アパレル販売員からの独立
給料が上がらない現実
2020年3月に、個人事業主として独立しました。それまでは、新卒からほぼずっとアパレルの販売職をしていたんです。独立した理由に、インパクトのあるストーリーはないかもしれません。販売職は正直、給料が低かったんですよね。転職しようにも、キャリアアップにつながる転職はなかなかありませんでした。いったん新規開拓の営業職などを経験してから次へ進むのが、当時のアパレル販売員のよくあるルートで、そこから抜け出すには独立しかなかったんです。
脱毛サロンとの出会い
独立のきっかけは、実は脱毛サロンなんです。独立して個人店を営んでいる方と話す機会があって、「僕も独立したいんですよね」と相談したら、美容の仕事のことを聞かせてもらえました。アパレルはずっと在庫を抱える仕事でしたが、脱毛はお客さまに来ていただいたらすぐに利益になる世界です。話を聞いているうちに、集客さえできれば自分にもできそうだと思えて、この道で独立しようと決めました。
アパレルとの両軸で独立
いろいろありましたが、どうせやるなら、ずっとアパレルをやってきた経験も生かして、脱毛サロンの近くにアパレルの店舗も出せたらいいなと思ったんです。今思えば浅はかだったかもしれません。それでも、アパレルと脱毛サロンの両軸で独立することにしました。最初からアパレルで起業しようと考えていたわけではなく、美容がきっかけだったというのが、実際のところですね。
お客さまに誠実であり続ける
4つの事業を展開
今はアパレル、美容、飲食、結婚相談所の4つの事業を展開しています。アパレルではオーダースーツと、業者向けの仕入れ用倉庫、そして今最も力を入れている無人古着屋のフランチャイズ展開をおこなっています。美容では脱毛サロンを2店舗、飲食ではカフェを運営しています。結婚相談所も含めて、それぞれの事業でお客さまに価値を届けています。
気づけば広がっていた
正直、大きな野望があったわけではないんです。目の前のことを着々とこなしてきた結果、今に至っています。ありがたいことに今はフランチャイズを全国に展開させていただいていますけど、もともとはそんな気もまったくありませんでした。町にあるアパレルショップ、町にある脱毛サロン、町にあるカフェ。個人事業主の延長くらいのことくらいができればいいと思っていたんです。気づけば、こうなっていたという感覚ですね。
誠実な事業が残っていく
これは私の感覚ですけど、消えていった事業主の方も山ほど見てきました。そこで感じるのは、お客さまに誠実じゃなかったんだろうなということです。今は自分のスキルを商売にしよう、自分らしくビジネスを、という流れも多いと思います。ただ、自分が事業主としてやっていきたいからと、お客さまを置き去りにしている方もいます。お客さまに価値を届けるという当たり前のことをきっちりやれば、評価していただけるんです。
お役に立った数が売り上げに
私は、売り上げはお客さまのお役に立った数だと思っています。それが増えていけば、自然と事業は大きくなっていくんですよね。本当にいいものをつくって、最初は知り合いからでもいいので、そこから広がっていく形をとらないと、事業は大きくならないと思います。スタッフを雇って毎月きちんとお給料を支払いながら続けていくには、着実なやり方でないとしんどいんじゃないかなと感じています。
販売員時代に抱いた疑問
販売員時代は、ひとつのブランドだけを扱っていました。今シーズンはちょっと微妙かもと思っていても、お客さまに「これいいよね」と言われたら、心の底から思ってもないのに「いいですね」と言っている自分がいたんです。他より値段の高いブランドでも、高いものを買ったからといって、その人が本当にかっこよくなって帰ったのか。正直、そこを自分に問いかけることがありました。本当の意味で価値を提供するとは何か、疑問を感じたんです。
事業同士のシナジー
その経験があったからこそ、アパレルだけでなく、美容でもお客さまに貢献したいと考えるようになりました。美容できれいになったり、かっこよくなったりした後って、恋愛に結びつきますよね。だから結婚相談所もやっているんです。いろいろな事業に広げたのは、決していいことばかりではなかったかもしれません。ただ、事業同士のシナジーという意味では、販売員時代の経験があったからこその発想だと思っています。
無人古着屋で全国へ
人の目を気にせずおしゃれを
アパレルのお店に行って、声をかけられたり、声をかけられなくても視線を感じたりするのって、すごく苦手な人も多いと思うんです。販売員をやっていたからこそ、よくわかります。無人の古着屋なら、人の目を気にせず、のびのびと自分がチャレンジしてみたい服を着ることができます。自由に新しい自分に出会える場所でありながら、価格も優しい。それが、無人ならではの強みだと感じています。
ブランド古着をお手頃に
物価高の時代に、無人だからこそ価格で還元して、お手頃におしゃれを提供できるのが私たちの強みです。競合の無人古着屋は3,000円前後が上限のところが多いんですけど、弊社は上限を22,000円まで上げて、ブランド古着も扱っています。古着は1点ものなのでデザインの強みは伝えにくいんですけど、価格でいうと、有人の古着屋さんに比べて7割くらいの金額で提供できていると思います。
ローリスクで始められるFC
フランチャイズに加盟いただくオーナーさんにとっての強みは、初期費用と月々のリスクが低いことです。業務も1日5分から10分ほどの清掃で完結します。物価高の時代は人件費高騰の時代でもあるので、人を雇わずに収益が上がる仕組みを提供できているのは強いと思っています。無人古着屋は正直、高収益なビジネスではありません。だからこそ、はっきり「ローリスク・ローリターン」と伝えて、複数店舗で収益を積み上げるモデルを提案しています。
2030年に200店舗へ
フランチャイズを始めてまだ1年ほどですけど、ありがたいことに店舗数は20店舗ほど、契約数でいうと40を超えるところまで来ました。1年前は思っていなかったんですけど、軌道に乗せることができました。今後のビジョンとしては、2027年には業界ナンバーワンの店舗数になれると思っています。そして2030年には200店舗を展開できたらいいなと、チームメンバーとも話しています。
脱毛業界の不安を減らしたい
会社全体としての大きなビジョンは、実はあまりないんです。各事業で目の前のことをコツコツやった先に、何かが生まれていたらいいなと思っています。美容事業では、近々フランチャイズを始動したいと考えています。脱毛業界は倒産も多く、嫌な思いをされた方がすごく多いんですよね。強引な勧誘も私は大嫌いです。自分たちが広がることで嫌な思いをする方を減らしつつ、脱毛のよさを広げていけたらうれしいですね。
学生へのメッセージ
派手な情報に踊らされない
まず伝えたいのは、SNSなどの派手な情報に踊らされず、目の前のことをコツコツやることを重視してほしいということです。最近はビジネスをエンタメのように見せる発信も多いですよね。漠然と社長になりたいと思ったとき、そういうものが目に入ると、派手にいかなきゃいけないと思ってしまうかもしれません。それを否定するわけではありませんけど、目の前のことをきっちりやった延長で、自分ができるから人に分け与えられる、という考え方を持ってほしいです。
責任を取れる範囲から
私は保守的なのかもしれませんけど、人に迷惑をかけてまで事業をやりたいとは思わないんです。まずは自分が責任を取れる範囲できっちりやる。それができたら、どんどん広がっていくだけだと思っています。変に背伸びしすぎた人が、周りに迷惑をかけてつらい思いをしているのも見てきました。本当の意味で起業家として育つなら、着実にやるほうがいいと思います。
一つのことを深める
学生さんから、いろいろなことをやったほうがいいのか、一つに集中したほうがいいのかと聞かれることがあります。私は、一つに集中して深めたほうがいいと答えています。能力がない段階でいろいろ手を出すと、10段階のうちどれも3しか知らない、深みを知らない人になってしまうんです。一つを突き詰めて深みを知った人は、ほかに手を出したときも違和感に気づけます。ここはもっとホスピタリティが必要だ、とわかるんですよね。
一生懸命やり癖をつける
学生時代にやっておいてよかったことは、正直とくにないんです。ただ、アルバイトでも何でも一生懸命やる癖は、とても大事だと思います。居酒屋のバイトの業務そのものが生きるわけではありません。でも、目の前のバイトでも頭を使って頑張れば、その仕事観が身について、どこに行っても通用する自分になれるはずです。机上の理論ではなく、実際に戦ってきた人間の言葉には、まったく違う重みがありますから。
マーケティングを学ぼう
勉強しておけばよかったことは、間違いなくマーケティングです。会社員でも事業主でも、すべての社会人が学ぶべきだと思っています。マーケティングを理解していれば、ものは売れるようになりますし、商品の見直しもできます。理解していないと、木を見て森を見ずで、自分のポジションからの見方しかできないんです。私も独立したときはまったく知りませんでした。だからこそ、学生のうちから学んでおくことをおすすめします。
編集後記
今回は、無人古着屋のフランチャイズを全国に展開する株式会社UPBEARの中谷さんにお話を伺いました。印象に残ったのは「売り上げはお客さまのお役に立った数」という言葉です。急成長のお話を聞くと、何か特別な戦略があるのだと思いがちですが、その根っこにあったのは、目の前のお客さまに誠実であり続けるという当たり前の積み重ねでした。一つのことを深めてこそ、ほかの場面でも違和感に気づけるというお話も、学生の今だからこそ大切にしたいと感じます。