インタビュー

モロッコ生まれの研究者が、光で日本と世界をつなぐまで

モロッコ生まれの研究者が、光で日本と世界をつなぐまで
PROFILE
株式会社LightBridge 代表取締役
カトフ レドワン

研究者になるまでは、日本で起業するなんて考えていなかった

計画はしていなかった

私はもともと、日本で起業するという考えはまったくありませんでした。出身はモロッコで、研究者として歩んできた人間です。カナダでの研究経験を経て、モロッコではホログラフィ用材料の研究開発に取り組んでいました。

光との出会いはホログラフィから

光と付き合い始めたのは1999年のことです。ホログラフィとは簡単に説明すると、光を使って立体的な情報を記録したり、表示したりする技術です。

日本との出会いは共同研究から

研究室で、日本の大学と共同で研究する機会がありました。それが私と日本との出会いです。その研究がきっかけとなり、筑波大学の博士課程に進む機会をいただき、来日しました。そこから本格的に研究者としての道を続けることになったので、はじめは研究以外の目的はありませんでした。起業しようという考えも、当時はまったくありませんでした。

研究を製品につなげたいという想い

いい研究が、そのまま製品になるわけではない

卒業したあとにいろいろな仕事を経験するうちに、少しずつ考え方が変わっていきました。研究の世界には面白いアイデアや素晴らしい技術がたくさんあります。しかし、いい研究ができたからといって、それがすぐに製品になるわけではありません。設計したり、シミュレーションしたり、試作品を作ったりと、社会と研究者をつなぐためのステップがいくつも必要なのです。

研究と技術を、社会につなげる側でありたい

自分は研究する側だけでなく、研究と技術を社会につなげる側としても挑戦できるのではないか。そう感じたことが、LightBridgeを立ち上げるきっかけになりました。

会社を経営してわかった苦労

思うように成長できないことがいちばんの苦労だった

会社としても、はじめは社内の制度から整えていく必要がありました。ですが、いちばん苦労したのは制度づくりよりも、思うとおりに成長できないことでした。将来の夢に向かって進む中で、拡大の場面でさまざまな問題が起きていたからです。

総代理店の立場を、あとから失った経験

以前、カナダの会社の解析ソフトウェアについて、大学や研究所向けの総代理店を任せていただいたことがあります。そのマーケットを大きくしようと力を入れていたのですが、私自身は大学や研究所だけでなく、もっと社会や企業とも一緒に仕事をしたいという思いがありました。その後、その会社の買収をきっかけに販売体制が変わり、それまでとは異なる事業環境になりました。

LightBridgeが目指す未来

光と社会をつなげたい、そんな想いを込めた社名

LightBridgeという社名は、光と橋という言葉からきています。光を社会につなげたい、という意味を込めました。光自体は、分野としてとても好きな存在です。ただ、光を活かす道はたくさんあるのに、まだ乗り越えられていない部分が多いと感じています。

アイデアを、死なせたくない

日本には素晴らしい技術があります。しかし、それをアイデアのまま終わらせず、製品にするまでには壁があり、なかなかすべてが製品にならず、そのまま終わってしまうアイデアも少なくありません。これはすごくもったいないことだと思います。

私が会社を作った理由は、アイデアから製品になるまでの過程を、1つの環境でつなげたいと考えたからです。プロトタイプを作る前の段階で、そのアイデアが本当にものになるかどうかを確認できないと、製品化には何千万円、何億円という費用がかかってしまいます。だからこそ、考える、設計する、解析する、製作するという一連の流れを、1つの環境でカバーできるようにしたいと思っています。

誰もが光を使って設計できるプラットフォームへ

現在、自社でフォトニクス設計プラットフォーム『Photonica』を開発しています。より多くの研究者やエンジニアが光技術を使って設計できるプラットフォームにしていきたいと考えています。まずは日本から展開し、将来的には世界で利用されるプラットフォームに育て、日本の優れた技術を世界に発信できる存在にしていきたいです。

課題は人材

開発者はすでに社内にいますが、いちばんの課題は人材です。フォトニクスデバイスの設計では、目的に応じて異なる解析手法やソフトウェアを使い分ける必要があります。こうした異なる設計・解析環境を、一つのワークフローとしてつなぎたいと考えています。

日本と海外、行動のスピードの違い

アイデアだけでは、ものにならない

アイデアそのものは、いちばん最初に生まれるものです。ですが、アイデアだけでは製品にはなりません。研究のまま終わってしまうアイデアは、正直もったいないと感じています。

まず試してみることの大切さ

海外で研究や仕事をしてきた経験から、アイデアがあればまず試してみるという環境に触れる機会が多くありました。一方、日本では、技術の完成度やリスクを慎重に検討してから次に進む場面が多いと感じています。慎重に検討することも重要ですが、新しい技術では、まず試してみて、その結果から学びながら改善していくことも大切だと考えています。

失敗しても、次につながる

一度で成功したいという気持ちが強いぶん、失敗を怖がってしまうのかもしれません。ただ、試してみないと結果はわかりません。失敗したとしても、なぜうまくいかなかったのかを考え、また実行してみる。この繰り返しが、次のステップにつながっていくと感じています。

学生へのメッセージ

最初から正しい道を選ばなくていい

私自身、これまでの人生を計画してきたわけではありません。1つひとつのステップで得た経験が、次の経験につながってきました。日本で会社を立ち上げることも、日本に来ること自体も、はじめから決めていたわけではありませんでした。だからこそ、すべてを最初から決めておく必要はないと伝えたいです。

チャンスは見逃さない

チャンスがあれば取る。新しい研究があればやってみる。新しい人と話す機会があれば話してみる。そうやって1つずつ経験を重ね、次にどうなるかわからないまま進んでいくことが大切だと思っています。私自身も、学生の時代といまとでは、まったく違う道を歩んできました。失敗しても、なぜだろうと考えて、もう一度やってみる。その繰り返しを、ぜひ大切にしてほしいです。

編集後記

海外から日本に渡り、研究者として、そして経営者として道を切り拓いてきたカトフさんのお話は、正しい道を最初から選ぼうとしがちな自分にとって、とても刺さるものでした。とくに「まず試してみること」という言葉は、挑戦を先延ばしにしがちな自分自身にも重なる部分がありました。1つひとつの経験を積み重ねる姿勢を、これからの自分の行動にも取り入れていきたいと思います。