インタビュー

「カビ、いいね」から始まった会社。キャバクラ店長がロープ1本で工事のスタンダードに挑む

「カビ、いいね」から始まった会社。キャバクラ店長がロープ1本で工事のスタンダードに挑む
PROFILE
株式会社ギアミクス 代表取締役
矢部 明良

時給に釣られてアルバイトを始めた

起業のきっかけは大学生のときに時給がよかったのでアルバイトを始めた、というだけの話なんですよね。それがそのままナイトレジャー業界の店舗マネジメントという仕事につながっていきました。

アルバイトを続けているうちに、社員として働きながら他の仕事にも手を出したり、いろいろな経験を積みました。最終的にはまた同じナイトレジャー業界の店舗の店長という立場に戻ってきて、そこから起業に至っています。

20歳で気づいた「トップに立つ面白さ」

学生時代から独立を意識していたわけではありません。20歳の頃にアルバイト先でマネジメント層が急遽退いたことで、店舗の舵取りを担うことになったのが始まりでした。

試行錯誤の連続でしたが、その難局を乗り越えていく過程に大きなやりがいを見出しました。組織のトップとして事業を動かすことの本当の面白さを、身をもって学んだ貴重な経験です。

苦しい方を選ぶという20代のテーマ

自分で決めたことがダイレクトに結果として返ってくる、その責任を引き受けられることに面白さを感じていました。成功しても失敗しても、それは自分の裁量でチャレンジした結果です。

私の20代のテーマは「失敗をすること」と「悩んだら苦しいほうを選ぶこと」でした。失敗したら、むしろ「よっしゃ」というくらいの感覚です。たくさん失敗を積み重ねられることも含めて、自分ですべてを決められる環境が面白かったんだと思います。

起業したいと言い続けた31歳

創業のきっかけは、31歳のときに参加した経営者が集まるコミュニティです。まわりには税理士や弁護士、建築、デザインなど、さまざまな業種の経営者がいるなかで、私はナイトレジャー店舗の店長という、少し異質な立場で参加していました。

「言葉が世界をつくる」という考えが自分のなかにあったので、とにかく口に出さないと始まらないと思い、「起業したい」という言葉を周囲にかなり言いまくっていました。そもそも起業するためにそのコミュニティに入る人自体が珍しいのですが、私は少し変わったタイプだったんだと思います。

カビ除去から始まった会社

「カビ、いいね」から始動

そんなときに、他店の店長から、スーパーの天井カビを除去している会社が、業務委託で営業を探しているという話を聞きました。その話を聞いた瞬間、「カビか、それめっちゃいいな」と思ったんです。そのまま、業務委託の営業としてその会社にジョインしました。

1年間の修業を経て独立

そこから1年間、修業のような時間を過ごしました。その会社はお客様への提案金額が高めだったのですが、原価率から考えると、もう少しリーズナブルな金額でも十分に成り立つはずだと感じていました。お客様のご要望に寄り添った金額で提案できれば、もっと喜んでもらえるのではないかと考えたんです。

そこで、自分たちでやろうと決めました。お世話になっていた顧問を誘って独立し、顧問を含めて5名で会社をスタートさせました。

初年度の売上は550万円

創業1年目は実績もなく、伝手をたどった営業ができたわけでもなかったので、売上は550万円しかありませんでした。顧問を除く4人で活動していたので、経費を差し引くとほとんど利益は残らない状態です。全員、アルバイトをしながら会社を続けていました。

4つの事業に広がった理由

現在は、衛生環境事業、建築・ロープアクセス事業、電気工事事業、ビルメンテナンス事業という4つの柱で会社を運営しています。

天井のカビが増えた理由

衛生環境事業の中心は、スーパーマーケットの天井に発生するカビの除去です。LED照明が普及したことで、以前の照明にあった熱や紫外線が出にくくなり、結果として天井付近にカビが発生しやすい環境になってしまいました。とくに売り場は濃いカビが目立ちやすく、お客様からも不衛生に見えてしまいます。

これまでは天井のボードを張り替えたり、塗装したりする対応が主流でしたが、洗浄剤で除去できることを提案することで、コストをかなり抑えられるようになりました。あわせて、再発を防ぐための防カビコーティングもおこなっています。

ロープで大幅なコスト削減に

2つ目の事業である建築・ロープアクセス事業は、ビルメンテナンス会社の部長と出会い、一緒にやろうという話から始まりました。最初はまったくうまくいきませんでした。

これは、足場を使わずにロープを使ってビルやマンションの外壁調査・工事をおこなう事業です。たとえば10階建てのビルの9階で雨漏りが起きている場合、足場を組んで工事をすると150万円ほどかかりますが、ロープを使えば15万〜20万円ほどで済みます。案件によっては、それ以上のコスト削減になることもあります。外壁の補修やタイルの落下といった危険な緊急対応、雨漏り対応を中心に、さまざまな案件に対応しています。

やりたくなかった電気工事

3つ目は高圧電気工事です。ビルやマンションの屋上にある「キュービクル」と呼ばれる、6,600ボルトの電気を100ボルトや200ボルトに変電する設備、いわゆる高圧受変電設備の部品交換をおこなっています。中の部品には耐用年数があり、交換しないと突然の停電につながるおそれがあるためです。弊社の強みは、徹底したコストパフォーマンスです。実は、当初からこの事業を計画していたわけではありませんでした。しかし、市場やお客様からの切実なニーズに全力で応え続けてきた結果、今では関西圏のスーパーをはじめ、数多くの店舗様からお声がけをいただける事業へと成長いたしました。

苦労した閑散期と信用の壁

繁忙期と閑散期の差

カビ除去はシーズンものなので、繁忙期と閑散期の差がとても大きい事業です。閑散期にどうするかを考えていたところで、偶然的によい出会いがあり、ロープアクセス事業を始めることになりました。もしこの事業がなければ、おそらく会社を畳んでいたと思います。

その一方でありがたいことに、コロナ禍の影響もほとんど受けず、むしろ売上が伸びたくらいでした。

月商40万円だった時期

一方で、ロープアクセス事業の立ち上げには苦しみました。社員が5人いたときに、月の売上が40万円しかなかった時期もあります。人件費の圧迫は相当なものでした。

「ロープでやる」が非常識だった

営業しても決まる案件は決まるのですが、ロープを使って外壁工事をするという発想自体が世の中に浸透していませんでした。「本当に大丈夫なの?」「そんな工法でやったことがある会社はあるの?」というように、安全性への不安や、実績を重視する前例主義に何度も試されました。いまでこそ実績が積み上がって決まりやすくなりましたが、当時は信用と信頼を積み上げること自体が大きな壁でした。

ロープアクセスを工事のスタンダードに

直近のビジョンとして掲げているのは、ロープアクセスをビルメンテナンスのスタンダードにすることです。

コストを10分の1程度に抑えられるサービスであるにもかかわらず、まだ多くのビルオーナーがこの技術の存在自体を知りません。届いていない人がそれだけ多いということは、まだ生み出せていない価値がそれだけあるということでもあります。

だからこそ、メディアを通じてロープアクセスのよさを発信し、より多くのビルオーナーや不動産会社に知ってもらいたいと考えています。

足場を組むことが当たり前ではなく、工事内容に応じてロープアクセスも当たり前に選択肢に入る。そんな状態をつくることが、私たちの目指す「ロープアクセスをビルメンテナンスのスタンダードにする」という未来です。

 

編集後記

今回お話をうかがって、「大変だけど面白い」という感覚を何度も大事にされてきたのだと感じました。時給に惹かれて始めた学生時代のアルバイトから、20歳で店舗運営を任された経験、31歳での起業、そしてカビ除去からロープアクセスへと広がっていった事業。遠回りに見えて実はまっすぐな道のりだったように思います。ロープ1本で常識を変えようとする姿勢は、キャリアに悩む学生にとってもヒントになるはずです。貴重なお話をありがとうございました。