内定を断り、自分にしかできない仕事へ
内定を辞退して開業した
学生時代は、音楽やテレビなどエンタメ企業を中心に就職活動をしていました。何十社も受けて、実際に内定もいただいていたんです。ただ、続けるうちに気づいたことがあって。就活で募集している企業の多くは、すでに机と席が用意されていて、その席に座れる人を探しているんですよね。親友や相棒のような「特定の誰か」を探しているわけではない。言い方は失礼かもしれませんが、いわば誰でもできる仕事なのだと思いました。
もちろん、それ自体は悪いことではありません。それでも私個人としては「自分にしかできない仕事」を探してみたかった。そこで内定をお断りし、個人事業主として開業しました。大学の学部もエンタメ系で、もともと興味のある分野だったので、その方向で一歩を踏み出したんです。その先で法人化して、今の株式会社ウィンドプロデュースがあります。
音楽とWEBを軸に幅広く
弊社では、エンタメに関わることを総合的に手がけています。メインのひとつは音楽のお仕事です。楽曲制作やアーティストのプロデュース、マネジメントのほか、楽曲の権利等に関わる音楽出版系のお仕事もしていて、今はプロフェッショナルとして音楽に携われる状態になっています。
もうひとつメインとなっている仕事は、WEBに関するお仕事です。WEB関連のご相談に対してコンサルティングのような形でお答えしつつ、実際にホームページを作るWEBデザインの仕事をさせていただいたり、YouTube(ユーチューブ)で事業を広げたい会社に向けて、チャンネルの企画から撮影、編集、録音、公開、そして管理まで、すべてお受けできる状態で、それぞれの会社にとって最もやりやすい形でサポートさせていただいております。ほかにもイベント制作やデザイン系のお仕事など、いろいろやっていますね。「これひとつをやりたい」という働き方ではなく、私にできることであれば何でもお助けしたい。エンターテインメントを基軸に、多角的なクリエイティブの仕事をしているクリエイティブ会社です。
心を幸せにすることが第一
お客さまは、紹介でつながった方が多いですね。私は「日本で一番すごい映像を作れます」といった技術力の高さで仕事をしているわけではなく、人の心と心で仕事をすることを大切にしています。
今はAIがものすごく使われているので、誰でもできる仕事はどんどんAIに取られていくと思います。だからこそ、悩みを抱えている方に「感情のないAIや他の人よりも、あなたと仕事がしたい」と言っていただけるように、お仕事をさせていただくことが重要だと考えております。
人間の本質は脳ではなく心だと、私は考えています。AIは頼まれた仕事をこなすことが第一の目的ですし、一般的なサービスも「求められたものを提供する」のが基本の道筋でしょう。私の一番の目的は「あなたの心を幸せにする、あなたの心を助ける」こと。そこが他社との違いですね。
トライの数が自分をつくる
質の前にまず量をこなす
どんな人でも、自分にしかできない仕事や魅力は作り出せると私は考えています。
技術は今、いろいろな場所で学んだり練習したりすれば身につけられます。大事なのは、他の人と横並びで比べることではなく、自分が「やりたい」と思ったことを伸ばしていくこと。それが結果的に誰かのためになったとき、そこに仕事が生まれるのだと思います。
とはいえ、そこは私が一番苦労してきた部分でもあります。何もない自分がどうすればいいのか。私の場合は、まず走り出してやってみる。トライしてトライしてトライして、見つけていくタイプです。質を求める前にまず量をこなし、その先に質があると思っています。失敗もたくさんしてきました。個人事業主から会社になった今は、ある程度成功の路線上にいるように見えるかもしれませんが、その土台には数々の失敗があるんです。どれだけトライするか。それが大事なのかなと思っています。
熱中と知的好奇心がエンジン
私はもともと、趣味であっても何かに熱中したいタイプなんです。ひとつのことをやりたいと思ったら、どんどん突き詰めていく。ちょっとかじればわかることは世の中にたくさんありますが、ちょっとかじっただけではわからないことも、それこそ死ぬほどたくさんあると思っています。
何かに強い思いを持ち続けている人たちは、きっと普通の人にはわからないような魅力を知っているんですよね。その人たちはなぜここまで思いを込められるのかを知るには、自分がどんどんやってみて、その人たちに少しでも近づくしかない。ネットにある情報や、1年や2年でわかるような情報ではなく、もっと先の深いところには何があるのか。その知的好奇心が、私のエンジンになっているのだと思います。
わかった気になると先がない
好奇心は親に教わったものでも、意識して身につけたものでもなく、もともと人間の心に備わっているものだと思います。ありがたいことに大学で授業をさせていただく機会もあるのですが、若い世代を見ていると、好奇心や興味が薄れてきているように感じることがあります。原因は、情報が近くにありすぎることかもしれません。調べればたいてい出てくるし、AIに聞けばわかる。だから、わかった気になってしまうんですよね。
実は私も学生時代、芸能界のことをかなり勉強して、わかった気になって就活をしていました。ところが実際に仕事を始めてみると、まったく違ったんです。今は大手の音楽出版社ともお仕事をさせていただいていますが、それも想像とは全然違いました。中の方々が考えていることは、私の想像よりはるかに先にあった。自分はどれだけわかっていなかったのか。一度それを学ぶことができたことは大きかったと思います。
わかった気になると、その先がないんです。好奇心をもっと生み出すために必要なのは、今、自分が興味のある分野には、この先に何十倍もわからないことや面白いことがある。それに気づけるかどうかではないでしょうか。
1本のワインで見方が変わった
たとえばワインもそうでした。1本2,000円に満たないようなワインしか知らなかった頃は、正直「ワインってそんなに大したことないな」と思っていたんです。初めて飲んだ高いワインが、X JAPAN(エックスジャパン)のYOSHIKIさんのワイン「Y by YOSHIKI(ワイ・バイ・ヨシキ)」でした。1本8,000円ほどするワインです。
飲んだ瞬間、今まで飲んできたワインとはまったくの別物だと気づきました。スーパーのお肉と黒毛和牛くらい違うんですよ。もしかしてワインってすごいんじゃないかと調べてみると、もっと高いワインがどんどん出てくる。知っていることが増えるほど、この先にもっと面白いものがあるんだと思えてきて、興味が湧いてくる。挑戦を通して「全然知らなかった」と気づくことが、好奇心につながるのだと思います。
志をともにする仲間を増やしたい
個人の限界が会社の限界
会社は、必要とされるからこそ続き、発展していくものだと思います。今の弊社の仕事は、私個人の能力に依存している部分がとても大きい。AIを使っていても、AI込みで私個人の力の限度が会社の限度になっている。そこが今の課題です。
映像を手伝ってくれる人などはいますが、私と同じ志を持ち、同じ仕事ができる人をもっともっと増やしていきたいと考えています。これは、一般的な企業が次の社員を採用するよりも、かなり難しいことだと思います。そういう相手に出会うことも、育成していくことも簡単ではありません。それでも、ここを乗り越えた先に会社の発展があると思っています。
ブランドとして選ばれる会社へ
今は社員以外にも、業務委託の方や、私が「こういうものを作りたい」と言ったときに必ず協力してくれる仲間がいます。たとえば音楽なら、つながりのある作曲家と一緒に楽曲を作っていく形でビジネスを回しています。
必ずしも社員にこだわらず、そうした体制を広げていくことも、会社の発展のためのひとつの手段であると思っています。そうなれば、私個人や周りの少数の人間にとどまることなく事業を広げていくことができ、さらに大きな形で「ウィンドプロデュースに頼んでよかった」という声が共有されていく。そうやってブランドイメージを確立していくことが、企業の発展に必要だと考えています。
AI時代を生きる学生へ
正解の先で個性を光らせる
知り合いから履歴書や職務経歴書を見せてもらうと、全体的にすごくつまらなくなってきたなと感じます。きっとAIを使って書いているんですよね。AIで書くこと自体はよいことだと思いますし、むしろどんどん使い倒してほしい。私自身も使い倒している側です。ただ、そこに人間の魂や自分の個性、面白さを込められるかどうか。それがこれからの課題になると思います。
これまでは、正解を出せることがとても重要でした。履歴書にはこう書くとよい、という型を学校で教わることもありますよね。でも、正解を出すことはもうAIにできてしまう。だからこそ、正解を出したうえで個性を光らせる。その先を目指してほしいと思います。
私自身、就活では何十社も受けましたが、当時は履歴書はすべて手書きで、必ず会社ごとに違う内容を書いていました。そして「この人面白いな」と思ってもらえるワンポイントを必ず入れていたんです。それも、全部の会社で違うものにしていました。
「これを真似してください」という意味ではありません。正解だけで終わらせず、その先にある面白さや人間的な魅力、心遣いといったところに少し目を向けてみてほしい。そうすることで、自分だけの新しい道を切り開いていってほしいと思っています。
空いた時間に魂を込める
AIは仕事の時間を効率化してくれるので、私もとても助かっています。大事なのは、たとえば今までの仕事が半分の時間でできるようになったとき、空いた時間をどう使うかだと思うんです。
社会人と学生では視点が違うかもしれませんが、私としては学生のみなさんには、空いた時間をさらに工夫するために使ってほしいですね。私の場合は、空いた時間でAIをもっと効率的に使うための勉強をすることと、仕事に魂や思いを込めること。その2つのことに、AIで生まれた空いた時間を使うことが多いです。
編集後記
「誰でもできる仕事」と「自分にしかできない仕事」。梶さんのお話を聞いて、就職活動を前にした自分がどちらを目指しているのか、改めて考えさせられました。とくに印象に残ったのは、わかった気になると先がないというお話です。小さく学生起業をしている私も、調べただけで満足してしまうことがよくあります。1本のワインで見方が変わったというエピソードのように、実際に飛び込んでみて初めて見える景色があるのだと思います。AIで効率化した時間に魂を込めるという考え方も、すぐに実践したいと感じました。まずは量をこなすトライから始めてみます。