インタビュー

19歳で直面した予期せぬ逆境が、鉄鋼の街を出て札幌でつくった会社

株式会社ZeroPlus 代表取締役CEO 長屋 優
PROFILE
株式会社ZeroPlus 代表取締役CEO
長屋 優

鉄鋼の街で育ち、「人生の大きな転機」を迎えた

大学に行かない選択をした

私が育った室蘭市は鉄鋼業が有名な地域で、大学に進学する人自体が少ないというか、家庭の事情もあって私も進学はできませんでした。そのまま地元の会社に就職して、1年ほど会社員をやっていました。

19歳で直面した予期せぬ逆境。地方の挫折から猛勉強へ

19歳のとき、予期せぬ環境の変化から突然の挫折を経験しました。脳の持病の悪化で当時勤めていた地方の職場を離れざるを得なくなり、明日からの仕事がないという厳しい現実に直面したんです。生活を維持するための負担が重なっていく過酷な状況の中、特に地方では移動に不可欠な車の維持費や保険代なども重なり、19歳の若者には到底背負いきれないほどの重圧でした。それでも「このままでは終われない」と、フリーターとして朝から晩まで必死に働きながら、将来を切り開くために猛勉強を重ねていきました。

Pythonに挫折し、Flutterに出会った

当時、2018年から2019年ごろは第3次エンジニアブームというか、Webエンジニアで年収1,000万円というような広告がテレビでもネットでも流れていた時期でした。私もその波に乗るような感覚で勉強を始めて、当時流行っていたPythonから手をつけたんですが、まったく理解できませんでした。困っていたタイミングで出会ったのが、Flutterというフレームワークでした。

1年半でアプリを30個作った

ちょうどコロナ禍の「おうち時間」需要もあって、1時間で作ったものを売れるフリマアプリのようなプラットフォームを、学生の友人と一緒に作ろうとしたのが始まりです。大手通販サイトのクローンアプリ、YouTubeのクローンアプリなど、データベースをつないでいろいろ試作しているうちに、気づけば1年半でアプリを約30個作っていました。20歳から21歳になるころの話です。そこからは個人事業主として一人でやっていくことになりました。

ようやく契約が決まったSESの仕事

ポートフォリオができてきたのでアルバイトをしながら3ヶ月で2000件ほど営業を試みたんですが、学歴もなく正社員経験もない21歳の人間には、なかなか相手にしてもらえませんでした。地元の飲食店にLINEチャットボットの注文システムを提案してみたこともありましたが、こちらも芽が出なかったですね。諦めかけていたところに訪れた転機は2021年7月28日でした。以前営業をかけていたSESエージェントから電話があり、翌日に面談、その翌日に契約、8月1日からスタートというスピード感でした。3日間でアルバイトも全部辞職して、この1本で行くと決めたんです。その3ヶ月の案件が終わるころには次の案件を紹介してもらい、今の商売の基礎となりましたね。

当時は経験もありませんでしたが先方の企業が熱量を買ってくれて未経験でも是非と迎えてくれましたね。

その時のアルバイト先には今思うととてつもない迷惑もかけたな。と反省しています。

でも当時のアルバイト先の方々からは「やれるだけやってこい」と背中を押してもらえたからこそ今があるんだと思います。

モバイルアプリからECサイトまで、幅広く手がける

事業内容としては、モバイルアプリとWebアプリの開発、それにWebシステムの開発です。開発の形もSESから受託開発までいろいろやってきていて、今は受託が7割、SESが3割くらいの比率です。

全く新しい形のアプリを一から作った

弊社の実績の中でも大変だったのが3つあります。1つ目は、去年の7月25日にリリースした「Wick(ウィック)」という共同開発アプリです。漫画やSNSが無料で見られるアプリで、特許を取得した独自の広告システムによって、1日携帯を放置しておくだけで新刊の漫画が読めるほどポイントを受け取れる、全く新しい広告の仕組みになっています。世の中に参考にできる先行事例がなく、一から作らなければならなかった点が特に大変でした。

アイドルグループとのコラボアプリでサービス設計にも携わった

2つ目は、最初はアイドルグループにも協力してもらってリリースした、推しを応援する共創型推し活エンゲージメントプラットフォームのアプリです。オークションで有名な株式会社モバオクと一緒に開発したもので、私自身は開発もそうですが経営企画やサービス設計のほうに深く入りました。アプリのマーケティングは得意な分野でしたが、サービス設計に入るのは初めてで、そこが特に大変でした。

有名なアニメなどのグッズやヒーローものを扱うECサイト

3つ目は、大手ゲーム会社のIPを扱うECサイトです。国内外で空前のブームとなった人気アニメのグッズを販売するサイトを手がけました。

「人を信じること」と経営のバランス。組織づくりで得た最大の教訓

創業してから今に至るまで、組織運営の面で多くの苦労もありました。初期には、信頼していた仲間との間で経営方針やガバナンスを巡る大きなトラブルを経験したこともあります。私は本来、人を性善説で捉えるタイプで、当時は「個人としての自分」と「経営者としての自分」の切り替えがうまくできていませんでした。相手への感情や期待が先行しすぎてしまい、仕組みとしての管理を後回しにしてしまったことが、当時の反省点です。この経験を通じて、人を信頼することと、組織として健全なチェック機能を機能させることのバランスの大切さを身をもって学びました。

経営は誰もが1年生から始まる

会社経営というものは誰もが1年生から始まるということです。税金や労務、財務、会計まで、個人事業主のあいだはアプリを作って請求書を書ければどうにかなりますが、経営者は総合職として何でもできて当たり前だと社員からも見られます。数字が得意な人もいれば文章が得意な人もいるのと同じで、経営者にも得意不得意があるはずなのに、私はそれほど頭がよいわけではないので、社員が当たり前だと思っているレベルに追いつくまで人一倍勉強する必要がありました。

「人様の人生に色をつける」がモットー

今後のビジョンは2つあります。1つは「人様の人生に色をつける」ということ、もう1つは「ゼロからプラスに」という弊社のモットーです。昨日までなかったものを私たちが作る、という意味です。売上を何億円にしたいとか、従業員を何人にしたいというような数値目標はあまりありません。そもそも仕入れがなく経費だけで完結する利益率の高い業種なので、資金繰りに逼迫することも起きにくいんです。

稼いだお金をどこに使うかを考えたときに、従業員への還元や会社のブランディング、成長のための投資に使うべきだと思っていますし、事業者として果たすべき社会的責任、CSRもあると考えています。僕自身が貧しい家庭で育ったので、特に子ども食堂や福祉の分野にはいずれ目を向けていきたいと思っています。幸せな人が多い会社にすること、それが「人様の人生に色をつける」というビジョンにずっとつながっています。

どうか今しかできないことに挑戦してほしい

就職活動をしている学生さんや、1社目に入ったもののこのままでいいのか迷っている方に向けてお伝えしたいのは、大学生や高校生、専門学生という立場は今しかできないということです。大人になることはできても、子どもに戻ることはできません。今ある感性、今やりたいと思ったことは、やったほうが絶対によいと思います。

若いうちは、失うものがないというか、まだ守られている立場のはずです。それなのに、多くの人は失敗すること自体ではなく、失敗して指されたり恥ずかしい思いをしたりすることを恐れているように見えます。実際僕もそうでした。だからチャレンジしたくても、周りに合わせてしまう。誰もそんなに指さしてくれる人はいませんし、かといってだらだら過ごすわけにもいかないので、自分が何年生きるつもりで生きるのかを考えて、いろいろなことに取り組んでみるとよいのではないかと思います。

編集後記

はじめてお話をうかがったとき、19歳で無職になった経験から、たった数年で会社を立ち上げるまでのスピード感に圧倒されました。学歴や経験がなくても、手を動かして形にし続けたことが今につながっているのだと感じます。「今しかできないことをやったほうがいい」という言葉は、同じ学生として素直に響きました。私自身もまだ挑戦の途中ですが、失敗を恐れすぎずに動いてみようと思わせてくれるインタビューでした。