インタビュー

「お米は海外でも戦える」学生時代の食事難民経験から生まれた完全栄養ごはん「おにもち」

「お米は海外でも戦える」学生時代の食事難民経験から生まれた完全栄養ごはん「おにもち」
PROFILE
株式会社vitom 代表取締役
林 幹晟

睡眠と食事、どちらを取るか迷った学生時代

実験漬けの毎日を過ごした

弊社「株式会社vitom(ビトム)」は学生起業の会社で、現在4期目を迎えています。学生時代は化学を専攻し、比較的余裕のない研究生活を送っていました。1年生の頃からインターンにも通っていて、せわしない毎日を過ごしていました。

普段の大学のスケジュールは1限から実験に入り、終わるのが18時半頃。そこからインターン先に向かい、学校→会社→最寄り駅へと、違う場所へと移動して、終電くらいで帰ってくる生活をしていました。

家に帰ってから食事をとって寝ると、だいたい2時くらいになってしまいます。あまり睡眠時間が取れなくて、いかに睡眠を確保できるかが私にとっての勝負でした。食事より睡眠のほうが大事な人間だったので、帰り道で食事をとる時間を削っていたら、低栄養で英語の単位を落としそうになったこともありました。どうにか食事を取れないかと考えたのが、いまの商品を作るきっかけになっています。

完全食との出会いが原点

もともと完全食にはかなり興味がありました。私が大学に入学したのは2017年で、当時はベースフード株式会社(BASE FOOD)さんの「ベースブレッド(BASE BREAD)」もまだ発売されていなかったと思います。でも、それ以前に「コンプ(COMP)」という、カナダ発の「ソイレント(Soylent)」が日本版になった完全食の飲み物がありまして。そういったこともあり完全食に興味があったので、1年生のときに完全食を取り扱っている株式会社COMPという会社の当時代表だった鈴木さんにアポなしで、連絡をして会いに行きました。

化学を専攻された博士の方で、細かい話を聞かせていただいて、「コンプの食事版ができたら面白いな」と感じたのが、完全食を作りたいと思ったきっかけになっています。

学生時代はいろいろな食品も試作しました。グミやパン、うどん、マヨネーズなど、研究しながらたくさん作ってみて、最終的にたどり着いたのがお米でした。

なぜ「お米」と「おにぎり」だったのか

祖母の田んぼで育った実感

私自身、食事らしい食事を探していたという背景があります。祖母が農家でお米を作っていて、私自身もともとお米が大好きな子どもでした。学生時代はサッカーをしていたので、パンよりもお米を食べなさいと言われて育った文化があり、お米は自分の身についているものでした。より多くお米を食べたいという思いから、何とかできないかと探したのがひとつの理由です。

海外で戦えるプロダクトにしたい

もうひとつは、シンプルにお米であれば海外で戦っていけるプロダクトだと思ったからです。日本国内では最も身近な主食でありつつも、海外ではパンやパスタが主流です。チョコレートや油の輸出量は多いものの、日本食はまだうまく輸出されていない現状があるので、これから積極的に輸出していこうという動きは農林水産省でも進んでいます。そこにうまく乗っかれるように、日本発でグローバルに戦えるものとして、お米を選んだ形になっています。

でんぷんの構造を制御する独自技術

レトルトでも硬くならない

「おにもち」は、おにぎりとお餅の中間にあるようなネーミングの商品です。これはもともと研究として取り組んでいたでんぷんの制御技術を使っています。お米はでんぷんでできているのですが、でんぷんの中の構造をコントロールすることで、レトルト処理をかけても崩れない形を維持できるようにしました。従来、レトルトカレーはあってもレトルトおにぎりはほとんどなかったと思いますが、それを可能にしたのが弊社の技術です。

でんぷんの構造をうまく制御することでお米の適度な硬さを維持できるようにしています。炊いた瞬間からお米はどんどん硬くなり、そこから菌が繁殖していくのですが、菌の繁殖はレトルトで抑えつつ、硬くなるのをいかに遅らせるかという部分をうまく実現できた商品です。従来のおにぎりの食感をもう少し気軽な現代の形にアップデートできたものを届けたいという思いもあり、この商品を作りました。

忙しいビジネスパーソンと、子育てを終えた世代に届いている

デスクで働きながら食べられる

いま反応が良いのは大きく二つのパターンです。ひとつは都内で働くコンサルタントの方です。ビッグフォー(Big4)クラスのコンサルタントに従事されていて、おにもちをデスクに持っていってそのまま食べながら働く、ということをされてる方も多いです。

子どもが巣立った世代にも

もうひとつはまったく逆で、50〜60代の方です。子どもがすでに巣立って、都内の区外に住まわれている方に刺さっています。子どものために食事を作るのはしっかりやるけれど、自分ひとりのために作るのはおっくうになってきた、という声があります。この世代の方は多国籍料理をたくさん食べるタイプではなく、和食を好まれるのですが、「毎回お米を炊くのは面倒」「一合炊いても食べきれず冷凍保存になってしまう」といった悩みがあり、混ぜご飯のような形でレンジで手軽に食べられる点を評価いただいています。想定していなかったニーズだったので、私自身も気づかされました。

私自身、フルタイムのインターンをしていた時期にIT企業の激務を経験していて、エンジニアの方がデスクでよくわからない栄養ドリンクを飲んでいるような場面をたくさん見てきました。そうした忙しい方に刺さるだろうという想定は持って商品を作っていました。

オンライン中心から店舗展開へ

開発に2年、販売開始は昨年3月から

会社自体は3年目ですが、開発に2年ほどかかっていて、販売を始めたのは昨年3月からです。今年の3月には新商品も出しました。それまでの1年ほどはずっとオンライン中心で展開していましたが、今年の4月くらいからはスポーツ店さんなど、店舗に置いていただくケースやオフィスへの社内導入も増えてきました。

営業はまだかけておらず、問い合わせをいただく形で少しずつ増えている状況です。ただ、コンビニのおにぎりと何が違うのかと言われると保存性の違いなどもあるので、もう少し適切なシーンを見つけていく必要があると感じています。オンラインは堅調に伸ばしつつ、オフラインの展開も少しずつ広げていきたいと考えています。

お米を海外で戦えるプロダクトにする

パックご飯が海外で売れている理由

商品としてのビジョンは、お米やおにぎりというものを海外で戦える形にしていくことです。パックご飯は日本ではよく見かけますが、実は海外でもよく売れています。理由は、海外の方は炊飯器を買おうとすると高額になってしまうからです。炊飯器を買うよりも、パックご飯でジャスミンライスや玄米を少しだけ買うといったニーズがあります。私たちもパックご飯と同じくらいのクオリティを、レンジで温めずとも出せるのであれば十分に可能性があると考えていて、その携帯性を目指していきたいと思っています。

海外にいる寿司屋さんからも、お米や寿司酢を現地で手に入れて作るのが難しいので、シャリの状態のまま輸出してほしいというオーダーがあります。こうしたところにも展開しつつ、本来お米は炊く前の状態で売られて炊飯するというプロセスがあり、パンよりも手軽さが失われている部分がありました。より手軽にお米を食べられるように、技術を活かして展開していきたいと考えています。

10人体制で走る少数精鋭のチーム

ブランドマネージャー経験者も参画

いまは役員が私のほかにもう一人いる2人体制で、業務委託の方も含めると全体で10人ほどのメンバーです。業務委託の方の中には、Googleや江崎グリコ株式会社、麒麟麦酒株式会社(キリンビール)で働かれていた方もいます。「アーモンド効果」や「淡麗グリーンラベル」のブランドマネージャーを務められていた方も入ってくださっていて、普遍的なマーケティングの部分を営業のフロントと合わせて担っていただいています。

デザインが得意な学生を募集中

採用については、いまのところ積極的には進めていませんが、デザインが強い学生さんがいれば、ぜひインターンとして迎えたいと思っています。自分の絵を描くことが得意な学生さんは見つかりやすいのですが、広告のデザインまで手がけられる方はなかなか見つかりません。私たちはCPG、つまり消費者向けのパッケージ商品を扱う食品会社なので、デザインを作らなければいけない機会が多く、そこを担ってくれるインターン生を探している段階です。

一緒に働く人物像については、正直あまり明確なものはありません。私自身、人のマネジメントがそこまで得意ではないので、ほとんど各自にお任せしている部分があります。ただ、落ち着いて建設的な議論ができる方だとありがたいと感じています。

目指すのは数百億円規模の企業価値

会社の規模感としては、ベースフードさんの売上規模が200億円弱くらいだと認識していて、私たちもお米というカテゴリーで同じようなモデルを作ろうとすると、それくらいの規模はいけると思っています。アメリカでメキシカンフードをレトルトで販売している会社さんも普通に400〜500億円規模の事業になっていますので、私たちとしても企業価値として1,000億円までいかなくても、数百億円規模までは持っていきたいと考えています。

楽をしないほうがうまくいく

結果が出なくても満足できる動きを

学生時代、内定は複数いただいていましたし、海外留学もしていました。シアトルにいたのですが、留学先で仲良くなった友達がGoogleに行ったり、それほど勉強していなくてもボストンキャリアフォーラムに参加して大きな企業に決まっていったりする姿を見てきました。ただ、私自身は楽をしてキャリアを進めたいとはまったく思っていなくて、自分が全力でやって結果が出れば嬉しいし、出なくても満足できるような日々の動きができていれば、それでいいと思っています。ある意味、自己満足な部分があるかもしれません。

学生へのメッセージ

ビジョン図鑑を見てくださっている方は、すでにかなり意識の高い方が多いと思いますが、あまり楽をしない道のほうがうまくいくと感じています。自分の頭で考えることが大切だと思います。

やりたいことがまだない方の気持ちを完全に理解できるわけではありませんが、もう少し好きなものを深掘りしてみる、熱中して何かをやってみるというのは、とてもよい経験になると思います。私自身、幼稚園から高校3年生までサッカーを続けていて、全国レベルの舞台を経験したこともありました。特別サッカーが好きだったわけではなく、たまたま始めたものでしたが、これ以上はうまくなれないと感じてやめました。それでもやってみたからこそ気づけたことがあります。フルタイムのインターンも1年ほどIT系の会社で続けていて、当初やりたかったデータ分析についても、突き詰めてみたことで「このくらいで十分だ」と見えてくる部分がありました。実際にその経験はいまでも活かされているので、結果として目の前のことを全力でやることが大事だと感じています。

忙しい人ほど、心にゆとりを持ってほしい

おにもちは、忙しいビジネスパーソンに使っていただいている商品です。今学生の方も、将来はビジネスパーソンになりますし、学生時代は生活リズムが不安定になりやすい時期だと思います。急に論文が入ってきたり、自分との闘いのような場面が多かったりする一方で、社会人になるとルーティンワークに近い部分もあって、ある意味楽になる面もあります。学生のうちはインターン先も自分で選び、授業もどのくらい頑張ればいいかわからないまま単位を取り、実験もそれなりにこなす、という不安定さがあると思います。そうした不安定な時期だからこそ、私たちの商品を使って、食事の時間を削ってもいいので、少しでも心にゆとりが出るような時間の使い方をしていただけたら嬉しいです。

見た目については、まだまだ改善の余地があると思っています。アメリカ向けのテストでは、現地の方からは見た目が「ウィアード(weird)」と言われることもあります。おにぎりというよりお餅っぽい見た目なので、どう伝えていくかは今後の課題です。開発は、レシピ開発からレトルトのパラメータ調整まで、ほぼ実験に近い作業を重ねていて、夜遅くまでかかることも多いです。ただ、マーケットを強く意識して作ったというよりは、自分自身が欲しいものを形にしたという感覚が強く、これからはもっと多くの方に届けていく広げ方を考えていきたいと思っています。

編集後記

今回、お話をうかがって印象に残ったのは、林さんご自身が「睡眠か食事か」で悩んだ実体験から商品が生まれているという点でした。でんぷんの構造を制御する技術の話は専門的でありながら、根っこには「忙しい人に心の余裕を届けたい」という一貫した思いがあり、とても腹落ちしました。お米という日本の主食を海外に広げていくという構想も壮大で、今後の展開がとても楽しみです。貴重なお話をありがとうございました。