現性のある形にはつながりません。
私たちとしては、KataLinkを使った結果として「振り返ることで営業が変わる」というところまで実感してほしいんです。今はプロダクトが提供できる価値と、企業側に振り返りを定着させるところの間に、少しギャップがあると感じています。
研修・ワークショップで営業プロセスを分解
そこで現在は、いきなりプロダクトを使ってもらうだけではなく、入り口として研修やワークショップも提供しています。たとえば、自社の営業プロセスを一緒に分解して、「どこに課題があるのか」「何を振り返るべきなのか」を整理するところから始めます。
単発の研修・ワークショップという形なので、位置づけとしてはオプションに近いものです。ただ、振り返りの文化がない企業さんに価値を理解してもらうためには、現時点ではこうした伴走も重要だと考えています。
プロダクトだけを提供して終わるのではなく、どうすれば企業のなかで振り返りを定着させられるのか。そこは、実際のお客様と向き合いながら、試行錯誤しているところですね。
これからの挑戦
この分野の筆頭になりたい
弊社では「営業をもっと楽しく、もっと成果を」というビジョンを掲げています。私は営業をずっとやってきたからこそ、振り返りがきちんとできて、そこから改善につながっていけば、営業をもっと楽しくできると思っています。
私たち自身もこれから作るべきことがたくさんありますが、この分野の筆頭を目指しています。「営業をもっと楽しく、もっと成果を」という世界を、引っ張っていける存在になりたいですね。
足元を固めてから広げていく
もちろん、いきなり大きくすることだけを考えているわけではありません。まずは、企業さんに「KataLinkを入れたい」と思ってもらえること。さらに導入後も「使い続けたい」と思ってもらえる状態をつくること。その形をきちんと見つけて、足元を固める必要があると考えています。
また、今は妹と二人を中心に進めているので、その先で事業を大きくするときには、人をどう増やしていくのかという課題もありますね。資金面についても、本格的にスケールするのであれば、資金調達をして拡大していきたいという思いがあります。正直、まだまだ課題だらけの状態ですが、一つひとつ形にしているところですね。
半年でトライアルとピボットまで
プロダクトでやると決めたのが7月から8月ごろで、その後の半年ほどでユーザーさんを見つけ、実際にトライアルまで進めました。
使っていただくなかで、「この機能は少し違うな」と感じたら、そのままにせず方向を変える。機能をピボットするところまで含めて、かなり高速で回してきたと思います。それで、ありがたいことに、グロービスのビジネスコンテストでも賞をいただきました。
最初のお客様については、それまでのつながりに助けてもらった部分も大きいですね。それでも、「やる」と決めてから実際のユーザーさんに使ってもらい、改善を繰り返すところまで短期間で進めました。
そのスピード感は、ビジネスコンテストでも評価していただけたポイントの一つだったのではないかと思っています。
学生へのメッセージ
まず動いてみることが大事
学生の方には、まず挑戦してみてほしいと思っています。自分に向いているのか、向いていないのか。本当にできるのか、できないのか。それは、実際に動いてみないと見えてこない部分があります。
私自身も、アパレルブランドを立ち上げてみたからこそ、自分には営業や組織づくりの方が合っているとわかりました。その後も営業支援をやってみて、いろいろな企業さんと関わったからこそ、今のプロダクトにつながっています。
やってみた結果、違うと感じることもあると思います。それも含めて、挑戦し続けてみることが大事なのではないでしょうか。
編集後記
中澤さんのお話を聞いて印象的だったのは、最初から現在の事業を一直線に目指していたわけではないことです。営業として感じた課題からアパレルブランドを立ち上げ、営業支援へと軸足を移し、複数の企業に関わるなかで「振り返り」という重要なポイントにたどり着いています。
また、先輩の起業家の一言をきっかけに、個人での支援からプロダクトによる挑戦へ踏み出したエピソードも印象に残りました。考えるだけで終わらず、実際に動きながら方向を見つけていく姿勢は、これから就職活動を迎える学生にとって、大きなヒントになると感じました。貴重なお話をありがとうございます。