インタビュー

ガラス屋が「省エネのヒーロー」を見つけた。窓から地球を守る、創業80年企業の逆転劇

PROFILE
山下硝子健材株式会社 代表取締役
山下 隆之

東京海上で培った「二刀流」の原点

遠回りこそが最速の道

私は次男なんですよ。父も次男で、祖父が興した山下硝子建材を継いでいて。だから私も「お前が継ぐ」と言われながら育ちました。

ただ、父から「いきなり家業に入るんじゃなく、よそで厳しさを味わってから帰ってこい」とも言われていたんです。それで就職活動では建設・ゼネコン系に行くものだと思っていたら、「全然違う業界に行け」と言われて。

母がもともと三和銀行(現・三菱 UFJ 銀行)の銀行員だったので、金融がいいかなと思って受け始めました。ちょうどリーマンショックよりもひどい、超氷河期の時代。それでも手当たり次第に受け続けていたら、だんだん面接が上手くなってきて。最終的にいくつも内定をいただいた中から、東京海上火災保険(現・東京海上日動火災保険)に入ることにしました。

自動車営業課という、ディーラーを担当する部署に入れてもらいました。代理店と違い、こちらが選ばれる側という一番厳しい環境です。ちょうど 2000 年ごろ、カルロス・ゴーンが日産に来たタイミングで、損保各社を集めて「一番頑張ったところに拠点を渡す」という話になった。それで必死に取りまくって、異例の形で拠点をいただいたんです。そこから話題になって、社内でも出世させてもらいました。

確定拠出年金を日本一売った

入社後はそれ以外にも、確定拠出年金(401K)の販売で約 2,000 件、当時日本一の実績をあげることができました。29 歳のとき、本店の最年少部長という話も出ていたんです。

でも、父親から電話がかかってきた。「いつまでおんねん」と。

それで 30 歳になる前に家業へ戻ったんですが、「ガラス屋に帰ってきたんだから建材を売れ」じゃなくて、父からまた言われたのは「お前は金融マンやったんだから、保険と補助金をやってみろ」でした。それで保険や省エネ補助金の計算を始めたら、クーラーや LED の省エネで何千万円もの補助金を引き出せるようになって。ところが父親から「ガラス一枚も売ってへん」と怒られまして(笑)。

 

「窓ガラスがヒーロー」だった

省エネの盲点を国が発見した

ちょうどその頃、東日本大震災(3.11)が起きました。原発が止まって節電・省エネが急務になり、国はクーラーや LED をどんどん省エネ化してきた。でも、全然電力が減らない。

国が犯人探しをしたら、「窓ガラスが悪い」とわかったんです。

どれだけクーラーや空調を省エネ化しても、シングルガラス(ペラペラの一枚ガラス)だと熱が 8 割窓から逃げてしまう。そこで国が「魔法瓶化計画」を立ち上げて、既存の建物の窓をペアガラスや二重サッシに変えることで本当の意味での省エネを実現しよう、という流れになりました。

それまで私はクーラーや LED の省エネ計算をやってお客さんに喜んでもらっていたんですが、そこに窓ガラスを合わせたら省エネ性がグッと上がる。戸建てからマンション、ビル、学校、病院まで「このビル 1 棟まるごと窓もペアに変えてくれ」となったら、一気に何千枚という規模になります。

窓ガラスを一枚も売っていなかった状態から、高性能ガラスを日本一売れるようになりました。

「二刀流」という唯一無二のポジション

面白いことに気づいたんですが、パナソニックやダイキンといった設備メーカーは「設備(クーラー・LED など)の省エネ計算」はできる。でも建物の躯体、つまり窓ガラス側の省エネ計算はできない。一方でゼネコンは窓を扱うけど、補助金の計算はやらない。

両方できる人間が世の中にいなかったんです。

東京海上での補助金・金融の知識と、家業のガラス屋という背景が合わさって、「設備も躯体も計算できる二刀流」が自然と生まれた。それが関西電力さんや大阪ガスさんの補助金顧問につながって、銀行さんからの紹介も増えていきました。今では東京、福岡、北海道など全国からご依頼をいただいています。

 

「人の命を守る」という社会的使命

ヒートショックから命を救う窓

もう一つ、ちょっと深刻な話があります。「ヒートショック」という言葉、聞いたことはありますよね。お風呂場で急激な寒暖差によって血管が切れ、溺れて亡くなる方が年間 12 万人いらっしゃいます。その犯人も、窓だと国に言われました。

換気用の小窓からの冷気が入り込んで、浴室の急激な温度差を生んでいる。そこをペアガラスや二重サッシで「魔法瓶化」すれば、ヒートショックのリスクを大幅に減らせる。補助金が出るというだけでなく、人の命を守ることができる。

さらには、窓ガラスをシングルからペアに変えることで、建物のエネルギー消費が下がって脱炭素にもつながる。温暖化が引き起こす大型台風や異常気象からも地球を守ることができると言われていて、私自身も国の委員会や大きな展示会の壇上で講演する機会をいただいています。

就活生の皆さんに伝えたいのは、うちは「ただのガラス屋」ではないということです。省エネ・脱炭素のキーを握る会社になっているし、人を守る社会的使命がある。だからやりがいもあるし、業界としても今が最もおもしろい時期なんです。

 

稲盛さんに怒られてから変わった

「強い会社でいい」と思っていた

家業に戻って以来、自己資本比率 95% という財務基盤を誇りに思いながら、「これぐらいの規模でしっかりやれればいい」と正直どこかで思っていたんです。

ところが、ある時期に京セラの稲盛和夫さんにお会いする機会をいただいて。自信を持って話したら「バカ野郎」と怒られました。「その資本力があって伸びしろがあるなら、もっと人を雇って拠点を増やして、売上も粗利も上げろ。それが世のため人のためだ」と。

本当にガツンと来ました。殻に閉じこもったらあかんな、と。それから 2 年ほど前に採用を本格的に再スタートさせて、今年は新卒で 9 名入社してもらえました。

素直な人が一番伸びる

採用で大切にしているのは、まず素直で真面目であること。教育する時に、ちゃんと聞いてもらえるかどうかが大事なんです。

営業向けには面接で「この割れたガラス、売ってみてください」と言ってみたりします。「危険だから売りません」でも「一割引きします」でも正解。でも私が入社した時に考えたのは「これは龍泉系の文様のアートで、本来 10 万円のところ 100 万円です」という答えでした。どう考えるか、そこに個性が見える。

採用は今も手探りですが、学校に出向いて就活生向けのセミナーで面接エピソードを話すと、先生の方が喜んでくれたりして(笑)。そういうところから少しずつ学生の皆さんに来てもらえるようになってきました。

 

就活生へのメッセージ

「出会った仕事」が運命かもしれない

「これがやりたい」と明確に決まっている人はいいけど、大半の学生は何がやりたいかわからないまま動いていると思うんです。私もそうでした。

だから、手当たり次第に受けまくればいいと思っています。いろんな業界と出会って、いろんな学生とつながって。そうする中で出会った仕事が、実は自分の運命・宿命だったりするんですよ。

就いた職でも、いかに楽しむかが全てだと思っています。自分が直接楽しむのもいいし、営業が案件を取ってきた時に一緒に喜べる事務の方みたいに、人が楽しんでいるのを見て自分も楽しむ、という方法もある。人生の半分以上は仕事です。どんな仕事でも楽しいと思える工夫ができるか、それが人生を面白くする鍵じゃないかな、と思っています。

 

編集後記

山下社長、終始「ペラペラ喋ってしまった」とおっしゃっていましたが、1 時間があっという間でした。東京海上火災保険(現・東京海上日動火災保険)での実績、3.11 を機に変わった補助金業界、稲盛和夫さんとの出会い——どれも「こんな会社があったのか」と目を開かれるエピソードばかりです。

私が特に印象に残ったのは「出会った仕事が運命かもしれない」という言葉です。就職活動を前に「やりたいことが見つからない」と悩む友人は少なくないですが、山下社長のキャリアを見ると、遠回りに見えた東京海上での経験が今の「二刀流」の源泉になっている。やりたいことが決まっていなくても、とりあえず飛び込んでみることで道が拓けるんだ、と感じました。窓ガラスが省エネと脱炭素のキーを握る時代。就活の選択肢として、ぜひ一度 山下硝子建材株式会社 の採用ページをのぞいてみてください。