インタビュー

徳島との縁から起業へ 。人的資本の力で地方の中小企業を支えたい

株式会社VCiJ 代表取締役社長 萬 卓巳
PROFILE
株式会社VCiJ 代表取締役社長
萬 卓巳

進学をきっかけに始まった、徳島での暮らし

受験を機に、進路を見つめ直した

実は徳島に来たのは受験をきっかけとした、思いがけない縁だったんです。もともと私は神奈川県の川崎にいて、第一志望は千葉大学でした。センター試験では75〜80%くらいの得点が必要だったものの、それまではその水準を取れていたので、自信があったんですね。ところが本番で大きく崩れてしまい、7割くらいしか取れませんでした。経済的な事情から国公立大学への進学を考えていたこともあり、試験の結果を踏まえて、出願先を見直すことにしたんです。

ノーベル賞のニュースが後押し

受験したのは2014〜2015年のシーズンで、ちょうど日本人がノーベル賞を受賞したというニュースが流れていました。青色LEDを開発した中村修二さんが徳島大学の出身だと知って、理系だった私も関心を持ったんです。当初から徳島で暮らすことを考えていたわけではありませんが、進学が、徳島との縁の始まりになりました。慣れるまでは、それまでとの生活環境の違いに戸惑うこともありました。それでもこちらでコミュニティができ、今も徳島で暮らしています。

中小企業が支える町、徳島

人事の現場で感じた課題

もともとはサラリーマンとして、人事関連の仕事に携わっていました。採用や人事制度の体系づくりなどを担当するなかで、人材の採用や早期離職防止について課題を強く感じていたんですよね。そうした課題への対策を考えていくうちに、今暮らしている徳島で、自分の経験を生かせないかと考えるようになりました。地域の中小企業が採用や人材の定着に向き合うなかで、人事の面から力になれることがあるのではないかと思ったんです。

地域を支える企業と、人材の課題

徳島の地域経済を考えるうえで、中小企業は大切な存在です。そうした企業が事業を続け、成長していくためにも、採用や人材の定着は重要なテーマだと考えています。企業の規模にかかわらず、人材の確保や定着に課題を感じるケースがあるんですよね。

人材の確保と定着が、より大切になる

人口減少が進むなかで、企業にとって人材の確保や定着は、ますます重要になると考えています。これからの事業を支える人をどう採用し、育て、長く活躍できる環境をつくるか。人事や人的資本のノウハウを生かして、変化の中にある中小企業をサポートできないか。それが創業の一番最初のきっかけです。

人的資本で会社を強くする

人の成長を、会社の力に

弊社が看板として掲げているのは「人的資本」です。企業の経営資源として「ヒト・モノ・カネ・情報」が挙げられますが、そのなかでも、人の知識やスキル、経験に着目しています。一人ひとりの成長を支えることが、会社の力にもつながる。そうした考え方を、採用や育成、人事制度に生かしていきたいんです。

採用から、育成・活躍までを考える

人が資本であるなら、採用して終わりではありません。入社後にどのような経験を積み、力を伸ばしてもらうかを考え、育成や配置につなげていく。そのための時間や費用を、人と会社の成長への投資として捉えることが大切だと考えています。企業ごとの状況を踏まえながら、実行できる形にしていくことを支援したいんです。

採用活動を一緒に設計

提供しているサービスの大きな柱のひとつが採用支援です。求職者を紹介する形ではなく、企業の採用活動そのものを支援しています。どのような人と一緒に働きたいのか、会社の魅力をどう伝えるのかを整理し、それにあわせて採用の流れや面接の内容を設計していきます。そのうえでPDCAを回し、成果が出たならさらに伸ばすためにどこを変えてどこを変えないのか、成果が出ていないなら何に原因がありそうなのかを一緒に考えていくんです。

採用活動の改善や育成の仕組みづくりには、継続して取り組む時間が必要です。人事をほかの業務と兼任している会社では、日々の対応を進めながら、その時間を確保する難しさがあります。人事の仕事のなかでも、中長期の制度づくりや改善は、重要だとわかっていても着手しにくいことがあるんですね。そこを外部の立場から一緒に進めていきます。

評価に「納得感」を

もうひとつの柱が人事制度の再設計です。人事制度は一般的に「等級」「評価」「賃金」の3つで構成されていて、社員に期待する役割や、評価と処遇のつながりを整理していきます。判断の基準を明確にすることで、公平性や説明のしやすさを高めることを目指しています。経営者の考えや判断基準を言葉にし、社員と共有できる仕組みにすることも大切です。

頑張る方向と、成長が見える制度に

大学の成績にたとえるとわかりやすいかもしれません。同じ80点でも、評価の理由がわからない場合と、出席や課題、試験がそれぞれどう評価されたかわかる場合では、納得感が違いますよね。会社でも、何が期待され、どのような取り組みが評価や処遇につながるのかがわかれば、目標を持ちやすくなります。そのつながりが見える制度づくりをお手伝いしています。

現場に足を運ぶコンサルティング

会いに行くことを大切に

弊社では、お客さまのところへ足を運び、直接お話を伺うことを大切にしています。「困っていることがあれば何でも言ってください」という寄り添う姿勢を大事にしているんです。Web会議も活用しながら、現場の雰囲気や、会話のなかの小さな変化まで受け取れるよう、対面で話す機会も設けています 。

正論だけでは届かない

理論や一般的な成功事例を伝えるだけでは、現場での実行につながらないこともあります。企業ごとに、事業の状況も組織の体制も異なるからです。その会社が今どんな状況にあるのかを把握したうえで、「目指す姿に向けて、まずはここから始めてみましょう」と提案する。実行できる手順まで一緒に考えることが、私の大切にしているコンサルティングです。

徳島から中四国へ

この5年が勝負

会社を設立したのは2024年の末で、もうすぐ2期目が終わろうとしているところです。今後5年、10年を考えると、この5年が正直勝負だと思っています。ご相談いただける関係を一つひとつ築き、仕事を通じて信頼を重ねていくことを大切にしています。コンサルティングは信用商売なので、まずは私自身や事業の内容を知っていただき、「人事のことなら相談してみよう」と思っていただける関係をつくることが大事だと考えています。

徳島で信頼を重ね、中四国へ

まずは徳島で、一つひとつのご相談に向き合い、信頼を積み重ねていきたいと考えています。さまざまな方と知り合い、事業について知っていただくとともに、地域の企業がどのようなことに悩んでいるのか、お話を伺っていきたいですね。その先に描いているのは、徳島を拠点とした中四国エリアへの展開です。まずは高松、その先には愛媛や岡山も視野に入れています。支援できる地域を広げていくことが、この10年の目標です。

学生へのメッセージ

納得できる選択を

正直、「好きに生きればいい」とシンプルに思ってしまうんですけどね。その時々で、自分が納得できる選択をしてほしいと思っています。どんな選択にも、あとから迷ったり、後悔したりすることはあると思います。今の気持ちだけで、将来の正解がわかるわけでもありません。それでも、そのときの自分が何を大切にしたいのか、考えて選ぶことには意味があると思うんです。

やりたいならやればいい

たとえば「旅行したいけど行けないな」と感じている人もいると思います。休学して旅に出る人もいますが、私はそれをまったく否定する気はありません。今やりたいなら、やればいいんです。やりたいこと、やってみたいことがあるなら、どんどん挑戦すればいい。その先で後悔することがあっても、そのとき自分の心に嘘をつかなかったという経験があれば、それでいいんじゃないかと思います。

選択に責任を持つ

伝えたいのは、自分の選択に責任を持つということです。選ばなかったとしても、なぜ選ばなかったのかを説明できるなら、それでいいと思います。私自身は、「なんとなくやめておこう」と、自分の気持ちを十分に考えずに見送ったことが、心残りになっています。理由を自分に説明できる状態なら、大学を1年休学したり、すぐに就職せず、自分のために時間を使ったりする選択もあっていいと思います。

自分で選ぶことが財産に

就職するとき、独立したいと思ったとき、まったく別のキャリアを描きたくなったときも同じです。自分で何かを選び、自分で責任を持つという経験が、大きな財産になると思います。私にも、親の言葉を受けて挑戦を見送った経験が多大にあります。振り返ると、自分がどうしたいのかを、もっと考えておけばよかったと思うんです。周りの意見も聞いたうえで、最後は自分で考え、納得して選んでほしいですね。

編集後記

思いがけない縁で徳島へ渡り、今では徳島の中小企業を支える立場にいる萬さん。地域の企業の力になりたいとまい進される姿がとても印象的でした。とくに心に残ったのは、「なんとなく」で見送らず、選んだ理由を自分に説明できるようにするという言葉です 。私自身、学生起業に挑戦するなかで、理由を言語化しないまま判断を先送りしてきた場面が少なくありません。人的資本の考え方も、「人を育てる」という視点から自分たちのチームづくりを見直すきっかけになりました。選んだ理由を自分に説明できるか。これからの決断のたびに問い直していきたいと思います。