インタビュー

「地域にないなら、自分でつくる」別府で障がいのある子どもたちの成長に寄り添い続ける理由

株式会社ユナイテッドサークル 代表取締役社長 川村 武玄
PROFILE
株式会社ユナイテッドサークル 代表取締役社長
川村 武玄

いとことの日々が原点

障がいが「当たり前」にあった

福祉の道に進んだ原点は、私のいとこです。いとこは障がいのある状態で生まれてきて、私は小さい頃からずっと、その姿を見てきました。一緒に遊んだりもしていましたけど、今思えば私が一方的に遊んでいたようなものですね。そうした日々のなかで、障がいがあることはごく当たり前のことで、そういう子もいるんだなと自然に受け止めていました。それが、今の仕事につながる最初のきっかけです。

高齢者福祉から障がい福祉へ

高校卒業後の進路を考えたとき、子どもに関わる仕事がしたいという思いがありました。同時に、おじいちゃんやおばあちゃんも好きだったので、介護福祉士を取得し、介護の道へ進みました。高齢者福祉を一度経験したあと、やっぱり自分は障がいの分野に興味があると気づきました。そこから障がい者のヘルパーとして、10年弱働いてきました。

家業より福祉を選べた理由

私の父は自営で内装業を営んでおり、長男として家業を継ぐかどうかを相談した時に言われた言葉が、いまでも心に残っています。「お前がしたいことをしたらいい」このひと言で、福祉へ進む道を選ぶ決心がつきました。

社内起業から独立へ

放課後等デイサービスとの出会い

ヘルパーとして働いていた法人で、放課後等デイサービスという事業があることを知りました。調べてみると、子どもが好きで、障がいの分野に関わりたいという私の思いにぴったりだったんです。そこで前職で、社内起業という形で放課後等デイサービスの事業を立ち上げさせていただきました。これが、今の事業の出発点です。

地域にないなら自分でつくる

その後、前職を退職することになり、じゃあ何をしようかと考えたとき、私がやりたい放課後等デイサービスが、当時はまだ地域になかったんです。父が自営業をしていたこともあって、独立にそこまで抵抗があったわけではありません。ただ、地域にないのであれば自分で立ち上げよう。そう考えて、起業を決めました。

2つの事業所で子どもたちを支える

小学1年生から高校3年生までを支援

弊社は大分県別府市で、障がいのあるお子さんのための放課後等デイサービスを運営しています。対象は、学校に通っている小学1年生から高校3年生まで。HAMMOCK(ハンモック)とADVANCE(アドバンス)という2つの事業所があります。さらにHAMMOCKでは、未就学のお子さんを対象にした児童発達支援も展開しています。子どもたちの特性に合わせて、それぞれ役割の違う場所をつくっています。

HAMMOCKは安心できる生活の場

HAMMOCKは、支援学校に通うお子さんのなかでも、重度の心身障がいのある方や、医療的ケアが必要な方、難病のある方などを受け入れています。看護師も配置しており、学校に通いながらの生活を支える場所です。放課後等デイサービスには、発達障がいのある元気なお子さんが多く通う事業所も少なくありません。そういった環境で過ごすのが難しいお子さんが安心して来られることが、親御さん目線での強みだと思っています。

ADVANCEはゲームで人と関わる力を育む

ADVANCEには、地域の学校の支援学級に通うお子さんや、発達障がいのあるお子さんが多く来ています。将来を考えたとき、人と上手にコミュニケーションをとれるようになることが大切です。そこで力を入れているのが、ゲームの活用です。たとえばMinecraft(マインクラフト)で同じワールドに入って遊ぶと、当然摩擦やトラブルも起きる。その課題を自分たちで解決していけるように促しているのが、ADVANCEならではの強みです。

子どもたちの成長がやりがい

やんちゃな子ほど関わりが楽しい

もともと子どもが好きなんですよ。発達障がいのチェックリストを試してみたとき、自分も結構落ち着きのない子どもだったんだろうなと思ったことがあります。だからこそ、そういった子との関わりが楽しいんです。ちょっとやんちゃな子が成長していく姿を見られるのは、この仕事ならではの面白さだと思います。

「ありがとう」と言える日まで

これまで12年以上、小学1年生から高校3年生で卒業していくまで、子どもたちの成長を見てきました。元気いっぱいだった子が少しずつ成長して、「ありがとうございました」と言えるようになったり、いろいろなことができるようになったりする。そんな姿に立ち会えることが、この仕事をしていくうえで一番の楽しさですね。

制度の変化と向き合う

厳しくなる報酬改定

今まさに大変だと感じているのは、制度の変化です。弊社の事業は法律にのっとって運営しているので、3年に1回の報酬改定などで、さまざまなルールが変わります。12年前と比べると、相当厳しくなってきているんです。放課後等デイサービスの事業所数自体は増えていても、改定のたびに運営はどんどん厳しくなっています。

限られた人数でやりくりする

現場でやることは変わりません。ただ、事業は国からの報酬で成り立っているので、子ども一人ひとりに対する報酬の変更が大きく影響します。配置できる人数は人件費に直結するので、収益性を考えると、これまでならもう一人雇えていたところを、ギリギリの人数でやっていかなければならない。今はHAMMOCKで1日5〜6名、ADVANCEで4~5名ほどの体制で、子どもたちに向き合っています。

一緒に働きたい人

半分以上が未経験からのスタート

放課後等デイサービスで働き始める方は、未経験の人が圧倒的に多いんですよ。もちろん経験があって転職してくる方もいますが、弊社でも半分以上は未経験からのスタートです。資格や経験がないと難しそうだと思われがちですけど、決してそんなことはありません。

大切なのは人柄

採用で一番大切にしているのは、人柄です。話していて物腰が柔らかいかどうか、そして子どもにしっかり向き合えているかを感じられるかどうか。現場では、子ども一人ひとりに合わせて声かけを変えていく必要があります。だからこそ、知識や経験よりも、まず子どもたちと誠実に向き合える人と一緒に働きたいと思っています。

別府になくてはならない存在へ

拡大と新たな柱づくり

報酬改定の影響で、ほかの事業所も含めて、これから厳しい状況になっていくのは確実だと感じています。今後を考えると、事業の拡大と、多角化による新たな柱づくりが必要です。具体的にはまだ検討中ですが、いろいろな人とタッグを組んで、子どもに関わる新しい事業を考えています。今の放課後等デイサービスと相乗効果のある形にしたいですね。

支援者の質を高める研修

もうひとつ力を入れたいのが、支援者向けの研修事業です。事業所が増えるなかで、障がいのあるお子さんに関わる現場スタッフの質に課題を感じているんです。声かけひとつでも、余計な一言でお子さんがパニックになってしまうことがある。そこで大学や病院の先生にも講師をお願いして、応用行動分析や発達障がいの基礎知識など、専門性の高い研修をおこなっています。この取り組みを、もっと強めていきたいと考えています。

別府に根を張る

県外へどんどん進出していこうという段階ではないと思っています。これだけ変化の大きい環境のなかで、まずは今の事業でしっかり生き抜いていくことが先決です。私たちは別府にいるので、まずは別府にとってなくてはならない存在になりたい。とくに子どもたちのために何ができるかを考えながら、地域に根を張っていきたいと思っています。

挑戦できる大人に育ってほしい

子どもたちが社会に出るとき、一般企業に就職する子もいれば、車椅子の子であれば作業所に行く道もあります。一般の社会に出ようとすれば、きれいごとばかりではないですし、やりたいこととできることのギャップもあると思います。それでも、とにかく「やってみよう」と挑戦できる子どもに、そして大人になってほしい。いろいろな可能性があるんだよということを、日々の関わりのなかで伝えています。

学生へのメッセージ

まずは一回やってみる

これから社会に出ていく学生の皆さんを見ていると、見切りをつけるのがとても早いんだろうなと感じることが多いです。最初からやりたいことが決まっていれば、それでいいと思います。ただ、やりたいことがなくて迷っている人は、とにかく一回やってみてほしいんです。やってみなければ、自分に合うかどうかもわかりませんから。

振り返りながら進む

大切なのは、やってみた結果を自分でしっかり振り返ることです。うまくいったことも、いかなかったことも、ちゃんとフィードバックをする。そのうえで、自分がどうしていきたいのかを考えながら進んでいってほしいですね。私自身、介護から障がい福祉へ、そして社内起業から独立へと、経験を重ねるなかで道が見えてきました。一歩踏み出すことで、きっと見えてくるものがあるはずです。

編集後記

いとことの日々から福祉の道を志し、地域に必要な場所がないなら自分でつくると決めた川村さん。その行動力と、子どもたちへのまっすぐな思いに心を動かされました。とくに、ゲームを通してコミュニケーションの力を育むというADVANCEの取り組みは、子どもたちの「楽しい」を大切にしているからこそ生まれた発想だと感じます。制度が厳しくなるなかでも、別府になくてはならない存在を目指す姿勢から、仕事に向き合う覚悟を学びました。私も見切りをつける前に、まず一回やってみることを大切にしたいと思います。