インタビュー

「あなた」を笑顔にする チロルチョコ4代目社長が貫くシンプル経営

「あなた」を笑顔にする チロルチョコ4代目社長が貫くシンプル経営
PROFILE
チロルチョコ株式会社 代表取締役社長
松尾 裕二

サラリーマン時代の2年間

後継者とは言われなかった

もともと父の会社を継ぐものだと、小学生のころからなんとなく思っていました。当社は代々長男が継いできた会社だったので、勝手に自分もそうなるものだと。ただ、実際に「継いでほしい」「あなたが後継者だよ」と言われたことは、入社するまで一度もなかったんです。就職活動のときも、まずはコンサルティングや会計など、いずれ会社に戻ったときに生きる職種を学べる会社を探し、新卒でサラリーマンを2年だけ経験してから、家業に入っています。

上司に鍛えられた1年間

配属先は希望していた会計・税務の部署ではなく、連携する部署でした。1年目は他社の給与計算や労務をアウトソースで受ける仕事が中心で、2年目からは営業から実務まで幅広く担う上司について仕事をするようになりました。その上司には資料の出し方や期限、フォーマットまで、かなり厳しく指導していただきました。当時は正直、怖いし嫌だなと思うことも多かったです。ただ、父の会社に入ってから私を叱ってくれる人はほとんどいなくなったので、あの2年目の1年間で資料の見せ方や仕事の意識するべきポイントを学べたのは、今思うととてもよかったと感じています。

突然の後継者発表

壇上で聞かされた指名

入社した直後、たまたま全国の社員が福岡の工場近くに集まる全社大会がありました。入社してすぐの4月1日の翌週くらいのことです。そこで急に壇上に呼ばれて、父から「彼が後継者で次の社長だから、みんなよろしくね」と皆さんの前で発表されたんです。私自身、事前にそう伝えられていたわけではなかったので、本当に驚きました。壇上から社員の顔を見ながら「そうなのか」と、気持ちが引き締まった瞬間でしたね。それから6年後、実際に社長に就任することになりました。

ミッション経営という挑戦

カリスマ型だった父の代

父は開発に特化した、いわゆるカリスマ型の経営者でした。営業や製造はそれぞれの役員にほぼ任せている一方、商品の味やデザインのアイデアは、9割近くが父から出てきていたと思います。夜な夜な家でメモをして、翌日会社に来ては「この味どうだろう」と提案する。開発の担当者はそのスピードに応えて形にしていく、というのがずっと会社のスタイルでした。

社長は何かしらのカラーが必要だと思っていたのですが、入社から社長になるまでの6年間、どの部署も1年半から2年ほどしか経験できていませんでした。営業や機械いじりが得意というようなキャラクターを持てなかったので、代わりに掲げたのがミッション・ビジョン・モットーによる経営です。4代目として、新しくミッションとビジョンをつくることから始め、それから社員とともにモットーをつくりました。

「あなた」を笑顔にする

父の代には「楽しいお菓子で世の中明るく」という社是がありましたが、社内で意識されるのは就活生が面接でその言葉に共感してくれるときくらいで、実際の文化としてはあまり浸透していませんでした。現在は、ミッションやビジョンと社員みんなでつくったモットーを浸透させることを大切にしています。毎月の社内報に、私からのトップメッセージを書く欄をつくり、全社員の前で話す機会でも「笑顔」という言葉を繰り返し伝え続けてきました。ミッションができてから7〜8年、最近になってようやく、笑顔という価値観が社員の仕事の基準として根づいてきたと感じています。

社員満足度を本気で上げる

社長になって最初に始めたのがミッションづくりで、そこから「『あなた』を笑顔にする」という言葉ができました。社員が笑顔でなければ、いい仕事もいい商品も生まれない。そう考えて、社員満足度を点数化する調査を始めたんです。社長になって2〜3年目のことでした。ふたを開けてみると、思っていた以上に満足度が低い結果で、正直かなり驚きました。そこから本気で満足度を上げようと決め、年末の調査で見えてきた不満や課題をもとに、毎年10個ほどのプロジェクトを立てて半年かけて改善する取り組みを、もう7年ほど続けています。

現場の思いを大切にする

赤かパステルか

3年前、バレンタイン向けの商品でこんなことがありました。パッケージの色について、私やこれまでの経験を重ねてきたメンバーは「これは赤一択」と考えていたのですが、デザイン担当者はパステルカラーの5色展開を推していたんです。会議では一度「赤で行かせてもらう」と決めたのですが、担当者があきらめきれず、もう一度提案してきました。最終的にはパステルカラーで発売したところ、SNSでの評判も売れ行きもとてもよかったんです。

担当者の熱量を信じる

この経験をきっかけに、固定観念や長年の経験だけで商品づくりを判断するのはよくないと考えるようになりました。それ以降は自分の意見を押し通すより、担当者の思いや若い世代の感覚を大切にするようにしています。赤かパステルかで会社がつぶれるわけではないので、それなら担当者の気持ちが乗っている方を選ぶ方が、お客様にも何か伝わるものがあるはずだと。今年発売した〈カラースプレー〉という商品も、担当者の熱意がきっかけで、久しぶりに反響の大きい商品になりました。

相手のその後を考える

社会人としてずっと大切にしているのは、資料やメールを送った相手がそのあとどう動くかを考えることです。エクセルで資料をつくったとき、最後に触っていたカーソルの位置のまま保存されていたり、印刷のさい数枚に分かれてしまったりすると、相手に手間をかけてしまう。なので、資料は相手がすぐに扱えるかたちにしてから送るように、若手にはよく伝えています。メールも、まず何をしてほしいかを最初に書く。私自身も指示を出す立場になることが多いので、ゼロから考えさせるより「これとこれについて考えて」と、次のステップが見えやすいかたちで仕事を渡すよう意識してきました。気遣いや心配りは、当たり前のようで、意外とできていない人が多いところだと思います。

売上100億円という目標

絵に描いた餅にしない

わかりやすい言葉しか信じないというのが、私の性格としてあります。ミッションやビジョンをシンプルな言葉にしてきたのもそのためです。3年後の姿を描く中期経営計画にも、正直「絵に描いた餅ではないか」という感覚がずっとありました。3年後の売上や利益がどうなっているかなんて、はっきりとはわからないですよね。だから単年度の目標だけを立ててきたのですが、売上が100億円に近づいてきた段階で、次のステップとして中期経営計画をつくってみることにしました。

工場のキャパシティという壁

実際につくってみて気づいたのは、中期経営計画とは売上目標を立てるだけのものではなく「100億円を目指すには何をしなければならないか」を明確にする作業だということです。見えてきた課題のひとつが、福岡の工場とベトナムの工場、両方の製造キャパシティです。もっと売りたい商品があっても、つくれる量に限りがある。今はその制約を踏まえながら、新しい販路の開拓にも力を入れています。お土産用商品の開発や新しい売り場での販売などは、これまではあえて大きく展開してこなかった部分もありましたが、今後広げていきたいところです。子どものころに食べていたお客様に、もう一度手に取ってもらえるような取り組みも続けています。

大学生へのメッセージ

社風は入るまでわからない

就職活動をする学生さんには、結局は誰と働くかが大切だと伝えたいです。条件面や職種、業界ももちろん大事ですが、社内の雰囲気は入るまでなかなかわかりません。長く働くことを考えるなら、社風をできるだけ調べてみることをおすすめします。

大学生にしかできないこと

私自身は大学時代、ダンスサークルに没頭していて、青春という意味では後悔がないくらいやりきりました。そのうえで就職活動に切り替えられたので、すごくよかったと思っています。社会人になると長期の休みはゴールデンウイークやお盆くらいしかありませんが、大学生の時期は自分の好きなように時間を使えます。海外に行く、友だちと遊ぶ、趣味に没頭する。就職活動ももちろん大事ですが、自分自身の経験値を増やす最後の大きなチャンスとして、ぜひ大切にしてほしいです。

編集後記

社是からミッションへ、そして数字ではなく「笑顔」を軸に会社を動かしてきたお話が印象的でした。赤かパステルかのエピソードは、経営者としての決断力と、現場への信頼のバランスがよく表れていると感じます。就職活動を控える身として、社風を自分の目で確かめることの大切さは、とくに心に残りました。大学生活を思いきり楽しむことも、これからの時間で意識していきたいです。